Open your eyes
「 其処に掛けたまえ 」
背を向けたままのスネイプ教授は、低い声でそう告げた。
コポコポと何かの薬品が煮えたぎる音が前方のほうで聞こえ、その脇には緑やら赤の色の薬草が切り刻まれたまま放置されていた。
この部屋に入るのは今日が二度目。
一応…記念すべき?一回目は先週の今日。
魔法薬学の授業のときに眼を腫らせてしまって、スネイプ教授によってほぼ、無理やりに近い状態で此処に連れて来させられた。
理由はたった一つ。
コンタクトが合わないのである。
視力が元々弱く、事もあろうに乱視が混ざってしまっているは、コンタクト無しでは日常生活に支障を来すほどで。
かといって、魔法で一時的に視力を上げることも可能だけれど、必要以上に魔法の力に頼りたくないという自分の信念から、故郷で使っていたコンタクトをそのまま持参してホグワーツにやって来た。
最初のうちは良かったものの、点眼薬にも限りがあって、それをつい先日切らしてしまった。
日本からの物資は未だ届かずに、困り果てていた頃、スネイプ教授の授業中に…それは起こってしまった。
鋭い痛みが眼球を突き抜けて脳へと届くかの様な痛烈な痛みが、流れる滝の様に一気に身体を突き抜けた。
瞳から涙は絶えず流れ続け、授業どころか眼も開けられないくらいにまで陥ったとき…スネイプ先生の部屋に運ばれた。
「 出来たぞ。
毎日欠かさずこれを射せばいい 」
冷たいような口調だったけれど、を心配してくれた時のスネイプ教授の顔が頭から離れないには、然程冷たい視線だとは感じなかった。
その手から渡された無色透明の綺麗な液体の詰まったビンを貰い受けると、ペコリと頭を下げた。
席を立ち、礼を言って去ろうかと思った瞬間、スネイプはその懐から小さな箱を取り出す。
それはスネイプが預かっていたのコンタクトレンズが入った箱であり、スネイプの手によって少々改良が加えられたものだった。
カタン…と机の上に置かれ、
「試しにつけて見たまえ」
と言われる始末。
合わなければもう一度作り直す、と付け加えたスネイプの表情を読み取るのは安易なことで、醸し出される雰囲気の中には、無言のうちに試さなければならないという行動が暗黙のうちに義務化している。
「 スネイプ先生…実は、私はコンタクトを自分でつけたことが無いんです。 」
「 …では、毎日どうしていたのかね? 」
「 どうって…つけたままでしたが…? 」
のその言葉に、スネイプはその場で固まってしまう。
幾らハードレンズで、点眼薬を欠かさず付けていたとは言え、毎日取り外すことの無いレンズをしたままの瞳は相当に傷ついていたことだろう。
コンタクトが合わないのも無理は無いというもの。
はいつも何処か抜けている。
魔法薬学の授業中でも、放ってはおけないほどの間抜さで、少しでも眼を離せばゴブレットを爆発させている始末。
頭を抱えることもしばしばなのだけれど、それでも筆記のみの試験では学年のトップに易々と上り詰めるほどの頭の良さ。
「完璧な人間はいない」
それを身をもって証明しているような少女だった。
「 …きたまえ、我輩が教えてやろう 」
頭痛がしそうな頭を必死に宥め、スネイプは薄暗い自室内でも少しばかり明るい場所にを案内した。
傍に置かれた蜀台に明かりを灯して、目の前に大き目の鏡を置く。
その中心にを座らせると、箱の中から液体に包まれたコンタクトレンズを取り出した。
それはうっすらと蒼味が掛かっており、透明な液体がそれを更に強調させている。
スネイプの細く綺麗な指先に乗っかるようにして置かれたレンズは、蜀台の明かりを一身に浴びて綺麗に光る。
教えてやる、そういった様にスネイプは、どうやら自分が一回つけて見させて教えようとしているのだと直感的に悟る。
故郷に居た時に一度、眼科でコンタクトを付けて貰った時の恐怖感が瞬時にフィードバックする。
雑に入れられた所為か、痛みが走ってしまい、瞳に直接映るもの故にその恐怖は尚更の事で。
迫り来る指先が、自分を傷つけるための物でしかないような錯覚に囚われたままの幼い心は、大人になった今も成長することは無い。
幾らその時とは状況が違うとはいえ、苦い思い出というのは何時までも心に刻み込まれたまま色褪せることが無い。
無意識の内に身体に震えが走り、恐怖に眼を瞑ってしまう。
「 心配などするな。
痛みを感じさせるような事などしない 」
苦笑したように小さな溜息を一つついたスネイプは、を安心させるようにその肩にそっと手を置いた。
耳元で聞こえたその低い声が、酷くストレートに頭に響いてきてはそっと身体から力を抜く。
緊張の糸が切れたように、強張った身体中に酸素が行渡って、心なしか、先ほどよりかは気が楽になる。
スネイプの言葉一つだけなのに、不思議なくらいの安心感に包まれる。
時間が酷くゆったりと流れている気がした。
外で囁く様に聞こえる鳥のさえずりが心地よく耳に入ってくる。
「 真っ直ぐに前だけを見ていたまえ。
よいな? 」
同じ一つの鏡を覗き込んで、スネイプはそう告げた。
面積の狭い鏡の中に、二人が競演する。
見つめる先は鏡だけれど、はスネイプを、スネイプはだけを見つめている。
鏡越しだからとはいえ、視力の差が関係しないほどの至近距離でスネイプの顔を見つめていると、何故か頬が紅くなるような感じがした。
真っ直ぐに自分だけを見つめるスネイプの瞳が、感じていた以上に綺麗で心を奪われる。
眼を伏せたいけれど、見ていなくてはならない状況下が手伝ってか、胸の躍動は治まることが無い。
瞳へと伸ばされた指よりも、見つめた先のガラス越しのスネイプの表情に心が奪われたままでの恐怖は既に掻き消されていた。
以前から、スネイプ教授の事を少しだけ気に掛けていた故に、今この場に二人きりで居ることが信じられることではなくて。
魔法薬学の授業でも、いつもスネイプと実験をやり、何かと自分を気遣ってくれる優しさ。
無表情と冷たい言葉の奥に隠されたさり気無い優しさが痛いほど伝わってきて、胸を締め付ける。
これが恋なのかと聞かれたら考えてしまうかもしれないけれど、スネイプの投げてくれる言葉を聞くだけでもは心が熱くなる様な不思議な感覚に苛まれる。
そんな事をあれこれと考えている内に、スネイプの指先が素早く丁寧にレンズを両方の瞳に被せ終わる。
反射的に瞳を閉じてしまったの視界は、急激に黒一色に覆われていく。
以前は有った眼に残る異物感や痛みを再び感じることが苦痛で、瞳を開けることを躊躇してしまう。
数秒ではあるけれど、そんな簡単な事に戸惑っているうちに、椅子がくるりと半回転させられて、すぐ傍にあったスネイプの気配が消えてしまう。
「 Open your eyes 」
まるで何かの魔法を詠唱するように小さく呟いたスネイプの声が、少し遠くのほうで聞こえる。
自分が魔法に掛かってしまったかのように、スネイプの声に反応して瞼が自然と開く。
決して眩しくない光が瞼の隙間から徐々に入り込んできて、の視界を広げる。
真っ直ぐに見つめた視線のその前方に、スネイプが立っていた。
相変わらずの真っ黒いいでたちで、表情も険しさを浮かべたまま、少しだけ眉間に皺を寄せて。
何時も授業のときに見るセブルス・スネイプその人で。
でも…何処と無くいつもとは違う優しさを秘めた様な雰囲気で。
心どころか、瞳も奪われたようにそのまま視線を離せなくなってしまっていた。
「 我輩が…みえるかね? 」
「 はい… 」
「 痛みはあるかね? 」
「 …いいえ… 」
「 それは結構。 」
安心したようにそう述べると、スネイプはカツカツと音を立てての方へと向かってきた。
初めはぼやけていただけだった視界が、コンタクトレンズのお陰でくっきりと鮮明なものへと変わる。
近づいてくるスネイプが、いつもとは違ったような感じで映り、高鳴る鼓動に思わず静止の声を上げたくなるほどで。
「 スネイプ先生、ありがとうございました 」
「 無償というわけではあるまい?」
目の前に立つスネイプに向かって深々とお辞儀をするに対してスネイプは少し考えたような表情をする。
相変わらずの腕組をしたままの体勢でを見下ろすと、突然、唇端を少し上にあげてニヤリと笑う。
何か、良からぬ事が起きるよな気がしたのはの気のせいでは無い。
さらりと落ちてきた髪を優しくその手で後ろへと流すと、屈み気味になってと視線を合わせる。
現れた白い首筋に唇を寄せるような形で、その先にある柔らかい耳へと唇を運ばせるとスネイプは意味ありげにこう囁いた。
「 暫く我輩の仕事を手伝って貰おうか。 」
「 て、手伝い…ですか…? 」
「 一人では付けられそうも無いコンタクトを毎日我輩が付けてやる、
という条件付でな 」
− 悪い話ではあるまい? −
そう耳元で聞こえる甘い声は確かにスネイプのもので。
既にスネイプに心惹かれ掛けているにとって、それは断る理由の無い申し出であることは明らか。
意地悪相に喉の奥で低く笑ったスネイプは、がピクリと身体を震わせたのを見逃してはいなかった。
これは単なる、二人の序章に過ぎない。
■ あとがき ■
60000hitリクエスト 屠所の羊 様へ捧げますv
リクエスト内容は…
・ちょっと黒いスネイプ教授
のわぁぁぁぁ!!!!
この夢の何処が黒いんじゃー!!と自分で自分にツッコミを入れてしまっています(笑)
黒いのなんて最後の最後だけですしね…
それも黒いと言えるのかすら判りません…!!(泣
こんな夢しかかけなくて申し訳ないのですが、返品・書き直し大歓迎ですので、お気軽にお申し付け下さいませ。
本日眼科に行って●年ぶりにコンタクトを作って思いついた夢です(笑)
あんな至近距離でスネイプ教授に見つめられたら…卒倒物です。
それにしても…稀城を診察してくれた人…綺麗だったなぁ…
スタイル抜群の美人女医!!!
眼の保養をさせて頂きました(笑)
++++ この作品は 屠所の羊 様 のみお持ち帰り可能です ++++
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