君に逢いたくなったら






アルバスから言い渡された出張最終日と、恋人でも有りスリザリンの生徒でもあるが郷里に着いた日は殆ど同じ時刻であった。
出張自体は学会の発表やら研究やらで借り出される事は時折有るが、マグルの世界への出張はホグワーツに勤務して以来片手に余る程少ない回数である。
ホグワーツが冬期休暇を迎えて以来、郷里へと帰省する生徒より一足早くキングスクロス駅に降り立ったのが約二日前。
我輩の後を追う様に試験を終えたが郷里である東洋の小国に着いたのは昨夜であろうかと、知識の中でしか存在しない時差とイギリスとの遠い距離を眺めて思う。
先程論文文献を提出してきた我輩にとって、後はホグワーツに帰るだけと為ったこの時分、ぐるりと見渡したホテルの部屋は想像以上に広く、如何も独りで使うには勝手が悪すぎた。
窓際のソファーに大きいとは言えぬ程簡素な手荷物を投げ置けば、其の反動からコトリと何かが絨毯に落ちた。










「 あぁ、確かアルバスから持たされたのであったな… 」










床に落ちたのはシルバー色の小さな携帯電話。
マグルの世界に行く機会もあるだろうから、とホグワーツに教員として赴任した際に独り一つずつ強制的に持たされた其れは、今の今まで一度も使ったことが無かった。
ホグワーツに居る限りは魔法が使えるので、連絡手段にも特に困る事は無く今まで机の奥深くの肥やしと化していた。
余り電話をするという行為をしない我輩にとって、其れは別段無くても困らぬ不要な物。
置いて来ようとも思ったけれど、と最後に逢った日に携帯電話の話をすれば、酷く愕いた様な顔をして其の侭慣れた手つきで携帯を弄り始めた。
数秒と経たぬ内に笑顔を見せながら携帯のディスプレイを我輩に見せ、


【此れ、私の携帯番号です。寂しくなったら何時でも連絡して下さいね】


思ってみれば、ホグワーツに等居なければはマグルの世界では列記とした高校生。
帰省の度に連絡手段に困るから、と電波の届く事無い携帯電話を持ち歩いていた。
よもやこの様な事が切っ掛けでの携帯番号を入手する羽目に成るとは、と可笑しさに咽喉が低く唸る。
手に持て余した携帯電話のアドレス帳を示すボタンを押せば、メモリーに入っている唯一の番号がディスプレイに表示された。










「 寂しくなったら…か、人を誰だと思っている。 」










眼に浮ぶあどけない表情の侭焼き付いた恋人の笑顔を思い浮かべれば、自然と表現し難い恋慕に襲われる。
思い返してみれば、ホグワーツに居る時も休暇期間中も何時も連絡を遣すのは決まっての方であった。
己で寂しいと感じる前に捜策したのかと思う程にジャストのタイミングで連絡を遣すであるが故に、我輩にとって既に「連絡をする必要がなくても来るもの」だと定義付けられていた。
もう家に帰っただろうかと、ディスプレイに浮かび上がった侭の名前を番号を見詰めれば、連絡の無い状況に少しの苛立ちを起こす。
必ずや連絡をしてくるだろうと鷹を括っていた自分が居たのだと、思い知らされる事と為る。
三日以上もあの五月蝿い声を聞いていないのかと思えば、胸の辺りを小突かれたような衝動が湧き上がって久方振りに聞いてみたいと心が言付けた。
普段でさえしない電話、更にはその相手が多分始めて電話をするであろう己の恋人だと思えば不器量な自尊心が悲鳴を上げそうになる。
さて如何したものかと、ワイシャツの戒めを解き放ってタイの結び目を乱雑に崩した刹那、ディスプレイが淡い蒼に発色して聞き慣れない音楽が鳴り始めた。
けたたましく鳴り響く音楽と共に表示されたのは紛れも無い恋人の名と其の番号。
何度目かのコール音の後、二つ折りの携帯を開いて通話ボタンを静かに押した。










「 …Hello… 」


【 あ、スネイプ教授?私です、です。今大丈夫ですか?? 】


「 …でなければ電話に等出たりしないがね。 」


【 そうですよね、済みませ…ッ…うわっ…!! 】


「 電話越し、何をやっているのかね、お前は…。 」










冷たい電話越しに伝わる温かなの声に表情を緩め掛けたのも束の間、何かガサリと音が聞こえたかと思えば途端に可愛気の無い声が耳を突いた。
次いで聞えたのは遠くに聞える犬の鳴き声。
如何やら郷里で飼っていると言っていた犬の散歩がてらに電話をしてきたのだろうと言う事が安易に予測できた。
大方犬の散歩中に雪か何かにでも滑って声を上げたのだろうと聞かずとも想像出来る事態に苦い笑いを浮かべる羽目と為る。
此れではホグワーツに居る時と何等変わらないではないか。










【 坂上ってたら氷で滑っちゃったんですよ。
 私の実家、ホグワーツ並に雪が降るんで犬の散歩も一苦労なんです。 】


「 気を付け給え、全く…
 此れでは態々心配を掛けさせる為に電話してきたと言っても強ち間違いではないな 」


【 そんな訳無いじゃないですか。スネイプ教授は心配しすぎなんです。 】


「 ほぉ…、では何用で電話なぞ掛けてきたというのかね? 」










素直に心配されると無碍に出来ない事等手に取る様に判るの表情を想像してやりながら、此れは長期戦になりそうだとベット上のブランケットに片手を付いた。
電話越し、息を呑んだ様な小さな息遣いが聞えてくる。
暫しの静寂の中、深々と降っているのであろうか白雪の中に佇むの姿が浮ぶ様で苦笑を押し殺した。
お互い表情を付き合わせていない電話越し、普段であれば態度を見ているだけに何を意図せんかが明確に見て取れる。
唯でさえ表情豊かな、其の気持ちを言葉にして伝えてみろとは聊か野暮であったかと自嘲さえしそうになる。
逢いたい、声を聞きたいと願って居たのは紛れ無く己もそうである筈だと言うにその気持ちを悟られぬ侭に促す様に再度問うてみれば暫しの沈黙の後鈴の音の様な小さな音が耳を掠めた。










【 声が…聞きたくなったの。 聞いたら…逢いたくなってしまって。
 此処に居てもする事は無いし…冬休みの休暇は長いし…スネイプ教授は連絡くれないし… 】


「 …。 」


【 は、い…? 】


「 其処に居給え。 仕方が無いから迎えに行ってやろうではないか。 」


【 ス、スネイプ教授!?…何、言ってる… 】


「 其処に居ても暇なのだろう?我輩に逢いたいのであろう? 為らば其処に居なさい。 」


【 で、でも此処日本ですよ?其れに… 】


「 案ずるな、我輩の用事は既に終えてある。 」










何か言い返そうと息を呑む瞬間が電話越しに伝わった。
これ以上言い合いをした所で状況は変らぬとばかりに、モノを言いかけたに待って居るように告げると其の侭一方的に電話を切った。
開いて居ないのだから纏める必要の無い手荷物を引っ手繰る様に掴むと、先程チェックインしたばかりの部屋をチェックアウトする。
声を聞いて逢いたいと思った衝動を止められなかったのは紛れも無く我輩の方。
本当は今直ぐにでもこの腕で抱き締めたいと言うに、素直にそう口に出せないのは良識を弁える大人になってしまったからだろうか。
吹き抜けの天井を見上げて空を眺めれば、の郷里と同じ様に白い雪が静かに降り続いていた。
ポケットに投げ入れた携帯電話が微かな振動と共に数秒間鳴り続け、メールが届いた事を知らせている。
キングスクロス駅行きのバスを待つ其の間、手続きを済まし終えて携帯を開けば一通の未読メール。
不慣れな手付きで受信ボックスを開けば、其処には恋人からの説教文が延々連々と書かれていた。
普段は逆であろう怒る立場の自分がよもや恋人に説教される格下身分に下落させられるとは。







------ 私、スネイプ教授に攫われた後は如何為るんでしょう(笑)?






開いたメールの一文、最終行にはそう認められていた。
疑問形では有るが、到底我輩からメールの返信が来る事を前提に書いてはいない事がありありと眼に浮かんだ。
時計に視線を落とせば、未だ時間的にも充分に余裕がある。
雪が降りしきる寒空の下、悴んだ指先に激を飛ばしながら二つ折りの携帯電話を其の侭にメールの新規作成画面を開く。
大方、は我輩からメールが届く等とは思いもしないだろう。
メールどころか手紙一枚すら書いたことの無い我輩、誰が見てもそんな人間からのメールの返信が来る等。
メールを受信した事を知らせる携帯の旋律が流れた時、はどの様な表情を零すのだろうか。
見れない事は少々残念であるが、此れから逢える事を思えば其の様な事は酷く小さな事に感じられて。





----- 我輩の家に連れて行く。勿論、お前に拒否権等無い。





口から毀れた様な台詞のメールを、の携帯が受信するのは、数分後。











後書き

300000hitリクエストドリーム、霞月 様へ捧げますv
リクエスト内容は…
 ・ スネイプ教授夢

リク内容がスネイプ教授のみだったので、前々からかきたかった携帯電話ネタで書いてしまいました…!
魔法が使える世界に居る時点で使うことって絶対に無いと思ったので、無理やり教授を出張にさせてしまった挙句、マグルの服を着せてみました(笑)
ヒロインと教授の電話会話内容だけという夢とは言いがたいものになってしまいましたが…ちょっと新鮮な感じがするのは私だけでしょうか(笑)?


受け取って頂けるのでしたらお持ち帰り下さいませ。
勿論、書き直し等24時間承りますのでお気軽にどうぞv


++++ この作品は 霞月 様のみお持ち帰り可能です ++++


[ Back ]

(C) copyright 2003 Saika Kijyo All Rights Reserved.