甘い罠
そこは果てしなく続く巨大迷路のようだった。
一筋の明かりさえ見えず、昏々と湧き上がる漆黒の闇だけがこの静寂を支配していた。
左右どころか、簡単に前後不覚に陥ってしまう程濃い黒のヴェールは、徐々に
の躰を余す所無く包む。
どれ位長く此処にいるのか?
それを考える事すら不可能な位、
の意識は低下していた。
此処は太陽の光すら届かない…いや、太陽自体が存在しないのだ。
…
はもう既に死んでいた。
もう此処から出られないと、覚悟を決めてただただ毎日を過ぎ行く時間の流れだけに託していた。
どうせ此処には私しかいない。
笑い声も、懐かしく
を呼ぶ仲間の声も優しい微笑みも、怒った顔すら見る事は出来ない。
もう…全て忘れかけていた。
別にこのまま忘れてしまっても構わない…、どうせ此処で息絶えるのだから…。
あ、もう死んでいるんだっけ、私は。
だが、此処から
が出られる日は早くに意外な形で突然訪れることとなった。
* * *
「 ………
、何時まで寝ているつもりだ?
いい加減に起きなさい、
」
…聞こえる…
あの時と同じ…暗い…暗い世界で初めて聞いた綺麗な声…優しい声…
心地よく響く、そう…まるで天使の囁く詩歌の様…。
透き通るような透明気を微かに帯びた低い声が、
の脳を揺り動かす。
空気が歓喜に満ちているような、万物が酔いしれるような甘い甘い声。
あの日、
を救ってくれた彼の声。
「
…、起きなさいといっているだろう?
、起きなさい。」
聞きなれた甘い声が耳元で微かに鼓膜を振動させる。
の鼓膜までもが、そこいらの低俗な人間や女達と同じ様にその声…たかが声に反応して喜んでいる。
これは天使の詩歌なんかじゃない。
これは悪魔の調べ。
怖いもの知らずの悪魔が奏でる地獄の旋律。
分かっているのは
の意識だけなのかも知れない。
情けなくも
の、サキュバスの三大欲求の一つ、
性欲を直に刺激する。
本当に情けなくなる。
若くて元気な、サキュバスである
は彼の与えてくれる甘い快楽への期待に、早くも反応を示していた。
「 …
は何時まで経っても子供のままだな…
そんなにこの私に優しく起こして欲しいのなら、素直に頼めばいいというものを…」
優しさで身を包んだ悪魔が耳元でそっと囁く。
の意識とは裏腹に、何かに心から期待するかのように
の躰はピクンと震える。
には大分前から意識が有った。
今起きる事だって可能で。
でも、起きない。
起きてなんてあげない。
「じゃあ…まず、朝の挨拶をしてあげようか…」
優しく微笑む彼が、射し込む柔らかい朝日に映し出される。
は既に十分、むしろ厭と言うほど彼の美しさを知っていた。
きめ細かい銀色の髪は絹の如く、脱色なんて安っぽい代物では造り出せない程の光を帯びていた。
形の整いすぎた顔のライン、それに寄り添うように手向けられる浅銀糸色のストレート。
切れ長の前髪から微かに覗く長い睫毛の下には…凍蒼色の瞳が有った。
硝子球の様にきらきらと光るそれは決してコンタクト等ではない。
そう、彼は人間では無かった。
見た目は人間の様でも、彼から放たれる妖しく、妖艶さえ感じ取れる気は見るもの全てを魅了し、形の良い唇から発せられる透明な声は海の妖女セイレーンの如
く、それに勝る程の甘い旋律を奏でる。
優しく微笑まれ、あの甘い香りと地獄の旋律を聞いた者は必ず虜になってしまう位、彼は綺麗だった。
「 やれやれ…
はまだ眠たくて起きないというのに……
それとも私にこうされる事を期待して待っていたと…?」
諭すように怪しく微笑み、最初から何一つ変わらぬ口調で彼は囁き、既にしとどに濡れているソコを片手でさらりと触る。
神も恐れる早業を使ってパジャマの下を、ショーツと一緒に一気に引きずり下ろして直に触られる。
「 ひゃんっ、冷たっ!
風邪引いたらどうしてどうするの、ルシウス!」
観念して
は叫びながら仕方なく上半身を起こした。
今の今まで(といってもルシウスが来る前までだが)安らかなる眠りに就いていた
にとって、あったかい躰の…しかも一番熱を帯びている場所を、血が通ってるんだか元々血など存在しないのか知らないけれど、冷たすぎる
ルシウスの手で触れられた訳で。
躰が凍ることこの上なし。
「 ほぉ…。
やはり起きていたとは…。
昨日忙しくてろくに相手も出来なかった事をまだ根に持っているのか?」
が叫んでもルシウスは全く動じず、表情も変えない。そう、まるで最初から全てお見通しだったかの様に。
「 ちっ、違うもん!
ルシウスが何所で誰と何してようが私には全く持って百%関係ないんだから!」
口走る非難の声。
これじゃあまるで私が嫉妬してるみたいじゃない。
嫉妬なんかしてない。
間違っても嫉妬なんかしてやらない。
ルシウスの思惑にはハマッテやらない!
「 そう拗ねるな…。
空白の時間等すぐに埋めてやるから…」
やっぱり、冷たい瞳で何処と無く優しく微笑んで
を子供を扱ってるようにあやす。
馬鹿にしないで欲しい。
これでも私は14歳。
ルシウスの支えがなくったって、一人で生きていける…
そんな事、口が裂けて…口が有っても言わない、言えない、言う事が出来ない。
ルシウスは、冷たさを感じても一向に熱の冷めない、それどころか
の気持ちも理解せずにますます熱を持つ自分勝手なソコを、左手で優しく撫で、つぷっ…と慣らされたその場所に指を挿し入れる。
「やっ…誰がそんな事っ…頼んっ…」
精一杯の強がり。
でも、ルシウスの与えてくれる甘い甘い快感を追い駆けたくて知らず知らずに腰を動かす。
「やれやれ…そんなに我慢していたとは」
クスクスと笑い、ルシウスがそこから徐に手を離す。
まだ登りつめ始めたばかりの
のソコは情けない事に、たらたらと蜜を流し、ピクピクと小さく揺れ、
の代わりに必死にルシウスに救いを求めている。
なのに、ルシウスはそれを愛しそうに眺め、指先で挑発するだけで。
「 生意気な
の態度とは正反対の、素直で可愛い子が
イカせて…とな。
どうする
、私に”お願い”するか?それとも…」
意地悪く言い放つルシウスはそれ以上の事は何もしてくれない。
その気配すら微塵も無い。
「そ…そんなこと、っ……な…いっ…」
勢いで言っては見たものの、そんな強がりは儚く消滅してしまうことはとうに目に見えていた。
の…
のソコは、ルシウスの意味不明難解極まりない術の御陰で1人では決してイケない。
ルシウスにしか
を楽にさせる術がない。
つまり
がイク為にルシウスに『お願い』するしか方法が無いのである。
「 では…
仕事に戻るとしようか…」
妖しく微笑み、指先で弄っていたソコから手を離して太腿やその付け根を優しく愛撫し、触れるか触れないかのぎりぎりのタッチで
の場所に触れる。
そしてルシウスの思惑通りに段々と我慢の限界というものに直面する。
躰が震え、記憶に新しいルシウスが与えてくれる優しくて甘く、淫らな愛撫が欲しくて欲しくて仕方が無くなる。
は…、
の躰は既に知っている。
ルシウスがどんな風に
を愛し、どんな快楽がその先に待っているか、を。
「ル、ルシウスっ…お願い…さわって、お願いっ。」
自然と目尻に涙が浮かび、
はもう完全に自我を忘れ去っていた。
それ位、簡単に陥ちてしまう位紫苑の躰はルシウスを求めていた。
意識を別なものに覚醒させてしまう位に。
自分が何を口走ったのかさえ良く理解していない程我慢できなくなった
は、両手でルシウスの手を握り、猛る
自身に導く。
ルシウスは優しくそれを撫でてから、手を退ける。
くちゅっと卑猥な音がした。
乾いた空気の室内に良く響き、ルシウスが何をしたのかが知りたくなくても分かってしまう。
意外な程温かいルシウスの柔らかい舌先の感覚に、
のそれはぴくんと快感に震える。
「あんっ…あ、やあっ」
刹那、触れただけで舌は容赦なく離れていく。
これだとあさっきより状況が悪い。
いや、ルシウスの性格がもっと極悪並に悪い。
その極悪非道は泣き出しそうな
を優しく見つめ、問う。
「
…は、私にどうして欲しいと?
ちゃんと教えてあげた筈だが?」
そんな事決まってるじゃない!とばかりにキッと睨みつけても当の本人は全くの知らん顔。
どんどん疼き始める節操のカケラも無い
のソコを宥める方法はただ一つ。
今さらプライドなんて言葉ごと捨てていた。
「お願いっ…ルシウスの…ルシウスの舌がいいのぉっ…イキたいのぉ…」
必死に乞うと、優しい声色で、イイ子だ…と囁かれる。
待ち焦がれて既に快楽の蜜を滴らせている蕾を、さも満足そうにルシウスは眺めてからちゅっと口付ける。
「やんっ…やあっ」
思わず漏れる意思とは反した甘い拒否の言葉が快楽への合図となる。
舌先でざらりと優しく舐め上げられ、ヒクつく泉の源泉を綺麗な指先で弄られる。
「ふあっ…んっ、あっ、んんっ」
声を押し殺す事すら欠落していた。
優しく甘い声に甘い香りが
を追い上げる手伝いをする。
今まで散々我慢してきた。
きっと今日は早く果てても許される。
そう、つまり
は既に限界を感じていた。
「ひゃん…あっ、あ…あんっ」
敏感すぎる蕾を舌先で割られて、現れたピンクの箇所に少し強めに歯を当てられ、舌優しく撫で上げられたらもう無理だった。
掴んでいたシーツに皺が増え、これを誰が洗濯するか(勿論
)なんて脳裏に無かった。
躰が自然に左右に揺れ、もっとして欲しくて自然に腰を浮かせてしまう。
「ルシウス…、もう、もうイキたいよぉっ」
ついに自白する。
これ以上耐える気力なんて残って無い。
早く楽になりたい。
独り善がりの考えしか浮かんでは来なかった。
「 もう、か?」
さも残念そうに溜め息を吐く。
この溜め息にはきっと色々な意味合いが含まれているのだろう。
だが、もうそんな事はどうでもいい。
本当に早く楽になりたかったのだから。
「ルシウス…お願いっ…」
の最後のお願いを聞き、ルシウスは
を追い上げる。
蕾に円を描くように舌を這わされ、長い指が、埋め込まれた箇所を優しく前後に強弱乱れたリズムを取る。
強めに蕾を吸われ、躰が余りの快楽に仰け反る。
優しく擦り上げられカリッと優しく甘噛みされた時…
「や、やあっ…もう、もう駄目だよぉっ…ああんっ」
言うが時既に遅く、
は小刻みに震え、無意識のうちにルシウスの髪を引っ張る。
傍でルシウスが不敵に微笑したのは微かに憶えている。
後は、浸り続けたい絶頂間と再び巡ってきた睡魔に襲われて、気を失ってしまった。
躰はまだ、壮絶な快楽の余韻で震えてはいたが、もう
には関係無かった。
だからこの後ルシウスが何を口走ったか、なんて知る由も無い。
「 今日はさぞ楽しくなる遊びを用意してきたのだが…残念だな…。
まぁ、可愛い
に免じて良しとしようか。」
不敵に微笑むルシウス。
柔らかな髪を右手で掻き揚げ横で安らかな寝息をたてている
にそっと口付ける。
ふと…、
「 ルシウスっ、また勝手に私のお菓子勝手に食べたでしょ!?
死神がお菓子大好きvなんて聞いたことないんだから!」
ルシウスが隣の
を見ても起きている気配は無い。
既に夢の世界に入り込んでルシウスとお菓子の取り合いでもしているのだろうか。
ルシウスは、
の作るお菓子だけは、食べられる。
「 死神でも甘いものは好きななのだよ、
」
三度優しく微笑み、ルシウスは傍できちんと畳まれていたタオルケットを
に掛ける。
そして自らも上着を脱ぎ、上半身裸になると
の傍らに横になった。
「 ルシウスっ!どうして貴方は年中無休万年発情期の性欲魔人並なのよ!
不感症にでもなったら如何するのよ…」
どうやらこれも
の寝言のようである。
「 心配は無用だ、そしたら責任とって直してやるまでのこと…
無論、手段を選ぶ権利は
には無いがな…」
独り言か、はたまた横で微かな寝息をたてている
に対して掛けられた言葉かは依然として不明である。
ただ、不敵に微笑み続けるルシウスは何かを考え付いたらしく、1人妖しく微笑んでいた。
それによって
に悲劇が訪れる日が来る事はまだ先の話である。
□ あとがき □
…どうしましょう…ついにやってしまいました(笑)
こんなのが雛祭り企画だなんて…雛祭りと掠りもしない…申し訳ないです(泣)
これ、続きとかシリーズ化して欲しい人とかいますかね??
稀城的には殿下=死神は適役かと…(苦笑)
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