最先と最後 (いやさきといやはて)








「 ミス …。
 私の授業はそんなに面白くないのかい?」












少しだけ悲しそうに苦笑したような声で、私は深く堕ちていた眠りから覚醒する。
気づけば、何時もの自分のベットではなく、見慣れた教室の風景が広がっていて、目の前には開きかけの教科書と羊皮紙が置いてある。
掛かり時計を見てみれば、授業が始まってから既に半分の時間が経過しており、黒板には訳の判らない文字の羅列で眼が霞む。
夢なのか、現実なのか、朦朧とする意識の中で、目の前に立つ、闇の魔術に対する防衛術教授の姿が、私を覚醒へと導いた。












「 す、すみません!!
 以後、このようなことが無いよう気をつけます… 」












慌てて謝ると、ルーピン先生は柔らかく微笑んで、
”勉強のし過ぎはいけないよ?”
そう私に告げると、正式な教科書のページを開いてから、教卓へと戻って行った。
僅かな時間、僅かな距離だけれど、私はルーピン先生が戻るまで、彼から視線を外す事はなかった。












「 では、少し変わった話をしようか。
 一般に言う、雑学…眠気覚ましにはこれが一番いいからね 」












私に対して言ったのか、ほかの生徒に言ったのかは定かではないけれど、私は微笑んでくれたルーピン先生の映像だけが頭の中でフラッシュバックしていた。
闇の魔術に対する防衛術教授、リーマス・J ・ルーピンに恋をして、もうじき一年になる。
スリザリンではあるけれど、決して頭が良いとは言えない私は、沢山居るホグワーツ生の中でもルーピン先生に覚えて貰う為だけに、必死に勉強をした。
勿論、科目を両立できるほど器用ではないから、彼の受け持つ授業教科だけ。
教え方も丁寧で、説明も判り易く、理解し易いとは云え、主席を取ることは非常に難しい。
試験が近づき、寝る間も惜しんで勉強していた私は、最近度重なる徹夜で睡眠不足に陥っていた。
不覚にも…大好きなルーピン先生の授業で寝てしまうなんて…
後悔ばかりが後から後から溢れて来る。












「 万物には、全て ”始まり” と ”終わり” がある 」












殺伐とした空気の中に、凛としたルーピン先生の声が心地よく響く。
差し込む太陽の輝りが、ルーピンの髪を間をすり抜けて、室内に差し込む。
時折吹く風に、さらりとルーピンの髪が靡けば、それだけで一枚の高貴な絵画のようで。
話は左耳から右耳へと摺り抜けるばかりで、頭の残るのは、ルーピンの紡ぐ言葉ではなく、発せられる美しいルーピン先生の声だけだった。
けれど途中から、例え難しい話でも、ルーピン先生の話す話の内容を聞き逃すなんて勿体無い、と無い脳をフル回転させて話に聞き入ることにする。












「 大体は…”始まり”は自分に一番近い場所や物事を指し、
 ”終わり”は自分に一番遠い物事を指すよね? 」












まるで、教室に居る生徒全員に問いかけるように話すルーピンの話は、思ったよりも難しいものでも何でもなくて。
いや、多分、難しい話をルーピン先生がたちに判り易いように噛み砕いて話してくれているのだと思う。
ルーピンの話を、心の中で頷きながら、はふと、考えてみた。

『 ”始まり”は自分に一番近い場所や物事を指し、”終わり”は自分に一番遠い物事を指す 』

始まりは、自分で終わりはルーピン先生なのではないのか、と。
手を伸ばして掴みたい、届きたいけれど、ルーピンと自分とは最先と最後に位置している為に、その願いは叶うことは無い。
自分を起点に考えてみれば…確かに、ルーピンは終点に居る。
沢山の生徒に愛され、親しまれ、その人柄の良さから、彼に憧れているという生徒の話は沢山聞く。
自分にとっては、特別な存在であっても、ルーピンにしてみたら、”沢山の中の一人”としてしか見ていないのだろう。
最先が、最後に近づくことは非常に難しい。
物事の始まりと終わりなのだから、その距離は果てしないものになるのだと。
だから、ルーピンの話が…まるで自分とルーピンとの距離の比喩の様に聞こえて仕方ない。












「 でもね、考えてみて…世界の始まりと終わりは何処だと思う?
 地図上では、”Right from Left” 
 じゃあ…これだったら、どうかな? 」












ルーピンはそう言って、机の傍に置いてあったものに手を掛ける。
何かと思ってじっと見てみると、それは真四角な地図ではなく、正球形の地球儀だった。
それを優しく撫でるように回すと、反動の付いた地球儀はくるくると回り始める。
確かに、地球の何処が始まりで終わりかなんて、習ってもいないし聞いたことも無いし、疑問に思った事すら無かった。
くるくると回転し続ける地球儀を見ながら、ルーピンはそのまま続けてこう言う。












「 何処が始まりで、何処が終わりかなんて、誰かが決めた事だろう?
 もしかしたら…始まりの場所が終わりで、終わりの場所が始まりかもしれない。
 この地球儀のようにね 」












回り続ける球の在る一点を指で突いて、勢いを静止させたルーピン。
場所が遠くて、その箇所が何処かは判らなかったけれど、はそんなことも気に留めずに、ただただルーピンとルーピンの話に意識を没頭させていた。









「 だから…本当は、
 自分から一番近いと思っていた存在が、一番遠くて
 一番遠い存在が…実は一番近い存在なのかもしれない 」












薄く笑ったルーピンは、確かにそう言った。
先ほどまで、ルーピンの話を、自分とルーピンに例えて考えていたにとって、その発言は予想以上のもので、思わず自分で自分の心の中で片手を左右に振って否定していた。
有得る筈が無い。
一番遠いルーピンと、が一番近い存在だなんて。
話したことなどある筈も無く、ルーピンの記憶に残っているのは”学年主席の子”だけであろう、自分の存在。
どう考えても、そんなとルーピンが近距離にいる筈は無いのだ。
ルーピンの言葉に少しだけ夢見た自分に、自分で苦笑してしまう。












「 一番遠い存在が近い、そんな話は信じられないよね。
 勿論、私はそれが答えだとは言わない。
 けれど…
 私はどんなに遠い存在であろうとも、
 如何なる手段を駆使してでも、最後を最先にしてみせるよ 」












声に幾らか黒いものが篭っていたのは気のせいだっただろうか。
ルーピンはしきりに考え込むように話を聞いていた生徒たちに対してそう告げる。
意識を没頭させてい考えていたために、いつの間にか空を見上げるようになっていたは、ルーピンが最後の言葉を言い終えたとき、じっと自分を見つめるルーピンの瞳に気が付いた。
それは、何処か挑戦的にも取れるような眼差しで、自分に何かを語りかけるような眼差しでもある。












『 私はどんなに遠い存在であろうとも、
 如何なる手段を駆使してでも、最後を最先にしてみせるよ』












まさか、そんな筈は無い。
自分は何一つとりえの無い、ありふれた生徒の中の一人なのだから。
ルーピンに愛される幸せな人は、自分よりも大人で、綺麗で、知性才能豊かな女性なのだ。
毎週、決まった時間に必ずルーピンの姿を見れるだけでいいではないか。
それ以上の幸せを望む必要があるとでも?
それ以上の幸せを望む資格が自分にあるとでも?
ルーピンに愛される資格が自分にあるとでも…?
そんなこと、ある筈が無い。
そう自分に言い聞かせ続けた。












「 今日の私の授業は此処で終わりにするね 」












ルーピンが最後にそう言ったと同時に、授業終了の時が静かに告げられた。
短いけれど、ルーピンと一緒に居れる幸せな時間が終わりを告げる。
悲しいような、さびしい様な気持ちは今日も変わることは無い。
けれど、また次に逢える。
そう心に言い聞かせて、は席を立つ。












「 ミス
 授業中に居眠りをした罰として、私の仕事の手伝いをお願いしたいんだけどな 」












思わず落としかけた教科書に眼もくれずに、声のした方に向き直ると、其処には確かにルーピンが居た。
言葉を告げたルーピンの顔は、何処と無く自信に満ち溢れたような、何かを彷彿とさせるような表情で。
けれど、瞬時に何時もどおりに微笑んだルーピンは、もう一度、確かにに向かって柔らかく微笑んだ。












- 私はどんなに遠い存在であろうとも、
  如何なる手段を駆使してでも、最後を最先にしてみせるよ -












一瞬で頭にフラッシュバックしてきた言葉。
がルーピンの罰を拒否する理由は何処にも無い。








□ あとがき □

何が書きたかったのか?
それだけは聞いてはいけません(笑
今回はルーピン先生の一人称を”私”にしてみたのですが…如何でしょう??
やっぱり稀城の文章だと”私”より”僕”のほうが似合ってますかね??
自分では良くわからないので、是非とも意見を述べたい方は、是非に。

最先と最後…
稀城的解釈は、「全ての終わり = 全ての始まり」ですね。





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