限りある時間
「 後…二ヶ月かぁ… 」
曇り空を割って出た様に燦然と光る太陽を背に受けるホグワーツを見上げて、はごろりと草葉の上に横になった。
頬に当たる風も寒くなく酷く穏かで、翳る陽射しでさえ遠慮気味にを照らしている。
慣れ親しんだこの場所、離れるには過ごした時間が短すぎる。
思えば、組み分け帽子を被って声高らかに【スリザリン】と言われた其の日から、スリザリンらしい行動等何一つとしてこなして来ていないと思い返す。
監督生な訳でもなければ、特別勉強が出来るわけでもない。
況して、ドラコとシーカーの席を争う間柄でもなければ、ハリーと箒を交えた経験すらない。
極々有り触れた日常の中に身を置く、言ってしまえば何の取り得も無い在り来たりな生徒だった。
「 またお前はこんな場所で…今日は己の寮の試合であろう? 」
「 そう云う先生も…今日はスリザリンの名誉を掛けた一戦ですよ? 」
耳を掠めた聞き慣れた声がすれば、振り返らずとも微かに香る薬草の香りと甘い響きで誰が立っているのかが判る。
起きる事もしない侭、唯広がっただけの蒼い空を見上げてそう口答えすれば、さも興味等無いと言う様にの横に腰を落ち着けて。
何時からだろうか…と、は空を見上げながら思い起こす。
事も有ろうに初めて人に想いを寄せたのが、不動の人気を誇った男子生徒でもなければ、この7年と言う歳月を共に過ごしてきた友人でもない。
誰にも打ち明けず、付き合うことが叶った今でさえ誰一人としてと恋仲にある人物が誰かは知れ渡っては居ない。
簸た隠しにしなければ為らないほどその相手は酷く厄介な【教授】という立場に居て、苦しくも…誰もが嫌悪毛嫌いするスリザリン寮監と言うのだから其れも頷ける話。
「 ねぇ教授…後、二ヶ月…過ぎたら私は此処から居なくなるんですよね。 」
「 感傷に浸っていたと言う訳か、お前らしい。 」
「 やっぱりホグワーツの教員を選ぶべきだったと思いますか?
後二ヶ月でサヨナラなんて…寂しすぎます。 」
後、二ヶ月。
の口から紡がれた想像以上に重さを伝える其の月日は、長いようで居て酷く短い。
呆けに囚われた侭、純蒼の空を見上げて溜息混じりに切な気な表情を見せる横顔は、スネイプの記憶するどの横顔よりも儚く美しかった。
早急に噤んでしまった口、物思いに更ける様な眼差し、きっと心の中では走馬灯の様にこの7年と言う月日を振り返っているのだろう。
はホグワーツの教員になるという進路と、友人達と共に魔法省に勤務する進路、どちらも選ぶ事が出来た。
結果論から言えば、は今の友人達と離れることの無い魔法省での生活を選んで。
幾ら己で決めた進路とは言え、今とさして変らぬ面子が揃った職場、寂しい筈等ある訳が無いとスネイプが思い起こせば思い当たる節を一つ見つけて。
其れに気付いた瞬間、己も同感だと思えば自嘲染みた苦い笑いが胸を迫り上げる。
「 我輩と離れるのが…そんなに寂しいかね? 」
「 …だって、後二ヶ月ですよ? 」
「 お前が生徒、我輩が教授と言う立場が後二ヶ月で終るというだけであろう?
何時、誰がお前との関係をあと二ヶ月で打ち切ると公言したかね。 」
風に靡く漆黒の髪を指で掬ってやれば、何を言ったのかとばかりの勢いでが飛び起きた。
薄紫の瞳をこれ見よがしにいっぱい見開いて、其の奥底にスネイプだけを静かに映し出して、驚きの色を隠さずに唯見詰めた。
そうして其の侭、大きく見開いた瞳を柔らかく和らげると、誰よりも可愛らしい微笑を自然に作り上げる。
後数センチで触れ合う事が叶うスネイプとの指先は相も変らず、此処では触れ合うことは無いけれど、見えない糸で確かに繋がっている気がした。
遠くに聞える大歓声が、どちらの寮から上がったモノなのか等、最早二人にとっては何の意味も持たないものと為る。
「 教授と生徒の関係…後二ヶ月愉しめば良い。 」
其の後は、晴れて公然と付き合うことが許される恋人同士になれるのだから。
教授と生徒、そんな世間体的には恋愛関係に発展してはならない禁忌の扉を前にして、歩いてきた7年と言う月日は後二ヶ月で終る。
其れは少しだけ寂しい気もするけれど、過ごしてきた7年は酷く価値の有るものだから、後二ヶ月はこの関係の侭大事に過ごして行こうと暗黙の空気が流れる。
辛い事も沢山あったけれど、其れと同じ位に幸せな事も沢山有った。
言い始めたらキリが無くなってしまうから、二人だけの思い出に、の心の中だけに留めておきたいと小さく笑んで。
生徒と教授で居られる限られた時間は、後二ヶ月。
そう思えば残り少ないこの月日を、一日を、大切に過ごしていかなければ為らないとそう思う。
「 …但し、お前が卒業できたら、の話だがな。 」
「 …は…い? 」
「 お前まさかあの様な成績で卒業できる等と思っているのでは有るまいな?
他の教科は兎も角として…我が講義のあのザマは何かね? 」
「 ………………… 」
がホグワーツを卒業するまで残り、二ヶ月。
スネイプの部屋に足蹴く通うのは、恋人同士の甘い逢瀬だけでは済まなかった事は最早言うまでも無い。
後書き
限りある時間と言ったらやっぱりコレでしょう…!!
教授と生徒で居られるのはホグワーツの中だけですからね。
卒業と同時にその関係が崩れてしまうのは寂しいけれど、でも其処から新しく関係が始まる…
やっぱり教授×生徒設定は止められません!!(何)。
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