あれから、既に3年の月日が流れ去っていた。
手塩に掛けて育てた訳でもないが、決して嫌いであった訳でもない或る女子生徒。
スリザリン寮でも無い彼女に興味を抱いた事実は、生まれて此の方、ホグワーツで教師という職業に従事して以来最初で最後の事だった様に思う。
グリフィンドールかとは思えぬほどに成績の良かった少女は、ずば抜けて魔法薬学の成績がよく、どの様な難問を突きつけても笑顔で答えを言ってのける様な秀才振り。
更には、皆が口を噤むこの我輩に意見を述べて来る様な風変わりな一面さえ持ち合わせて、気がつけば自室で茶に付き合わせるほどに迄為っていた。
今に思えば欺き続けたのは恋愛感情と呼べる一介の情に過ぎぬ事、あの頃は口に出すどころかそう思案することさえ気が咎めて。
だらだらと流れに身を任せながら過ぎ去っただけの7年という月日は、それでも我輩に少しの安らぎと安堵感を齎してくれた。
その極僅かな7年という月日だけで充分に感じた我輩は、己の想いも口に出さぬまま、旅立つ少女を見送った。
この広い世界の、片隅に位置するホグワーツから、見守るだけで満足だと、そう言い聞かせる様に。



グリフィンドールだった少女が卒業し、一息吐いた所であの忌々しきポッターの息子が入学して3年が立つ。
まさか、この様な再会が己を待っている等とは、露知らず。








世界のほんの片隅から









「 講義の前に先ず、我輩の助手を紹介する。
 、元グリフィンドール寮の主席だ。 」



です。皆さん、これから宜しくお願いします 」











ペコリと頭を下げたの柔らかい髪が、肩から滑らかに滑り落ちた。
透き通るようなその声に似合った可愛らしいその顔は、が卒業した当時から何一つ変わっていない様にすら思えて。
3年も経てば少しは変化してもいい筈の少女は、大人への階段を着実に上がるもそれは未だ未熟なままで、我輩の元に久しぶりにやって来た昨夜でさえ一発で彼女だと認知した。
柔らかく微笑むことすら覚えた様だが、我輩の前で嬉しそうに笑う其の表情はあの頃のまま。
嬉しそうに笑ったに、我輩も口では散々厭味を吐きつつも心の中では苦笑する。
まさかこの様な形で再会できる日が来る等とは夢にも思わぬ事で。











先生、何故魔法薬学の助手になろうと思ったんですか!? 」

「 先生、やっぱり学生時代もスネイプ教授はこんなだったんですか? 」

「 昔と今のホグワーツ、どっちがクィディッチが盛んですか!? 」




「 …煩い。そう言った質問は講義が終ってからにしたまえ!! 」











微笑んだ顔が可愛いと感嘆の声が上がったかと思えば、魔法鍋の準備をする我輩を除けて生徒達が一斉に質問をし始める。
それは少なからず我輩も後ほど聞こうと思っていた事実も含まれているが、あまつさえ”恋人は居ますか!?”等という不埒な質問まで飛び出す始末。
不愉快極まりないこの状況に、優しいは一つ一つ答えていこうとするも、我輩はそんな事は断じて許さない。
何時もの不機嫌さを全面に出し切ってそう一瞥をくれてやれば、生徒たちはつまらなそうな顔をして教科書を出し始める。
その有様に、昔の授業風景と重ねているのか、が苦笑した。

変わってないですね、教授。

そう小さく言ったの言葉に、聞こえぬ振りを通して。
魔法鍋を火に掛けて刻んだ薬草を水の中に落として行く。
一つ一つ確認するように鍋の中に落としていくも、途中で一種類を机の上に置いたままで居ることに気付く。











「 済まぬが、… 」



「 ミガヨモギですね、教授。 」











振り返った我輩が全てのものを言わぬ内に、はゴブレットを片手に微笑を浮かべて此方に寄って来る。
昔からよく気の付く生徒だと言われていたであるが、卒業した今ではそのレベルが上がった様に思えて仕方ない。
ゆらりと揺れる紫の液体の詰まったゴブレットを受け取ると、そのまま魔法鍋の中へ。
ぐつぐつと沸騰を起こす鍋をそのままに、生徒達に作業を行うように指図する。
其の間にもは、使い終わった薬品の片付けに入っている。
まぁ、作業効率が減らないだけ助かるに越したことは無い。











「 良いか、今回の実験は目を瞑ってでも出来ねば可笑しい位の初歩的なものだ。
 故に、失敗は許さ…、またお前か!! 」











と、言った傍から爆発音と共に火の手が上がる。
眉間に寄る皺の数も普段以上で、憤慨を露にしながらその場所まで行けば、どうやら順序を間違えての爆発らしい。
一瞥を暮れてやろうかと思った生徒は余りの突然の出来事の所為か腰を抜かしてしまっている。
怒る気にもなれないその状況下、被害の広がりを最小限に防ぐには杖で火を鎮めるよりも消化火薬で一気に火を止めてやった方がいい。
生憎消化火薬は卓上奥の戸棚の中だと溜息と共に前方を見れば、が抜け目無くそのゴブレットを手にして。
に頼もうと息を飲み込んだ我輩の出番は無く、我輩が視線を合わせてやれば待っていたとばかりにそのゴブレットを投げて寄越す。
その位置もゴブレットの向きも正確其の物で、ぱしりと綺麗に掌に零れる事無く収まったゴブレットを燃ゆる鍋の中へ。
一瞬で火が収まるその事態に、生徒達は感嘆の声を次々に上げた。
勿論、それらは我輩へではなくへであるが。











、そのまま鍋を見ていろ 」



「 では、このままコウジも入れてしまいますね 」



「 爆発には充分気を付け給え。お前は良くこれに失敗していたからな 」



「 もう7年も前の話じゃないですか 」











そう笑ったの手から、コウジがゆっくりと落とされた。
ぽとりと音を立てながら鍋の中に落ちてゆくコウジを見ながら我輩は重要なことを忘れていた。
手を焼いたの余りの成長振りに忘れていた事でもあるが、コウジは煎じて入れねば為らぬと言うのに、は昔と同じ様、葉のまま落とす。
グラグラと突然突騰を起こす魔法鍋は、気でも違った様にゆらゆらと左右に揺れ始め、今にも中身の熱湯をに振り掛けんばかりの勢いで。
瞬間、我輩はに駆け寄るとその身でを庇う様にし、懐から杖を取り出して魔法を詠唱する。
グラグラと煮詰まった魔法鍋は一瞬でその静けさを手に入れた。
ありがとうございます、と苦笑したように言ったに、言葉を投げようとした刹那、背後で言葉が飛ぶ。











「 えー…僭越ながら自他共に認めるクィディッチの名解説者、このリー・ジョーダンが解説をさせて頂きます!
 突然現れた黒髪の美少女…失礼、美女ミス は、
 現在引見根暗贔屓と名高い、魔法薬学教授に抱きとめられております!!
 しかも、一瞬の迷いも無く庇った教授のイメージが此処で一気に塗り替えられた事でしょう!
 スネイプ教授、普段の株価少し上昇気味!感謝すべきでしょう、教授!
 そして、現場をご覧の皆様は既に空いた口が塞がらない様子、解説を担当するこのわたくしも動揺を隠し切れません 」











だん、と音を立てて椅子に立ち上がったのは、マイクの変わりにコウジの木の枝を持ったリー・ジョーダン。
クィディッチの名解説者として知られている少年は、最近行われないクィディッチの試合の鬱憤からか、何を思うか否かそのまま解説を初めてしまう。
その解説振りに生徒達は拍手喝采、我輩は背中に冷たいものを感じ、は頬を紅くするも、面白そうに生徒と一緒に笑う。
その苑の反応に気を良くしたのか、ジョーダンはそのまま実況解説を有らぬ方向へと転換し行く。











「 先程も、ミス 助手とスネイプ教授は見事なチームプレーを見せてくれました。
 息も付けぬ程の早業で教授の意図さん事を理解して、ゴブレットを投げたミス の気の付きの良さ!
 そしてゴブレットを正確に受けとったスネイプ教授の微細さ!
 昨夜初めて会ったとはどうしても思えないこの二人の息の合い様、皆様はどうお考えでしょう!? 」





「 ジョーダン…貴様、いい加減に… 」











そう我輩が言葉を投げるも、既にジョーダンの耳には入っていない模様。
コウジの木をずいっと隣に立ち尽くす青年に差し出したジョーダンは、何か物を言いかけたその男が言葉を発する前に潔く戻してしまう。
更には、戻したコウジの木を再び己の眼前に持ってくるとそのまま解説とやらの続きを始める。











「 そうですよね、いやいや、初めから判っていました!わたくしを含めた皆様のお考えは唯一つ!
 元ホグワーツグリフィンドール生主席、だという美女 ミス とスネイプ教授の秘められたる関係!
 それはもしや世間一般で言われる”禁断の愛”と呼ばれるものなのでしょうか!?
 皆が口を揃えて言う『引見根暗贔屓偏屈教授』とミス との有り得ない関係は果たして存在するのか!?
 教授に聞いても答えてはくれないでしょうから此処は一つ、
 ミス 助手、皆が求める真実のお声を…!! 」





「 え…?あ…私と教授の関係…は…、…私は教授を… 」











突然振られたは思わず言葉に詰まる。
ジョーダンを初めとした全ての生徒がを見つめて息を呑む。
凛とした静かな空気だけが辺りを包み込み、心なしか、我輩までもがの言葉の続きを気になる始末。
去れど、それ以上の言葉を此処で吐かせるか、と我輩が思うのは人間ならば誰しもが思う話。











「 其処までだ、ジョーダン!
 我輩の講義を潰した挙句、講義の遅れた分の責任を取ってグリフィンドールから5点減点!
 他の者には加担したとしてこの講義のレポート提出を命じる!! 」











非難の声が上がる中、我輩は微かな柑橘系の香り残るをその胸中から解き放つと、教壇に立つ。
眉間に今にも音を立てて切れそうな血管を黙らせながらそう言い放つと、しぶしぶ皆教科書を手に席を退けた。
に手を振りながら帰る輩が大半で、もそれに一々笑顔で返す始末。
ようやく全ての生徒が出払い、次の講義を知らせる鐘が鳴ると、我輩は心の底からの溜息を吐いた。











「 ご迷惑でしたか、教授 」



「 何がかね?収拾の付かなくなった講義ならお前の所為ではない 」



「 いえ…あの…、私、魔法薬学の助手になったのは教授のお傍に… 」











その言葉に思わず苦笑が漏れる。
静まりきったその教室内で、二つの影が重なったのは言うまでも無い。
世界のほんの片隅から、の幸せを願っているだけでいいと感じた我輩の欺瞞は既に存在しては居なかった。
少しだけでは有るが…ジョーダンに感謝したことは心の内に秘めておく事は紛れも無い事実。









■ あとがき ■


30000hitリクエストドリーム、 琥珀 様へ捧げますv
リクエスト内容は…

 ・スネイプ教授で教授の一人称。
 ・教授の下に助手(ヒロイン)がやってきて、それが元卒業生で教授のお気に入りだった生徒。
 ・それで初めての授業で長年連れ添った夫婦のごとく教授と息ピッタリで仲良しで、二人の雰囲気の良さに
  思わず授業中のリー・ジョーダンが実況した上に突撃インタビューで二人の関係を聞いてしまう。
 
生まれて初めて書いたよ、リー・ジョーダン(笑)!
私の中で彼は「名解説者」というイメージが根強くて、今回はそれを目指したのですが…似ていないと言うご指摘はご勘弁(笑)
書き直し、リクのし直し等承りますので、お気に召さない場合はお申し付け下さいませ。

リーの口調、「わたくし」といってますが、一応謙譲表現だと思って頂ければ幸いです。
幾らなんでもタメ口で解説はしないでしょうから…(笑)
今回は甘々という訳でもなければほのぼのでもない…寧ろギャグに近くなってしまっているのですが、如何でしょうか(笑)
個人的に、リーの台詞はノリノリです!好きなんですよ、こう言う風なマシンガントーク!
私にもう少し表現能力があるのならば、もっと面白くマトモな事を言わせられるのでしょうが、これが限界です(笑)
ヒロインと教授、恋が実ったと思ってくださればこれ幸い。(無理だろう…)
琥珀さん、こんな夢になってしまって済みません(汗)貰って下されば幸いです。





++++ この作品は琥珀 様のみお持ち帰り可能です ++++










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