「 Grow up 」
薄暗い地下室は、想像通りの特徴のある湿度と冷え切った空気に包まれていた。
周りの冷たい石畳のような煉瓦岩から伝わる、背筋の芯まで凍りつきそうな表土感は独特と言える。
静まり返ったその空間からは、誰かの声どころか、物音一つ聞こえることはない。
ただただ、かちゃり…と小さく静かに扉を開く音だけが木霊する。
「……確かこの辺に……」
有った筈、という小さな少女の声が聞こえてきた。
その声と共に、かちゃかちゃという硝子同士の触れ合う音。
灯りさえ点いていない静まり返った地下室で、少女は何かを探している様だった。
様々に並べられたゴブレットの中から、少女は小さな瓶を持ち上げる。
「…確か、淡い桃色だったような……」
手にした淡い孔雀緑の液体の入った瓶を斜めに見つめながら、僅かな知識を手繰り寄せるように呟く少女。
そして、そのまま元有った戸棚に戻すと、再び何かを探し始める。
濃い色の液体の詰まったゴブレットには一切目もくれずに、しきりに桃色、桃色と言い聞かせるように言葉を放ちながら。
「あったぁ!!!」
嬉しそうに響く少女の幼い声。
それは酷く歓喜に満ちた声色で、凛と静まり返った室内に、鈴のような音色が飛ぶ。
ぐいっと手繰り寄せたゴブレットの中には、綺麗な桜色に煌く液体が詰まっていた。
「…何をしているのかね?」
少女が言葉を発してから間も無くの事。
静寂だった室内に、くぐもった男の声が心地よく響く。
地下室に良く透ったその声は、少女の背後から聞こえ、震撼させる。
独特の声色故、振り返らなくてもその存在が誰かは一瞬で判別がつく。
最も…、
ただ単に、この部屋の所有者が帰ってきただけなのだが。
「ス…スネイプ先生…」
振り返ることも出来ずに、少女は小さく名前を呼び掛ける。
トクン…と心臓が小さく鳴ったのが自分で聞こえた。
「授業をサボって、人様の部屋で窃盗かね?」
怪訝そうな声で、スネイプは少女の手にしていた桃色のゴブレットを取り上げる。
少女の身長よりも遥かに高い、戸棚の際奥の段へとそれを置くと、俯き、何も言葉を発しない少女にもう一度り掛ける。
それは、酷く小さな溜息を篭めたようなもので。
「 スリザリンから10点減点。
…で、一体何をしようとしてたのかね」
黙ったままの少女を戸棚から無理やり引き剥がすと、スネイプは俯いたままの少女の顔を上げさせる。
それは、酷く失望感に覆い尽くされたような、そんな表情で、思わずスネイプも顔を顰める。
自分と目を合わせようとはしないその素振りは、天真爛漫としたいつもの少女ではない。
「どうしたのかね、」
一瞬目を細めたスネイプが心配そうに見つめる少女は、スリザリン寮二年生の・。
魔法薬学の授業をサボって、担当教諭であるスネイプの部屋にやって来ていた。
当初から変わらぬ目的はただ一つ。
『スネイプの部屋で浮気調査をすること』
ではなく、
『スネイプの部屋から”成長促進剤”をちょっとだけ借りること』
である。
仮病を使って、マダム ボンフリーのところに行く様に見せかけて、スネイプの部屋に侵入するまでは、良かった。
やけに暗い室内に嫌悪感を示しながらも、それでも、お目当てのゴブレットを捜して、そのまま一気に走り去るように寮に戻れば良かった。
「持っていこうか」「飲んで帰ろうか」
そんな選択に3秒以上掛けたのがそもそもの間違いで。
この場で少しだけ飲んで、残りはばれないように戻しておこう、なんて甘い考えを抱いた律儀過ぎる自分がいけないのだ。
3秒有ったなら…ゴブレットを抱えて寮まで走る…ことは叶わなくとも、スネイプ先生に見つかることは無かったかもしれない。
それだというのに…
あと、もう少しで手に入る、その瞬間…
全ては藻屑と化したのだ。
「…?」
そう実感したら、何だか凄く胸が苦しくなるような…切なくなるようなそんな感情に苛まれた。
態度とは裏腹の、優しく心配そうに自分の名を呼ぶスネイプ。
それが凄く、切ない。
「……欲しかったんです、どうしても」
声が若干震える。
でも、ココで泣いたら…いつもと同じ繰り返しになってしまう。
堪え切れなくなりそうな涙を必死に奥底にしまいこんで、は搾り出すように言葉を紡ぐしか出来なかった。
「……痔の薬が、かね?」
「はいっ?!」
怪訝そうに眉を顰めつつ…それでも、盗みに来るくらいだから言いにくいのだろうと気を聞かせたスネイプ。
小声でそっと、確認のようにそう問うと、跳ねた様なの返事。
表情は先ほどとは打って変わって、焦りが一面に出ている。
必死で「違います、間違えたんです!!」と繰り返す。
その必死振りから、本当に何かと間違えたのだろう…とスネイプも思わされる。
…が、しかし。
の窃盗容疑が晴れた訳ではない。
「では、何のゴブレットを探していたのかね?」
まじまじと「痔の薬」であるピンクのゴブレットを見つめながら、スネイプは苦笑しながら問う。
「……成長促進剤が…欲しかったんです」
先週、授業で習った、あれです、と小さく付け加えて。
「 …ほぉ…。
我輩は先週、「Grow up Medcine」は桃色の液体だ、と教えたかね?」
「…え?違うんですか…?」
「 違いすぎる。
お前が探しているゴブレットは…、淡い桜色だ」
「さ、さくら?!」
驚いた様子で、棚の最奥に眠っている…先ほど手にしたゴブレットを見つめる。
それは綺麗な桃色で…
けれど、人から言わせれば、桜色にも見える。
一体何が違うのか。
は人よりも眼がいい。
それでも、そのゴブレットが、「桜色」なのか「桃色」なのかの区別は付かない。
「……どっちも同じじゃないですか…」
「そういうことだから、いつも失敗するのだよ、」
深い溜息をつきつつ、スネイプは頭を抱える。
そんなスネイプの溜息など、には全く聞こえていない様子で、ただただそのゴブレットを見つめていた。
「…じゃあ、先生、もう一回作り方教えてください」
「 ………先週の我輩の授業…
黙って見ているだけで点数取れるほど、成績は優秀ではなかったと思うがね。
羊皮紙にメモしてあるだろう?」
「……間違ってゴミ箱に捨ててしまって……」
「……、もう一回一年生をやり直したまえ…」
「駄目ですよ!!私は大人になりたいんですから!」
「…大人?」
頭を抱えたスネイプが、の一言に、更に眉を顰めた。
自分はもう一回一年生をやったほうがいいというのに、この少女は、大人になりたいという。
しかも、瞳は真剣な眼差しで、スネイプは更に頭を抱えることになる。
瞳が物語っているのだ、
「成長促進剤を作ってくれるんですよね」
と。
「…駄目だ」
「 どうしてですか?!
大人になったら…
そしたら…私とスネイプ先生は、結婚出来るじゃないですか!」
「……頭は大丈夫かね、」
顔を真っ赤にしてそう言ったに、スネイプはあっさりとした返事を返す。
言葉には、僅かな苦笑が含まれていて。
それがかえっての心に突き刺さる。
「 物凄い大丈夫です!!
早く大人になりたいんです!私は今の自分じゃ、厭なんです!!」
子ども扱いされるような、そんな自分の年齢じゃ、駄目なんです。
そう消え入りそうな声で付け足しを加えて。
そんなの頭に、スネイプの手がぽん、と乗る。
そしてそのまま、優しく髪を撫ぜる。
「我輩は…今のお前を好きになった、というのにか?」
「…え?」
驚いたようにそう返したの唇に、そっと優しくスネイプの唇が降りてきた。
甘く口付けられて、唇を撫ぜられる。
腰に腕を回して、ぐいっと抱き寄せると、口付けたまま、強く抱き締める。
「 大人になど、厭でもなれる。
もう少し、子供のままでいなさい」
- ちゃんと大人になれるから -
その台詞の後に…
そっと耳元でそう囁かれた。
「それって、結婚してくれるってことですか?!」
「下らない事ばかり言ってないで、授業に戻るぞ」
頬を僅かに赤らめたスネイプは、照れを隠すように、視線を合わせずに、さっさと部屋を出ようとする。
それを、逃がすまい、とが追い駆ける。
「 教えてくれないんですか〜?!
大人って、卑怯ですね」
「その大人に成りたがっていたのは、誰だったかね」
「 私はスネイプ先生のような捻くれ隠顕根暗な大人になんて
ならないから大丈夫ですよ〜」
「 …スリザリンから…10点げ…」
「すみませんでしたっ!!」
また減点されては敵わないと、はスネイプの台詞を最後まで聞かないうちに謝る。
それを聞いたスネイプは
「やはりまだまだ子供だ」
と苦笑したとか。
勿論、心の中で。
■ あとがき ■
14000HITのリク権を貰って下さった紅屋 治瑠様へ捧げますv
リクエスト内容は…
・大人になりたいというヒロイン
なんだか、無理やりチックな夢に…(苦笑
申し訳ありません(泣)気に入らなかったり、イメージと違ってたら教えて下さいませ。
書き直させて頂きます故。
それにしても、最近稀城の夢に何かしらのギャグ要素が入ってしまう模様です。
今回も…教授が「痔の薬」っていうし…
あそこにあったのは、教授が愛用しているから?!
それとも…。
なんて考えるのはやめましょう(おのれが…!
やっぱり稀城の書く教授はロリコンでした(笑
治瑠さん、こんな夢を貰ってくださいますでしょうか(汗
なんだか、帰ってきて下さって一発目の夢がこれって…。
申し訳なさで泣きそうですよ〜!!
++++ この作品は紅屋治瑠様のみお持ち帰り可能です ++++
Back
