別離







の瀬と云う時分は、其れこそ独身時代は何等の柵も無ければ護りたいと思 う物も何一つとして存在せず、唯ホグワーツ教員魔法薬学教授の職務を遂行していただけであった。
護りたいと思うモノが増えるということは、同時に付属添付された様に【喪いたくないモノ】も付き纏う事に為る。
喪いたくないモノと言う形容詞でさえ背中に悪寒が走り抜ける程だと言うに、何を思ったか自ら其れを欲し護り抜く様に為るとは自分でも欠片も想像していな かった。
だからであろうか。久し振りの家路に着けばこう云う場面で酷く弱い立場へと叩き落されるのは。




「 いや、はパパと一緒がいいの!! 」




今年4つに為る娘が、着込んだばかりのローブの裾に絡み付く様に小さな身体を引っ付かせて上目遣い涙までうっすらと浮かべて懇願する。
水を張った其の瞳は大きな薄紫の其れで、妻のの持つ其れに酷く似ていた。
こうして上から見下ろす様に見詰めてみれば、もう5年程前に為るが、ホグワーツを卒業する際のが遣った行為に酷く似ている気が起きてきて苦い笑いが込 み上げた。
仕方ない、という表情でを抱き上げれば其れが最後、首に腕を回されて離れなくなってしまった。




、セブルスは直ぐに帰ってくるから、ね? 」

「 やだ、も一緒がいい! 」




宥める様に言い諭すの声も最早届いては居ないのか、小さな手で拳を作ったが駄々を捏ねる様にトントンと胸を小突いてくる。
こう云う事態に為るのならば、初めから用事を済ませて帰省すれば良かった、と今更ながらに思っても時既に遅かった。



アルバスから、年の瀬にホグワーツに有る大聖堂の掃除兼片づけを頼まれたのは帰省を目前に控えた前日の事であった。
言い渡された日付と帰省する日付の間に僅かな日数でもあれば良かったのだが、急に言い渡された其の職務、実際には帰省してから二日目に当たる日付であった 為にこんな騒動が起こる羽目に成った。
にはもう大分前に帰省する旨の日付と滞在期間を言っており、其れを娘であるに伝えれば、マトモに読めない様なカレンダーに一生懸命×印を付けて 帰ってくる其の日を待ち侘びているのだとからの手紙に書いてあった。
勿論、初めはアルバスからの職務とは言えぬ雑用を断ろうとも思えど、其の時既にホグワーツに残っていた職員と言えば我輩とアルバスを含めても僅か3人。
とても断れる状況では無く、かといって帰省の日を延期する訳にも行かず、最終的には帰省中に一回ホグワーツに数時間帰ると云う方法を取る事にした。




、直ぐに帰ってくる。だから大人しくと一緒に… 」

「 や。絶対にやーっ 」




諭したところで何かが変わる様なそんな容易いものでは無いらしく、付け加えるのならばは親の都合を理解してくれる様な年齢でも無かった。
無理も無い、年に二回程しか帰省出来ない全寮制のホグワーツ教員なのだから、逢える機会と言うのは物凄く限られてくる。
我輩とてに折角逢ったのだからこの侭家で過ごしたいと言う気持ちは其れこそ山の様に有る。出来る事ならアルバスの用事等無視を決め込んで…と云 う方法も有るのだが、其れこそそんな事態になれば解雇を覚悟しなくては為らない。
しがみ付いて離れようとしない愛しい娘を抱きながら、至極困った、と表情に苦味を添えれば、同じ様に表情を崩したの方に向き直った。




「 じゃあ、、こうしましょう。私がセブルスの代わりにホグワーツに行くわ。
 だからはパパと一緒に此処でお留守番。ね、。どう? 」

「 …がパパとお留守番…? 」




のトンでもない提案に、思わず背筋に冷たい物が二度流れた。
今、クリスマス休暇のホグワーツには其れこそ双子を筆頭にしたポッターの息子も居るのだぞ!?其れ以前に我輩がアルバスにどんな言葉を言われるか…と口か ら吐いて出そうな台詞を脳裏に浮かべれば其れが如何やら表情として刻み込まれたらしい。
其れでも視線を克ち合わせたは、大丈夫とでも言う様に唯柔らかく微笑んで見せた。
一方のと言えば、先程の表情とは一変、何かを深く考え込む様に握った懐のローブの折を握ったり離したりしている。
如何やら、を悩ませ思い留まらせる何かが有るのだろう、と抱えたを抱き直して大きな瞳を覗いてやれば先ほどとは真逆に酷く悩んだ様な瞳に出逢っ た。




「 ママ、がパパとお留守番してたら…お菓子は…? 」

「 勿論、が独りで作るのよ?ママはホグワーツにいくんだもの。 」




其の言葉に、我輩が居ない間になにやらの間で約束が出来ていた事を客観的に悟った。
ホグワーツ在籍時代から菓子類を含めた料理全般に酷く長けた能力を見せた其の血がやはりにも流れて居るのだろう。
大方、料理をしたりの為に菓子を作ったりするに引っ付いて離れないが、作ってみたいと言い出し日々其れにが付き合わされたのだろう、と在 り来たりな想像を浮かべてみるが、如何も其れが現実らしい。
先刻までは瞳に涙を溜めて言葉を云う其の度に否定の言葉を言っていたが、終に掴んだローブから小さな手を離した。
そうして無言の侭手を伸ばしてに抱かれる事を臨む。




「 …パパ、ママと一緒におうちで待ってる。 」

「 あら、パパに着いて行かなくていいの? 」

「 我輩は別にどちらでも構わないが? 」




如何やら本当に我輩に着いて来るのを諦めたらしいに、の言葉に混じって賛同してみる。
この場で本当に「やっぱり着いて行く」等と言われたら如何しようかと思う部分も多々有れど、絶対的な自信を持つの瞳がニコリと微笑んでいた。
其の侭我輩の腕からの腕に移動したは、昨夜出迎えてくれた時と同じ満面の笑みを浮かべ、攣られた様にも幼い娘宛らの可愛らしい笑みを見せた。
そうすると今度は立場が一転、此方がホグワーツに行きたくなくなるのは云うまでも無い。




「 パパ、早く帰って来てね。、ママとお菓子作って待ってるから! 」

「 そうよ?はセブルスに食べて貰う為に一生懸命練習したんだもんね? 」

「 うん!! 」




に抱かれた侭のが、如何やらケーキを模っているらしく大きく両手を広げて嬉しそうに話して見せた。
昨夜ヒソヒソと二人でキッチンに籠っていたのはこの為だったのだろうか、と思い出せば、可愛らしい二つの陰が揃いのエプロンを身に着けてキッチンに立つ姿 は酷く可愛らしい。
誰に頼まれずとも、人一倍働いてさっさとホグワーツを後にしようと思う我輩はやはり立場が弱い。
使われていない暖炉の前に立ってフルーパウダーを掴んだ其の瞬間でさえも、誰に何を言われようとも二人をホグワーツに連れて行きたくなる衝動に駆られる始 末で。
邪念を振り払う様にに向き直れば、見送ってくれる笑顔が実に辛い。




「 パパ、行ってらっしゃい、早く帰って来てね。 」




ちゅっと音を立てた可愛らしい口付けを頬に貰って、お礼とばかりに小さな頭を撫でてやる。
すると其の途端にの腕を擦り抜けたは、可愛らしく手を振って其の侭リビングの方に駆けて行った。
バタバタと可愛らしい足音も其れっきり聞える気配が無く、暖炉の前には我輩との二人だけがポツリと取り残された様。
が生まれる前、ホグワーツに帰る際見送って貰える其の光景に酷く良く似ていると昔を思い出しては苦い笑いを浮べてしまう。
あの頃は未だも幼く、駄々を捏ねるまでとは行かずとも、無理に作った笑顔が酷く寂しそうで其の侭ホグワーツに連れて帰りたいと何度も思った程。




「 僅か4歳の娘に遠慮させて仕舞うとはな。 」

「 あら、だったら連れてきましょうか? 」

「 否、折角だからこの侭… 」




言葉の途中、細い腰を引き寄せて桜色の唇に口付けを落とす。
一瞬で離してしまうには酷く惜しいけれど、其れはが作ってくれる菓子と共に帰ってきてからの楽しみに取って置こうと、名残惜し気に身体を剥がす。
差し迫る時間を気に留めながら、何としてでも早く終らせると断固堅く己に誓って暖炉の中に進まぬ足を進めた。





「 行ってらっしゃい、セブルス。 」

「 あぁ、なるべく早く戻る。 」




気が変わらぬ内に、と掴んだフルーパウダーを床に叩き付けて慣れ親しんだHogwartsの名を紡ぐ。
別れの瞬間は何時も刹那いモノであれ、この程度の短い別離でも悲壮感に包まれる程だとは思っても見なかった。
けれども、数時間後に戻ってきた時の毀れんばかりの娘の笑顔と愛しいの微笑みを見れるのならば、と己に言い聞かせて大聖堂へ。




其の日、予定時刻よりも大分早く終了を迎えられたのは、誰より率先して働くスネイプのお陰だった。
勿論の事、大聖堂に居た全ての人間が、其の根底に有る理由に気付いていた事は、本人だけが知らない。





後書き

パパスネに嵌りそうな今日この頃、タイトルを見た瞬間に思いついたのがこんなネタでした(笑)
やっぱり数時間とは言え、一回家に帰ってから出かけると為ると…ヒロインも娘も切ない、寧ろ誰よりスネイプが厭だろう…とちょっと苛めに近い発想から書い てみました(笑)
スネイプ…きっとマッハで仕事遣ったんでしょう…絶対に。



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