Memorial days






滔々と紺碧の空から零れ落ちる粉雪が、夜半過ぎには重量を伴った牡丹の其れに変わった。
クリスマスも終わり、ホグワーツに残る生徒も疎らで大半の生徒が郷里へと帰省していく最中、入学して以来一度も郷里には帰ろうとしないは去年迄は独 りで過ごす寂しさに浅い溜息を吐いた。
慣れ親しんだホグワーツ大広間へ通じる廊下を歩く際、言葉と共に必然的に出てしまう息も凍て付いた様に透明度を欠いた純度の高い白。
其れを掻き消す様にざわめく音が掻き消された廊下を静かに溶けて消えた其れは、今年別の言葉の代わりの様に浮かんでは消えて逝った。
昨年まではジェームズやリリーを初めとした悪戯魔法仕掛け人の面々も挙って郷里に帰省していたのけれど、今年は如何云う訳か皆ホグワーツに残ると言い出し た。
勿論、最上級生でもなければ年が明ける瞬間何か珍しい行事がホグワーツで開催される訳でもない。何か、有っただろうかと思考を張り巡らせるも結局は判らな い侭こうして年の瀬を迎えてしまった。






「 あら、。さっきから延々シリウスが貴女を捜してたわよ? 」


「 …シリウスが? シリウスは今日はジェームズ達と出掛ける筈じゃなかった? 」


「 何でも、今日は特別な日らしいわよ? 」


「 …特別な、日…? 」






大広間に向かう途中、一足先に寮を出てジェームズ達と雪合戦を愉しんでいたであろうリリーが横から声を掛けてきた。
同時に降って湧いて出た様にジェームズもリリーの肩越しから現れて、雪に塗れた透明ローブをしきりに払っては廊下に淡雪を落していた。
相も変わらず朝から爽やかを髣髴とさせる笑顔で、此れが作り笑いだったとしたらどれ程彼は笑顔を作ると云う事に長けて居るのだと思わずには居られないほど 自然の微笑。
其れで居て、本当の其れを見る事が出来るのはリリーを含めた達だけだというこれまた暗黙の鉄則がある。
朝から向けられた端麗な笑顔に笑顔を返せば、其処から今日一日が始まる。
朝食を知らせる旨の鐘の音が盛大に鳴り響き、待ち侘びていたとばかりにドア等見当たらない壁から同時に飛び出してきたピーターが「おはよう」とだけ告げて 早足に掛けて行く。
そんなに急がなくても朝食に足が生えて逃げ出したりする事は無いだろうに、其れでもピーターは其れ以来一度も振り返る事無く大広間に飲み込まれる様に姿を 消した。






「 ねぇ、特別な日って、何? 誰かの誕生日か何か? 」


「 さぁ?シリウスが貴女を捜して居たんだもの、貴女とシリウスに関係が有るんじゃないの? 」


「 …私と、シリウスに…? ねぇ、ジェームズは何かシリウスから聞いてない? 」


「 ……………僕は、何も知らないよ? 」






たっぷり数秒間、間延びした言葉なら未だしも酷く長く感じられる空白交えて意味深な笑みを浮かべたジェームズが返答をした。
如何考えても何か知っているとしか思えない返答の仕方、其れでも【絶対に教えない】の意図を籠めた様な笑みで言われれば、これ以上詮索しても何も得られ無 いだろう事は長年の経験で知っていた。
こう云う状況、長い付き合いの中様々経験してきたけれど、追求して解答が得られるのは仲間内ではピーターだけ。
ジェームズを筆頭にしたリーマス、シリウス、リリーまでもが秘密は断固として護る主義、勿論も其処に片足ドコロか全身浸かる勢いで加わっている故に、 反対側に廻ると非常に厄介だった。
最も、酷く重要で無い限りは秘密とは言えない上に、あのジェームズの笑みを見ればさして悪い事でも無いのだろう。
後々、シリウスに直接聞けばいい、どうせ朝食の席では一緒になるのだから、と曖昧な感情殺した侭三人で大広間に向かって歩き出した。





「 …ちょっと待って、ジェームズ。
 私とシリウスに関係が有るのよね?私…思い当たる節が一つも無いんですけど? 」


「 其れはそうだと思うよ、だってもしがリリーだったとしたらリリーも思いつく訳が無いからね。 」






意味深過ぎるジェームズの発言は隣で大人しくしていたリリーの何かの癪に障ったらしく、脇腹を軽く肘で小突いて見せた。
馴れ合いの延長線の様な二人を気にする事無く、普段通りの柔らかい笑みを浮かべたジェームズの言葉を脳裏に侍らせながら足は只管大広間へ、思考回路は意味 深な【特別な日】へ。




とシリウスが付き合い出したのは、リリーやジェームズよりも大分遅れてからだった。ホグワーツに入学して以来彼らと行動を共にしていたにとって、 何時でも傍に居てくれるのが本当に極自然で当たり前で、自分がシリウスに惹かれている等とは思った事すら無いと言える。
瞳に水を張りながらジェームズが好きだと告げたリリーの話を聞いた瞬間でさえ、自分はこうして誰かの為に涙等流す事なんて生涯有るのだろうかと思う程で。
唯一度だけ、リリーに【好きな人は居ないのか】と聞かれた時に、間髪居れずに一秒の隙も無く【シリウス】と答えた。其れからだ、坂道を転げ落ちる様にシリ ウスを異性として意識し始めて事が二転三転割愛するけれど結果論では、シリウスとは晴れて恋人同士と為った。
…で、とシリウスに関係の有る【大事な日】。世間一般で言えば、お互いの誕生日か付き合った其の日か。思い浮かべられるのは其れ位しかなくて、けれど どれも全て綺麗に過ぎ去っている。強いて言えば付き合って未だ一年経って居ないのだから後者はもっと関係無いが。






「 あ、シリウス。 」






本当に困った、何も浮ばない。
悩めど思考回路と記憶を引っ繰り返して見ても本当に何一つ浮んでは来なくて、思い出せない自分に腹すら立ってきた。意固地になって何としても思い出して見 せるとばかり、思考全てを其方に向ければ、直ぐ横で吐かれた言葉に反応するのも一歩出遅れてしまっていた。
リリーの言葉にはっと俯いていた視線を上げれば、其処には大広間に向かうのとは真逆に向き直ったシリウスが、ジェームズ達と雪遊びをしていた名残残した侭 立っている。
先のジェームズとは一変、何時もとは異なる真剣な眼差しをしたシリウスに、隣のジェームズとリリーが退くのが感覚で判った。怒っている訳でも無さそうだ が、これ以上余計な台詞一つ吐けば後が恐ろしく恐い事等経験が何より物語っていた。
つまり…、余計な事は何も喋るな、出来れば此処から直ぐに消えてくれ、言葉悪いがそんなニュアンスがたっぷりと伝わる沈黙に無言の侭リリーがジェームズの 腕を引っ張ってシリウスの脇を通り過ぎる。






「 …シリ…ウス? 」


「 行くぞ。 」


「 え?でも、朝ごはん…!! 」


「 そんなもの、ジェームズが何とでもしてくれる 」






言うが時既に遅く、来たばかりのグリフィンドール寮に帰る様に踵を返され着いて来いとばかりに腕を捕まれる。
身体を翻した刹那、視界の端には満面の笑みで手を振るジェームズとリリーに心の底から溜息を吐きたくなった。思い出せていないのだ、一体何が大切なのか を。
シリウスは、心の中で怒っているのだろうか。確かに無言だったけれど、シリウスが憤慨宛ら野場面を何度か見たことの有るにしたら先のあれは普段の彼と 何等変わり無い。
其れだというのに胸中込み上げるこの不安感は、思い出せていない事を聞かれた時のシリウスの寂しそうな表情を想像できたからだろうか。
手を引かれ、大広間に向かう生徒の波間を縫って、誰も居ない静かな談話室に辿り着いた時までシリウスは一言も喋らなかった。






「 …あの、シリウス、 」


「 …特別な日、なんだ。今日は。 」






嬉しさを噛み殺した様に笑ったシリウスに、思わず言葉が詰まる。次の瞬間は如何しようと何度と無く思った感情が競り上がって来て何とも居た堪れない気持ち にさせられて。
普段からは余り想像の出来ない其の表情に、【他の女の子と間違えたんじゃないの?】と笑いながら言う事すら躊躇われる。
聞くべきか、聞くまいか。知らないと言っていいものか、悪いのか。
そんな小さな事がグルグルと螺旋を描いて脳を支配する。けれどこれ以上自分独りで考えていても何も浮んでは来ない事位眼に見えていて、視線をシリウスに向 けた。
すると聞くな、と否定する様な眼差しをされ、其の侭促される様に火のくべられた暖炉傍のソファーに腰を落ち着けて、言葉につまり黙り込んでいればシリウス はの耳に密やかな苦笑を聞かせてくる。






「 …言えない、教えない。には秘密だ。 」

 
「 …は、い? 」


「 何度も言わせるな、聞かれても何が【大切な日】か教えない。 」


--------- っ 」






無言の侭、固く握った拳を飄々とした其の端正な横顔にぶつけてみようかと本気で考えた。きっと此れがジェームズとリリーだったら、間違い無くリリーは ジェームズの頬に迷う事無く拳を浴びせているだろう。
実際問題、怒りに身を任せてシリウスの頬を張っても良かった。きっと事情を知っているジェームズはリリーには何が【大切な日】なのかを教えてくれた事だろ う。
ピーターは兎も角として、絶対にリーマスも知っている筈。否、ピーターの朝の慌て振りを見れば、彼は口を割ってしまわない様に疾風の如く大広間に消えたの かもしれない。
そうなると、事情を知らないのは自分だけと言う事に為る。何だろう、仲間外れとまでは行かないけれど其れに酷く似た虚構感は。
だけれども、は見てしまったのだ。虚構感に苛まれようとも其れすらも打ち砕く様なシリウスの笑みを。
清廉整った表情に悪戯笑みを浮かべている普段とは異なる、自分だけが見る事の出来る冷徹さを含んだ酷く甘い笑み。
そんな表情で見られれば、視線を何処に置いていいのか判らなくなる。






「 今日はこの侭、二人であの5人から逃げちゃおっか。 」


「 …俺は初めから其のつもりで攫って来た。 」






其の言葉に、正直如何でも良くなってしまった。
シリウスが【大切な日】なんだから、きっと本当に大切な日なんだろう。そして、其の【大切な日】はとシリウスに関係があって、だからこうして皆から引 き剥がされて此処に二人で居る。
だったら其れで良い。一生知ることは無くても、シリウスにとって【大切な日】を一緒に過ごしても差し支えないと云う最大特権をもう大分前に取得したのだか ら。
朝食が終って皆が談話室に戻る頃には二つの陰は綺麗に消えて、ジェームズの運んできた朝食がシリウスの部屋に無言で届けられるのだろう。
脳裏に容易く浮かんでくる情景、きっと大広間のジェームズ達も同じ事を考えているのかもしれないと。
そう思った途端に油断した。シリウスの肩に手を置くのに丁度良い高さまで、あっという間に抱き上げられ、足を乱暴にと動かして降りようとするのが、その努 力は無為に終わった。
結局其の侭、はシリウスの部屋へと強制連行の運命を辿る羽目に成った。






*     *     *






「 ねぇ、ジェームズ。シリウスはに教えたかしらね? 」


「 …其れは愚問だね、リリー。 」






思い出されるのは雪遊び真っ只中。もうじき朝を迎えようと云う矢先、シリウスに文字の如く叩く様に起こされたジェームズ、リーマス、ピーターは其の侭、白 新雪降り積もる広間で雪遊びをしようと無理やり引っ張り出された。
こう云う突拍子も無い事をするのは大概ジェームズじゃないのか、と本人ですらも思う程に突然の出来事、其れでもガッチリとローブを着込んで広間に出てみれ ば、当の本人はしきりに時計を気にしていた。
雪遊びをする訳で無く、明らかな時間潰しの為だけに呼ばれたのだとそう悟った瞬間、皆が一斉に口を開いた。
一体何なのだと詰め寄った処で苦い笑いを噛み殺した様な曖昧浮かべるシリウスを、胸倉掴んで積もったばかりの雪の中に頭から叩き落してやった。
滴り落ちる様な粉雪引っ被って、其れでも何だか妙に嬉しそうなシリウスに、終にはジェームズ達も陥落する羽目になる。
溶け落ちた雪で濡れた髪を煩い気に掻き揚げて、薄く開く口唇。同時に聞くのは穏やかではない言葉。
其れを聞いた瞬間に世界が凍る音を聞いた。






------- 「大切な日」なんだ。去年の今日…初めてが俺に”好きだ”って言ったんだ。






そんな事、本人に言える訳が無いじゃないか。








後書き

佐伯さん、サイト1周年おめでとうございます…!!
日頃の感謝と愛をふんだんに籠めまして、是非とも笑って下さいとばかりに生まれて初めてシリウス書きました…(滝汗)
ヘタレっぷりはこの際シカト、言い訳はガッツリ佐伯さんにさせて頂きますので此処で一言だけ。
よもや数多いシリウス書きさんの中でも随一と認める佐伯さんにシリウス送りつける私…相当根性が座ってます、…寧ろこの際なので声高らかにお腹よじれるま で笑って下さい(笑)!
何はともあれ、1周年本当におめでとうございますvvを籠めまして佐伯さんに無理やり進呈させて頂きます…!


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