背に腹は替えられぬ






「 スネイプ教授、いらっしゃいます… 」






ノックもせずに扉越しに一声掛ける事も無く、言葉を呟くと同時にやけに重量を増して冷たく感じる地下室の扉を押し開いた。
瞬間、飛び込んで来た眼も疑う光景には暫し絶句した。
言い掛けた言葉の続きを掻き消してしまう程の威力を持った其れに無言の侭扉を閉めて何も見なかった事にしようとした矢先、其れが相手に伝わったのか、黒い 物体がゆっくりと忍び寄る様に近づいてくる。
途端に薫る甘い果実酒の匂いに、は痛くなる米神を指で押さえた。
外の寒さ等感じさえ無い程に温まった室内には紅く燃え盛る火が暖炉から伺え、ブランケットを投げ置いてあるソファーの上には開いたばかりの木箱が置いてあ る。
事の元凶はこれか、と思った瞬間に、黒い物体は後ろから羽交い絞めにする様にを手中に収めた。






「 ちょっ…スネイプ教授!! 何遣ってるんですか! 」


「 …ん?見て判らないかね、お前を抱き締めているのだよ。 」


「 そんな事は言われなくても判っています、私が言いたいのはそうじゃなくて… 」






首筋を擽るスネイプの髪に身を捩りながら、其れでも逃げ出そうともがくけれども所詮は大人と子供。
身長差が余りに有り過ぎる為に上から包み込む様に抱き締められたら、最早策は完全に絶たれる。
それどころか、極身近で感じるスネイプの吐息に混じって薫ってくる果実酒のアルコール分に、呑んでも居ないのに幼い身体は蝕まれる様な錯覚を覚えさせられ た。
どれ位の量のアルコールを飲み干したのだろうか、床に転がる無残に空になったボトルを見ては、溜息しか出ては来ない。
普段のスリザリン寮監と言う立場からは考えられもしない痴態に、酒に溺れさせる様な出来事でも有ったのだろうかと過去を振り返ったところで、に思い当 たる節は一つも無い。
それどころか、今日の魔法薬学の講義でさえ彼は普段通りに激を飛ばし減点に減点を重ねた日常茶飯事其のモノ。
付け加えるのならば、講義終了から未だ1時間程しか経過していない。
夕食も未だであろうに、夕刻から何をしているのだと怒りよりも呆れの波が怒涛の如く押し寄せた。






「 スリザリン寮監とも有ろう貴方が…こんな時間からお酒なんて…! 」


「 おや?スリザリン寮監が酒を嗜んでは為らぬと言う法律でも有ったかね? 」


「 そんなものある訳無いじゃないですか!私が言っているのはそう云う事ではなくて、 」


「 では、我輩に酒を飲むな、と?何時から君は法律を改訂出来る程の身分になったのかね? 」


「 ですから、そうではなくて… 」






何を言っても聞こうとしないスネイプには言葉を失う。
普段も口を開けばアレだけ厭味皮肉の耐えない人間が、酒を呑んだら少しはマシになるかと言えば其れは大いなる誤算。
真逆にも、普段以上に厭味皮肉が混じっているのは気の所為ばかりでも無い。
こう云う状況下に置かれた場合は瞬時に関わりを絶つのが一番だと第六感が悲鳴上げる。しかし、其れも今と為っては少しばかり遅かった。
引き攣った様な笑顔が全てを物語っていたのだろうか…抱き締められていた腕は、其の侭無理やり前を向かせる様に伸ばされてアレヨという間に向かい合う形に 移動させられて。
酒を呑んでいる筈の其の体温は普段の侭、冷たい指先が顎に掛かった刹那に上を向かされる。
モノを見透かす様な鋭利な瞳がニヤリと笑えば、其れは抗う事の出来ない最高の魔法と化す。






「 知人が出来たての果実酒を送って遣したのだよ。如何かね、お前も 」


「 …教師自ら未成年に酒を勧めるなんて聞いたこと有りません。 」


「 ほぉ…我輩とお前は唯の教師と生徒であったかね? 」


「 違いますっ…!もう、いい加減にして下さい、私寮に帰ります! 」






掛けられた指先を振り解く様に手で払い除けようとすれば、其れは意図も簡単にスネイプの手によって捕獲され。
払い除けようとした事を憤慨されるなら未だしも、そんな事は気にしないとばかりにスネイプは細い腰に腕を回して手繰り寄せる。
先程よりも大分距離の縮まった二人の空間は、傍から見れば抱き締めあっているとしか言えないそんな状況。
視線を克ち合わせても薫ってくる酒の分量を髣髴とさせる”座った瞳”は見つけられる事無く、酒香さえ無ければ誰もスネイプが酒を呑んでいた事等判らない。
絡まれる事に対して抵抗は無いものの、相手はあのセブルス・スネイプ。仮にも恋人という立場にいるにとって、其れは紛れ無く切ない未来を予想させるも のにしか為らない。






「 …誰が帰って良い、と言ったかね? 」


「 何言ってるんですか、私が何時帰ろうと教授には関係な… 」


「 教授、教授、教授と莫迦の一つ覚えのようだな、
 其れほどまでに【教授】が好きならば、希望に添えようではないか。 」


「 いえ、ですからそう云う意味ではなく…! 」






聞き分けの無い子供の方が未だマシ、普段の魔法薬学の授業でのスネイプのほうが何倍も助かるとは落しそうになる肩を必死で上げる。
冷酷な程に穏かな表情を湛えた眼元は見ている者を凍らせる程の威力を持ち、薄い笑みを浮かべた其の端正な顔は奇妙な荘厳さを持って焼き付けられた。
即座に吐かれるであろう言葉は、厭な予感を想像させて為らない。
引き攣った様な微笑も、既に怒り憤慨を表情に表すことも出来ない侭に蛇に睨まれた蛙の様に唯其処に立ち尽くすしか出来ない。
だから突然髪を撫ぜられた瞬間も、身震いしてしまうのは否めない。






「 此処に居給え、グリフィンドール寮3年、。 
 言いつけが守れぬのならば、特別に羊皮紙10巻のレポート提出を命じる。 」


「 そっ…そう云うのを職権濫用って言うんですよ!! 」


「 …では、グリフィンドールから減点してくれようか?
 今日も10点の減点を喰らったと言うに…如何挽回するかね? 」






ニヤリと口角を歪めて言葉を吐き棄てるも、此れは問い掛けではなく明らかな命令だった。其れも、拒否権の無い。
ギリギリと苦虫を噛み砕くにも、恐ろしいまでに【教授】の顔をしたこの男を負かす事等出来は不可能だった。
普段でさえも勝てた試しの無い勝負とも呼べない小さな戯言遊戯、初めから軍牌は…スネイプの手中にある。
此処まで来れば後は投げ出すだけだと傾きかけた心に追い討ちを掛ける言葉が耳元で囁かれた。
卑怯卑劣と罵声を浴びせたくなる程に酷く甘美な其の声は、愛しい者にだけ唯一聞かせる最上級の旋律。







「 大人しく此処に残るなら…そうだな、グリフィンドールに15点加算してやろう。
 如何かね?悪い話ではあるまい。 」






拒否権は問答無用で無い。羊皮紙10巻のレポートとグリフィンドールへの15点加算。天秤に掛けたら見るまでも無く後者に傾く。
脳内麻薬の様に浸透するのはスネイプの吐息に混じったアルコールが主ではないかと錯覚させられる程、力も抗う気力も失せていた。
どうせ何を言っても逃れられぬのならば加点して貰った方が良い…寧ろあのセブルス・スネイプから15点も奪う事が出来るのだ。
こんなに美味しい話は他に無い。自然に頷いてしまうのは負けたからではない、寮の為。






「 では先ず…愉しい夕食と行こうか。 」






既に開けられたソファーの木箱から古めかしい羊皮紙のラベルが張り付けられたボトルが一本スネイプの手中に収まる。
夕食を告げる鐘の音が鳴り響く大広間、其処にスリザリン寮監とグリフィンドール主席の少女の姿を確認したものは誰一人として居なかった。
翌日、減点を喰らったグリフィンドール寮に
何故加点されたのかは、誰が知 る由でも無い。









後書き

290000hitリクエストドリーム、優梨 様へ捧げますv
リクエスト内容は…
 ・ お酒がまわったスネイプ先生にヒロインたじたじ・・・

ヒロインタジタジ…で、思いついたのがこれしかありませんでした(汗)
スネイプ教授…酔っても絶対に世間一般のオヤジ酔っ払いに絶対したくなかったのでこの様な結果に…(笑)
お酒は呑んでも呑まれるな…正に其れですよね。勿論この後ヒロインは其れは其れは酔った教授を堪能する事に為るのです(笑)


受け取って頂けるのでしたらお持ち帰り下さいませ。
勿論、書き直し等24時間承りますのでお気軽にどうぞv


++++ この作品は 優梨 様のみお持ち帰り可能です ++++


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