天体観測






--------- 先生、大好きです。





一枚のセピア色にくすみ掛けた写真を見ながら私は懐かしい情景に捕われていた。
其処に写るのは、スリザリンの制服に身を包んで、微笑んでいる私と、相変わらず黒ずくめでむすっとした表情を崩さずニコリとも微笑まないセブルス・スネイ プ先生。
腕を組んでいるわけでもなければ、寄り添っているわけでもない二人は、何かの記念写真というよりは、”ムリヤリとった写真”という印象を主観的にも捕らえ ることができる。





「…先生、元気でやってるかな?」





写真の中の彼に向かって微笑み、思わずそう漏らしてしまった。





私は、
元、ホグワーツ・スリザリンに在籍していたマグル出身の生粋の日本人。
現在、懐かしき母校ホグワーツに向かう特急列車に揺られている真っ最中。
…思い出深きホグワーツへ…
現在進行形で向っている。





背中で1つで緩く結わえた髪が風に吹かれて落ちてくる。
三年前より、幾らか伸びた私の髪。
先生が最初で最後、勉強以外で、誉めてくれたもの。
あれから、結構気を使って手入れしてたりする私は、未だ先生を忘れては居ないのだろうか。





大好きだった…魔法薬学教師、セブルス・スネイプ教授のことを。





「好きです」





嫌われる事と、拒絶される事が恐ろしくて、最後の最後まで素直になれなかった私。
スリザリン寮督生でもなんでもなかった私が、スネイプ先生の自室で紅茶を御馳走になったり、休日他愛ない話をしたり、時には、買い物にも付き合ってもらっ たことすら合った。
それでも、それらはみんな私から言い出したことであって、先生は仕方なく私に付き合ってくれていただけなのかも知れない。
成績が決してよかったとは言えず、下から数えたほうが早いような位置に居た私の補習の面倒をみてくれたり、質問に行けば嫌な顔一つせずに丁寧に説明してく れた先生。
普段は氷点下の氷のように冷たい先生の優しさに触れられた僅かな瞬間、
私は先生の虜になっていた。





『それじゃあ、元気でな』





私が最後に聞いた先生の言葉。
わざわざ見送りに来てくれた先生の顔を見たら、何も言えなくなってしまって…
ホグワーツから卒業する最後の日に、先生に告白しようと決めていた私の決意はものの見事に打ち砕かれてしまった。
不意に見せた、先生の表情が忘れられなくて。
ほっと安心したような、疫病神が去った時の安堵感のようなそんな表情。
そんなものを見せられて…私が先生に告白できるはずが無い。





三年経った今でさえ・・・昨日の事のように思い出せるなんて・・・やっぱり私は先生を忘れていないんだろう。





「…、………ス、………ミス・





何処か遠くでスネイプ先生の声を聞いた気がした。
夢か幻かそれとも幻聴か・・・聞きなれたスネイプ先生の声が耳元で聞こえてくる。





あぁ、確か・・・





魔法薬学の授業中はいつも退屈で隙を見ては居眠りをしていた気がする。
その度先生は、溜め息を吐きながら私の肩を揺り動かして起してくれた。
声は冷たくても、
態度は鬼のように容赦なくても、
口調は冷徹そのものだけれど、
私は知っている。
先生の手から伝わる温度はあったかいことを。





それが楽しみで、忘れられなくて・・・、
わざと居眠りをした事もあったっけ。





もう一度、貴方に会いたくて・・・

この仕事に就いたと言ったら、貴方は私を失笑しますか?スネイプ先生。





「ミス  !!!!
起きたまえ、もうホグワーツだぞ!!」





耳元で聞きなれた怒鳴り声が木霊する。
はっと私が重い瞼を開くと、
其処には、相変わらず眉間に皺を寄せ、より一層鋭くなった瞳のスネイプ先生が怒りマークをいっぱい頭につけて私の目の前に立っていた。




「せ、せんせ…?お、お久しぶり・・・で・・・」

「久しぶりだな、ミス 
君は社会人になっても居眠りをすることが趣味なのかね。
列車が目的地について早10分以上経つというのに、この我輩を待たせた挙句、目を覚ますどころかあまつさえ寝言など・・・
もう一度、倫理を学ぶかね?」





寝ぼけてる頭脳にスネイプ先生の厭味たっぷりの小言はキツイ。
先ず、頭脳がしっかり起きてはいないから、スネイプ先生の低くて聞き取りにくい声はハッキリとは聞こえない。
しかし、これだけは判る・・・





相変わらず、イイ声してますね、先生。





「すみません、ちょっと疲れていたもので・・・」





重い頭を抱えながら、それでも、一応寝過ごしたことと何故か迎えに来てくれたスネイプ先生を10分以上も待たせてしまった事を詫びた。
すると、私の席の上のラックから荷物を下ろしていた手が止まり、声が降って来る。
厭味な言葉とともに。





「ほぉ・・・。
三年も経てばまともな敬語を使えるようになったではないか。
君の三年間も無駄では無かった訳だ。」

「………(怒)。
厭味な態度もそのままですね、スネイプ先生」





荷物をとり、さっさと私の前を歩く先生に逸れない様に私は思わずローブを引っ張る。
それでも、歩みを止めることなく先生は荷物を持ったまま軽々歩いていく。





まるで、私など見えていないかのように。





「君は小さな子供かね、ミス 
そんなところを引っ張るな、生地が伸びる」

「…見た感じ、絶対伸びそうに無いですが?」

「では、いい改めよう。
生地が伸びる恐れがあるから引っ張るな」

「……逸れたら、探しにきてくれますか?先生…」





本当、小さな子供のようだと自分でも自覚した。
掴んでいたローブを離せ、
そう言われただけなのに、捨てられた子犬のような寂しい感情が沸き起こる。





「……そのまま持っていろ。逸れたら適わんからな」





小さく呟いた先生。
少しだけ遅くなった歩調。
申し訳無さそうな言葉を含んだ語尾。





逸れたら…迎えに来てくれるんですか…?





「それにしても、君がマグル学の新任教師とはな…校長も医者に見てもらったほうがいいらしい」

「それってどういう意味ですか〜?!!」

「生徒になめられない様にすることだな。
まぁ・・・
列車で居眠りして乗り過ごしかける等・・・生徒の見本にすらならん。」

「べ、別に好きで居眠りしたわけでも乗り過ごしかけた訳でもないですよ!!」

「・・・口答えだけは相変わらずだな、ミス 。マグル学の先生の苦労が目に見えるようだよ。
 マグル学教師はとんだ火種を貰ったようだ」





「…私だって本当はマグル学じゃなくて・・・・」





魔法薬学助手をやりたかったんです。

先生と同じ場所に立ちたかったんです。

先生と同じ立場に立ちたかったんです。





そしたら、
私を好きになってくれたかもしれないでしょう?





「随分…伸びたな」





歩きながら、でも視線は合わせることなく突然会話が始まった。
以前の感情が湧きあがっている所為か、上手く会話を振れない私はただ俯いて歩くばかりで。
それを不思議に思ったからか、先生が投げかけてくれた言葉。
それだけでも、私には凄く嬉しい事だった。





「伸ばしたんですよ、これ。先生が唯一誉めてくれた、認めてくれた”私”なんですから」





自然と思っていた事を口にして、言い終ったと同時にハッと気付いた。
私は、何を口走っているのだろう。
これじゃあまるで、先生の為に伸ばしたみたいじゃない。
まぁ、間違ってはいないけれど、こんな処で、それを否定されたらホグワーツでは生きていけない。


先生から拒絶されたら・・・生きていけない。





「あ、あの・・・」





なんて言えばいいのだろう。
否定しようにも言葉が見つからない。
ただ、黙って、俯くことしか出来ない情け無い私。





やっぱり・・・こなきゃ良かった、ホグワーツなんて。

戻って来るべきじゃなかった。





私は今でも、



これからもずっとスネイプ先生を好きで居続けるだろうから。





「ミス  ・・・
何故我輩が君を迎えに来たか判るかね?」





ガラガラとスーツケースが道を歩いている音しか聞こえてこなかった雑踏の中に、不意にスネイプ先生の声が入る。
それは諦めのような、溜め息のような、そんな情緒を含んでいて。
私はまた泣き出しそうになる。





「…頼まれたんですか、校長先生に」

「…いや、我輩が校長に頼んだ」

「・・・はい?」





思わぬ台詞が聴こえて思わず間の抜けた声を出してしまった。
頼んだ、って…あのセブルス・スネイプが?





「君と二人で話す機会はこれ位しかないかな。
 我輩はあの日、君に話すべき話があったのに、話せずに見送ってしまった」





相変わらず口調は冷たくて。
周りは夕闇に包まれ始めていて。
不安を抱えた私の心臓はもう破裂寸前で。





壊されるならばいっそ、自分で壊した方が楽。





「…私が嫌いですか、スネイプ先生」





小さく呟いたつもりだった。
それでも先生はかすかな私の声を聞き取ったみたいで、歩みを止めた。
そして、ゆっくりと私のほうに向き直る。
それはスローモーションのように私の目に映って、
それが余計に切なくて、
先生の顔すら見れなくて、俯いたままの私。





すると、不意に身体を温かいものが包んだ。





「…スネイプ…せんせ…?」





先生のローブにすっぱりと納まるように抱きしめられた私。
一瞬何が起きたのか判らなくて。
ただただ、うろたえるばかりで。





「嫌いではない。寧ろ・・・あの日、我輩は君にこう、言おうと思っていた。」





--------- ずっと、好きだった。





耳元で聴こえた声は確かに先生のモノで。
抱きしめられた時の温もりは確かにあの時と同じで。
ふわりと薫る香はスネイプ先生特有のもので。





夢じゃないと、思わずにはいられない私。



両思いだったって、信じてもいいですか?





「だって・・・だって、先生あの時・・・辛そうな顔してた・・・私が居なくなってほっとしてた!!」

「確かに、辛かった。
 だがそれは、君が卒業してしまったからだ、ミス 
 もう…台風のような毎日がやってこないかと思ったら…何も言えなくなってしまった」

「…だれが台風ですか」

「結構な誉め言葉だと思うがね。
 台風のように突然やってきては周りを破壊する癖に、大地に恩恵の雨を降らせる。
 生憎…恩恵の雨ではなく我輩に元気をくれたのは君だったがね。」



そういうと更に強く抱きしめられた。
腕の中に抱かれながら、
「先生、好きです」
というと、
先生は耳元で”これからも我輩に元気を分けてくれないか?”と問う。





それに大きく頷いたら、額に軽くキスをされた。
少し冷たかったけど、心は一瞬であったかくなった。





「それにしても、君のような成績のものがよくホグワーツの教師になどなれたものだ。」

「実力ですよ、実力。卒業してから開花したんです、私。」

「…日本じゃあ春には頭に花が咲いた輩が増えるそうだな…」

「失礼ですよ!!私は日本に帰ってないんですから、私はそんなんじゃありません!」





力いっぱい否定したら、スネイプ先生は口元を少し上げてニヤリと笑った。





「…ミス  は…年中頭に花を咲かせているからな」

「どーゆーいみですか、それ!!!!」

「その言葉の通りだが?」

「…私が頭に花咲かせてるなら、
 スネイプ先生は頭ん中に字ばっかりのつまらない古びた本ばっかり入ってるんですよーだ!!」





あっかんべーと子供みたいにおどけた私を呆れた目で先生が見つめる。





「…早く行かないと日が暮れる…」





付き合ってられない、というように先生は歩き出す。
それでも、私がローブを掴んでいた右手は今は別な場所にある。
私の右手はスネイプ先生の左手と重なって、今度は二人並んで一緒に歩き出す。
歩くたびに長く伸びる陰も、二つ仲良く寄り添っていた。





その後、
スネイプ先生が私を”ミス  ”と呼ぶ日も、
私がスネイプ先生を”セブルス”と呼ぶ日も、
そう遠くは無い未来。





そして私は、マグル学教師から魔法薬学助手へと転職した。
でも、それはまた別なお話…。









後書き

2000HITのリク権を貰って下さったさくら様へ捧げますv
リクエスト内容は…

・素直になれず先生に告白できないまま卒業した主人公。
・しかし、仕事の都合でホグワーツに戻ってきて、先生と再会。
・今度は告白出来て二人はラブラブv


…最後がどうも出来てませんね(笑
申し訳ありません(泣)気に入らなかったり、イメージと違ってたら教えて下さいませ。
書き直させて頂きます故。

題名を見て判りますかね?実は、稀城が大好きな曲で 「恋じゃなくなる日」/B'z ですv
曲のイメージとはかけ離れていますが・・・リクエストを頂いた時に頭の中に流れたので引用させて頂きましたv




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