生まれて初めて芽生えた胸を掻き乱される様な感情を愛と呼ぶのならば、其れも悪くは無い。
誰にも見付からぬ様に魔法を施した空の写真立に映る微笑んだ君。
【好きな花は何?】と問うた君に、偶々読んだ本の題名に使われていただけの適当な花の名を告げれば、翌日彼女は両手に抱えきれない程の花を抱えて部屋に 遣って来た。
抱えた花の姿を、其の時初めて僕が知った事なんて知りもしないで彼女は唯笑った。
その笑顔が愕く程綺麗で、哀しい程美しくて、僕は息をする事も忘れた様に唯タダ真っ直ぐに彼女を見て笑った。
確かにあの日、僕は笑ったんだ。






through all eternity







「 リドル、スノードロップの花言葉って知ってる? 」


「 いや…僕が好きなのは【花】で、花言葉じゃないからね 」




視線を落とした侭、その花の名の小説を読み更けていた矢先、 が表情を伺う様に問うてきた。
窓辺から差し込む柔らかな光りが、花瓶の中に生けられたスノードロップに反射して白熱灯の光りの様に姿を変えた。
昼も過ぎ去った午後の折、分厚い本を抱えて貪る様に其れに没頭していた が「あっ…」と愕く様な小さな声を上げたのを僕は無視した。
どうせ何時もの他愛無い事に過ぎないと、その時は其の侭 に向き直るまでも無く唯自分の時間を優先して。




「 私…、あのお花、リドルにあげた訳じゃないから 」


「 …?如何言う意味? 」


「 さっき調べたの。スノードロップの花言葉。
 そしたらね…【希望】と【秘たる初めて恋】って書いてあったの。
 そして…この花を贈り物にするとね---- 」



【あなたの死を望みます】って言う意味になるの。





酷く申し訳無さそうに言った の瞳には、うっすらと透明な雫が見え隠れしていた。
僕が好きだと言った此花の意味を彼女が如何して調べ上げたのかは判らない。
けれど、あの時吐いた落胆の溜息の正体が此れだったのだとしたら、 は物凄い後悔の念に襲われていたのだろう。
幸せを呼ぶ花として伝承され、正月の前に、スノードロップの花を見た人は、翌年の幸福を約束される。
そんな謂れを持つ花の隠された真実の花言葉に触れた は、如何仕様も無く心を病んだ事だろうに。
同じスリザリンで有りながら、ハッフルパフやグリフィンドールに所属しても可笑しくない位に真っ直ぐで真っ白な心を持つ少女。
軽蔑嫌悪とも取れるその意を込めた花を僕に贈った等と…気に病む事も無いだろうに。




「 リドル…本当、ごめんなさい。 」


「 大丈夫だよ。所詮は花言葉…僕には関係無い 」




言えば はあの日と同じ様に柔らかく笑んでくれた。
風に吹かれてヒラリとスノードロップの花が一枚、宙に舞って地に伏した。
スノードロップの花言葉。
希望は兎も角として、【秘めたる初めての恋】は合っている様なそんな気がした。
嘲笑ってしまう位に馬鹿げた感情だと、己に言い聞かせても止まる事の無い君へのこの感情を愛情と呼ぶのだとしたら、其れは間違いなくあの日花を抱えた君を 見たからだろう。
今では当たり前の様に僕の傍らで微笑む を、この先手離す事等出来るのだろうか。
が傍で唯微笑んでくれていればいい、そんな稚拙な事すら平気で考える様になってしまい。



風に凭れる様に身を預ける花を見て、傍らで静かに本を読む を瞳に映す。
紅蓮の瞳に真っ直ぐに漆黒の瞳が映り込む。
如何する訳でもなく唯静かに笑んだ に、心が安堵の溜息を漏らす。




「 スノードロップ…僕は益々好きになったよ。 」


「 如何したの?急に… 」


「 何でも無いよ。何でも…無い 」




微笑む君が居なくなったこの世界なんて、僕には何の意味も齎す事は無いだろう。
穢れただけのこの世界、其れでも君が笑って居てくれるのだから、僕はもう少しだけ生きていようと思う。
君が居るから、唯其れだけ。
スノードロップが教えてくれた君への恋愛感情は、何時の日にか最愛の君へのサヨナラの宣告になるだろうか。
もしも君をこの手で壊してしまう様な日が来るのだとしたら、如何かどうかお願いだから僕から離れて行って欲しい。
心から笑う事を教えてくれた君を、悲愴の中に沈める位ならば僕は喜んで君を手放すだろうから。
スノードロップの花に抱きすくめられる様に横たわる君を視界に入れたくは無い。




「 …ル……リドル…! 」


「 あぁ、ごめん、ちょっと没頭していたみたい。如何したの? 」


「 相変わらず熱心だね。夕食の時間だから、もう行こう? 」




その笑顔が愕く程綺麗で、哀しい程美しくて、僕は息をする事も忘れた様に唯タダ真っ直ぐに彼女を見て笑った。
確かにあの日、僕は笑ったんだ。
夕暮れ時、茜色の空が泣叫んだ様に視界に映り込んで僕を乱反射する。
空の写真立には、あの日のスノードロップを抱いた君が其処に居る。
微笑んだ君を見詰めて、同じ様に笑んだ。
僕を見詰めてくれるのは君だけでいい。

例えこの世界を暗黒の渦に沈め様と、誰に恨みを買おうと其れでも僕はこの世界で君が笑ってくれていれば其れでいい。
そう思ったんだ。
だから…、生涯君にスノードロップを贈る事は無いだろう。
例えどれだけ遠く離れて居ようとも、君には唯、微笑んで幸せで居て欲しいのだから。















後書き

花籠さんに捧げさせて頂いた夢です。
かなり久し振りの投稿になってしまったのですが、お題の花言葉を聞いた瞬間に浮かんだリドル夢。
学生時代の夢と言う設定で書いたのですが…リドルやはり難しい。
未だ嘗て無い程にネタが浮かんでしまったので投稿させて頂きました。
因みに、スノードロップに隠された花言葉【貴方の死を望みます】は本当なので、贈り物にする時には気をつけて下さいね。




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