Fly to the moon







「先生って、飛行術苦手なんですか?」





午後5時。
が、窓から沈みかけた夕陽を見ながらぽつりと呟いた。
正しく言えば、我輩に聞いたのであろうが…その声は酷く小さくて、傍に居て聞き取れるのがやっとなほど。





「…どういう意味かね?
 少なくとも… ミス フーチ の手を煩わせまくっている よりはマシだと思うが…?」





”どういう意味ですか、それ!!”
と少し怒ったように口を尖らせる。
夕陽をバックに、振り返った は、橙の色を全身に纏って、紅のローブを羽織っている様だ。
手を伸ばせば届くのに、そうして紅に包まれていると、酷く遠くへ行ってしまうようなそんな錯覚を覚えた。





「…言葉の通りだ。 それで?何故そう思う?」





それが凄く辛くて、スネイプは腕の中に をしまってしまう。
誰にも取られないように。
柔らかい髪に唇を寄せ、髪を梳いてやると擽ったそうに が笑う。





「 あ、それはですね…
 ホグワーツに入学してから私、一回もスネイプ先生が飛んでいる姿を見たことが無いんです。
 だから…もしかしたら、苦手なのかな〜って」

「…イヤ、それだけは断じてない。」

「 またまた〜。
 素直に認めてもいいんですよ?笑ったりしませんから。」

「…疑り深いのだな…。 容易に人を信用しないのは結構な事だ。
 よろしい。では、今夜特別に我輩の箒に乗せてやろう」

「本当ですか?! やった〜!」





ただ、箒に乗せてやる、といっただけだというのに、酷く嬉しそうに は笑った。
そんな の頭を撫でてやり、我輩は夜の為にまとまった仕事の片付けを始める。
は で、嬉しそうな表情を浮かべたまま、ソファーに座って紅茶を飲み始めた。





*     *     *





「うっわ〜… 見てみて、すっごい星が綺麗!!
 あ、月も凄い近くにある〜!」





漆黒の闇夜に広がる無数に輝く星空を見て は感嘆の声をあげた。
時は既に深夜0時を回ろうとしている。
少し肌寒い中、約束どおり、スネイプは を連れて静寂しきった夜の空へと舞出でる。
一人で箒に乗せても危なっかしい を横抱きに抱えるようにして前に乗せ、スネイプは久しぶりに箒の枝を握る。
普段、自分の箒に他人などめったに乗せないスネイプだったが、少しだけ何時もと違う感覚・それが が一緒に居るからだ…と思ったら少しだけ嬉しいような気持ちになる。
腕の中で子供のようにはしゃぐ に思わず微笑みが洩れた。





「そんなに嬉しいかね?」





もっと近くで…もっと良く星を見せてやろうとスネイプは上昇する。
上に浮遊するにしたがって、どんどんと漆黒が増し、月と星の灯りだけが輝き始める。





「嬉しいですよ〜!!
 スネイプ先生の箒に乗ったのって、きっと私ぐらいじゃないですか?
 それに…、ほら…月に手が届きそうなんですよ!」





それは間違っては居ないな、とスネイプは少しだけ の居なかった過去を思い出す。
授業で仕方なく乗せたことはあったにせよ、自分の意思で人を乗せたのは が初めてであり、これが最後になるだろうな…とも思う。
これから先、 意外を箒に乗せる事は無さそうだ。





「そんなに身を乗り出すな。 落ちても拾いにいかんぞ」





前のめりになって星を掴もうとする を見かねてスネイプはそう言う。
しかし、当の はスネイプの話など右耳から左耳なのか…返事を返そうともせずに手を上へ伸ばしては月を掴むような仕草をする。
まるで、小さい子供が手に入れられないものだと判らないでそうするように。





「諦めなさい。 月など掴める訳がないのだから」





スネイプが再度そう言うと、 は空に伸ばしていた手を引っ込めて、少し怒ったように言う。





「ちゃんと届くもん!
 …届かないと思ってた、遠くに輝く月に、ちゃんと手が届いたんだから!」

「…夢でも見ていたのではないのかね?」





真剣にそういう に、”またいつものアレが始まったか…”とスネイプは心の中で苦笑する。
でも、 が離した話はスネイプにも納得できるもので…





「違〜う!
 届かないと思ってたスネイプ先生にちゃんと手が届いたもん!
 グリフィンドールの私が、スリザリンっていう遥か遠くに輝いてたスネイプ先生の傍に居れるから…
 だから、月に手が届いたの!」





少々怒り口調で が言う。
そして、ぎゅっとスネイプに抱き付く。

つまりは、たとえ話であって。

グリフィンドールの にしてみたら、敵対する寮のスリザリン寮督であるスネイプ等、遥か遠くの存在で。
それでも、手を伸ばしたら届いた、と。
必死に其処へ行こうと思ってみたら、それは意外に近い距離で。

でもそれは…、月も同じで。





「… 、一ついい事を教えてやろう」





”なぁに?”と疑問符を付けて が見上げてきた。
上昇しながら、 が抱きついて離れない為… を支える腕が必要なくなり、その手は必然的に の髪を優しく撫ぜる。
手から伝わる柔らかい の髪質が妙に気に入って、そのまま髪を撫ぜて…。






「…月は、太陽からの光がないと輝けないのだよ」

「うん、知ってる。
 恒星じゃなくて惑星なんだよね。 天文学の先生が言ってた。」





”ちゃんと覚えてるでしょ?”と嬉しそうに付け加えて。
それが妙に可愛くて、スネイプは”そうだな”と頭を撫でてやる。





「我輩が月なら…  は太陽だな。 月は太陽が居なくては輝けないのだから」





ふっと笑ってスネイプは箒を止めた。
そしてそのまま を抱き締めて、ローブの中に包み込む。
が何かを発する前に、スネイプは台詞の続きを告げる。




------- 我輩も…たった一つしかない太陽( )を手に入れた、と。







その後、二人が帰ってきたのは明け方近い時間で。
星がその姿を隠して、月がだんだん色味を消し始めて、
太陽が朝を告げる。





決して交わる事の無い、太陽と月だけれど…

知っていますか?

月は太陽がいるからこそ輝けて

太陽は輝いてくれる月がいるから、照らし出そうとすることを。

相反する二つだけれど

本当は、何時も傍で互いに向かい合っている事を。



そう、お互い、無くてはならない存在である事を。





翌日。
珍しく魔法薬学の授業は自習になった。
喜ぶ生徒の中に、 の姿は無かった。
けれど、スネイプの自室には…ベットで幸せそうに眠る二人が居る。







後書き

10000HITのリク権を貰って下さったしゅうや様へ捧げますv
リクエスト内容は…

・「スネイプ先生とラブラブ星空デートv」


これって星空デートですかね?
しかも、あんまりデートって感じがしません…(泣
申し訳ありません(泣)気に入らなかったり、イメージと違ってたら教えて下さいませ。
書き直させて頂きます故。

しゅうやさん、ごめんなさい(汗
こんなものしか書けない私を許して下さい。
しかも、一回書いてみたかった『太陽と月』ネタをやってしまいました(笑
しゅうやさん、こんなドリでも良かったら貰っちゃって下さい。
リクエスト頂いた中で1番時間を書けて書いたのに…1番書けてないかもしれません。


因みに、ラストは「二人で風邪」だったんですが、余りに不憫だったので二人でサボりにしちゃいました(爆笑


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