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酷く不快だと知っていた。故に、触れれば如何なるか…唯、興味が湧いた、其れだけ。
帰路
幾千粒の氷を高度から垂直落下させた様な雪が、バラバラと音を立ててホグワーツの屋根の 上で轟音に近い音色を奏でていた。
全てをモノクロ色に染め上げていく様な暗雲に覆われた空は、今朝から晴れ渡る事無く太陽の光りすら鎖した侭に、乳白色の雪だけを降らせ続けている。
完全寮制度のホグワーツに於いて、天候を理由に授業が休講になる事は滅多に無く、飛行術の授業でさえ魔法を使って無空間を作り出して野外授業を遣る程。生 徒も教師も天候等に左右されるという慣習自体が無かった。
冬に悪天候が続くのは仕方の無い事、判りきって居るとは言え完全暖房が施されているわけではない為にやはり吹き抜けの外と繋がった廊下は氷点下を軽く超え る。
そんな日に限って、廊下を通らねば為らぬ授業が有るのは何とも都合が良すぎる不条理な話。大方、【最悪の授業】と呼ばれて居るであろう己の魔法薬学の講義 を終えた我輩 は、吹き抜けの廊下を抜けて自室に戻る途中であった。
「 、大丈夫?ちゃんと前、見えてる? 」
「 風に煽られて凄いふら付いてるよ。 僕がの分まで運んであげるよ? 」
「 だいっ…じょうぶ。 」
大丈夫な訳が無いであろう。
客観的に見える図は、先程迄厭々我輩の講義を受けて居たグレンジャー、ポッター、そして大鍋と言った処であろうか。
声の主から判断するに、彼等と普段行動を共にしているが大鍋を持っているのであるが、残念と言うべきか当たり前と言うべきか我輩から少女の姿は見えて いなかった。
距離が離れている所為で妙な遠近感が生じてしまっている故かもしれぬが、其れでも真正面から見た情景図は【グレンジャー、ポッター、大鍋】に相違無い。
今日の魔法薬学の講義は、雪の結晶と結晶薬草を使った薬学で有った為、全員ローブを着込んで外で講義を行った。勿論の事、風邪等引かれては此方の監督不行 き届けと為る為に魔法を使って無空間を作り出した中で講義をした訳であるが。
丁度先刻終えたばかりの魔法薬学、授業準備は我輩が魔法で行ったが、片付けまで面倒を見てやる気は更々無い。
各人が自分の使用した大鍋を魔法薬学教室まで持ち帰れ、と言った瞬間凍る空気もお構い為しに講義終了の旨を言い放った。
中庭から魔法薬学教室まではさして距離も無い為に、大鍋とは言っても3年である彼等にしてみれば大した苦にも為らぬ筈だと鷹を括っていた。
片付けを告げた際、ほぼ全員が表情に悲愴やら苦悶を浮かべはしたが、大きさの割りに重量の無い其れを渋々持ち上げて中庭を後にする。
しかし、実際は例外と言える人物が独りだけ居る事を事欠いていた。
「 で、でも…今度突風が吹いて来たら貴女大鍋と一緒に吹き飛ばされるわよ? 」
「 じゃ…あ、突風が吹かない様、に祈って…ッ 」
大鍋を抱えたと言うよりは、大鍋を必死で抱き締めている少女、・はグリフィンドールに所属する東洋出身の魔女であった。
東洋とは云え純血魔法一族に生まれた少女は、勉学も魔法も優秀とは云えないが劣等とは程遠い位置に居り、苦手厄介者扱いされる魔法薬学では非常に長けた成 績を残している。
しかし名門家の独り娘でも在るは、父親よりは母親に酷く似ていて端麗な容姿や人当たりの良さを全て、模写した様に遺伝として引き継いでいる。故に一 つだけ、現在が抱えている問題と云うか持って生まれた宿命と云うか本人にしてはコンプレックスにさえ為っている事が有る。
問題は母親譲りの其の身長、同年代の少女に比べると年齢が数歳下に見える程、の身長は小さかった。甘く見積っても150cm…有るか無いかの瀬戸際。
身長に見合わせた様に、の容姿は美麗である母親に比べ可愛らしいという表現が似合っている程、小さな顔に大きな薄紫が一層際立って居る。
ホグワーツ1年生用のローブでも大きい気がするのローブは特注のものらしく、身長の高い男子生徒や上級生の横に並べば其れこそ歳の離れた妹にしか映ら ない。
我輩でさえ、組み分け帽子の儀式の際に初めてを見た瞬間は、入学前の生徒が紛れ込んでいたのかと勘違いした程。
身長の小ささの為、本来ならば大した苦にも為らない大鍋はへ強大な障害と為って牙を剥く。抱えれば己の身長よりも高さを増してしまう大鍋は、横から吹 き付ける雪を伴った突風を正面から受けて毎大きく左右に揺れていた。
「 やっぱり僕が持つよ、ほら、割ったりしたら後から… 」
「 大丈夫だっ…て、其れに、ホグワーツ特急が踏んでも壊れなさそう…だし 」
ふらりふらりと風に煽られながら、大鍋が此方に向かって来る。出来るだけの風を左右に散らしてやろうと目論むポッターとグレンジャーがの両隣を囲い、 ポッターはの大鍋を何とか一緒に持って遣ろうと声を掛けるが尽く拒否された。
はホグワーツに入学して以来、己の背丈の事を理由に他者からの助けを借りる事を尽く嫌悪している事は、暗黙の了解の様に我輩の耳にさえ入る程誰もが熟 知している事であった。
歳相応に見られたいとか、身長を理由に特別扱いはされたくない、が頑なに拒絶するのは大方そう言った類の理由からであろう。
況してや、小さな身体に大きな物を一生懸命運ぶ其の様、普通の女子生徒よりも大分幼く見られがちなは其れだけで【可愛い】と男子生徒が口々頭を垂れ る。 所謂、黙ってても護って遣りたくなるタイプに属していた。
しかし当の本人といえば、其れを酷く毛嫌いし不快にすら思っており、出来る事ならば其れ相応の身長に為りたいと一度本気でそんな薬は作れないのかと我輩に 懇願してきた事を記憶している。
現に今も、傍らを通り過ぎるスリザリンの男子生徒が大鍋を必死に抱えて歩いているをちらりと見ては、【持ってあげようか】との言葉と共に【何かの切っ 掛け】を作る画策を立てているのであろう。
誠、馬鹿馬鹿しいとそう思う。
本人が放って於いて欲しいと思っている故に、第三者も黙っていれば良いものを何度と無く声を掛けては不発に終る。
「 あれでは確実に鍋毎飛ばされるな。 」
心の中で思った単語は小さな音を含んで吐いて出た。
覚束無い足取りで此方に遣ってくるは、身長も低いが酷く華奢で小柄な為に、抱えている両腕の長さも充分とは言えない程。其れがかえって風の格好の標的 と為っ て、身体毎持ち去られてしまう様に見せる。
実際、吹いている突風は我輩ですらも気を張らねば足元を巣食われる様な強風だと言うに、小児を髣髴とさせるにすれば体感は其れ以上であろうか。
必死躍起に為って教室に運ぼうとする其の努力は買って遣れど確実に教室に到着する前に二・三回は身体毎吹き飛ばされる事は安易想像可能な未来。
「 、やっぱり廊下を抜けるまでハリーに持って貰った方がいいんじゃない? 」
「 じゃあこうしよう、僕が半分持つからがもう片方を持つ。此れなら… 」
「 有難う、でも、本当に大丈夫だから気にしない…ッ きゃ、っ… 」
もう何度目かの押し問答、譲歩したポッターの問いにも一切の肯定の言葉は出さずに頑ななまでに否定したは、視線を上げて微笑みを見せる。
しかし、其れが不味かった。
小さな鳥の鳴き声に似た悲鳴は何時の間にか恐怖を伴った様な痛烈なモノに為り、大鍋を抱えたは急激に正面切って吹き込んで来た突風に見事に身体を攫わ れる。
切実な悲鳴に驚愕した様に周りの生徒や傍らの彼等が息を呑んだ刹那、の両腕から大鍋が転がり落ち、其の状態を保った侭垂直落下した。何人かの生徒が慌 てて懐に手 を入れ杖を出そうとするが其れは最早遅い、此の侭行けば確実に落ちた大鍋の上に正面から強打する事態。
如何云う風の吹き回しか、呆れた様に息を吐き出した我輩は其の侭空を舞う大鍋を片手で押さえ、もう片腕で小柄なの身体を受け止めて遣る。
引き攣った様な傍観衆の表情、この時初めて対面側に我輩が居た事に気付いたのであろう、ポッターとグレンジャーも手にした大鍋を落とさんばかりに驚愕した 表情を浮かべている。
酷く不快だと知っていた。故に、触れ助ければ如何なるか…唯、興味が湧いた、其れだけ。
「 …怪我は無いかね、ミス 。 」
「 え、あ、はい、大丈夫です。済みません、ありがとうございました。 」
氷点下の気温同様、寧ろ其れ以上の凍度を以って空気が凍り付く。
腕の中にすっぽりと収まった小さな身体、仄かに薫る柑橘系に瞳を怪訝に歪めれば、慌てふためいた様子にの表情が紅に染まった。
言葉と共に引き剥がす様に身体を離し、下から大きな薄紫の瞳で見上げられれば小さく息を飲み込んでしまう己が居た。
成る程、此れは確かに群集客観視な意見の真意が明確であったと理解出来る。
本人は無意識の内であろうが、仕草を含めた一挙一動に【護って遣りたく為る】事が頷ける。そうして本人が必死躍起になって否定すればする程、自分にだけは 心を開いて欲しいと願うのであろう。
事実、微小で有れ我輩がそう思った時点で其れが想像ではなく確証に変わる訳で有るが。
「 、先程のレポートに付いてだが今日の講義が良く理解出来ていないようだな。直ぐに書き直し給え。 」
役目を終えた片手を其の侭に、大鍋を抱えた侭踵を返して自室へ向かう。一瞬何が起こっているのか判らない様子で狼狽を見せたでは有るが、取り敢えずレ ポートの不出来程度は理解出来た様で、慌てて我輩の後ろを掛けて来た。
別段、の提出したレポートの出来は上から数えた方が早い程で、自室は戻る用事等無いと鷹を括って錠を落としてきたばかり。
其れでも単なる口実を作って雑談する切っ掛けを自ら製作して、何も知らぬ少女を罠の底へと手薬煉引いて落としてやる。
「 あ、あの…スネイプ教授、大鍋… 」
「 面倒な二次災害を引き起こされては困るのだよ。お前は自分の教科書だけ持っていれば良い 」
言葉は此処で最後、後は無理やりにを己の右側に置いて歩く速さを合わせて遣る。
左から強く吹き込む様に位置を変えた強烈な吹雪は、我輩の縦幅よりも大分薄いの身体を蝕む可能性は極めて低く、覚束無い足取りに為る事も無い。
未だ嘗て、我輩が自身の意向で歩幅を合わせ風除けに為ってやる等有った験しが無い。況して、自然とそうしてしまった為に其れを意外だと思う事すらにも鈍い 感覚を覚える始末。
我輩が教師で、が生徒だからであろうか。大鍋を持つと言い、あからさまに護り歩幅を合わせる我輩に文句一つ言わずに着いて来るのは。其れとも他に臆す るところが有る故か。
いずれにしても、羨嫉の視線を投げて遣す他の男子生徒を前に優越感に浸った事だけは事実。
「 …如何してスネイプはいいんだよ… 」
「 恋路を邪魔したら馬に蹴られるわよ、ハリー。 」
如何云う意味、そう問うたポッターの声が微かに耳を通り過ぎたが、右から左へと流して遣る。
未だ表情に紅を浮かべる稚拙な少女を横目に、遣れ如何したものかと思考を事欠く様な愚問が脳裏を過ぎた。
初めは触れれば如何なるか、純粋に其れを知りたかっただけである。しかし、華奢な身体を腕に留めれば、次に浮んだのは焦りと躊躇。
何をしているのかと躊躇したのは紛れ無い自身に対して、反する焦りは我輩を除く全てのホグワーツに居る男に向けて。
今回受け止めたのは偶然にも我輩で有ったが、我輩の眼前に他の男子生徒が居ようモノならば間違い無く小柄な身体を喜んで受け止めていたことであろう。
あわよくば、其処から先の関係が良き物に為る様計らうやも知れず。一瞬でもそう思えば、次の瞬間には如何し様も無い焦りと渇望に襲われた。
組み分け帽子を被った瞬間に、小さな顔の半分以上が覆われた時、初めてを正面から見据えた。椅子に登るのもやっと云う状況に呆れて遣りながら、其れで も椅子に乗せてやれば薄紫の瞳で嬉しそうに微笑った。
其れと同じモノを3年ぶりに先刻目の当たりにし、終に自制が利かなくなったと理性が嘆く。触れてしまえば留める事等不可能だったこの恋慕、心を巣食われて しまって居たのは遠の昔かも知れぬ。
気づかない様にしていた、等と何とも似つかわし過ぎて苦い笑いが起こる。
「 、魔法薬学は好きかね? 」
「 え、は、はい。 」
「 皆が毛嫌いする我輩の講義、好きだと断言できる其の理由を問うても構わないかね。 」
「 …そ、それは…っ… 」
酷く不快だと知っていた。故に、触れれば如何なるか…唯、興味が湧いた、其れだけ。
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帰り路、自嘲に塗れた呆れを自覚した。触れれば、抑制の効かぬ恋慕、心は既に堕ちていた。
後書き
一回書いてみたかった、超自己満足夢、物凄く身長の低いヒロイン(笑)
私は身長が高めなので、個人的に小さい人にあこがれます。と言うか、実際問題男だったらロリコンだろうと自覚している程なので、こういう幼い子が好みです (オイ)
そりゃあねぇ、理想が犬○叉のりんちゃんだし…(笑)。
話が反れましたが、この二人、気づいてないだけでお互い好き有っているという設定が一応はあります(苦笑)
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