君に燈す光り






やんわりと包み込む様に燈る蝋燭の光りが幻想的に大広間を照らし出していた。中央に聳え るは様々な電飾が燈されたモミの木、其れを囲うようにして態々テーブルが組まれ、パーティドレスに身を包んだ生徒達が愉しそうにグラスを克ち鳴らす。
思い思いの生徒と一緒に楽しく談笑をする者や、今日こそはとばかりに好意を寄せる者に話しかけに行く者、一人で食事を愉しむ者、様々な情景が映し出され其 れを愉しそうな眼差しで教師陣が視線を向けている。
其の最中、案の定というか強ち全ての人間の勘が当たるというか…、魔法薬学教授だけは苦虫を踏み潰した様な形相で食事にも一切手を付けずに腕組みをした侭 じっと見据えていた。
本来ならば震え上がる様な其の光景、しかし時はクリスマス聖夜の大広間、普段は見る事の無いタキシードに身を包んだスネイプは其れらしく生徒の眼にも映 る。
否、其れ以上に普段との余りの相違に息を呑む女生徒も多い。






「 (それ以上我輩の女に近づいてみろ…例えこの場であっても減点してくれる…!) 」






そう、スネイプの不機嫌の種はこのクリスマスパーティ其のモノに有った。
クリスマスにホグワーツに残る者はほぼ強制的に参加させられるこの戯けた行事、スネイプが出席を余儀なくされていると言う時点で、スネイプの恋人でもあり 生徒でもある も参加せざるを得ない状況に為っていた。
パーティが始まってから既に二時間、イブから聖夜に変わってもうじき一時間、次から次へと に声を掛ける男を独り独り一瞥する様に視線を投げても此処か らでは遠すぎる。
かと言って、傍に寄る訳にも行かず、食事すら咽喉を通らない侭に彼是数時間も彼はこうして己の彼女が男に言い寄られ必死に断る様を見続けている。




客観的に…可愛いのだ、スネイプの恋人は。
綺麗とか美麗とかそんなカテゴリで括られる程の容姿を持ち合わせては居ないのだけれど、背が小さく日本人特有の漆黒の髪に水墨白淡の瞳、ニコリと微笑めば 場の雰囲気が一気に和んでしまう様。
性格も温厚其の侭、天真爛漫とは良く言ったもので、その癖人一倍頭が切れる。組み分け帽子がグリフィンドールではなくスリザリンを選んだ理由は其処に有る と、スネイプは今でも信じて止まない。
そうでなければこの純情可憐で通りそうな幼女がスリザリンに選ばれる訳が無い。況して、自分の恋人に等昇格する筈が無い。






「 (もう我慢ならぬ、誰が見ていようと知ったことでは無い…!) 」






ブチリと堪忍袋の尾が切れる盛大な音が木霊したのは己の頭の中だけ、実際は相も変らず不機嫌極まり無い表情を全面浮き彫りにしたスネイプが、懐に置いた杖 を握り締めただけの事。
さて如何してくれようか、そんな悪巧を考える時の表情を作り上げて口角を歪めてやっても、この馬鹿げた騒ぎの真っ只中、誰一人としてスネイプの画策に気付 くものは居なかった。
取り敢えず手始めに蝋燭を一斉に消し去って連れ去ってくれようか、其れともパーティ等再開出来ない様にしてくれようか。我ながらホグワーツで教鞭を取る一 教師でありながら何たる画策を、と呆れよりも早くに指先が杖の先に掛かる。
取り出して一瞬、躊躇う事無く呪文を唱えようとした矢先に、ドンと音を立てて眼前の机が揺れた。






「 あ、スネイプ教授!済みません、取って頂けますか? 」


「 …ミス …貴様我輩を愚弄しているのかね。 」






遠くから聞える恋人の声、其れに攣られる様に眼前の物体に視線を起こせば、其処には一つの大きな七面鳥がどっかりと腰を落ち着けていた。
間違いなくこの物体は の手元から投げられた物であり、其れを如実に示す様に の周りを囲っていた男子生徒が何とも言えない表情で ・七面鳥・スネ イプを交互に見比べている。
周囲の空気が凍り、アレだけ賑わっていた大広間が一瞬で静まり返って息を呑んでいる。あのセブルス・スネイプに事も有ろうか七面鳥を投げる等と…そんな台 詞が暗黙の内に生徒間で流れる。
ご丁寧にも銀皿に乗った侭燦然とした態度を貫き通す七面鳥を片手で持ち上げ、面倒そうに階下へ降りる。
小さな虫が散華する様に から一斉に散って行く様を見れば、心成しか酷く気分が良い。とばっちりを喰らわぬ様にとの配慮からか、スネイプが の元へ辿 り着いた時は既に誰一人として の周りに人間は居なかった。






「 済みません、ありがとうございました。 」


「 …何故、七面鳥なのかね? 」


「 だって教授、始まってから一度も食事して無い様子で…七面鳥でも投げたら食べる気になるかと。 」


「 要らぬ世話だ、我輩は何も食べる気はしない。 」






何とも奇妙な会話のキャッチボールをしながら、それでもニコニコと微笑んでいる を見れば溜息を吐いて其の侭掻っ攫いたい衝動に駆られる。
しかし此処は大広間、見えては居なくとも背にはダンブルドアを筆頭とした教師陣が居る。職務放棄等出切る訳が無い。
しかし、一言会話を交わしただけでも抑えきれない感情に支配されそうに為るのは其れ程までにこの少女に心を奪われていると言う事実を示していて。我なが ら、何とも情けない立場に立たされているのかと嘆きたくなる気持ちと恋慕を必死で押し殺す。
滑稽な其の様は見ている生徒教師には伝わらずとも、こうして目の前で微笑みながら七面鳥を受け取った には伝わっているのだろうと、天使のような笑みを 浮かべた悪魔の微笑を前に溜息を吐きそうに為る。





静まり返った大広間の雰囲気が一変したのは直ぐの事。
先程までのガヤガヤと賑わっていた空気とはまた異なり、スローテンポの曲が何処からとも無く流れ始め、チークタイムが始まった事を悟る。
しかし、時間には未だ早すぎるのではないかと怪訝に思ったスネイプが後ろを振り返れば、小脇に杖を置いて何事も無かった様に微笑を湛えながら食事に有り付 くダンブルドアの姿。
きっとこの瞬間、 の手を取り中央で踊ろうとしていたであろう男子生徒が を口説いていた事は非を見るより明らか。しかし、アレだけ の周りを囲っ ていた五月蝿い蠅に似た男子生徒の中、スネイプを恐れてか脇から声を掛ける勇気と根性のある者は誰一人として居ない。






「 …我輩と、一曲どうかね。ミス


「 私に相手が務まるのでしたら、是非。 」






引き寄せた細いウエスト、回した腕でエスコートしながら大広間の中央へ。浮かび上がった蝋燭の切れ間からは、幾筋もの柔らかい暖の光と一緒に、発砲スチ ロールの欠片の様な魔法で作られた粉雪が落ちてくる。
周りの生徒もちらりほらりと曲に合わせて踊り始め、何時の間にか、 の手を取って踊っているのがあのスネイプだという事実を誰一人として気に留めなく なっていた。
否、実際はスネイプのリードが巧く、日本人の が踊りに長けている訳でも無いと言うに完璧なまでの美しい振りに眼を奪われる者は多数居る。
けれど、誰も皆一枚の肖像画を見る様な恍惚とした表情を浮べ、教師と一介の生徒が踊る等と言う常軌を逸脱しそうな光景でさえ疑うものは居なかった。
間逆に…、タキシードを着たスネイプと淡雪の様なドレスに身を包んだ の絵に為り過ぎる光景に息を呑むしかなかったと言う方が正しい。






「 スネイプ教授が…私に光りを燈してくれたんです。 」


「 光り?はて、我輩が何時お前に光り等燈した? 」






身体を思いきり引き寄せて抱き締めていると言っても過言では無いこの状況、傍から見れば抱き合っているとしか思えなくとも誰も疑問に思うものは居なかっ た。
身体ばかりか息も掛かる様な位置に顔と顔をつき合わせて、誰にも聞えぬ微かな会話をしたところで、音楽に掻き消されるように囁いた言葉はお互いにしか聞え ては来ない。
これ見よがしに二人だけの空間を堪能するかの様、あれ程 を手中に納めんと齷齪していた男子生徒達に見せつけとばかりに腰に回した腕を更に引き寄せて身 体を密着させる。
洗い立ての髪の薫りを認識すれば、愛しい程に脳裏に焼き付いた情景が消え失せる事無く蘇り、此の侭腰を抱いて自室に持ち帰りたいと浅はかな願望を殺し切れ なくなる。






「 貴方を愛しいと感じた瞬間から…消えない光りが燈ったんです。 」


「 …誠、戯けた事を。
 為らば、其の光りが消えぬ様…これからも燈し続けて遣らねば為るまい?誠、面倒な事を。 」






吐いた台詞は氷徹を超えるけれど、其の表情は普段の彼からは想像も出来無い程に至極穏やか。
の心に燈ったのが恋慕を糧とする光りなのだとしたら、同じモノが自分の胸の奥深くに潜む感情残滓全てが其れだと言えば、其の可愛らしい表情の侭笑って くれるだろうか。
言葉として伝えるには唯自尊心が強すぎて、開けば厭味に似た侮蔑を含んだ言葉しか吐けないと言うに、其れでも己の元から離れて行かない君。
安心し切った様な暖微笑の侭、引き寄せた腰を其の侭に、噎せ返るような愛しさ抱いて髪を撫ぜた。
驚き身体を引き離そうとした を無理やり押さえ込む様に抱き締めて、力ずくで捻じ伏せる様に強く固く抱いた。







「 Deep in December, It's nice to love special people like you...MERRY CHRISTMAS 」






チークタイム終了の尾を引いた様な音楽の流れに乗せて、最後にスネイプはそう囁いて抱き寄せた の小さな頭に口付けを一つ落とした。
囁いた台詞も、抱き寄せた其の一瞬も、全てが演出の一幕とばかりに誰の眼にも留まることは無かった。
一曲が終って名残惜しそうに身体を離した後も、 の淡雪の様な頬にはうっすらと紅が乗り、スネイプは其の侭タキシードの裾を翻して元の場所へ。
二人きりのクリスマスまで後数時間。けれど、 を見詰めるスネイプの瞳は先とは異なる。一足早いプレゼントを貰い受けた様な からの台詞は、何時まで もスネイプの心に灯りを燈し続けた。











後書き

クリスマスドリーム最後は王道スネイプです。
リクエストがいっぱい来ていたのですが、前からかきたかったモノもプラスアルファで「ダンスパーティ」にさせて頂きました(笑)
パーティとは言えないのですが…其れでもスネイプと二人で踊りたかったのは事実、しかも皆の前で堂々と…!!
勿論、この後二人は二人きりのクリスマスを過ごすのです…vv


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