お前が泣く事は、僕が許さない。 お前が泣かないように、僕がお前を護ってやる。





遠い日の約束









ぜったい、ぜったいだよ? やくそくだからね、セブルス。
あぁ、約束だ。




柔らかな音程が心地良く耳を掠め、まだまだ子どもだと思っていた少女は何時の間にか大人の女へと変わり、可愛らしかった容姿は、可愛らしいとの表現をすれ ば間違っていると思わせる位に端麗なものへと変わっていった。
出逢った頃は互いに未だ未だ幼い子どもで、漆黒の絹髪を携えた東洋出身の少女は年相応の子どもと何ら変わる事無い感情豊かな子だった。
厳しく敷かれた家の仕来りをまっとうしなければ為らないセブルスと違い、は貴族とは言え子どもは子どもらしく在れという両親の教育理念の元に育ってい る故の自由を知っている。
勿論、とセブルスとの間には3つの年齢差が生じていると云う点から考えてみれば、セブルスがの様に無邪気に駆け回る事が無いと言うのは少なからず はある。
しかし、セブルスがの年齢だった頃を思えば、今の其の侭の自分が居たとは考えられなかった。感情が欠落していると両親が嘆く程、セブルスは感情を 自身の中に押し殺して年齢を一つずつ加算していった。

其れ以外の世界を知ろうと思わなかった訳ではない。寧ろ其の逆で、少なからず他の子どもと同じ様に地を駆け回り服を泥だらけにして笑いながら家に帰ってみ たいと思っていた事は事実。
しかしながら、家柄を考えればそんな事は許される筈も無い事は、聞くまでも無いことだった。


…だからこそ自由奔放なに憧れ、そしてずっと傍に居たいと思った。








「 うわあぁぁぁぁん! 」


開かれた窓から青空に向けて、突き抜ける様な凄まじい音量を伴った子供特有の遠慮なしな泣き声が響く。
窓辺で羽根を休めていた名も無き小鳥は其のけたたましい音に心底吃驚した様に羽根を羽ばたかせると一目散に空へと飛び出した。
閑静と言う言葉がピタリと当て嵌まる様な森の湖畔に佇まいを構える家では、現在4つに為る一人娘が居る。
普段はきゃあきゃあ言いながらそこ等を自由に駆け回っては歓声をあげている為に、泣き声やら笑い声が聞えていても可笑しくは無い光景。
しかし、ある日を境として、家ではが力いっぱい泣き叫ぶという光景を見る事は無くなっていた。


「 どうしたの、? 」


今日は砂場で城を造ると喜び勇んで駆け出して行ってから約1時間後。
相変わらず頭から爪の先まで泥で汚した我が娘を母親は苦笑しながらも温かく出迎え、の汚れた掌を大切なものを扱うように握り締めた小奇麗な身形の少年 を見て、更に母親は表情を柔らかなものに変えた。
青春時代と俗に呼ばれている年月を、魔法一族は例外無く魔法学校で魔法を学びながら過すというのは魔法界に置いては、魔法省が下す規則よりも知れ渡った常 識だった。
の母親と少年の母親は共にホグワーツ魔法魔術学校の同じ寮に所属し、折り合いも良く7年と言う月日全てを共に過したと言っても過言ではない程だった。


同胞の息子、名をセブルスと言う少年は実に良くの面倒を見てくれていた。
今日も普段と何等変わらず、朝の8時にもなればお菓子の入ったバスケットを母親から持たされたセブルスが無表情のまま呼び鈴を鳴らし、抱きつかんばかりの 勢いで駆け寄るの身を案じながらも最寄の公園で共に遊ぶ。
遊びといってもが一方的に遊び話しかけているだけで、セブルスはと言えばそんなの身が危険に晒されない様に監視する役とでも言った所だろうか。

今日も今日とて全身泥だらけで眠たげな薄紫の大きな瞳を擦りながら帰ってきたは、セブルスと共に昼食までの僅かな時間を眠りに費やしていた。
ちょっとばかり眼を離したほんの数分の間、大人しく眠っていた我が子が如何してこんなにも必死に泣き叫ぶのかと、と母親は首を傾げた。


? 恐い夢でも見たの? 」


起きるのも早ければ、一度眠りを貪れば何時間でも起こすまで寝ている我が子が、10分と経たぬ内に起き出すとは珍しい事と同時、体調が思わしくないのかと 妙な不安が胸を競り上がって来る。
セブルスと言う友人が出来て以来、は驚く程感情をコントロール出来る様になり、滅多な事では泣かない子どもに為っていた。
セブルスを見習ったと言うのなら話も判る。セブルスは己の母親にさえ感情を見せないと云う。だが、其の彼を見習ったのだとすれば、毎日毎日泥だらけで笑い ながら帰って来る筈も無い。

きっとはしゃぎ過ぎて熱でも出てしまったのだろうと、母親が両の手を広げれば、は覚束無い足取りでベットから起き上がり母親の腕の中に倒れ込む。
そうして大きな瞳いっぱいに涙を浮かべ、小さな掌は有りっ丈の力を籠めて母親のシャツを握り締め、言う。


「 あのね、しぇぶるすがいないの…っ 」


発達途中の言葉は子ども特有の舌ったらずな発音で紡がれては居たが、握り締める指先の力と未だに大粒の涙を流し続けている表情は必死。
母親と空になったベットの双方を何度も見比べ、居るべき筈の人物が居ないと指を指しながら不安一色に彩られた瞳で、は力いっぱいに泣いていた。

涙の水分を吸ってぐしゃぐしゃに為った髪の毛を撫でて遣りながら、母親がの指差すベットを見て、在るべき筈の存在が消えていることに気付いた。
確かを寝付かせようとの隣で横に為ったセブルスも、寝息を立てながら眠りに落ちたに誘発する様に数分後に眠りに落ちた事を思い出す。
セブルスが居なく為らないように、とピタリと寄添って眠ると、そんなを護ってやるとばかり引寄せて眠るセブルス。
何とも微笑ましい光景だと、母親は微笑みを浮かべながら自分の仕事に専念していた。

話し掛けても録に返事を返してこないセブルスに、如何してが此処まで懐いたのだろうかと疑問視しながらも、母親はを優しく諭す。


「 大丈夫よ、。 セブルスなら直ぐに戻ってくるわ。 」
「 だって、しぇぶるしゅ、いない… 」
「 大丈夫、大丈夫。 が泣けばセブルスはきっと気付いてくれるわよ? 」


だからもう、泣かないの。
兎の様に瞳を赤く腫らせたの涙を拭う様に指の腹で撫ぜれば、言葉の意を理解したのか、は落ち着きを取り戻し、涙を引かせた。
えっくえっく、としゃくりを上げながらも呼吸を落ち着かせようとするを手助けするように母親がの背を優しく撫ぜ、早く戻ってきてくれるといいわ ね、と優しく言いかけた其の時。

ペタペタとフローリングの廊下を精一杯の速さで子どもが走ってくる様な頼り無い足音が聞え、ドアノブを回す時間さえも惜しいとばかりに小さな身体全部を 使って体当たりして乱暴に開かれる扉の音が聞える。
母親が扉の方を向く其の一瞬前に開かれた扉から、転げて来るように勢いをつけて飛び込んで来た小さな身体と叫ばれた声。


!? 如何した? 怪我してたか? 」


入り込んで来た小さな身体の主を確認しようと瞳を合わせる其の前に、小さな身体は母親に抱かれたの眼の前に必死な形相をして息を切らせながら座るセブ ルスの姿。
と同じ漆黒の髪を携え、心成しか大人びた容姿と尖った瞳を兼ね備えた少年は、其れでも今は歳相応の幼い顔立ちを残している。
普段は世間体を気にしている彼の両親の教え通りの表情を作り上げているのだろうが、今はきっと子どもであるにだけ見せる子どもらしい表情と言えよう。


「 大丈夫か、っ 」


と3つも異なるだけあってか、音程も発音もしっかりした口調で話しかける。
元より口数の少なかった少年が、此れだけの量の言葉を話す様は初めて見る…と母親は思わずセブルスの表情を見た。
子ども特有のあどけなささえ残らぬものの、普段は仏頂面の様に眉根を寄せている瞳が忙しなくの様子を探る様に動き、が返答に対する答を返す暇さえ 与えない程泣いていた原因を羅列してゆく。
少年の口数の多さも然る事ながら、心からを心配しているという様が見て取れる様な慌てふためきに、母親は苦笑した。
感情を滅多に零す事が無いよう厳重に躾けて来たと言っていたセブルスの母親の言葉は、確かにの母親の前でのセブルスを見れば一目瞭然。
しかし、己が大切なものの危機と為るとやはり形相も変われば感情も漏れ毀れるのだと知って、安堵の溜息を漏らした。

子どもは子どもらしく在って欲しい。
そう願っていた自分の考えは何時しか、違うものへと摩り替わっていった。


「 しぇぶるしゅっ…! 」
? 如何した? 」


消えた筈の存在が、眼の前に在ると認めたは、勢いに任せる様に母親の腕からセブルスの元に移動する様に飛び付いた。
全体重を伸し掛けるようにして抱きついてきたを片手では支えきれる筈も無く、よろめきながらもやっとの思いで両の手で支え込んだ。
突然抱きつかれ、涙で濡れていただろう真っ赤に腫れた瞼を視界に入れれば、セブルスは怪訝そうに眼を顰める。
一体誰がを泣かせたのだ、と怒りを露わにしようとした其の矢先。


「 め、さめたらね、しぇぶるすがいないの。 のそばに、いないの。 」


淡い緑のシャツは、幼いの遠慮無しの掌で握り潰す様に掴まれ、セブルスの存在を確かめる様に小さな指はしっかりとセブルスの存在を掴んでいた。
止まっていただろう涙は、セブルスが今此処に居る安心感からか大きな瞳から絶え間無く毀れ続け、一つ、また一つとセブルスの掌の上に落ちてゆく。
先程の母親がそうしたように、セブルスもの大きな瞳淵に指を添え、優しく撫ぜて涙を拭いてやれば、漸くの瞳から雫が零れ落ちる事は無くなっ た。


、僕は何処へも行かない。 ずっとお前の傍に居る。 」
「 ずっと? 」
「 あぁ、ずっとだ。 ずっとお前を僕が護ってやる。  」


自分とは掛け離れた環境に育つを一目見て、腹立たしいと思った事も少なからず在った。
けれど、撒いても撒いても何時の間にかセブルスの後で太陽の様に微笑みながら、無邪気な舌っ足らずな声で名を呼ばる。
一言も喋らない日々が続いてもは別に気にすることも無く、セブルスの掌に自分の掌を重ねては、遊びに行こう、と。
そう、確か一度だけ、母親からキツク言われている言いつけを破った事があった。あれは川べりで魚を掬おうと網を持っていたが石によろけて河に頭から 突っ込んだ時のこと。
余り深くない河だったから良かったものの、ぬかるんだ泥に全身浸かったに溜息を吐きながらも抱き起こしてやれば、其れまできょとんとしていたが大 声で泣き出した。
一体如何したのか、何処か怪我でもしたのか、と問えば、


---------- しぇぶるしゅの、ふく、よごした。 しぇぶるす、ままにしかられる…


此れには流石のセブルスも驚いた。
セブルスの家の家訓をよもやが知ってなど居る筈も無く、の母親がに言っていたところで、そんな事を気にする素振り等一日だって見た事は無い。
それどころか、未だ3つの子どもに理解しろと言う方が無理だろう。けれども、この子どもは自分が泥の中に突っ込んで全身泥まみれに為って様が構いもせず、 ほんの少し…袖口と胸元に泥が付いた位で火が付いた様に泣き出した。

小さな指は掴んでいたセブルスの服から遠ざかり、これ以上セブルスを汚さない様にしようと自身から遠ざかるの掌を掴んだ。
其れが驚くほど小さく頼り無くて、どうしたの、と見上げるの涙に濡れた瞳が痛々しくて、小さな掌をキツク握り返した。


---------- 大丈夫だ、此れくらい。 魔法で何とかなる。
---------- ほんと…?
---------- あぁ、だからもう、泣くな。


「 お前が泣く事は、僕が許さない。 お前が泣かないように、僕がお前を護ってやる。 」


涙で濡れた瞳が、あの日と同じ様、満面の笑みへと変わった。
嬉しそうにそう言って、掴んだままのセブルスのシャツを更に強く握り締め、は弾んだ声で答える。
 

「 ぜったい、ぜったいだよ? やくそくだからね、セブルス。 」
「 あぁ、約束だ。 」


この子どもが笑ったところなど、初めて見たとの母親は息を呑んだ。
ある年齢を境に感情表現をしなくなり、自分で感情をコントロールしているかのように親の前でさえも笑わなくなったと言っていたセブルスの母親の話を思い出 す。
家訓を守る事、其れは酷く重要なことだけれど、せめて子どもらしく笑ってくれてもいいのに、と常々零していた。
今垣間見た笑いはが見せる満面の笑みでは無いにせよ、確かにセブルスはに小さく苦笑して、よりも聊か大きな掌で何度も何度も頭を撫でていた。
まるで大切な宝物を扱うかのように。

安心したからか、其れとも遊び足りなくなったのか、がセブルスの手を引いて庭に駆けていこうとする。
もうじき昼食の時間であろう事を察したのか、セブルスが一瞬ちらりとの母親を見れば、「出来上がったら呼ぶわ」との言葉に、小さく頭を下げた。


「 教えてあげなきゃね。 他人の表情を窺うばっかりだって言ってた貴女の息子がの前では笑うのよ、って。 」


頼り無い二つの足音が駆けて行く音を聞きながら、昼食はセブルスが好きなものを作ってあげよう、と母親はキッチンへと消えていった。
 


幼い日の約束。 遠い日に交わされた、約束。
其れは互いに大人に為った今でさえ、きっと変わらずに。






























後書き

520000HITリクエストドリーム、ゆっきーさんに捧げるルシウス夢。
 ・セブルスとヒロインの小さい頃(幼稚園未満?がベスト)の話。
 ・小さいけれど、萌える話を!!


ということだったのですが…果たして萌えるのか如何なのか。
私の中で、セブルスは小さい頃から笑わない子どもだったというイメージが強すぎて、如何しても子どもらしく笑わせてあげることが出来ず…;;
けれどやはりヒロインにだけは優しく甘いというのは、教授×生徒の頃の設定と何等変わっては居りません(笑)!
こうやってセブルスは成長し…ヒロインにだけは優しく甘い人へと成長していくのでしょう。うんうん。(おい)
それにしても、この年代は書くのが楽しいですね。今度ルシウスでも挑戦してみようかしら…(笑)。

受け取って頂けるのでした、是非にお持ち帰り下さいませ。
勿論、書き直し等24時間承りますのでお気軽にどうぞv

++++ この作品は ゆっきー 様のみお持ち帰り可能です ++++


[ Back ]

(C) copyright 2004 Saika Kijyo All Rights Reserved. update 2004/10/17