ねぇ、まほうって本当にあるの?


何をしていても、ふいに頭の中を過る。高い鈴の様な声で上目遣いに問うてきた幼い君。
黄昏色に似た花に舞い落ちたきらきらと光る朝露を見て、空から星が降ってきた、花に魔法が掛かったのだ、と嬉しそうに小さな顔を綻ばせ。

いつかね、まほうで人を幸せに出来るような子になりたい。


目に映るモノが全てとは限らなくて、この手に掴んでいたと思っていたのは、幻でしかなくて。
だから、願いはたった1つ、願ったのは何時の頃だったか。あれからずっと小さな手を護ってきた。





奇跡と云う名の魔法









季節はとうに夏を押し退け秋の香り運ぶ様な風がゆっくりと周囲に蔓延り、其れでも未だ纏 わりつくような陽炎が、道にゆらゆらと揺れている景色を確かに昨日は見た。
この天気ならば問題無いだろうと空を見上げ、澄み切った蒼いだけの世界を薄蒼の瞳に入れては、少しばかり自嘲気味に哂って。上ばかり見ていた所為だろう か。若しくは、普段道等歩かない所為だろうか。大路には昨日は確実に無かった巨大な水溜りがてらてらと光り、そこを鏡面のように思わせながら光りを反射し ていた。

目先を狂わせる其れを一瞥して溜息を押し殺しそうに為るのを極限まで我慢に我慢を重ね、スネイプは懐から杖を取り出しては大空を這わせる様に振った。
途端に青く澄み切った空がゆっくりと顔を覗かせ、今にも泣き出しそうだった空は跡形も無く消えた。


「 なに、また魔法…? 私が使えないことへの当て付け? 」


剥き出しの茨を放って投げた様な言葉とは裏腹、耳に聞こえるは柔らかい音程を伴った声色、目の前の少女は両手に抱え切れないほどの花を持って微笑んだ。
風を受け、はらり、と舞う花弁。
両の手に抱いた花束を抱え直すと同時、スネイプが振り向いた。気まぐれな強風に、靡く髪に眇めたままの、瞳を向ける。


「 いい加減やる気を出したらどうだ、一ヶ月も山に籠れば魔法の一つや二つ、お前でも安易に使えるようになる。 」
「 厭よ、絶対に。 別に魔法が使えなくても困らないもの。 」
「 …確かに、幼稚園児以下の其の腕前でホグワーツを無事に卒業出来ることは喜ばしいことだな。 」
「 あら、失礼ね。 魔法薬学だけは誰にも負けない自信があるけど? 」
「 魔法薬学は杖を振らずとも手順さえ間違わねば赤子でも作れる。 」
「 …じゃあ私は一番出来の良い赤子ってところね。 」


蒼い空に良く映える鮮やかな黒髪は、無残に散らされてもやはり変わらず、柔らかくを彩った。
夜の帳と同じ色彩の水墨白淡の瞳は、輝きを顰め、何処か自信に満ちている。
ホグワーツでは誰も逆らう事等出来ぬと囁かれるあのスネイプを手玉に取る様な発言の数々、そしてスネイプも其れを咎める事をしないのは、単純に教師と生徒 という関係だからではない。




出逢ったのはもう十年も前の頃。嘗ての友人の結婚式に呼ばれた、今日のように晴れ渡る蒼い空の日。
退屈凌ぎに出た庭先。昨日降ったばかりの雨が全て乾き切る前に太陽が昇ったため、朝露が至る所に身を潜めていた。
花嫁の晴れ舞台。もうじき此処で、名も知らぬ何処かの神に形だけ眼に見る事など出来ぬ永遠の愛を誓う。
今日この日の為に卸した純白のドレスが朝露を含み、泥を吸上げてはさも惨めだろうに。穢れぬ心で嫁ごうと言う決意の現われでもあるだろう、純白の衣。せめ て、今日位。
そんな思いから、懐に忍ばせた杖で、朝露を消し去ろうとした瞬間。

背丈の短い花壇の端、淡い桜色のドレスが汚れるのも構わず座り込んだ、奇妙な子どもを見付けた。
一体何をしているのかと其方へ視線を投げれば、子どもが此方に気付き、ゆっくりと振り返る。
滑らかな白い肌に、煌く黒の大きな瞳。描いた様な美しい柳眉に、すっと通った鼻筋、ふっくらした紅い唇。 個々を見ても完璧とも言えるパーツが、これまた完璧とも言える絶妙なバランスで配置されている。
将来を見据えれば相当の美女になるだろうその子どもは、小さな口を動かして言葉を紡ぐ。


「 あのね、まほうが起きたの。 」
「 …魔法、だと? 」
「 うん、まほうが起きたの。 だってそうじゃなかったら、お星さまはおちてこないもの。 」


満面の笑みを浮かべた少女はほらほら、と朝露の掛かった花を指差して見せた。
黄昏色に似た花に舞い落ちたきらきらと光る朝露を見て、空から星が降ってきた、花に魔法が掛かったのだ、と嬉しそうに小さな顔を綻ばせる。


はね、まほうは使えないけど、でも、この世界にはまほうを使えるひとがいるんだって。
 おじさんがきたらね、まほうみたいに空からお星さまが降ってきたの。 」
「 ……おじ、さん… 」
「 ねぇ、おじさんは…まほうを信じる? 」


刹那、の後ろの花々が強く吹き上げられ、教会の屋上まで届こうという勢いの花弁が花嫁の待つ庭園への方へ飛び去ったのを、無意識には追い掛ける。
自分で問い掛けておきながら、その答えを聞くことも無く、一度も振り返らなかった少女は其の侭魔法の様に消えた。
幻影か何かの様に霧散した少女が居た場所に、シンビジウムの花弁が舞い散り、鈴の音の様な澄んだ音程の声が何時までも木霊の様に脳裏に響き渡っていた。
全てが白昼夢の出来事の様な虚無感に包まれながら、庭園へと戻ったスネイプが、黄色の花に抱かれた少女を見ることは無かった。



再会したのは其れから数年後。自ら教鞭を取るホグワーツと言う魔法魔術学校での組み分け帽子の儀式の折。
、という聞き慣れぬ異国の言葉の名をついぞ忘れることは無かった。だからこそ、ダンブルドア校長が名をつむいだ瞬間、興味すら湧かなかった組み分け帽 子を被った小さな少女に見入った。



「 スネイプ教授、貴方は魔法を信じますか? ヒトが作り出した幻に似た不可思議な術を。 」
「 信じる信じないは己の自由だと思うがね。
 少なからず、あの日花に舞い降りた朝露は到底魔法とは言えぬな。 」


は僅か躊躇うように、足元に視線を落とす。それから、縋るようにスネイプを見上げた。
あの幼い頃のが重なる。無邪気に自然の摂理を魔法だと信じていた可愛らしい少女。殆ど愛おしさに胸を突かれ、反応は遅れた。
流石に幼い頃の夢を根底からぶち壊してしまっただろうか。もう少し言葉を選んで遣れば良かった、そう思った瞬間。


「 私は信じます。 だって魔法が使えない私が役立たずの杖に向かって祈ったら叶ったんですもの。 」


もう一度、星を落としたあの魔法使いに出逢えます様に---------------


幼い頃より魔法と云うものに慣れ親しんで来たスネイプにとって、魔法とは朝起きて先ず顔を洗うよう、日常茶飯事なものだった。
自分が魔法能力に劣るとはいえ、両親ともに生粋の魔法使いであるにとっても勿論魔法は生活の至る所にあったのだろう。其れでも、自分では操ることの出 来ぬ奇跡に似た出来事に、幼い子どもの思考は追い付けなかったのだろう。
だから自然の摂理を見つけた瞬間、偶々其の場に現れたスネイプを稀代の魔法使いとでも言う様な口ぶりで話しかけて来たのだ。実際に魔法を操る身ではある が、 余りに身近に在り過ぎる為、其の存在価値を忘れ掛けさえ居たと言うに。


「 そうか、魔法に於いては劣等生と言われたお前にも我輩に真似出来ぬ魔法が使えたのだな。 」
「 …まさか、この私がスネイプ教授の操れぬ魔法が使える訳無いじゃないですか。 」


冗談のつもりで口走った台詞、よもや真意に受け止められる等とは思っていなかったは、慌ててスネイプの言葉に反論を返す。
一方スネイプは自らの発言を撤回する様な兆しも無ければ、真逆にの云う事も一理あるとでも言う様な表情を見せる。大人が子どもを皮肉る様な台詞で有れ ど、スネイプが意図して告げた言葉に、如何やらは言葉の心意を掴み取れていない様子。
無理も無い、心に思案する事を其の侭素直に告げる事が出来ているのなら、セブルス・スネイプと云う人間は此処まで四面楚歌になる事は無かっただろうから。


「 杖に願ったら叶ったのだろう? 魔法使いに逢いたいと願ったお前の想いが。 」
「 いや、でも其れは… 」
「 我輩は願うことすら無かった、魔法が使える身の上だと言うに、そんなモノは願っても無駄だ、と。
 だがお前は違う。 起こしたではないか、奇跡と云う名の魔法を。 」


人と人との因果関係は元より、偶然を必然に変えることも、不可能を可能に変えることも魔法を用いればいとも簡単に成し遂げられるだろう。
だが、何の謀無くとスネイプは再び出逢い、こうして共に在る。幼い子どもが杖に願ったとて、到底叶えられる程魔力が強いわけでもなければ、魔法に長け ている事等無かろうに。


「 だって逢いたかったんですもの。 私の心に魔法を掛けた魔法使いに。 」


ふわりと照れた様に微笑んで告げたは言葉の後、童心に返った様、あの頃の様にスネイプの元から駆け出した。
あの日、無邪気に駆け出して行った侭、二度と姿を見付けることが出来なかった。此の侭消えてしまいそうなの後を見失っては為らないと、スネイプはゆっ くりと其の後を追う。


「 我輩とて、逢いたかった…我輩の心を捉えた小さな魔法使いに、な。 」


空気が揺らぐ様な僅かな風。空気の匂いに、薄っすらとシンビジウムが混じった匂いがした。
風に舞い上げられたローブが目障りなほどスネイプの視界を遮るが、其れに構うことなく消え逝きそうな小さな背中を見詰め、小さくそう呟いた。


君はそのままであればいい。自然の摂理を魔法だと言った幼い君。君が忘れてしまっても、我輩の中に残るものはあるのだから。





























後書き

500000HITリクエストドリーム、氷世さんに捧げるスネイプ夢。
*セブルス・スネイプ×ヒロイン
*ヒロインは魔力が芽生える以前か、まったくのマグル
*二人の関係はお任せいたします
*「おじさん(もしくはそれに類するスネイプの呼び名)は、魔法を信じますか?」 の台詞


ということだったのですが…台詞を無理やり言わせて話をつなげた、見たいになってますね(苦笑)。
スネイプが如何も変態ロリコンくさくなってしまっているのですが、私個人的には非常に楽しく書かせて頂きました。
こう云う魔法の使い方もあるだろう!と思ったら、意外とスラスラ書けてしまったので、氷世さまの意図したリクエストをぶち壊していないか心配です。
超個人的に、スネイプに「おじさん」と言わせるか「叔父様」と呼ばせるか迷ったのですが、やはり将来を思って、「おじさん」に(笑)

受け取って頂けるのでした、是非にお持ち帰り下さいませ。
勿論、書き直し等24時間承りますのでお気軽にどうぞv

++++ この作品は 氷世様のみお持ち帰り可能です ++++


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