初めて、から始めよう








別れのときが迫っている訳でも無く、明日隣に君が居ないなんて未来を想像する事すら馬鹿 馬鹿しくて、愕く程長く感じる寮生活での時間を如何使おうか…其ればかりが念頭に在ったリーマスとの考えには若干の誤差があった。
出逢ってもうじき一年が過ぎようとした頃合、グリフィンドール生だったが闇の魔術に対する防衛術に興味を抱き始め、リーマスの教室に足を運ぶように 為った事が切っ掛けでとリーマスは急速に互いの距離を縮めていった。
教師と生徒という関係上公けにする事はおろか、周囲に悟られる事態も避けなければ為らなかった二人は、教師と生徒と云う関係から恋人同士と云う関係に発展 してからも見かけ上は一定の距離を保ち続けていた。




、キャラメルティーでも飲むかい? 」
「 あ、私が淹れます。 蜂蜜は半分で良いんですよね? 」




手に持った蜂蜜が詰まった瓶の中で揺らぐ琥珀色よりも更に甘く透明な蜂蜜琥珀の瞳で見詰められ、視線を剥がす事を赦さないとばかりに甘く微笑まれる。
他の生徒が見れば、間違い無く黄色い歓声をあげて心を奪われるであろうその微笑を崩さないままで、有難うと小さく告げ、リーマスは先を急ぐであろう先日行 われた ばかりの定期考査の採点を始めた。
柔らかな陽の光が室内全体を覆い尽くすリーマスの自室には、闇の魔術に関連した植物や花々が至る所に点在し、室内の装飾の一部の様に、色とりどりの色彩を 与えている。
それらの小脇を通り抜けながら、もう使い勝手を覚えてしまったキッチンに入り、湯を沸かす。コポコポと独特の音を奏でながら沸騰する薬缶を見詰め、白い湯 気が一面に立ち込める頃合を見計らって蜂蜜の瓶にスプーンを差し入れる。
見た目からも相当な甘さと円やかさが伝わる琥珀色を見れば、自然と髣髴するのはリーマスの微笑み。
蜂蜜よりも遥かに甘味の強い瞳で見詰められ、甘美な声色で名を呼ばれれば、例え其れが講義中に呼ばれるファミリーネームだったとしても最上級の囁きに変わ る。




、クッキーも有るから持っておいで。 」




思い起こせば、付き合ってから暫くのときが経過してから、漸くリーマスは二人きりの時にファーストネームを呼んでくれるように為った。
其れまでは他の生徒と何等変わることの無い、ファミリーネームで呼ばれ続けていた。
ファミリーネームで呼ばれること、橘という姓に嫌悪を憶えている訳でも無い故に、ファミリーネームを呼ばれる事自体が嫌という訳ではない。
ファミリーネームであれ、ファーストネームであれ、愛しい人が呼んでくれる自分だけの呼び名。
甘い甘い瞳で見詰られて極上の低音で囁くように名を紡がれるのは、酷く心地が良い。
ファミリーネームだけを呼ばれている其の時は良かった。ファーストネームを呼ばれるということ自体を知らなかったのだから。
しかし、一度知ってしまえば、如何しても足らないと思ってしまう。
少なくとも、抱き寄せられる時位はファーストネームを呼んで欲しい。其れが発展して、今では普通にホグワーツ内で…そう例えばクィディッチ競技場で見掛け た際にも名を呼んで欲しいと、心が叫ぶ。




そういえば、キスだって…




リーマスがに与える口付け一つ取ってみてもそうだった。
何時だろうか、名を呼ばれてから直ぐの事だったと思う。グリフィンドールの談話室で、色恋沙汰の恋愛話が盛り上がるのはやはり女の子同士だから仕方の無い ことで。
付き合っている相手が誰だとか、容姿や性格、そう言った類の話から始まっては、やはり気に為るのは相手と何処まで進展したかということ。
まさかその場でリーマスと付き合っているとは口が裂けても言えないは、恋人が居ない前提で友達の話を聞き、心の中で今の自分と照らし合わせていた。




---------- 初めてキスしたのは、付き合った其の日かな?

え?唇にキスされたのが…ってこと?

----------- 当たり前じゃない。 も何時か恋人が出来たらキス出来るわよ。




キスは、普段して貰ってる。
帰り際や眠りに付く間際…ふとした瞬間や抱締められている時。
あげていけばキリが無い位に其の情景は思い出せるのだけれど、其れでも何時も口付けを落されるのは額や頬や髪の毛。
何時もの様に恋愛話に花が咲いた夜の談話室。
其の時に付き合ってどれ位で唇にキスされて更なる進展に繋がるのか、其れさえ聞かなければ気にも為らなかった事が、其の日を境に少しずつ変わってしまっ た。

私だって、額や頬や髪の毛…確かに其処に口付けられるのも好きだけど、…口唇とかにキスされたい。
まだ早いかもしれないけど、本当はその先だってリーマスとならいいのにって、思ってるのに。
…ねぇ、如何して?私がまだ子どもだから?




「 リーマス…私のこと、きらい? 」

? 一体どうしたの?急に… 」




立ち昇る湯気と共に甘い蜂蜜の香りが漂うカップをリーマスの机の上に置いて、独り言の様に呟いた言葉にリーマスが即答する。
忙しなく動かし続けていたペンをインク壷に浸したまま、捲らなければ為らない筈の羊皮紙を其の侭に、甘い誘惑さそうキャラメルティーに指も掛けずに愕いた 様な眼差しが薄紫の瞳とぶつかる。
行き成り何を言い出すのか、言葉に出さずに瞳だけでそう伝えてきた真っ直ぐな気持ちには少し嬉しくなりながらも、念頭に有る疑問に胸を詰まらせて。
真っ直ぐな瞳に魅入られれば、其の先に言う筈だった言葉が酷く稚拙なものに感じ、無性に恥しくなる。
其れでも、あの日以来は何度も何度も思い続けてきた其の疑問を、如何してもリーマスにぶつけたかった。
嫌いだからキスをしたくないのならば、哀しいけれど其れは其れで納得が行く。




「 だって…恋人同士はたくさんキスするって友達が言ってたよ? 」
「 キスなら私たちもしてるんじゃないのかな。 」
「 うん…そうなんだけど、そうじゃなくてね、えーっと… 」




言えば直ぐに理解してくれると思っていた思考は空回りし、心配そうな表情を貼り付けたリーマスは、其処に更に疑問を浮かべた。
これ以上は如何伝えれば良いのか判らない。
とて、人一倍語学力に長けている訳でもなければ表現が豊かな訳でも無く、まして恋愛関連について熟知している筈も無い。
恋愛関連なら、間違いなく人生経験の豊富なリーマスの方が詳しいだろうし、其れ相応の表現も知っている筈で。
故に、曖昧な表現でも推測し悟ってくれるだろうと思った思惑が見事に空回りすれば、それ以上如何して良いのか判らない。




「 口唇に… 」
「 口唇? あぁ、なるほどね。 そう云うことか。 」
「 リーマスは……したく、ないの…? 」
「 私がしたくないとでも思ってるのかい? だとしたら、酷い誤算だ。 」

「 じゃあ何で…?」




今にも泣き出しそうに瞳に水膜を張ったを抱き寄せる様に引寄せて、リーマスは何時もの様に触れるだけの口付けを瞳に落す。
達筆な文字を連ねる長い指を柔らかな髪に絡め、ゆっくりと撫でるように梳かしながら、リーマスは小さく苦笑する。
如何してそんなにも可愛らしい事を考えるのか。
今も羞恥からか、頬を紅く上気させて、伏せ目がちでしか見詰ては来ない。
普段は見せないようなその表情を見たいと表情を伺えば、終始困った様な瞳に出くわした。
まるで初めて恋をしている様な其の初々しさに、リーマスの表情に思わず微笑みが零れ落ちた。
こんな可愛い恋人を傍に置いて、何もせずに居ろという方が拷問に近い。
今の今まで我慢し続けた自分は偉いと、妙な考えが脳裏を過った。




「 自分をね、抑える自信が無いんだよ。 」
「 抑える自信? 」
「 君を傷つけてしまいそうで、泣かせてしまいそうで、恐ろしくなる。 」




情欲に塗れた男の理性がどれ程弱く脆いものかを、君は知らないから。
純粋で清廉な君をこの手で穢してしまいそうで、恐ろしくなる。
真っ白な布を端から染めれば、一気に染みて瞬く間に真っ白い布が染め上がってしまうように、穢してしまいはしないかと。

大丈夫だよ、リーマスなら…私は平気だよ?

上目遣いにそんな事を言わないで欲しい。
幾ら経験を重ねてきた大人だからとは言え、愛しい者を傍に置いて、可愛らしい事を言われれば理性なんて直ぐに藻屑と消え失せる。
今までは、理性を硬い殻で覆って居たから何とか耐える事が出来た。を傷つけるような事はしたくない。
かと言って、関係を進めないというのもまた、本能的に宜しくない。
少しずつ、少しずつ始めれば良い。
そう考えていた思考を、事も有ろうか愛しい恋人に根底から叩き壊される様な甘い誘惑を受けて、引き下がる男が居るだろうか?
少なくとも、リーマスは其の類には属していない。




「 …そこまで言うなら、試してみようか? 」
「 えっ…?い、今…!? 」
「 そうだよ、。 キスをする時は瞳を閉じて… 」




吐息が掛かる位置までリーマスの端正な顔が近付いて来て、言葉の意味も良く理解できない侭、紡いだ否定の言葉は何の効力も為さない侭は咄嗟に其の瞳を 閉じた。
堅く、キツク。
まるで何かから眼を背ける様に身構えて、ぎゅっと握り締めた拳が微かに震えている様が視界に映る。
たかが、唇に落すキス一つ。
そう思っていたリーマスは余りに可愛らしい仕草に思わず苦い笑いを殺すのに精一杯で、当に理性等飛んでしまっている。


小さく震えるように頑なに瞳を瞑った侭、身動く事さえ出来ない状態のを其の腕の中に抱締めると、小さく触れるだけの口付けを桜色の唇に落とす。
ビクリと震えた身体、もう瞳を開けても良いだろうに其れすら出来ないまま固まるをみれば、やはり未だ【恋人同士のキス】には遠い気がした。

---------- もう開けても良いよ。

その言葉を合図に開かれた薄紫色の瞳には、先程とは少し違った意味合いの水膜が張られていて。
如何して良いのか判らない、そう全面で言いたげな瞳にもう一度口付けを落して頭を撫でてやる。




、初めから、順番にはじめようか? 」
「 じゅん…ばん? 」
「 そう、一つずつ、初めからはじめれば良い。 」




焦ることは何も無いだろう?
そう言いながら瞼に落とした口付けを再度唇に落せば、華奢な身体がビクリと震えた。
慣れて居ないのだから仕方の無いことだろう。
付き合った際にも、前に恋人が居た経験が無いと言っていた。だからこそ余計に、理性を欠いた状態で傷つける様な事はしたくなかった。
共に居られるこの先はまだまだ長い、一つずつ、ゆっくりと始めれば良い。


唇に落した軽い口付け、縋る様に力の入らぬ指先でローブの裾を摑んでくるその仕草。
予想以上に可愛らしい反応に、あとどれ位自分の理性は持つのだろうかと、リーマスは苦笑する。




---------- 此れで一緒にベットに入った日には…私の理性も飛んでしまうな。




決して遠くは無いであろう理性が飛ぶ未来を思って、リーマスは再度苦く笑った。
嬉しいような哀しいような。
少しずつ始めようと言ったからには、其れ相応に理性を持たせなければ為らない苦しさと闘うことになる事を、今のリーマスは知る由も無い。










後書き

410000HITリクエストドリーム、柚杜せつなさんに捧げます。
 ・『お相手はルーピン先生でお願いしますw  
  関係?wは教師×生徒で、付き合ってるか付き合ってないかはどちらでもいいですw
  裏表どっちでも可で、ルーピン先生黒希望ですw』!

…黒いリーマス…ということで、こんなん書いてみましたけれども如何でしょうか(汗)。
どうも私はこの設定が好きなようで、こういう時にこそリーマスの黒い一面が現れるのだと思うのですが…(笑)
リーマスはこの後、理性を持たせるのに苦労したでしょうねぇ…何せ自分から【少しずつ、始めよう】って言ったわけですから…(笑)
意外と砕けるのも早いような気がするのは稀城だけでしょうか…(苦笑)

受け取って頂けるのでした、是非にお持ち帰り下さいませ。
勿論、書き直し等24時間承りますのでお気軽にどうぞv

++++ この作品は 柚杜せつな 様のみお持ち帰り可能です ++++


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