星に願いを







魔法界内が浮き足立った様な雰囲気に包まれて、黒と橙の二色で飾り付けられる。
所狭しと飾られたjack-o’-lanternから発せられる柔らかな光りは、全てのモノを橙色に染め上げて一夜の政を繰広げるかの様に包み込む。
子供達は其々思い思いの仮装に身を包み、温かなjack-o’-lanternを手にとって近所を回りながらお菓子を貰う。
ハロウィンに仮装をするのは、その昔、悪霊を恐れた人々が霊に取りつかれないように夜外出をするときは恐ろしい衣装を身に纏いい自分もお化けの振りをしたり、逆に霊を脅かしたりしたのが始まりだとそう云われている。
またお菓子を強請るのは、悪霊が家の中に入らないように、家の前にボールに入れた食べ物を置いた事に由来していると言う。
郷里で読んだ本の中だけの世界で在った筈のハロウィンは、ホグワーツに来てから実際に経験する事に為るとはも思ってすら居なかった。
漆黒の闇夜にぼんやりと浮かび上がるオレンジの光りは柔らかくを照らし出すも、はその表情に暗く陰を落したまま。











「 ハリーは…お父さんとお母さんに逢えたのかな… 」











ハロウィン…其れはキリスト教の万聖節(AllSaints'Day、あらゆる聖人を記念する祝日)の前夜祭。
古代ケルト民族にとってこの日は大晦日に当たり、1年の収穫に感謝する日。
また、この夜は日本で云う所ののお盆の様に死者の魂が蘇り、家に舞い戻ると言われて居る。
思い出したくも無い、ハリーに聞かされた忌わしきハロウィンの出来事をは忘れては居なかった。
忘れられる筈が無かった。
が今この暗い屋敷に幽閉されているが如く暮らしているのは、魂諸共心までも「例のあの人」に奪われてしまったから。
友情と愛情の狭間で思い悩んだ末に殺ぎ落としてしまいそうになったこの命を救ってくれたのは紛れも無い彼その人。
世界を闇に沈める為ついに復活を成し遂げたヴォルデモートに心を奪われたは、其の時既に己をも闇の世界に沈めて貰っても構わないと思ったのだろうか。
真意は未だに判り切れて居ぬままでは有るが、望んで此処に居ることだけは紛れも無い事実。











「 …様、夕食を此方に置いておきます故…冷めぬ内にお召し上がり下さい 」



「 有難う。良かったら貴方も一緒に如何? 」



「 その様な恐れ多い事は…。時期に主様がお戻りになります故、暫しのご辛抱を 」











テーブルに置かれたのは、コーンスープにパンプキンパイ、更に柔らかく焼き上げられたパンに彩り豊かなサラダ。
運んできたのはこの城に使える死喰い人でもあり、の身近な世話係として良くしてくれている女の従者。
名も知らぬ女の従者故、年齢等問うた事も無い故に察する事しか出来ないけれども、その柔らかくて綺麗な声から判断するにと沿う歳も離れていないだろうと思われる。
この城と主、ヴォルデモートに使える従者達は皆良い人達ばかりであるとこの城に来て初めては知った。
今宵の暗黒城をやんわりとオレンジ色に染め上げるjack-o’-lanternの飾りや、主の生誕を祝うかの様なハロウィンに詰った飾り付けを施したのは全て死喰い人でもある従者達。
勿論も手伝おうとしたので有るが、日本という東洋の国で生まれ育ったにとってjack-o’-lanternを作成したことすら皆無。
ナイフで南瓜を切り抜く作業ですら初めてと言うに、怪我でもさせようものなら主の壮絶な激怒が飛ぶと判り切っている従者達は一斉に其れを止める。
更に、日常でもと滅多に会話することを許されていない従者達とのコミュニケーションは殆ど無いと言ってもいい。











「 死者の魂が蘇る日、Halloween… 」











熱々では無いけれども決して温くも無い丁度良い温度のスープを喉奥に落としながら、は昔見た絵本の中に描かれていたハロウィンの一節を口に出す。
この日は魔力が最も満ちる日とも云われ、其れを助長するかの様な出来事も厭と言うほどこの耳に入れてきていた。
魔法使いでも有るではあるが、己の魔力が更に増大するという経験をした事は今までに一度たりとも無く如何やら根っからの魔法使い等にしか効力を成さない物なのだと気付く。
だからだろうか…今日、の愛しいあの人はこの城には居ない。
昨夜共に眠ってからが重い瞼を開いた僅かな時間の間から、今の今までヴォルデモートはこの城を留守にしていた。
何処で何をしているのか、想像したくなくても容易に想像がついてしまう。
愚かな事に…、其れでもヴォルデモートの傍に居たいと願う浅はかな己が此処に居る。











「 如何した、罪の意識にでも苛まれていると言うか? 」











気配も音も存在を証明する様な事象は一切何も無く、突然空を破った様に言葉が降りて来た。
ソファーに腰を落して詰まらなそうに食事をするの後ろに廻り込む様に気配を現した彼は、そのままを後ろから抱すくめる様に腕を回して白い項に口付けを。
柔らかく薫るヴォルデモートの香りに混じって、普段とは少々異なる異質な香りが鼻を付いた。
厭味な程に噎せ返るな赤褐色を想像させる血の薫りではなく、もっと柔らかくて仄かに甘い…例えるならば砂糖菓子の様なそんな香り。
其れに驚きを隠せないは、指先に置いたスプーンをテーブルに戻して手を付け初めたばかりの食事も早々にヴォルデモートに向き直る。











「 お帰りなさい。酷く甘い薫りがするんだけど…砂糖でも被ったのかしら。 」



「 馬鹿な戯言を。何処の世界に好き好んで砂糖を被る者が居る。
 幾らHalloweenだからと言え、その様な痴態を晒して如何なる。 」











柔らかく笑み、其の後に笑いを堪えきれないと言う様な感じではヴォルデモートに沿う声を掛けた。
表情を崩すことの無いヴォルデモートはそのままを抱えあげ、其の腕に抱く様に抱えなおすとが腰を落していたソファーに自ら座る。
子供を抱く様に己の膝にを座らせたヴォルデモートは、漆黒のローブの懐に手を差し入れて絹の袋に入った何かを取り出した。
其れは、上部を紅い紐で結えてある真っ白い絹の袋であり、気の所為か先程の甘い香りはこの袋の中から薫って来る様な気さえする。
不思議に思いながらその袋を見詰めていれば、ヴォルデモートはその袋を静かにに手渡した。
ふっくらと柔らかい感触を想像していた其れは、思った以上に頑丈な袋で有り多少の重みがある。
解く様に紐を指先に絡めて引っ張れば、結えられていた袋の口がぱかりと開いて途端に甘い薫りが香袋の様に溢れ出た。











「 …土産だ。 」


「 有難う、ヴォルデモート。
 貴方が巷でお菓子を買うなんて誰が想像出来るかしらね。 」


「 お前が買って来いと言うなら、この世界であろうと手に入れて見せる。 」


「 貴方なら本気でやりそうね。
 最も…私が望まなくても貴方は世界をその手中に納めるのでしょうが… 」











その言葉に、ヴォルデモートは厭味な程に柔らかい笑みを浮かべた。
否定も肯定の言葉も述べる事無く唯笑んだだけの彼に、も同じ様に柔らかい笑みを浮かべると空いた皿に貰った菓子を入れる。
袋の後ろを持って一気に中身を流し込んだ矢先、見慣れない一つの欠片の様な物が一緒に零れ落ちて来た。
如何見ても菓子には見えない其れを不思議そうに指で摘みあげたは、其の感触から余り馴染みの無いモノを連想する。
色とりどりの菓子に混ざって入れられていた其れは、明らかに皿に移した時には異色の存在感を放ちながらザラザラとした感触をの指先に伝えた。











「 …硬くなった…パンの耳…?? 」



「 Halloweenの夜、星を見ながら凝固したパンの皮を寝る前に食べると願いが叶うと言う。 」



「 願い…?そんな話、初めて聞きましたよ 」



「 なに、昔聞いた寓話の一つに過ぎぬ。
 お前がそう云う趣向を好む故一緒に持ってきただけの事。要らぬなら構わぬ。 」











そう言い、横からパンの耳を取り上げようとしたヴォルデモートの指先を避けるようには其れをポケットに仕舞い込んだ。
ヴォルデモートの云う様に其れが本当に単なる寓話にしか過ぎなくても、然程重要な事ではない。
問題とするべき処とは、あのヴォルデモートがの為に何かをしたという事実。
引っ手繰ってきたのか殺人を犯して来たついでに取って来たのか買って来たのかは定かではない。
けれども、子供が親の帰りを待ち侘びる様に一人暗い部屋で己を待ち続けるの為に、ヴォルデモートは土産と称して元来が好んだ菓子だけを調達してきた。
死喰い人は然程動じないだろうが、彼を恐れる世の人々が「唯一人の小娘の為にヴォルデモートが土産を携えた」と知れば腰を抜かす所の騒ぎでは済まされない。
けれど其れは現実に今此処で起きている。
そうして更に事態は可笑しい方向に転がって。
何かを揶揄したかの様に、ポケットに入れたパンの耳を取り出したは、指先で其れを二つに折って欠片を一つ増やすと片方をヴォルデモートに差し出した。











「 はい、コレは貴方の分。 」



「 …私は要らぬ。 」



「 でも、もう二つになっちゃったし…二つも願い事無いし。 」



「 為らば同じ事を二回願えばいい。
 一つの物を二つに分割したのだから願い事の効力も薄れるだろうに。 」


「 じゃあ、私の願いが叶う様に願って下さい。 」











ね?と微笑まれてパンの耳を渡されたヴォルデモートは最早突っ返す訳にも行かない状況下に置かれていた。
仕方無しに其れを受け取れば、は酷く嬉しそうに笑んで見せる。
思わず見とれて仕舞いそうなその微笑みに表情を崩しかねない状況の今、己の気を紛らわせる為にヴォルデモートは中途になったままのスプーンに手を付ける。
自分の食事の事等一切忘れ去っているを促す様に食事をさせながら、ヴォルデモートは瞳の片奥で欠片のパンを見た。
たかがパンの皮に何を願えと言うのだろうか。
こんなモノに何かを願って叶う位ならば当に己の願い等叶うだろうと自嘲した。
其れでも嬉しそうに笑む愛しい者を膝に抱いて、ヴォルデモートは暫く考えた。
は一体、何を願うのだろうかと。











「 お前は何を願う? 」



「 私ですか?其れは勿論秘密です。 」



「 ほぉ…この私に隠し事とは随分と肝の座った事をしてくれる。 」



「 私の願い事なんて、貴方に出会った時から揺らいでませんから。 」











瞬間、一瞬だけ其の願いとやらをは脳内で描く。
魔力が最も満ちる今日この日、ヴォルデモートがの脳内を覗く事は普段よりも造作も無く簡単な事で。
悪意を持ってした事では決して無いけれど、会話をする様に自然に流れ込んできたの感情はストレートにヴォルデモートの脳内へと届けられる。
一体何を彼女は願ったのだろうかと沸々と過っていた己の予想案と比べるのが楽しみだとそう思う。
大方、世界の平和や己の遣らんとしている事を改める様に祈るのだろうと。
若しくは冒頭の呟きの様に、忌わしきポッターの息子がポッター夫妻と逢えるようにか。
いずれにしても叶う事の無い願いだと自嘲しながらその時を待つ。
しかし実際は、其の中のどれにも値しなかった。











------ヴォルデモートが幸せで居られます様に。











「 如何したんです…?愕いた様な顔をしてますよ。 」











純真無垢な少女は、己の脳内を覗かれた事も知らずに柔らかく笑む。
そうしてそのまま手に付けた食事に視線を移すと「貴方も一緒に食べませんか?」とそう告げた。
冷め切ったスープは既にその温かみを欠いてはいるけれど味は格別な物であることは間違い無く、同じ様にパンプキンパイは冷めてもその美味さを失ってはいない。
有無を言わさずに差し出されたパンプキンパイを口に運べば、「美味しいでしょう?」と再びが笑む。
さらりと流れるその柔らかい髪を撫でてやれば、が擽ったそうに身を捩るも嬉しそうに身を捩る。
誰が想像したであろうか、この優しさに満ち足りた時間を過ごすヴォルデモートはその腕の中にを抱きながら先程渡された欠片を視界に入れた。











------が幸せで居る様に。











Halloweenの夜、ヴォルデモートがそう願った事は誰も知ることは無い。














後書き

Happy Halloween…!!

今回、有り難くも素敵な企画「かぼちゃ祭り」に誘って下さったDahliaさん、chieshaさんに捧げさせて頂いた夢です。
ハロウィン企画に向けての夢と言うことで、誰を書くか非常に迷ったのですが…やはりHalloweenと言えばVoldmortでしょう!!と勝手に勘違いした私は彼で夢を書くことに(笑)。
Voldmort=悲恋と言う方程式が結び付きそうだったんですが、最後の最後で甘めに。
因みに、「Halloweenの夜、凝固したパンの皮を寝る前に食べると願いが叶う」と言うのは古くに伝わる寓話の一つだそうです。
この話を聞いた瞬間、真っ先にVoldmortで夢を書いてしまいました(笑)。




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