------- 薄汚れたこの街で、懐かしい面影残した姿を見付けた時、留まった侭の時間が動き出した気がした。






黄昏時







出席せざるを得ない状況に追い込まれたからこそ、顔を立てる意味合いも込めて苦渋の表情 を表面面に貼り付けて。
内心は、上流階級の人間は何故こんな馬鹿げた祝賀を頻繁に催すものなのか、と腸煮えくり返る憤りで満たされていた。
頼まれたり等しなければ、確実に出席はしていないであろう。
ホグワーツ出身者で、ありとある業界では其の名の知れ渡った人物の聖誕祭。
名詞を聞いただけでも落胆の溜息を吐く聖誕祭、名ばかりのモノかと言えば強ちそうでも無い。
主催者の階級が魔法界の中でも上級に位置する為に、会場には聖誕祭と名付けるに相応しい程身奇麗な恰好をした厭味ったらしい上層階級の人間ばかりが犇いて いる。
魔法界で開催されるのであれば、普段の恰好にローブを羽織れば良い程度で済まされるが、現実はそう甘くは無かった。


自分が出席できない代わりに如何しても、と頼まれたダンブルドアから手渡されたのは一枚の往復切符とパスポート。
問答無用でマグルの世界に行かざるを得ない事を知り、即座に拒絶の言葉が脳裏を過る。
誰がマグルの世界に等足を運ぶものか。
そう思考していたのは所詮は脳内、ダンブルドアには研究に没頭する為に講義の時数を少々欠いて貰った恩が有るだけに、断るに断れない。
そうして、現時点に至る。
ロンドン郊外、桁外れの邸宅で催されている聖誕祭は、苦悶苦渋を心に宿した我輩を引き込んだ侭に今始まりを告げた。





「 ………? 」





手にしたワイングラスが指先から滑り落ちそうな錯覚に陥った。
直接生誕者と面識がある訳でも無い我輩は、暇を持余していたと言えば嘘ではない。
実際、吐きそうになる溜息を何度押し殺し、表面上は感情を消した人間の様に唯其の場に居るだけの人間をしていたか知れない。
全く己の交友関係に掠りもしない雰囲気に包まれた侭、どれだけの時間が過ぎただろうか。
いい加減、何時終るのか知れないこの戯言行事に何時までつき合わされなくては為らないのか、そして噎せ返るだけの大人数の発する様々な香水の薫りに吐き気 すら覚えて来た頃合。
鬱陶しい程に周囲に纏わり付く貴族の女性に適当に相槌を打ちながら、ダンブルドアの評判を下げる事だけは出来ぬと、己でも信じられない程謙虚な言葉を返 す。

そんな意思疎通の全く無い馬鹿げた会話に飽き始め、何時変えれるのだろうかと、大広間上の時計塔を見上げた瞬間に息が詰まる。
偶然とは時に忌々しい事をしてくれるものだ。
嘗て一瞬でも恋慕を抱いた少女の姿を、この様な薄汚れた場所で見掛ける等。





「 セブルス、とお呼びしても宜しいかしら? 」
「 まぁ、其れは良いですわ。わたくしもお呼びして構わないかしら? 」





一点の穢れも見付けられない純白のキャンバスを敷き詰めた様な円卓を囲んで、何時までも枯れる事の無い造花の様に味気に欠けた笑顔が幾つも並ぶ。
其の微かな隙間から、水に生けられた華の様に生きた微笑みを浮かべる家令嬢の姿が視界に映る。
崩し掛けた表情を慌てて取り繕って見ても、所詮時は既に遅い。
視線を何かで固定されたかの様に、人とヒトの隙間から垣間見れる光景から瞳が離せなくなる。
心を捕られてしまった様な錯覚に駆られ、嘗てホグワーツ生として在ったの面影を探す己が居た。
あの頃は未だ、年齢相応のあどけなさが残る幼い子どもに過ぎなかったが、見違える程に。
面影は根こそぎ剥ぎ取られた様、唯純粋に、綺麗な【大人】に為っていた。


東洋に籍を置く家は、由緒正しい一族の末裔である。
今回催された聖誕祭は終始マグル式の式典とあってか、は幾つかの単衣に唐織の袿を襲ね、繻子地の帯を結んだ服装をしていた。
東洋の国ではあれが正装なのだろうかと、上から下まで眺める様に見入る。己も正装をしているのだ、間違わなくてもあの服装が東洋の正装なのだろ う。
其の正装に見合うべく、漆黒の絹糸を柔らかな紅の紐で結わえ、一刷毛ほどで止められた紅はうっすらと淡く唇に色づいている。
遠目から見ても醸し出される微かな色香が、スネイプの視線を釘付けにした。


見慣れぬ其の姿、嘗ての想い、留まった侭の時間が緩やかに動き出した気がした。





「 …あれはメディチ家の次期当主… 」





ねぇ、聞いていらっしゃいますの?

そう呼びかけられて、はたと気付いた。
気だるさを抱えながら、周囲に気を配るだけの思考能力の回復の兆しが見られれば、何処からか花の香りが漂い。
引き剥がす様にから視線を周囲に映せば、背丈が揃えられた緑の並木に混じって、多種多彩な色彩の服飾を身に纏った人間達が淡い色の花束を抱えている。
彼等は挙って、生誕者に我先にと花束を渡し。花束の大きさが忠誠の大きさ、華の量が所持する財産の量だと言わんばかりの莫迦大きな代物が幾つも幾つも渡さ れる。
一輪一輪華麗に咲く花も、あぁ云った使用用途をされてしまえば、一気に品格を欠いてしまうものなのだと思い知る。


誠、詰まらない。
否、詰まらないだけならば幾らでも耐える事は出来る。魔法薬学の研究会もくだらない物は本当に退屈だけを齎してくれる。
今回も同じ様なもの、其れが偶々知人の代理で出席した聖誕祭だったというだけの話であって。
しかし…一度見つけてしまったものは仕方ない。
決して好印象では無かったであろう相手は嫌悪しているであろうが、折角のこの機会、出来ることならの傍に行きたいというのが腹の中の本音だった。
今はもう、昔の様に生徒と教師と言う関係ではない。
しかし、触れる事も出来ない、声を聞く事も出来ない。今の遠い、この距離。
其れは最早昔の己達の関係---------- スリザリンとグリフィンドールを暗喩しているようではないか。





「 メディチ家次期当主として…貴女に正式に婚姻を申込みたい。 」





会場が一時騒然となる。
長身且つ流露な笑みを浮かべたメディチ家の次期党首は、執事に目配せをすると、抱えることすら困難な程大きな花束と一緒にエンゲージリングをに差し出 した。
其れは誰が何処から如何見ても、公然のプロポーズにしか映らない。
先まで我輩の傍で口煩い鴉の様に騒ぎ立てていた女性たちも一斉に関心を其方に向け、四方八方から非難落胆の溜息が毀れる。
また同じ意を持ってして落胆の溜息、嫉視でメディチ家次期党首を見詰る男性陣も然り。
所詮は同じ穴の狢という事なのだろうか、一瞬たりとも同じ様な妬みの視線を送った己が馬鹿馬鹿しかった。





「 えっと…その、気持ちは嬉しいのですが… 」





寸瞬の後、始めのうちこそ作り笑顔を其の侭顔に貼り付けていたであろうの表情が少しずつ変化を帯びた。
柔らかそうな肌色から僅かずつ血色が失われて、背には冷たい何かが走り、抱えきれずによろめきそうになった大きく重い花束には其れだけの愛が籠められてい ると悟り。
ポートレートから切り取って其の侭貼り付けた様に一糸乱れぬ微笑みを作り上げる彼を目の前に、引き攣った笑みすらも出来ずに居るらしい。


否、正しく言えば彼自体を余り良く思っていないのだろうか、混沌とした様を如実に浮かべた様な微妙な表情の侭、表面上は柔らかく笑んでいる。
しかし、内心快くは到底思えないのであろう。如何やら本人的には直ちにこの場で拒絶の意を述べたいらしい。
直感的に悟れぬ程…、7年も無意識の侭を見ていた訳ではない。

あの表情は、魔法薬学や何かで失敗をした際に、無意識にが作り上げる表情だった。
卒業した今でさえ、其の癖は治っていないのだろうか。昔の面影薄っすら残る表情に、少しばかり己の知るあどけなさを見付け出した気がすれば、自然と足は偽 飾に満ち溢れた式典上座に向かっていた。





「 本日は誠におめでとう御座います。
 唐突ですが、我輩の連れが何か粗忽でもしましたかな? 」

「 スネ…ッ… 」



失礼でもあったかと、男に問いながら、形だけの儀礼の言葉を述べる。
この瞬間初めて、交わる事の無かった視線が交錯した。
驚いた様に淡紫の大きな瞳を更に大きくさせたが、如何して此処にいるのだと言わんばかりの表情で己の名を告げようとする。
此処で、ファミリーネームを呼ばれるのは非常に都合が悪かった。其れを制する様に、の眼前にゆっくりと歩み寄って、掌で言葉を剥奪する。





「 此れは此れは、ホグワーツの有名魔法薬学教授ではありませんか。
 家令嬢と貴方がお知り合いとは、面白い事です。 如何云ったご関係か、伺っても宜しいですか。 」





突然にプロポーズを打破させる様な言葉を述べたにも関わらず、本人一切関せずと言った他人行儀な微笑みを浮かべた男は、酷く厭味に塗れた言葉で質問を送 る。
嘲りや下卑た言葉は使わないであろう、其れでもそれらを仄めかす様な言葉を間接的に選んで告げてくる。
其の言葉を、酷く冷ややかに聞いていた。
小さく、息を吐く。其れはやがて独特の低い声、冴えた響きに代わり、其の根底に潜む感情を吐き出させる様な何かを切り出す切っ掛けに為っていた。





「 我輩とは、嘗て師弟という関係でしてな。しかし其れも卒業を期に根絶し…
 今は我輩の良き理解者であり、恋人でもあるのですよ。そうであろう、? 」

「 え、あ…はい。 」

「 …理解頂けましたかな。これ以上の関与はご遠慮願いたい。では。 」





莫迦丁寧に一つ頭を下げて再び仰ぎ見れば、呆けた様なメディチ家当主の視線が嫉視に代わっていた。
恫喝してやろうと平気で恬然する様な人間が、自分の好いた女性の恋人だったと知った瞬間の呆けに加わり、其れから嫉妬を含み始めた。
自然と零れ落ちる丁寧な口調とは裏腹に、声に含むのは、揺ぎ無い獰猛さ。
面白いほどに目に見えて男が怯むのが判る。年齢は若干相手方の方が高いであろうか、そもそも年齢と肝の大きさは確実に正比例ではない。
彼の様な小心な人間は後からになって、プライドを傷つけられたと見当違いの怒りを覚えるだろう。
そんな彼から次の言葉を聞く其の前に、この様な馬鹿げた場所から一秒でも早く立ち去りたいと、入り口に向かって踵を返す。


ゆっくりと後ろに返りながら僅かに映り込む視界の端で、威嚇し咽喉基噛み千切らん勢いの強い眼差しと共に、薄く笑みを作ってやる。
相手方が何か発言をすれば、勿論其れに同調して返答するつもりでいた。
しかし其の刹那、がさも恋人同士の様に腕に腕を絡めて来たが為に、彼の中で全てが確信となったのだろう。
最終的に、落胆の表情で全てが終わりを告げた。


大衆の面前で己の聖誕祭の際にプロポーズしたメディチ家次期党首は、見事粉砕した。





「 …………… 」





釈然としない心、あれほどまでの大人数で犇き合っていた中庭を抜けてロンドンの街道を唯歩いた。
出口に向かう旨を告げて出てきた訳ではないが、向かった先にまるで別世界の様に馴染まぬ深い街頭の灯りが射していた。
其処で、改めて二人きりに為り、何を始めに告げれば良いのか。今更再会を懐かしむ様な言葉を述べたところで、時既に遅し。
如何して此処に居るのだ、如何して助けたり等したのだ、如何してあのような助け方しか思いつかなかったのか。
大方、が胸の内に秘めている釈然としないものは其れ等であろう。其れに気付いているからこそ、自ら如何言葉を発して良いのか判らずに、沈黙ばかりが二 人の間に落ちてくる。

相反するはと言えば、自然とスネイプに腕を絡めて見たは良いが、既に此処は屋敷の外。
腕を絡めた侭歩き続けて良いものなのか、其れとも自分から絡めた故に自分から離せば良いのか。
其れならば先に、礼の言葉を口にすればいいのか、嘗ての教師との突然の再会を偲べば良いのだろうか。
けれど、どれも違うような気がした。





「 …スネイプ教授、まさか貴方があの場に居られるとは思いませんでした。 」
「 其れは此方の台詞だな、ミス 。 よもやあの様な薄汚れた場所にお前が居る等。 」
「 もう、とは呼んでくれないんですね。
 吃驚しました…私のファーストネームなんて、知っている筈等無いと。 」





グリフィンドールでしたから…、私。

其の言葉に、宛ても無く唯只管に進めていた歩みを止めた。
前兆の無い行為に、進行方向を見ていたがスネイプを仰ぎ見た。
漆黒に薄紫の両瞳。銀混じりの黄昏た色が、スネイプだけを捕らえて真っ直ぐに見据えてくる。
昔見た、必死の眼差し。今も変わらず其処に在る剣呑さに、身が竦む。
幼い子どもだとばかり思っていた。其れ故に、あの頃は一線を引いていた。
今はもう、抑え切れそうに無かった。この機会を逃せば、もう二度と出逢える事は無いのだと、普段は決して思いもしない感情が競り上がる。





「 …我輩は今日お前を見付けて昔を思い出したのだよ。 」





言葉の後に、無造作に腕を伸ばす。何をされるのか、一瞬身体と肩を強張らせたに動じる事無く、スネイプは其の細い肩を囲った。
スネイプにしてみれば、子どもを腕に囲う等初めての事、何処まで如何力を加えて良いのか感覚が掴めてない。
昔の面影が薄っすらと残るスネイプ、あの頃は未だ恐れの方が多くてろくに喋る事も侭為らなかった。
魔法薬学で講義の質問をする僅かな時間、其れだけがあの頃の唯一の青春と言えた。
だからこそ、あの時スネイプに言われた台詞に心を奪われ、息をする事も忘れた様に呆然としていた。
其の場を切り抜けるだけの嘘であったとしても、嬉しいと。


普段は重たい印象しか残さない長い腕に囲われ、は拒む事も出来ない侭柔らかで温かなヒトの温もりに包まれていた。
行き交う人々の群は、我関せずと言った様に横を通り過ぎるだけで誰も此方を見ようとしない。
其れでも、高鳴る心臓の音は普段の倍以上に膨れ上がっている。





「 先程我輩が言った事は嘘ではない。
 お前を見付けた瞬間…嘗ての恋慕が蘇った。 我輩がお前を好いていた等…誠、笑える話であろう? 」





誰にも聞かせた事ないような声音が、の耳元を掠めていく。
もう何度目かの驚愕が全身を駆け抜け、一生分の驚きを纏めて経験している様。
若しくは、今まで全ての事が夢の様な錯覚さえ帯び始める。嘗ての想い人に、その昔から思われていた等と…如何してその様な偶然が在ろうか。
夢ならば醒めなければ良い…そんな当たり前の事を思いながら、は笑った。


其れは、嘗てがホグワーツに居た際見せた----------- スネイプの時間を留めた微笑みだった。





「 でしたら一緒に笑いましょうか?、スネイプ教授。 先程の言葉…真実ならどれ程良いかと… 」

「 セブルス、だ。 我輩はSeverus Snape.恋人同士はファーストネームで呼ぶのであろう? 」





Severus…そう小さく口にして、恥しさに身体中に紅が走った気がした。
ホグワーツに居た頃は、【スネイプ教授】と呼ぶ事だけで精一杯で、ファーストネームを知る切っ掛けすら無かった。
其れが有る日、偶然にして聞いたダンブルドア校長とスネイプの会話の中から、スネイプのファーストネームがセブルスである事を知った。
グリフィンドール寮の部屋で独り、小さく口にして見ては何故か全身に紅が走った事を思い出した。
あの日から、の終わりの無い片思いは始まりを告げていた。





「 先を急がないのならば、此の侭食事でも如何かね。 」
「 私、折角イギリスまで来たんで、フィシュ・アンドチップス食べてみたいです。 」
「 …そう言えば昔、日本から送られてきたポテトチップスというモノを良く食べていたな。 」
「 だから、ですよ。 だから、食べてみたいんです。 」



他愛無い会話をしながら、とスネイプの指先は繫がった侭に、二人の姿はゆっくりとロンドンの夜の帳に消えた。





------- 薄汚れたこの街で、懐かしい面影残した姿を見付けた時、留まった侭の恋慕が動き出した。








後書き

340000hitリクエストドリーム、Maria 様へ捧げますv
リクエスト内容は…
 ・ スネイプ教授ドリーム
 ・ スネイプ教授とヒロインがヒロイン卒業後ロンドンの街で偶然再会し想いを伝え合うと言う内容。

ロンドンの街で偶然再会…がちょっと思いつかなかったので、勝手に設定変更を…(汗)
しかも、思いを伝え合うという一番大事な部分が一番微妙な気がしてなら無いのですが大丈夫でしょうか…。
個人的ですが、私は今回の様なシチュエーションが大好きです(笑)
思いもよらぬところで再会し、其処から重要な結末に結びついていく…みたいな。
夢小説の典型です、でも乙女心はガッチリ掴んで離さない気がするのですが如何でしょうか。

受け取って頂けるのでしたらお持ち帰り下さいませ。
勿論、書き直し等24時間承りますのでお気軽にどうぞv

++++ この作品は Maria 様のみお持ち帰り可能です ++++


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