「 蜃気楼 」
昔から、自分の足で歩くことが余り得意なほうではない。
この広大なホグワーツの敷地内を、自分の足で歩くなど…馬鹿馬鹿しい。
大体、何故にこの私が息子を探さなくてはならんのか。
用事があるからとはいえ…昨夜梟を飛ばしたのだ。
息子のほうから迎えに来るのが常であろうに。
そう考えたら、自分のほうが偉いはずの存在に、疑問が生じる。
親を待たせる子供なぞ…!
時間がたてばたつほどに、それこそ秒単位で眉間に怒りマークが浮かび上がる。
一触即発状態とは、まさにこのこと。
とはいえ、私とて、探さなかった訳でもない。
大体からして、広すぎるのだ、ホグワーツは。
こんなことならば、誰か使いのものに頼めば良かった…等と思うのは後の祭りで。
此処まで一人で来たのだから、仕方ない。
しかし、どうにも面倒だ。
「あやつは何処にいるのだ…」
口から付いて出た言葉は、息子、ドラコに対するもので。
歩けど歩けど、すれ違うものは皆、レイブンクロー寮の生徒ばかりで、スリザリン生とすれ違うことは無い。
クィディッチでもやっているのかと、其方の方を見ても静まり返ったまま。
世話しなく移動する生徒の姿も見受けられず、時間帯的にも、授業終了後。
それだというのに、ドラコどころか、教師にすら会わない始末。
時間の無駄だ。
私には、この後重役会議が待っている。
こんなところでだらだらと油を売っている暇など無い。
それこそ、今すぐこの場で誰かに託でも頼んで仕事に戻りたいくらいに忙しいのだ。
仕方ない。
こうなったら、誰かに息子を此処まで連れてきてもらったほうが効率がいい。
自分がだらだら歩き回っていては、二度手間になるかもしれない。
此処は丁度、大広間へ続く渡り廊下になっている。
四方から見渡せるこの場所で待っていれば、誰かに探させても、その前にやって来ることだって考えられる。
まさに好都合だった。
そう考えたら、まず誰かを呼び止めなければならない。
生憎、すれ違う生徒は、気に入らないことにグリフィンドール生。
見たくも無い色の制服に身を包んだ者にわざわざ声を掛ける必要も無い。
それならば、前を歩いている生徒にしようと、眼下を見下ろす。
目の前を歩いている生徒は一人しかおらず、それもまた、目を瞠る様な漆黒の髪。
東洋の魔女、そう呼ばれる異国の髪の少女が、数冊の教科書を抱えて歩いている。
”どうせ、使いを頼むだけなのだから…”と初めは酷く軽い気持ちで声を掛けるルシウス。
しかし、それが…
こんな現実になろうとは。
「すまない、そこの黒髪の少女、少し頼みたいことが…」
声を発した瞬間に、柔らかそうな漆黒の髪がふわりと揺れた。
ちらりと見えたネクタイの色は、禍々しいことに先ほどの生徒と同じ色。
これまででも幾分か募っていた苛立ちが、加算された気がしてならない。
早く用件を告げて、自分の眼下から消え去ってもらおうと、振り返った少女を直視する。
それが…全ての始まりだった。
「なんでしょうか?」
ふわりと微笑んだ少女と目が合う。
漆黒の髪に良く映える、藤色の瞳。
雪のように真っ白な肌に、淡い桃色の唇。
すらりとした体型に良く似合う、小さな顔。
東洋の血が流れているとはいえ…その容姿は酷く端麗で、整っていた。
可愛い、という代名詞よりも、『美少女』という言葉が似合っている程の美しさ。
異国の言葉かと思った少女の言葉は、私が使うイギリス英語よりも遥かに綺麗な発音で。
紡がれる旋律は、小さな音楽を奏でるように頭脳に直接響く。
異国の少女ながら…気品漂うその少女を一目見て…
事もあろうに、この私が一瞬で心を持ち去られた気がした。
「…あの…?」
余りの少女の美しさに、時間が停止したかのような錯覚に囚われていた私は、自分が少女に話掛けたことを忘れていた。
瞳に疑問を浮かべた少女が、”大丈夫ですか?”そう言う様に、一歩此方へ近寄る。
端正な顔が、一歩近づいてくる。
初めから、大して距離があったわけでも無い故、一歩近づかれただけでも、私と少女の間は縮まり。
近づけば近づくほど、少女の美しさが頭から離れない。
「 あぁ、すまない。
実は、息子を探していてね…」
そう言葉を告げるけれど、もう既に、息子を捜していたこと等、少女を見た瞬間に消え去っていた。
それよりも、この少女の名前が聞きたい、と心が訴えかける。
けれど、どこぞの変質者じゃあるまいし、そう易々と名を聞けるものでもない。
「 私でよろしければ、お捜し致します。
失礼ですが、お名前は…?」
律儀にも、少女はそうルシウスに告げた。
きっと、この少女は、息子の名前を聞いたのだろう。
頭の中ではそう理解していた。
しかし、口から付いて出たのは…
「私はルシウス・マルフォイという…」
「 あ…ドラコのお父様ですね。
でしたら、直ぐに見つかると思います」
再びふわりと微笑む少女に、ルシウスは言葉を失う。
今までこんなに美麗な少女に出会ったことがあっただろうか。
記憶を探り起こしても、そんな結果など返っては来ない。
「息子を知っているのか?」
「え、勿論。
スリザリンの名シーカーさんで、有名ですもの」
「そうか…」
事もあろうに、息子の存在が疎ましく感じられた。
この少女に名を覚えてもらっている息子。
もしかしたら、友人なのかもしれない。
そんな存在が…酷く疎ましい。
少女が息子を探しに行く前に、名を聞かなければ。
きっとこのことを後悔する、そう心が告げた。
たかが、名を聞くぐらい、何だというのだ。
変に思われたら、”礼がしたい”そう言えば良いだけのこと。
「…そうだ、君の…」
「父上!!此方にいらっしゃったんですか」
名を聞こうと言葉を紡いだとき、真後ろから、聴きたくも無い声が聞こえた。
それは紛れも無く息子の声で。
瞬間…
世界が凍りついたような気さえ起きる。
ぱたぱたと迫り来る足音が、脳裏に響く。
『来るな』
そう叫びたかったのは本心で。
言おうにも、音として発せられることは無い。
「では、私はこれで失礼します」
小さくお辞儀をして、少女は立ち去ろうとする。
当たり前といえば、当たり前。
息子を探すよう頼んだのだから、その息子が現れた今、少女の果たす役割は何一つ無い。
ふわっ…と舞う黒髪を見ることはこれで最後なのだろうか。
もう二度と、この少女と会うことは無いのだろうか。
巡り会う事も、再び出会うことも、無いのだろうか。
一夜に見た蜃気楼の如き、消え去ってしまうというのだろうか。
「…え?」
気づいたら、振り返って歩き出そうとするそのか細い腕を掴んでいた。
何事かと困惑の表情を浮かべる少女。
それもその筈で。
けれど、掴んでしまったものは、仕方ない。
「済まない…迷惑でなければ、君の名前を…」
言ってて、自分で馬鹿馬鹿しいと嘲る。
ほんの数分話しただけの男に、名前など。
言って何になる?
聞いて何になる?
現実は何一つ変わりはしない。
「 です。
グリフィンドール2年生、・といいます。」
そう言った少女は、もう一度深く礼をして、歩き出した。
”何かありましたら、またどうぞ”
そう微笑んで。
奇跡とは、この事を言うのだろうか。
2年といえば、息子と同い年。
少なくとも、後5年はある…
そんな考えが頭から離れない。
少女に触れた手が、酷く暖かくて。
少女が微笑んだ顔が、蜃気楼のように頭に焼きついて離れない。
「 か…
良い名だ…」
そうルシウスが呟いたのは、の後姿が大広間に消えていくのを見送ってからだった。
それと同時に、ドラコがルシウスの隣に駆け寄ってくる。
「父上、何か用事でも…?」
「もうよい…後で使いをやる」
「 は?
ちょっ…父上!!」
訳が判らない、という困惑の表情を浮かべるドラコを他所に、ルシウスは来た道を引き返す。
ばさり、とマントが翻り、かつかつと、石畳に足音だけが響き渡る。
ドラコはそのとき…、自分の父親が、微かに微笑したような表情を浮かべたのを見逃してはいなかった。
「面白いことになりそうだ…」
ホグワーツを出る際、一度だけ振り返り、そう呟いた声は…
果たしての耳に届いたのだろうか。
■ あとがき ■
19000HITのリク権を貰って下さった綾瀬 まりあ様へ捧げますv
リクエスト内容は…
・ルシウス殿下がホグワーツに来てドラコを探している時に前を歩いていたヒロインにドラコがいる所まで案内させようと声をかけたところ、振り向いたヒロインに一目惚れ!
・しかしヒロインはグリフィンドール生。
…えぇっと…こんな中途半端で終らせてしまったのですが…良かったのでしょうか(汗
リクに忠実に書いたつもりだったんですが…つもりだけになってしまって申し訳有りませんです!!
ヒロイン数回しか名前出てきてませんし、ドラコはかわいそうな役柄…(苦笑
でも、書きたかった、『ルシウスがヒロインの腕を掴む』シーンが掛けて良かったです。
そして、名前変換が楽だったのは此処だけの話…(おい
↑稀城はいつも手作業…(笑
こんな内容ですが…貰って頂けますでしょうか??
返品変更、随時受け付けてます!!
リクエスト、有難う御座いましたvv
++++ このドリームは綾瀬まりあ様のみお持ち帰り可能です ++++
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