Final Distance
言葉には表現出来ないほどの絢爛豪華な食事が、次々と金装飾細工の食器に彩を添えていく。
コース料理とは言い難いほどの膨大な量の食事を囲むのは、延べ6人程度。
それでも、食卓に座る彼らの服装は一流上層階級の貴族だと一目で判る様な渾然とした統一感を醸し出していた。
両側に向かい合うよな形で、魔法界の中でも生粋の純血一族、マルフィオ家と家の家族が共に食事を楽しんでいた。
ゲスト席に座るのは家の面々で、マルフォイ家の煌びやかな深い椅子に腰を下ろして食事を進める。
その向かい側、主賓席に座るのはこの晩餐会を催した当のマルフォイ家一族。
両家の中心には、マルフォイ家の自慢の息子と家の一人娘が居る。
銀糸に蒼瞳、端正美麗と絶賛されたのマルフォイ家息子、ルシウスは漆黒のタキシードに身を包み一言も話すことなくただ食事をするのみで。
一方の家令嬢、幼いながらに将来を期待させる美しい肌と美しい瞳を兼ね備え、容姿端麗と詠われるは銀糸で織られた淡い色調のドレスに身を包んで、楽しそうに雑談に混ざっている。
双方、気品漂うのは服装だけではなく、研ぎ澄まされた兼備さと言葉に表し難いほどの美しさを兼ね備えていた。
今宵の宴は、この二人…ルシウスとの婚約を兼ねた晩餐会である。
マルフォイ家と家。
親同士の深く固い絆によって結ばれた、「互いの子供を通じてより深い関係へ」…つまりは、許婚。
幼い頃より言われ続けてきたこの言葉の意味をようやくが理解したとき既に、彼女はルシウスに心を奪われていた。
幼馴染として育ったこの二人は、それこそ歳の差はあるけれども、幼い頃から本当に仲が良かった。
ニコリと愛想笑いすらしないルシウスは、誰とも関わりを持とうとはしなかったけれど、に対してだけは、違っていた。
心を許したの傍には、いつでもルシウスが居た。
それは当たり前の出来事で…婚姻など、それの延長線上にあるものだと考えていたにとって、ルシウスとの婚姻は、「大好きな人とずっと一緒に居られる最高の幸せ」に他ならない。
勿論、誰もがこの婚姻に賛成だとばかり思っていたことも事実で。
だから、今宵…こんな事が起きる等、誰も予想していなかったに違いない。
「 私ととの婚姻は無効だ。
私は誰とも契りを交わす気などない。 」
カタン…と微かな音を立てて、ルシウスがナイフをテーブルに置く。
研ぎ澄まされた透明な声が、談笑していた者達を一瞬にして黙らせる。
皆、食事の手をそのままの形で止め、何が起きたのかと、ルシウスを見つめるのだけれど、当の本人の表情は一糸乱れぬ頑なな決意を固めたままの状態で。
彼が冗談を言うはずなど無い人間だということは、此処に居る誰もが皆痛いほど知っていることで、それ故に、『信じられない』と言うような動機が一気に背中から脳を突き抜ける。
突然のルシウスの言葉に、顔を青くして必死に何か言葉を探そうとする。
対して、顔を真っ赤にして憤慨したマルフォイ家当主は、持っていたワイングラスを乱暴にテーブルに置くと、怒声を吐く。
「 何を言うか?!
今更そのような馬鹿げた勝手が、許されると思っているのか?!
ルシウス、貴様は私の顔に泥を塗る気か?!! 」
「 ……父上…、今宵は…これで失礼します。」
父親の静止も言葉も綺麗に無視して、ルシウスは一人席を立つ。
青い顔をしたは、余りの出来事に顔を上げることが出来ずに俯いたまま、遠ざかってゆく足音を聞いているしかなかった。
ルシウスを見ることが出来ない。
自分と言う存在を否定された今、彼の瞳を見て正気で居られるかが判らない。
自分は幼い頃から凄く凄く大好きで、ルシウスと一緒になれることを夢見て、幸せな未来を描いていたというのに、それを真っ向から否定された時、頭の中で何かが音を立てて壊れて行った。
「 、気に病むことは無い。
息子言葉など、所詮は戯言だ。 」
バタン、と重く重い戸が閉められて、辺りが再び静まり返ったとき、マルフォイ家当主は驚愕したままのに柔らかく語りかける。
の母親が優しくの肩を抱くけれど、は誰の声も、存在も感じては居なかった。
ただただ、ルシウスの言った言葉だけが脳の中を支配し、耐え切れない思いが涙となって頬を伝った。
ルシウスの居ない世界など、考えられなかった自分。
守られ、支えられ、一緒に居ることに幸せを見出していたのは自分だけだったのだと、改めて痛感させられると同時に、知りたくも無い現実を知ってしまった事への嫌悪感が胸を締め付ける。
カタカタと震える身体を一生懸命押さえつけ、このままではいけない、何とかしなければ…そう思った瞬間に、はリビングを出ていた。
ひんやりと凍てつく冷たい廊下を抜けて、階段を上がって左に入ると慣れ親しんだルシウスの部屋がある。
小さい頃は階段を降りることに恐怖を覚えて居た自分。
上ることは簡単に出来ても、下を見なければ成らない階下への移動は、高所恐怖症のにしてみれば、この上なく苦痛なことで。
降りれないと泣き出せば、階下から上ってきては、黙っての身体を抱き上げて下まで降りてくれた。
寂しくて眠れない、とベットにもぐり込めば、そのまま寝付くまで抱きしめて話をしてくれた。
がロンドンに出かけると言えば、必ずと言っていいほど付き添い、傍に居てくれた。
たった一年しか一緒では無かったけれど、がホグワーツ入学したときも…ルシウスが傍で守ってくれた。
いつも紳士的な振る舞いを絶やさず、冷凍な表情を崩さないルシウスが、と二人きりになると見せてくれる柔らかい微笑をは忘れたことは無かった。
それら全てが…
まるで「お前の世話など、仕方なしにやっていた」のだと言われたようで、の心には耐え難いほどの苦痛が深く突き刺さる。
求めて居たのは自分だけで、必要とされているのは自分以外だと知らされたことが、何よりも悲壮で。
「 ……… 」
ルシウスの部屋の前で、は小さく深呼吸した。
昔はノック等せずに、そのまま入っていたけれど…いつの日からだろう、ルシウスを『異性』として見るようになったのは。
思えばその頃から、自分とルシウスの距離は少しづつ開いていったのかもしれない。
何時までも幼い頃のままでは居られない。
そんな事は判りきって居た事だったけれど、それは変えられようの無い事実で。
大人になるということは、子供の頃の感情を忘れると言うことに繋がるのだとしたら、ルシウスの行動は正しいのかもしれない。
この扉をノックして、ルシウスが自分に別れを告げたら、全てが終わる。
それでも…
それでもは震える左手でゆっくり扉をノックした。
乾いた木の音が、凛とした空気の中を木霊する。
「 ……誰だ。
私は今忙しい。 」
返ってきた返事は思いのほか早くて、その綺麗で透明な声に思わず身体が竦んでしまう。
怒っているような口調ではないけれど、あんな事が起きた矢先…いつものように明るく入ることなんて出来るわけが無い。
それどころか、話すことさえまとまってはいないし、何を話そうとしているのかすらも判らない。
部屋に入って…しどろもどろに何かを話す自分…そんな情けない自分を晒す事が耐え難い苦痛で、それならばいっその事、話す内容をまとめてから出直そうと、心に誓う。
「 …です…。
忙しいのにごめんなさい、また後で… 」
「 ……構わん、入って来い。 」
引き返そうと最後の単語を述べる前に、ルシウスは部屋の鍵を開けた。
ガチャリ…と微かな金属音が聞こえ、それを合図にはゆっくりと扉を押す。
いつか言われる別れなら、今でもいいのではないだろうか。
辛い事を何時までも後に伸ばしたところで…結局迎える末路は同じなのだから。
それならば、早めに心を洗い流してしまいたい。
「 忙しいのに、ごめんなさい… 」
「 構わない、と言った筈だ。
適当に座れ。
今、お茶を持ってこさせる。 」
金色の逆光に照らし出された銀糸は、限り無いほどに透明な輝きを放って、薄暗い部屋に灯りを射し入れる。
さらりと流れる美しい髪が揺れた時、ルシウスは泣き出しそうなに向き直ってそう告げた。
言われた通りに、ベットに腰を落としたは、ルシウスの顔を直視することは出来なくて、やはり俯き加減になってしまう。
何の為にこの部屋に来たのか。
それすらも見失ってしまいそうで。
「 食事は済ませてきたのか?
昔からは食事を欠かすことは無かったからな。 」
ベットがルシウスの重みも加わって僅かに下へと下がる。
すぐ傍で聞こえる苦笑交じりのルシウスの変わり無い声が、余計に心に痛く突き刺さった。
握り締めた拳が、耐え切れなくなって微かに震える。
「 私…やっぱり子供だよね。
ルシウスが私を嫌いだった事に気づかなかったなんて。
大人なルシウスとは不釣合いだよね。 」
胸に秘めた思いを口に出した後で、すぐさま逃げ出したい衝動に駆られる。
ルシウスが小さく息を呑んだ音が聞こえた気がした。
キツク握り締めた拳の奥で、爪が肌を傷つけるけれど、気にするような余裕もなくて、はゆっくりと顔を上げると、ルシウスの顔を直視した。
相変わらず綺麗で端正な顔で、顔に紅が走るのを悟られないように自分に強く言い聞かせる。
更には、泣き出してしまわないように、ルシウスにこれ以上迷惑が掛らないように、泣き出して困らせてしまわない様に必死に弱い心と闘う。
これで最後なら、笑って別れよう。
泣き顔ばかり見せていた小さい頃の私なんかじゃなくて、
ルシウスが『 好きだ 』と言ってくれた微笑で。
そう決めたら、自然と瞳を見ながら笑う事が出来る。
「 でもね、私はルシウスの事が大好きだったんだから。
昔も、今も、これからもきっと。 」
精一杯の笑顔でふわりと笑うと、瞳を僅かに細めたルシウスがほんの一瞬だけ…微笑んだ気がした。
表情を崩さぬままであったけれど、鋭利な瞳にだけを映して、ルシウスは刹那の時間だけ、柔らかく微笑んだ。
それはがルシウスと出会って、初めて垣間見る位の優しい微笑みだったように思う。
それをが意識の中で認めたとき、横に座っていたルシウスがすっと立ち上がる。
−これで、終わりー
自分の目の前に立つルシウスの行動を見て、直感的にそう痛感させられて。
これ以上、ルシウスを見てたら、泣いてしまいそうで…耐え切れなくなりそうで。
そっと瞳を閉じたとき…
の唇にそっと柔らかいものが降りてきた。
それがルシウスからの口付けだと理解した時既に、は彼の腕の中に居た。
「 ルシ…ウス…? 」
「 済まなかった。
私は…お前を試した…
この様な浅はかな真似をしてしまった自分が賤しい。 」
「 ……試す…? 」
「 は…親の決めた婚姻故に私の傍に居るのだろうか、と。
月日が過ぎれば過ぎるだけ綺麗になっていくお前を見ていて…
いつか私の元から離れていくのではないか、と。
笑える話だろう?
この、ルシウスが他に打つ手が思い付かないほどお前に心奪われているのだから 」
ルシウスに抱き締められた身体が、更にキツク強く腕に抱かれる。
思いもしなかった、予想すら出来ないほどに悲嘆にくれていたにとってその言葉は、痛いほどに痛切に心に響く。
自分を試された事よりも、ルシウスが自分を愛してくれていたことが何より嬉しくて、自分の瞳にうっすらと涙が浮かぶのが判った。
顔をようやく上げれば、苦笑したようなルシウスの瞳と重なって、少しだけ恥ずかしい様な感情に苛まれる。
「 婚約破棄は、棄却だな。 」
溢れ出すの透明な雫を、ルシウスがその指で優しく拭い去る。
その涙の後に現れた大きな瞳に、そっと口付けて。
その腕に抱いた大きな幸せを、ルシウスは悲しみの涙で彩ることは無いと、固く心に誓う。
今までもそうしてきたように、これからも、腕の中で無邪気に笑うを守る為に如何なる事すら惜しむことは無いと。
本当に嬉しそうに微笑むを見て、ルシウスも心なしか少しだけ表情が和らいだ気がする。
「 …ルシウス…、私、First Kissだったんだよ…? 」
責任取ってくれるの?
そうおどけて笑ったに対して、ルシウスはさも面白そうに言い返す。
何時もの二人に戻ったような空気が、一瞬で二人を包み込む。
幼い頃より慣れ親しんだこの空気が…二人にとっては酷く懐かしくもあり、新鮮でもあった。
「 安心しろ、これは Second Kiss だからな 」
その言葉に意外そうに首を傾げる。
けれど思い当たる節等見つかるはずも無くて、いつまでも頭を悩ませて記憶を辿るけれど、浮かんでくる気配は無い。
その様を酷く面白そうに眺めるルシウスだけが、真実を知っている。
そしてそれは、この先…ルシウスの口から語られることは無い。
『 わたしね、大きくなったらルシウスのお嫁さんになるの 』
『 その言葉、誰に誓う? 』
『 もちろん、ルシウスにちかいます 』
『 じゃあ、誓いをたてるか…
、眼を瞑れ。 』
『 なあに…? 』
少女がそっと瞳を閉じた瞬間、少年が優しく少女の唇に口付けた。
これは少女が記憶に覚えていないほどに幼い頃の話。
■ あとがき ■
66666hitリクエスト 聖 輝 様へ捧げますv
リクエスト内容は…
・ルシウス氏ドリ。
・主人公さんとルシウス氏の親同士が決めた婚約者さんのお話。
・主人公さんはルシウスさん大好きですが、どうもルシウス氏は違うご様子・・
・最後はハッピーエンドでお願いします(><)
リクに忠実に書いたつもりなんですが…(苦笑)
途中まではノリノリで書いてたんですが、どうにもラストをどうするかで躓いてしまいまして…。
こんなオチしか思い付かなかったヘタレ稀城をお許し下さいませ。
こんな夢しかかけなくて申し訳ないのですが、返品・書き直し大歓迎ですので、お気軽にお申し付け下さいませ。
ルシウス…他に女は本当に居なかったのか?とか気になるところですが、その辺は触れないということで(笑)
因みに、この二人はやっぱり結婚しちゃいますね、稀城の予想ですと(笑
++++ この作品は聖 輝様のみお持ち帰り可能です ++++
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