A certain day of summer
「 …先生、来ちゃいました! 」
漆黒に無数の星が輝く空の下、透る様な声が草原を縫って聞こえた。
けたたましく鳴るベルの音に少々苛立ちながらも、素直に扉を開いた先には少女。
その場所に居ることは確実に無いであろうその少女の顔を一目見た瞬間に、これは夢だと頭を抱える。
実際問題、昨夜(正しくは先刻まで)遅くまで文献を読み耽っていた為に、夜とは言え、今日ばかりは早めに就寝しようと、彼は9時過ぎにはベットに入っていた。
ベットに入って一時間足らず、ようやく夢の世界に身を置いた頃合に、叩き起こされるに近い現象が起きれば夢現と勘違いしてもなんら不思議は無い。
寧ろ、素直に夢だと思う己自身が、自然に開いた扉をそっと閉めた。
バタン、と扉が閉まり灯かりを消してもう一度寝室に向かおうとしたら、また扉を叩く音がする。
「 スネイプ先生〜!!
私のことをもう捨てちゃうんですかー!? 」
その独特の台詞に、透る声。
耳に届く声の大きさからしても、二度同じことが起きるということでも、夢ではないと客観的に脳が悟る。
…と言うことは、だ。
居るはずの無い少女が此処に居い、己が居るべき自分の居る家に居ると言うことは。
…と言うことは、結果論は一つしかない。
夏休みと言う期間を利用してようやく帰省することが出来たスネイプの元に、訪ねて来たのだ。
…愛しい恋人が。
抱えたくなる重い頭を必死に堪えつつ、スネイプは閉じた扉をもう一度開いた。
其処には暗がりでも良く判るほどに嬉々とした表情を浮かべた少女が、スネイプの行動に嬉しそうに笑って言った。
「 あ、開けてくれたv
やっぱり先生優しいんですね! 」
「 ……此処で一体何をしている? 」
「 何、って見て判りませんか?
お泊り込みで遊びに来たんです 」
にっこりと笑ったは、もう一度扉を閉めようとした我輩の掌の上に手を乗せると、扉と玄関の間に脚を挟みこむ。
それはまるで、振られた男がしつこく女の部屋に押し入ろうとしている様そのもので。
そういった行動に出れば我輩がすぐ様ノブから手を離すことなど判りきっているとばかりに。
まぁ、実際問題、可愛らしいの脚に傷など付こう物なら”責任とって結婚してね!”といわれるのが関の山。
寧ろ、我輩自身でさえ可愛らしく美しいの足に傷など付けられる訳が無い。
意外なほどにあっさりとノブから手を離した我輩ではあるけれど、此処で諦めるわけには行かない。
「 、帰りたまえ。
此処にお前を招待する謂れは無い 」
「 あら、先生。もしかして、恋人の私にはどうしても隠さないといけないものでもあるんですか?
それとも、もう既に女を寵っているとか!? 」
「 そんな馬鹿げた事がある訳がなかろうが 」
「 だったら、泊めて下さい!
それとも、か弱く愛しの恋人を夜の闇に放るおつもりですか!? 」
「 我輩は文献翻訳に忙しい。 故、お前に構っている暇など無い。
ホグワーツから何のために家に帰ってきたと思っているのかね?
判ったらフルーパウダーでさっさと帰り給え
其れとも特別サービスでホグワーツに送り返してやろうか 」
「 …いいです、もう判りました。
そんなに私に逢いたくなかたのならもう二度と来ませんし、逢ったりもしませんからご心配無く。
さよなら、スネイプ先生 」
呆気に取られる我輩を他所に、はその可愛らしい口からそう吐き捨てるように言うと、勢い良く扉を閉めた。
最後にキッと此方をみたの大きな瞳には小さな雫が乗って。
に逢いたくなかったのか、
が訪ねて来て嬉しくなかったのか、
と問われれば、確実に”いや、そんな事は無い”という言葉が浮かぶ。
けれども、一介の教師という立場上、一度否定したものを肯定しなおすというのは中々難しいことで。
それどころか、壊れたラジオの様に、堰を切って次ぎ次に口から出る言葉はを傷つけるだけの物でしかなく。
夏休みにホグワーツ以外でに逢える等とは想像もしていなかった我輩にとって、突然紫苑が訪ねて来たのは嬉しい事。
所詮…
を恋人にしているという時点で、既に教師という物を名乗る資格なぞ無いのやも知れぬ。
そう思ったら後は酷く気持ちが楽になり、握り締めていたノブをもう一度外側に向かって押し引いていた。
「 やっぱりスネイプ先生優しいんですね。
という訳で、早速お邪魔しま〜す!
あ、意外と綺麗なんですね、お部屋… 」
「 ………… 」
首から落ちそうな程に酷く重い頭を抱え、のかなり大きな独り言を聞き流しながら、我輩は静かに扉を閉めて灯かりを落とした。
流石はスリザリンの鬼才。
我が寮ながら、人を見る目があるというか、人の心理を読む才能があるというか…
とにかく、我輩の一瞬の隙を綺麗に付いたは笑顔を浮かべたまま重そうな荷物を抱えて家に上がり込む。
あの荷物分なら余裕で一週間は滞在するだろうな、と頭を悩ませながら、我輩は嬉々とした瞳で辺りを見回すをソファーに座らせる。
「 、我輩の家等誰に聞いた? 」
「 ダンブルドア校長先生ですよ!あ、スネイプ先生、手紙預かってきました 」
「 (…アルバス…怒) 」
受け取った手紙には、孤児であるに帰る場所が無いために夏休みの間預かるように、との旨が書かれていた。
ぐしゃり、と握り潰したくなるその手紙を机の上に投げ置くと、ちらりと掛け時計に目を落とす。
それは既に11時を回っており、我輩の眠気にも限界の様なものが近づいて着ている。
未だ珍しそうに辺りを眺めるに苦笑しつつ、我輩はの傍まで寄るとそのまま一気に抱き上げる。
驚いた様に声を上げるを無視して、そのまま階段を登ると寝室に真っ直ぐに向かった。
辿り着く先は、未だ温もり消えぬベットへと。
先程までの元気良すぎると打って変わって、大人びた表情で此方を見据える。
甘えたような甘い琥珀色の瞳で見詰められ、流石の我輩も理性が揺らぐ。
腕に縋る様に抱きついたまま離れようとしないに、離す気の無い我輩。
「 さて、
我輩の家に泊まりに来たということは、どう言う意味を成すか理解しての事だろうな? 」
「 スネイプ先生。
何時もの様に素敵に教授してくださいますのでしょう? 」
「 聞かずとも判る事であろう? 」
クスクスと含み笑いを零すの紅い唇をそっと塞ぐ。
静かに首に回された腕が、我輩をベットへと引き込んだ。
柔らかい髪を緩やかに撫で、真っ白い項にもう一度口付けを落とす。
長い夜は、こうして更けて行った。
久しぶりに夢も見ぬほどに寝入った我輩が目を覚ましたのは、既に日も高くなった頃合。
カーテンの隙間から差し込む陽の光が酷く柔らかで、思わず瞳を和らげてしまう。
ふと横を見れば、普段は小生意気でスリザリンらしい狡猾さに満ちた小悪魔が、我輩の腕の中でスヤスヤと眠る。
あどけなく幼いその表情は、ホグワーツに通う少女の本当の素顔やも知れぬ。
沈鬱していた頃に出逢った一人の少女。
その少女が今、己を支えてくれているのだと、認めずには居られない瞬間。
「 …お前に出逢えた事を感謝する日が来ようとはな… 」
柔らかく表情を緩めたスネイプが、の額に軽い口付けを落とした。
うーん…と軽い寝言を呟いたは、そのままスネイプの胸に顔を埋める。
苦笑しながらもそれを拒まないスネイプは、もう一度の寝顔を見ると、眼を閉じた。
次に目覚めるのは、とスネイプが同時に目を覚ました時。
■ あとがき ■
210000hitリクエストドリーム、 なっくるず 様へ捧げますv
リクエスト内容は…
・教授×生徒
・付き合い始めて最初の夏休みに、ヒロインが教授の家に 押しかけてくる。
はじめは怒り&困惑モードの教授、でもヒロインの頑張りもあって、だんだん打ち解ける
→翌朝の二人の様子
ヒロイン、性格むっちゃくちゃになってますが…(汗)
教授を困らせるヒロイン=ああいうヒロイン、というのが稀城の中で定義付けられてしまいまして(汗)
書き直し、リクのし直し等承りますので、お気に召さない場合はお申し付け下さいませ。
スネイプの家に押しかけるヒロイン…色んな意味で最強ですよね(笑)
何だかんだでヒロインを家に上げた挙句に、最後までやっちゃう(笑)教授も教授なんですが(爆)
なっくるずさんご氏名の「翌朝の二人」なんですが…すみません、これがメインの筈がたった数行に…(汗)
朝もはよからヒロインと教授の言い争いもどうだろう?という事で、こうなってしまいました(笑)
こんな作品になってしまいましたが、貰って頂けたら幸いです。
++++ この作品はなっくるず 様のみお持ち帰り可能です ++++
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