無色






目の前には、圧巻されるような素晴らしく大きな邸宅が建っていた。
遠くから見たら一つの城の様に捕らえる事も出来るそれは、所有者の偉大さと権力的なものをストレートに映し出していた。
そんな豪邸の門の目の前で、何度めかの溜息を吐いた私、 は、イギリスはホグワーツに通うグリフィンドール寮二年生の生粋のマグル。
…それが、問題だった。




「…何て、言えばいいんだろう?」




此処は、私と敵対する寮、スリザリンのドラコの家。
マグルを毛嫌いするドラコの父親、ルシウス・マルフォイ邸宅。
本来、敷地内に足を踏み入る事さえ許されないであろうことは、私にも重々判っていた。
それが、マグルであるなら尚更の事。
それでも、私はルシウスに渡さなくてはならないものがある。




…突っ返される事は目に見えているのだけれど。





勇気を振り絞って押したインターホンから聞こえてきたのは、紛れも無いルシウスその人の声。
年始で誰も居ないのか、ルシウスが「誰だ」と問う。
”グリフィンドール寮の です”
そう言うと、暫しの沈黙の後で、自然に門が開いた。
入れということなのだろう、一礼して私はおずおずと敷地中へと足を進める。




私が、ドラコの父君、ルシウス・マルフォイとはじめて逢ったのは一週間程前。
ホグワーツにドラコを迎えにきたルシウスを見た時、”なんて綺麗な人なんだろうか”と素直にそう思った。
元々、余り器用なほうではない私が、ルシウスに見とれ、前を見ていなかった刹那に、目の前にある大きな湖の中に落ちてしまった。
真冬の湖の氷は冷たく、自分ひとりの力では這い上がる事など不可能で…かといって、傍に誰かいた訳でも無い私は必死に水と闘う。
それでも、落ちて数秒後、私は大きな腕に支えられ、湖から助け出された。
それが、ドラコの父君、ルシウスだった。
冷え切った私の身体に、自分の着ていた高そうなコートを羽織らせると、魔法で私を乾かしてくれた。





「…どうして、マグルなんかを……」




ルシウスと一足遅れてやってきたドラコのその言葉に、ルシウスは一瞬眉をしかめる。
あぁ、やっぱり。
私は彼らに近づいてはいけなかったのだ。
見ることすら許されない…マグルの私には。





”早く風呂に入れ、ミス 





それだけ言うと、ルシウスは踵を返してドラコと共に去って行く。
私はルシウスの掛けてくれたコートを握り締め、頭に響くルシウスの、綺麗な響きで言ってくれた台詞だけが壊れたCDのように流れ続ける。




この日から……




決して報われる事は無い、私の恋が始まりを告げたのだった。




*     *     *






「………」




深々と降り積もる雪の中、敷地内に入り、大きな扉の前までたどり着いた私は、中々先へ進めずに居た。
勢いだけで、此処まできたと言っても過言ではない。
寧ろ、此処までこれた事自体不思議なのだ。
ドラコも言っていた…コートは返す必要などないから、捨てろ、と。
つまり、マグルの私に着せたコート等もう必要ないということ。
胸が詰まる。
好きになってはいけない人…
何度も忘れようとしたけれど、それでもやっぱり頭から離れない。
いつかの、ドラコがハーマイオニ-に対して言った時のように ”穢れた血” だとルシウスに言われたら、どうしよう。
いわれはしなくとも、思ってはいるであろう…。
純血なルシウスにしたらそれは当たり前のこと。
混血ならまだしも、生粋のマグルの私。
しかも、ハーマイオニーのように勉強が物凄く出来るわけでもなければ、ハリーのようにクィディッチで活躍してるわけでもなく、撮り得もなければ目立つよう な事もありえない。
最初から、自分とは生きている世界が違いすぎるのだ。





「……」




そんな事をぐるぐると考え、どれ位の時間が経過したかは判らない。
何時までたっても扉を押し開ける勇気の出ない私は、コートだけ玄関脇に置いて帰ろうと決めた。
酷く大きな屋根が、玄関を囲うように覆っているから、コートが濡れる事も無い。
ルシウスに突っ返される事も無いし、そのまま捨てられても私が知ることは無い。
これ以上、傷つく事はない。





そう思って、大事に抱えてきた袋に入ったコートを置こうとした瞬間に、重そうな音を立てて、扉が開かれる。
何事かと思って、顔を上げれば、ラフな格好(それでもやっぱり気品漂う服装で)で扉を引くルシウスが居た。
何も言わず冷たい瞳でただじっと見つめられて、私は泣きそうになる。





「…あ、…あの…」




何か言わなくてはいけない、でも、何をどういったらいいのか判らない。
ルシウスが、蔑むような目で自分を見ているような気がして、消え入りそうな声しか出ない。
大好きな人に罵られるくらいなら、もっと早く帰るべきだった。
コートを抱き締めた両手が震え、頭が真っ白になる。




…逃げ出したい。
嫌われている、とハッキリ自覚する前に。





「…きゃっ……」





不意に身体が軽くなる。
視界がぐらりと揺らぎ、温かいものに包まれる。
それが、自分を抱え上げたルシウスの腕の中だと知ったときは、既に家の中に入った後だった。





「… ッ!!お前なんかが、如何して此処に!!」




玄関が閉まる音がして、何事かと思ったのか、リビングらしき処からドラコが顔を出した。
その顔は遠くから見ても、明らかに ”家の中に穢れた血が!!” という憤慨表情を浮かべており、私は泣きそうになる。
もう十分、傷ついた。
だから、お願い…
これ以上、私を嫌いにならないで。





「…黙れ」




次に浴びせられる非難の言葉を聞きたくなくて、耐えられそうに無くて私はぎゅっと目を瞑り、自然に身体が震えを帯びる。
それでも、ドラコが次の言葉を発する前にルシウスがそう、ドラコを一瞥した。
意外なその言葉に、私はビックリして顔を上げると同時に、ドラコも驚いたように父であるルシウスを見る。
一方のルシウスはドラコには目もくれずに、結婚式で使われそうなくらい左右に広い階段を上がって、自室なのか、装飾品が施された廊下をつき抜けた先にある 二階の大きな扉の中へと入っていく。
その間、彼は一切喋らずに、抱えられたままの私も何も言えずに居た。
何も言っていないのに、早速彼を怒らせてしまったのだろうか?
家からマグルが出て行くのを知られたくなくて、部屋の暖炉からフルパウダーを使って帰れ、と言われるのかも知れない。
それ以外に、彼が私を家に招きいれる理由が浮かばない。






其処は酷く広い部屋で、その全てを温めるかのような大きさの暖炉と、四角く囲われた高級そうなソファー、見るからに特注サイズのベットがある。
私はソファーに下ろされると、”頭を拭く様に”とふかふかの白いタオルを渡された。
それを素直に受け取って、頭を拭いていると、あの日薫ってきたルシウスの香がして、私は懐かしさと切なさに泣きそうになる。






「…何しにきた」





予想通り、ルシウスから掛けられた言葉は酷く冷たかった。
耐え凌ぐ様に、ぎゅっとタオルを握り、私は言葉を紡いだ。





「あの…、コート……お借りしたままで……それを返しに…」




俯きながら、ようやくそう言うと、ルシウスは”馬鹿馬鹿しい”と嘲る様に笑った。
やっぱり…予想は現実になる。
このまま、私はルシウスから浴びせられる冷酷な言葉に絶えられる程の精神力など持ち合わせては居ない。
暖炉に火がくべてあっても…そのまま飛び込んでしまいたい。





「め、迷惑なのは判っていたんです。
 マグルの私に着せたコートなど、返してもらっても迷惑なだけだって。
 お返した処で、捨てられるだけだとも判っています。
 でも、それでも…」





いつの間にか、私の目からは涙が溢れていた。
切ない、辛い、心が痛い。
私が好きになったのは、決して好きになってはいけない人。
好きになっても、報われることが無い。
貴方は純血の魔法使いで、私は貴方が嫌悪するマグル。
存在を否定されたとしても、それでも私は…





ルシウス・マルフォイが好きなんです。






「それだけの為にわざわざ此処へきた、と?
 私やドラコに何を言われるか予想がついていたのに、か」





やっぱり、ドラコの父君。
マグルの私を否定する。
そんなことは最初から判っていた。
それでも、逢いたかった。
もう一度、貴方に逢いたかった。





「そう、泣くな。」




嗚咽さえこみ上げて、ひっきりなしに泣く私に溜息をつきながらルシウスは言う。
相変わらずその言葉に温かみは無い。
けれど、私の涙を拭ってくれた指先は…微かだけれど温かかった気がした。





「すみません、もう、帰ります。 誰にも見つからないように帰ります。
 もう、二度と訊ねてきたりしません…
 だから…
 だから、お願いです…」





--------- …私を嫌いにはならないで…。




もう2度と逢う事は無いのだから、嫌われたところで問題は無い。
でも、それでも…
貴方に嫌いになって欲しくなかった。
好きになって欲しいとは言わない。
だからせめて…私の存在を否定しないで下さい。





「マグルにはやはり馬鹿が多い」





降ってきた言葉に私は言葉を失う。
やっぱり、通用しなかった、この人には。
もう、もう…諦めよう。
決して交わる事の無い運命なのだから。




「…何故、君を入れたか判るか?」





「…マルフォイ家から去って行くマグルを見られたくないから…」





震える声でそう言うと、ルシウスはまた溜息をつく。
そして、そのまま、私の頭を優しく撫でてくれた。
ビックリして顔を上げると、ルシウスは困ったように小さく笑った。





「確かに私はマグルは嫌いだ」





ビクンと身体が震える。
ルシウスが発する ”マグル” という言葉はそれだけで、物凄い嫌悪感が感じられる。
その言葉を発するのさえ、嘔吐感がこみ上げてくる、とでも言うように。
そして、ハッキリと自覚させられる。
私は、彼が嫌いなマグルなんだ、と。





「知っています…」





震える声でそう言うと、その言葉の続きを言わせないかのように、私の唇を温かいものが塞いだ。
目の前に見えるのは、綺麗なさらさらの銀糸。
ゆらりと前に落ちてきて、私の前に被さる。
そして、私の唇は…
ルシウスの唇によって塞がれていた。




「ん、…んんっ…」




今まで経験した事の無い、大人のキスをされ、私は息が出来ない苦しさに暴れた。
それでも、離そうとしないルシウスは、腰をぐいっと掴んで引き寄せると、震える私の頭を優しく撫で、息が出来るように計らってくれる。
ルシウスがくれたそのキスは、想像も出来ないほど温かいもので、それだけで私は翻弄される。
歯列を割って入ってきた熱い舌が、逃げ回る私の舌を追い駆け、絡め取る。
優しく抱き寄せられ、咥内を蹂躙され、舌を甘咬みされると、私の腰はガクンと揺れる。





「ふぁっ…」




ようやく唇を離され、視界が定まってくると、恥かしさに顔が真っ赤になる。
私は、キスしてしまったんだ…
あの、ルシウス・マルフォイと。





「…招き入れた理由が判ったか?」





髪を撫で、そのまま頬のラインを滑った手は顎に到達し、上を向かせる。
其処には勝ち誇ったようなルシウスの顔。





「…いえ、あの…」


「私はマグルは嫌いだ。 …しかし、私はマグルとして君をみてはいない」





「……え?」

「…息子と同じ年のマグル出身の女を好きになってしまった、といったら…
 私を失笑するか、ミス 




…嘘、嘘、嘘。
ルシウスがマグルの私を好きになるはずが無い。
嫌悪されても可笑しくない私を、好きなってなどくれる筈が無い。




でも、それでも…私は…





「何故、君の名前を知っていたか判るか?
 何故君にコートを羽織らせたか…律儀な君ならば必ず返しに来ると思っていた。
 やはり、私は失笑されるか」




困ったように笑うルシウス。
確かに、私は名乗った覚えも無いし、ドラコが私の話をするはずが無い。
貴方は、私を見ていてくれたんですか?
マグルの私ではなくて、
としての、私を。





「…私も…私もルシウスが好きです…」




やっとの事でそういうと、ルシウスが心なしか一瞬笑ってくれたような気がした。
おいで、というように無言で手を広げたルシウス。
それでもやっぱり ”拒否されるかもしれない” という抵抗があって、素直に飛び込めずに居ると、ルシウスが「 …子供は素直な方がいい」と促す。





私はそのままルシウスの胸に飛び込んだ。
あったかくて、柔らかいルシウスの薫りが私を包んでくれる。
あの日感じたコートと同じ温もり。
一つだけ違うのは、今はルシウスが私の抱き寄せて、優しく髪を撫でてくれていると言う事。





--------- 大好きです。





素直にそう言えた私の心は、既に彼のものだった。






後書き

300HITのキリバンを踏んで下さったまつや様へ捧げますv
リクエスト内容は…

・ルシウスのことが大好きな主人公。
・最終的にはルシウスとラブラブv

…最後がどうも出来てませんね(笑
申し訳ありません(泣)気に入らなかったり、イメージと違ってたら教えて下さいませ。
書き直させて頂きます故。

初めて書いたルシウスドリームです!!
…難しいですね、この人。
でも、私は最近ルシウス殿下にも惚れている浮気魔なので、ルシウスドリームが書けて嬉しい限りです!!
どうも、ルシウス殿下じゃない気がするのですが…(苦笑
ルシウス殿下Fanの方に絞め殺されないか、まつやさんに「違う(怒)」と言われないか心配です。
殿下…個人的にドリーム書いてみようかな?なんて思う今日この頃。
かいたら絶対裏行きそうですよね(爆笑
というか、奥さんどうしたんでしょう(笑<




[ back ]