Sweeter than all things






「 ル…ーピン…先生…? 」






開いた扉の先は粉雪を頭から被った様に全身真っ白な痴態を晒したリーマスの姿だった。
引き戸の取っ手を握り締めた侭、引き攣った笑みを見せてしまうのは仕方が無いと其の場に居た誰もが思う事。
酷く甘い薫りが立ち込める室内、鳶色の髪までもが綺麗な白髪に染め上げられた様、声に振り返った蜂蜜琥珀の瞳は苦い笑いを押し殺した様な何時もの温和な笑 みだった。
手には細かい金網が張り巡らされた粉引きのような器具、其の手奥には使われたばかりを髣髴とさせるオーブンが使われるのを待ち侘びている。
机の上には様々な材料が所狭しと並べられて、見るからにケーキやお菓子の類を作ろうとしていたのが見て取れる。
【如何やら失敗してしまったみたいでね】
小さく笑ったリーマスに、呆れた様な溜息を吐いたは閉じかけた扉を閉めると其の侭白銀の世界宛らの砂糖の世界に足を踏み入れた。





「 クリスマスケーキでも作る気だったんですか?
 ハニーデュークスとか、魔法で作るとか…もっと簡単な方法が有ったと思うんですが… 」


「 今年はどうしても自分で作りたくてね。 」


「 …クリスマスまでは後三日以上ありますが…腐らせる気ですか? 」


「 あはは、まさかそんな訳は無い。一回で作れる自信が無かったから練習も兼ねて、ね。 」






本当に屈託の無い子供の様にリーマスは笑った。
全身粉塗れになっていることも然程気にした様子もなく、寧ろ「だからどうした」といわんばかりに粉を払うことも無く再び机の上の薄力粉に手を伸ばす。
もう暫く使われていないのだろうか、戸棚の上にはリーマスが使い慣れている杖が見守る様に静かに置かれていた。
慌てて懐から杖を取り出したがリーマスを身奇麗にしようとすれど、柔らかく温かな指先が其れを制する。
【またこうなるから、いいよ】
暗黙の内にそう言っている様な気がして、少なからず状況を見る限り間違った未来予想図でも無いと無言の侭笑うと、リーマスも攣られて嬉しそうに笑った。






「 私、手伝いますね。此れでもお父さんがパティシェなんです。 」


「 …そうか、有難う。じゃあ頼もうかな。 」






心成しか、返答を返したリーマスの表情に一瞬だけ暗闇が混じった気がしたが気の所為だっただろうか。
見つけたのが一瞬だった為に追求する事も出来ない侭、は気にも留める事無く髪を結い上げて白いエプロンに袖を通す。
幾ら杖が有るとは言え、二人揃って粉塗れになるような事態だけは裂けなければ為らない。
取り敢えずは床に散乱する細かい粉雪のような砂糖も、薄力粉も、使い終わったボウルも泡だて器も全て其の侭に、まとめて最後に片付けようと新しいものに手 を伸ばした。
どうせ汚れて片付けなくては為らないのだ。手間は一度だけでいい。






「 …で、私は何をすればいいですか? 」


「え?何をって… 」


「 だって先生がケーキを作りたいんでしょう?私が作ったら駄目じゃないですか。
 私はアシスタントです。 」






大きな薄紫の瞳がにっこりと微笑みを作り上げた。
其の微笑に何を言わんとしていたかを一瞬で理解したリーマスは同じ様に微笑んでから、張付けて有った羊皮紙をに見るよう促した。
所々に様々なモノが飛んで汚れかけた羊皮紙には、リーマスが作りろうとしていたケーキのレシピが事細かに書かれていた。
誰かに聞いたものなのだろうか、走り書きのような文字は明らかにレポートの採点の際に良く見る彼の字。其れを追う様に眺めれば作りたかったのはオーソドッ クスであるけれど、一番人気のクリスマスケーキ、Buche de Noёl 。
クリスマスの薪の意を持つチョコレートをふんだんに使った其れはリーマスに似合いの一つと言える。






「 卵を卵黄と卵白に分け、卵黄に砂糖の半量を少しずつ加えながらすり合わせて…
 其れから卵白はボウルに入れて十分に泡立て、残りの砂糖を加えながら、更にしっかりと泡立てます。 」


「 此れでいいのかい? 」


「 そうです、其の侭泡立てて下さい。 」






其れから、の教授によるリーマスのクリスマスケーキ作りが始まった。
元々器用なリーマスと、お菓子作りにだけは長けるとのコンビネーションは最強其のモノで、何故自分が戸惑っていたのかが判らない程作業は順調を極めて 行った。
はリーマスの書いた羊皮紙のレシピを音読する様に教えているだけで、リーマスと言えば先ほど自分独りでしていた行為と何等変化は無い。
其れでもボウルの中の卵白はツンと角が綺麗に立ち、半場諦め掛けていた生クリームは酷く柔らかにふっくらと泡立っている。
レシピを必死で眼で追っていた先とは異なり、耳から流れてくるの言葉一つ一つで自然に身体が動き、僅か数十分も経たない内にオーブンに火がくべられて 芳ばしい香りを放ちながらスポンジが焼かれる。






息を吐く暇さえ無く、其の足でデコレーション用のチョコレート作りに取り掛かった。
生クリームをトロリとするまで泡立て、湯煎で溶かしたチョコとラム酒を加えると柔らかく高貴な薫りが部屋一杯に広がった。
小指の先で少しばかり掬い上げて咥内に招き入れると途端にビターとスウィートが入り混じった様な何とも言えないほろ苦い感覚がいっぱいに広がって。
何度も口に運んでは嗜みたい気持ちに駆られるけれど、行使してしまえばデコレーションするモノが無くなってしまうとが可笑しそうに笑った。
詰る所、こんなにもスムーズに事が運んだのは傍で笑いながら、何の事は無いケーキ作りを手伝ってくれるの存在があったからで。







「 凄いおいしそうですよ、ルーピン先生…! 」


「 あ、あぁそうだね、じゃあ切って見ようか? 」


「 駄目ですよ、此れは誰かに上げるものですよね?
 だったらその人に一番最初に食べさせてあげて下さい、ルーピン先生のケーキ。 」






好きだと自覚したのは、もうどれ位前の事だっただろうか。
気付けば目で追っていた、声を掛けて二三授業以外の他愛無い話をしてから坂道を転げ落ちる様に溺れて行った。たかが一介の女生徒に。
彼女がと云う名を持つ名門家の一人娘だという事実を知ったのは其れから暫くの事で、母親が魔法省高官、父親が生粋の腕を持つパティシェだという ことも知った。
母親譲りの容姿に父親譲りの聡明さと器用さを兼ね備えた少女は、スリザリン寮に所属しながらも今でさえ【グリフィンドールの間違いではないのか】と言われ る事すらある程。




彼女がBuche de Noёlを好きだと言っていた話を聞いたのは本当に偶然。偶々見かけた大広間前の大きなクリスマスツリー、その下で友人達と愉しそうに談笑していた際に零 れ落ちた言葉。
其の日から、クリスマスにケーキを焼いて彼女に上げたいと大人になった今でそんな子供みたいなことを考えてしまった自分に笑いが起きる。
其れでも、自分に出来る事で彼女が喜びそうな事と言ったら其れ位しか思い浮かばないのが実情。
ケーキ一つくらいのプレゼント、拒絶される事は無いだろう、要らなくても彼女は律儀に受けとって友達に分けるだろうから。今の自分には、受け取って貰える だけで、其れだけで充分過ぎる位。






「 どうぞ、手伝ってくれた御礼だよ。 」


「 で、でもこのケーキ… 」


「 私は一番最初に…君に食べて欲しいんだよ、。 」






無言の侭切り分け差し出したケーキと共にファーストネームを呼べば愕いた様に瞳が丸くなった。其れから数秒と経たない内に其の可愛らしい表情に紅が混じ る。
の思考回路が一気に全てを結び付ける。
ケーキを作っていたのは誰かに食べさせる其の為で、其の誰かに一番最初に食べさせてあげてと言えば、リーマスは其の相手に自分を指名した。
だから一番最初、手伝うと公言したに一瞬だけ暗闇を落としたのだ、彼は。
全身粉塗れになりながら、幾度と無く失敗を重ねたであろう其の光景を目の当たりにしているだけに…どうしようもない位の幸福感。全ての糸が一本に繋がった 気がして、気付けば気付いただけ物凄い恥ずかしさと嬉しさに身体が悲鳴を上げた。






「 …クリスマス、ケーキを焼く予定なんだけど…手伝ってくれるかい? 」


「 其れは…出来上がったら私にも食べさせてくれるんですか? 」


「 勿論、其の後のディナーにも付き合ってもらうよ。 」






砂糖の粉雪が降る教室の中、粉塗れになったリーマスが柔らかくを其の腕の中に抱き締めた。
三日後、粉塗れになる事無くリーマスとが二人でBuche de Noёlを作る姿を見たものは誰も居ない。
けれど、珍しく大広間のクリスマスディナーにリーマスとが出席して居ない事は多くない人物が認める事と為った。









後書き

クリスマスドリーム第二弾は久し振りなリーマス。
これまたアンケートの中に「リーマスとケーキを作る」と言うリクがあったのですが…二人仲良く恋人同士vで作らせたほうが良かったですかね(汗)?
個人的にもリーマスはケーキとか独りで作れそうなイメージ有るんですが…粉塗れにしてみたかった、というのも一理あったり…(苦笑)
クリスマスはやっぱりブッシュ ド ノエルですか?稀城は相も変らず苺のショートですvv(笑)


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