甘い罠







呼び止める友達の声も外出届を差し出した際に声を上げたマクゴナガル先生の声も聞こえないふりをして、私は箒に跨ってホグワーツを抜け出した。
向かう先は、胸元の封筒の中に書き込まれた先であるホグズミート。
ハロウィンの為に仮装した生徒達が好奇の瞳で空に舞うを見る中、淡い色のローブを翻したは目も暮れずに一気に高く舞い上がる。
ちらりと後ろを振り返ってみても、幸いな事に追いかけてくる者は誰もいない。
折角のハロウィン。
如何してホグワーツの中で過ごさなければ為らないのか、と常々思っていたにとって、恋人からの誘いは絶対のものに変わる。
初めこそ、ハリーに透明マントを借りてこっそり抜け出そうかとか、皆みたいに仮装して自分だとバレ無い様に抜け出そうか等思いつく限りの案を出して見たがどれもすぐさま却下。
折角のハロウィンだからこそ、仮装した姿は愛しい人にだけ見せればいい。
何とも筋の通らない意見を押し通したは、風を背に浴びながらも己の仕出かした事態の大きさに今になって少しばかり後悔する。











「 …うーん、こんなに人が多いとは思わなかった。 」











ホグズミートに着いて直ぐ、余りの人の多さには頭を抱えてしまう。
今日がハロウィンとも有って、様々に仮装した人達でごった返し状態でありその人の数も今日ばかりは無駄に多い。
ホグワーツの制服を着ていれば一発で見つけて貰えるだろうが、確実に学校がある日である今日はそんな事をする訳にはいかない。
彼に逢う前に見す見すホグワーツに強制送還されたら其れこそ此処まで来た意味が無くなってしまう。
の本日の服装は、黒のふわふわな毛素材の縫い包みを着た様だと言えば的確だろうか。
ハーマイオニーがご丁寧にも其処に耳と尻尾まで付けてくれたのだから、コレは最早猫の着ぐるみを着ていると言っても可笑しくない。
そして一番可笑しくないのは、そんなが平気で其処に居てもそれ以上の物凄い仮装の人が此処に多数居ると言う事。











「 さて、どうやって見つけようかな… 」











見渡す限りに人の山。
しかも、ドレもコレも顔が見える様な仮装をしている人ばかりではなく、男か女かすらの区別すら困難な人も多い。
この中から唯一人
−しかも、仮装をした人間を探し出すというのは事の外困難を極めるばかりで。
いっその事、待ち合わせ場所や仮装の服装を予め伝えておけば良かったとこの時になって後悔すらする。
魔法使えば何とかなるだろか…と思った矢先、突然浮遊感に包まれて足が地面から離れた。
変質者にでも捕まったのかと身を縮込ませて瞳を閉じる。
しかし、そのまま抱き上げられた様に柔らかくて温かな温もりが身体を通して伝わり、耳元を甘い声が掠めた。











、待たせてしまったな 」



「 ルシウス…!!変質者だったら如何しようかと思った… 」



「 変質者とは失敬な。
 この様な場所に立っていれば”攫って下さい”と言っている様なものだ。 」



「 …私、そんなに目立つかな?
 私はこの人込みの中、ルシウスを見つけられなかったのに…良く私を見つけられたね。 」



「 …仕草が普段のと相違無かったからな。遠くからでも一目で判った。 」











ルシウスはそのままを腕に抱えるように抱き上げ、人の往来の激しい道を唯歩いた。
確かにこの状況ならば、背の低いの手を引いて歩くよりも抱き上げた方が楽であろう。
逸れてしまう心配も無ければ、横から掻っ攫われる心配も無い。
も普段中々逢えない恋人との逢瀬に嬉しさを隠し切れないのか、その細い腕をルシウスの首に絡める。
仮装することが大前提のこのハロウィン、とルシウスが公然と恋人同士としてその道を歩くことが出来る唯一の日かも知れない。











「 ルシウス…この格好ってもしかしてDeath…? 」



「 もしかしなくてもそうだ。
 scythe(大がま)でも持った方が其れらしかったか?
 この服装だけでも充分に考慮したつもりだが… 」











似合って無いか、と尋ねられ、は大きく頭を振って否定した。
抱き上げられて初めてその衣装に気付いたでは有るが、この位置から見ただけでも其れは酷くルシウスに似合っていて。
フードの着いた帽子ローブの様な独特の黒衣衣装を纏ったルシウスは、顔が見えぬ様に敢えて深くその黒衣を被るも、さらりと流れる銀糸と時折覗く切れ長で蒼青の瞳が酷く綺麗で。
感嘆の声を上げそうな程に美麗な死神が、黒い子猫を生贄として捕まえた様なそんな画として通行人の瞳に映るであろう。
実際、この美麗な死神に瞳を奪われる者は多い。











「 さて、。何か一つ重要な事を忘れていないか? 」



「 …、Trick or Treat!」



「 何をお前にくれてやろうか。 」











美麗な死神が、内に秘めたる感情を押し殺した様に微かに哂う。
其れは酷く綺麗でもあり同時に背中に冷たい何かを走らせる程の効力を持った冷笑と化した。
妖艶さを黒のヴェールに押し隠した様にして偽の姿を晒しながら歩くルシウスは、正に本物の死神も吃驚な程に似合っている。
冷酷な死神が本能を覆い隠して無邪気な子猫に哂い掛けた。
そんな御伽の世界の物語が此処では日常で繰り広げられる。











「 んー…、やっぱり甘いお菓子をくれるのが一番妥当だと… 」




「 では最上級の菓子をくれてやろう。
 今日はホグワーツには帰れないと思った方が良い。 」



「 え、ちょっ…ルシウス!
 私外出届は出したけど外泊届なんて出してない…!! 」



「 構うことは無い。事後処理等私が如何とでもしてみせる。
 それに、お前が最初に私に聞いたのだろう?Trick or Treatと。
 よもや…己の発言に責任を持てぬ歳でもあるまい?
 さぁ、選びなさい。Trick か Treatか 」











最上級の麗な表情を見せたルシウスのその甘美な声が、耳元を擽って脳内に駆け抜けた。
絶世の美麗な死神が言い放つ究極の飾詞は、無邪気な子猫を黙らせる。
人が何人も往来するその中で、の瞳を真っ直ぐに視た淡蒼の瞳はそのまま先が見えるかの様に人と人との間を縫って進む。
蛇に睨まれた蛙の様に身を強張らせて動けぬは、如何にも己が騙されている気がしてなら無い。
Halloweenとは、子供が大人に甘いお菓子を貰う日で。
くれなければ悪戯しても大人は文句を言えない日で。
は子供で、ルシウスは大人で。
如何思考が頑張っても正しいのは自分の筈で、選択権を与えられるのはルシウスの方で。
何かが可笑しい、何かが間違っている…そう示唆するも、この蒼青の瞳に捕えられた瞬間に逆らう事すらも不可能なまでに魅せられる。











「 …是非、Treatで…。 」




「 結構。では、行こうか。
 最上級の甘い時間…其れが私の贈る Treat だ 」











妖艶に微笑む死神に魅せられた子猫は、もう既に後戻りは出来ない状況下に置かれていた。
暮れ行く茜色の太陽に背を向けて、正反対の空から柔らかな光りを持った月が昇り始める。
暗闇の世界に身を置く死神の治める時間が、もうじき幕を開ける事と相成る。

後日、ハーマイオニーにこの日の事を聞かれたは、唯頬に紅を引いて俯いた侭だったと言う。












コメント

Happy Halloween…!!

と言うことで、友美さんが主催される同盟サイトさんの企画夢に参加した際、書かせて頂いた夢です。
大元を友美さんが考えられて、分岐形式で展開する夢という事だったので、シチュエーションを被らない様場所を「ホグズミート」にし、キャラもルシウスという超絶マイナーキャラにした訳ですが…(苦笑)
ルシウスに死神の衣装を着せたら似合うだろうなぁ…という発想から生まれた今回の夢。
大人が子供に「Trick or Treat」を選ばせてもいいじゃない?というだけの夢だったのですが、少しでも楽しんで頂けたら幸いです。
最後になりましたが、参加を快く引き受けて下さった友美さん、本当に有難うございました。



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