White out






最近、研究のし過ぎで自分でも頭の線が一・二本切れたのかと心配さえする。
何をしていても、ぼんやりと白い霧が掛かったように脳裏に浮かぶのは、一介の女生徒。
掻き消そうともがけばもがくほど足を取られる底なし沼のように、その存在は我輩の心を束縛する。
とは言ってみても、実際問題我輩が一方的にそう感じているだけで、少女のほうは至って普通。
我輩から想われている等、微塵も思うことは無かろう。
授業でも、大食堂でも、少女と擦れ違って心が一喜するのは我輩だけで、少女は我輩の瞳すら見ようとはしない。
しかし、それはそれで有難い。
この、セブルス・スネイプが年端も無い女生徒に好意を寄せている等…甚だ愉快極まりない。








けれども、最近は自分で自分自身を抑え切れなくて困る。
書き上げなくてはならない山のような研究資料や、採点しなければならない膨大な量のレポート、至極不愉快な仕事に、我が寮の寮督の従事。
やらなければならない事など毎日のように溢れ返り、免れない行事に、逃れられないこの感情。
授業で顔を見れればそれだけで嬉しい等、何十年前に捨て去った感情であろうか。
内容を説明する際に熱心な眼差しで此方を見る少女の瞳を直視できずに、何時も背を向ける。
教科書を朗読する時の、透き通るような透明な少女の声。
小さな紅い唇から紡がれる言葉は独特の響きを持っていて、ストレートに心に溶け込んでくる。













少女をもっと知りたい、話がしたいと思う事すら馬鹿馬鹿しいことかもしれん。
話す機会などある筈も無く、まして自分から作ろうすら思わぬ。
これでも一応、周囲から自分がどのように思われているかなぞ、十分に知りすぎている。
我が寮生とは言え、我輩を見ただけで青ざめ倒れこむものすら居る位なのだ。
少女に話しかける…言葉を交わす事など、不可能に近い。













「……」













借りていた本を所定の位置に返しに行こうと、我輩が自室を出たのは数分前で。
がやがやと騒がしい大広間を通った時は、流石に血管が引き千切れるかと思うくらいの憤慨が全身を駆け抜ける。
元より騒がしい事を好まない我輩の前で騒ぎ喚く等、命の保障が要らないらしい。
一瞥をくれてやると、騒ぎは緩やかにはなった物の、どうにも不愉快が収まらない。
そんな矢先…、階段を上りきれば図書室、という処で…
直ぐ上の階へ向かう少女を見つけた。









「珍しい事もあるものだな」













思わず苦笑がこみ上げる。
少女が大切そうに抱えているのは数札の魔法薬学に使う薬草一覧の辞書。
レポートを出した覚えも、課題を出した覚えも無い故、自学に使うのだと暗黙的に判る。
此方には全く気づかない様子で、少女は階段を静かに一人で一段、また一段と上へ歩いていた。












我輩の心に”好意”という感情を植えつけた奇才な少女、
現在スリザリン二年在籍。
スリザリンらしからぬは、成績は優秀ながらも、あの忌わしきポッター達とも行動を共にする奇特さ。
母国語では無いにも関わらずに、の話すイギリス英語は流暢そのもので、人々を感嘆させる。
しかしそれ以前に…彼女は驚くほど素晴らしい容姿の持ち主だった。
漆黒の髪に良く映える、藤色の瞳。
雪のように真っ白な肌に、淡い桃色の唇。
すらりとした体型に良く似合う、小さな顔。
東洋の血が流れているとはいえ…その容姿は酷く端麗で、整っていた。
可愛い、という代名詞よりも、『美少女』という言葉が似合っている程の美しさ。
異国の言葉かと思った少女の言葉は、我輩が使うイギリス英語よりも遥かに綺麗な発音で。
紡がれる旋律は、小さな音楽を奏でるように頭脳に直接響く。
ふわりと微笑むの顔を見たときから…
この心は囚われたままで。









後ろから眺めるのも悪くない…
そう思い、我輩はそのまま少しだけ歩みを早めた。
二階分差が有った我輩との差は、いつの間にか一階差になっており、距離が着実に縮まっていく。
我輩が四階目の階段へ左足を乗せ、が四階最後の段に足を乗せた時…ぐらりとの身体が揺れた。
急ぐように我輩の横を走りぬけた男子生徒が、事もあろうにの肩にぶつかったのだ。
バランスを一瞬崩したは、立て直す間も無く両足が階段から離れる。
慌てた様に振り返る男子生徒がの方を振り返ったとき、既には宙に浮いている状態だった。













「きゃぁぁぁぁぁっ」













小さく聞こえる叫び声と、舞い落とされる辞書。
今、この階段が動き出したら、彼女は最下層に叩き落されるだろう。
幸いなことに、今日は気まぐれは起きないらしい。
更に幸いなことには…、我輩の直線上にの身体が落ちてくる。
懐の杖で魔法を唱えようと思案したが…、それは一瞬で終わりを告げる。
持っていた数冊の文献をほおるように投げ捨てると、我が身でを受け止めた。
まるで、優しく恋人を抱きしめるかのように。










「 いたぁ……く…ない……??」













どさっ…という音を立てて、が床に倒れこむ。
仰ぎ見る天井は見慣れたライトが灯っていて、目指していた図書室も遥か上方に垣間見れる。
自分が落ちたであろう場所には、心配そうな男子生徒が此方を伺っているように立ち尽くしたままで、確実に自分があの場所から階下に落ちたことを思い知らされる。
けれど、は身体に痛みはおろか、衝撃すら感じずにいた。
痛みは痛さを通り越して感じなくなることはあったとしても、衝撃を受けないというのは明らかに可笑しい事で。
それどころか、柔らかい何かに包み込まれたような…今も包み込まれているような錯覚にすら陥る。













「 …何をやっているのかね… 」



「 ス…スネイプ先生っ!! 」













ぽーっと天井を見つめていたの視界に、眉間に皺を寄せたスネイプが映る。
一瞬で、自分がスネイプの上に覆い被さっている…自分を抱き止めてくれたのだと思い知らされる。
有り過ぎる身長差の為に、スネイプの腰の辺りにの顔が位置し…、スネイプは上半身を起こすような形でに話し掛けていた。
慌ててが起き上がろうとすると、スネイプとの距離が一気に数センチの距離まで縮まり、恥ずかしさに再び戻す羽目になる。
近くで見たスネイプの顔は、想像以上に整った綺麗な顔だった。
頭の上の、喉から発せられる独特の重低音がの心を揺する。













「 …ミス …。
 申し訳ないがそろそろ起き上がっては貰えないかね?」





「 あ、すみません、今起きます!!」













暫くスネイプの顔に声に心を奪われていたは、掛けられた言葉にはっと意識を覚醒させられる。
慌てて立ち上がろうと身体を起こすけれど、上半身は起きるけれども思うように腰が立たない。
その間にも、”自分”という柵の取れたスネイプがの下からするりと抜け出して立ち上がる。













「 大丈夫かね? 」









言葉と共に差し出されたのはスネイプの左手。
自分のローブについた埃を払うこともしないまま、スネイプはの前にすらりと立ち、を起こす。










「あ、ありがとうございます…」












いつも授業で厭と言うほど見せられるスネイプの陰険さからは、予想もできないほどに紳士的なスネイプ。
優しく腕を添えてをきちんと立たせると、自分の本を他所に、の落とした三冊の本を拾い上げ、埃を払う。
呆然としているに持たせると、自身も本を拾い上げて、未だ意識彷徨うに問う。













「 頭でも打ったのかね?
 それとも、痛みでも…?」






「 い、いえ大丈夫です。
 有難うございました 」













律儀に深く一礼をする
さらりと流れる髪も一緒になって肩から流れ落ち、柔らかい薫りが微かに香る。
顔があがるのを待ってから、スネイプは促すように言う。










「 図書室に行くのであろう?
 先に行きたまえ 」




「 …え? 」




「 我輩が先に行ったら、お前が落ちた時困るからな…」












小さな声では有ったけれど、確かにスネイプはの瞳を真っ直ぐに見てそう告げる。
それを聞いたは、ふわりと優しくスネイプに微笑んだ。
本当に優しそうに、柔らかく微笑む
スネイプが心惹かれた、あの微笑。
再び小さく一礼をして、は階段を一段一段登り始めた。
数段間を置いて、スネイプも後に続く。
二人は顔を合わせることも、歩調を合わせることも無く、ただ一つの階段を上る。
行き着く先は同じ場所だけれど。













は知らない。





スネイプが少しだけ笑ったことを。








スネイプは知らない。







が幸せそうに微笑んでいることを。













その日から、ホグワーツは少しだけ変わった。
とスネイプが会話する機会は若干ではあるけれど…
前より確実に多くなることとなる。












■ あとがき ■


33333hitリクエスト 趙 翠姫様へ捧げますv
リクエスト内容は…

・スネイプ教授の上にヒロイン落下。
・スネイプ教授がヒロインに惚れていて、スネイプ教授の一人称。
・ヒロインはスネイプ教授に惹かれ…る?

あぁぁぁぁ。肝心な場所がヒロインの一人称だ(汗
申し訳ないです、書き直し、承りますので、仰って下さいませ(汗

ごめん、ごめんよ翠姫ちゃん…
学校で話してた時は結構書けると思ったんだけどな…
稀城のヘタレ大爆発だよ(笑)教授をもっと格好よくするつもりだったのに出来なくて申し訳ない。
萌えなかったら書き直し承ります!!!!!!
ほ、ほら、学校で萌えたからいいでしょ…?(おい

ちなみに、後ろから抱きとめられるのもいいものだなぁ…と思いましたね。
稀城は前から押し倒す形で抱きとめられるのが好きですが(爆




++++ この作品は趙 翠姫様のみお持ち帰り可能です ++++











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