幸せに、なれますように








「幸せ」






その定理には驚くほど様々な解釈があると、僕は思う。
大好きな誰かのために、自分が身を引いて実現する幸せや、
大好きな誰かのために、自分が幸せにしてあげられる、幸せや、
大好きな誰かのために、その人の幸せを祈ってあげる、幸せ。
ほかにもいっぱいあるだろうけれど、
僕は、僕の恋人のために、
僕の恋人が、
「幸せ」であるために、
僕ができること…
それは意外なほどに沢山ある。
例え…それを彼女が望まなかったとしても。














、今日はね、珍しい国のお菓子が手に入ったんだvv」













両手に抱えきれないほどのありとあらゆるお菓子を手に抱えて、ソファーに座る。
ばらばらと零れ落ちるチョコレートやクッキーの箱は全て見たこともない異国の国の言語で。
ルーピンが手を離すと、テーブルの上は一気にお菓子の山へと豹変する。
子供みたいに目を輝かせてお菓子を見つめるルーピンは、いつもと違う雰囲気にすぐさま気がついた。









「 ……?
 具合でも悪いの?」













向かい側に座るの顔色が、いつもと違う。
いや、それ以上に、
いつもなら、ルーピン以上にお菓子に目の色が無いの反応が、今日は無視に近い。
前から楽しみにしていた、ルーピン開くお茶会。
様々なお菓子を食べながら、語り合う、恋人同士の甘い時間。
何よりそれを望んでいたのは、ルーピンもさながら、のほうで。
普段甘えることの無い可愛い恋人が、自分に甘えてくれる、甘い時間。
けれど、今日はいつもと違っていて。
俯いたままのの顔色は、いつもの誰もが魅了される笑顔ではなく、何処と無く暗い影を落としたような、そんな感じ。
小さくため息をついたまま、何かを考え込む様子で、大好きなお菓子にも、ルーピンにも見向きもしない。













「 …ルーピン先生、私、今日は帰ります。」














悲しそうに微笑んで、はソファーを立つ。
その重苦しい表情に、流石のルーピンも引き止められず、目に付いたお菓子を二、三個に持たせるくらいしか出来なくて。
”ありがとう”
そう柔らかく微笑んで、は静かにルーピンの部屋を後にした。
ぱたん…と小さく閉められた扉を、ルーピンは静かに見つめていただけで。













「…僕、何か悪いことでもしたかな…?」















の憂鬱そうな表情に、ルーピンは頭を抱えた。
もしかしたら、自分の所為で、が浮かない表情をしていたのかもしれない。
自分の何かが、悪くてが悲しんだのかもしれない。

”別れ”
その二文字がとっさに脳裏に浮かんで、慌てて掻き消す様に自分に言い聞かせる。
”そんな筈は無い”と。
立ち尽くしたまま、何が原因なのだろうか、とルーピンはひたすらに頭を悩ませる。









のあんな表情を見た後で、一人お茶を楽しむ気にもさらさらなれなくて、お菓子で溢れ返ったテーブルを片付け始める。
と楽しむ為に買ってきた山のようなお菓子を見て、ルーピンは一人苦笑した。
落ちてしまった数個のお菓子を拾い上げようと、ソファーの傍に身を屈めたときに…
小さく折り畳まれた羊皮紙の切れ端のような紙を見つけた。
多分、が立ったときに、落としたものだろう。
が部屋に訪れる前に、部屋を掃除したときには無かった存在なのだから。












に悪い、そう良心が彼に呼びかける。
けれど、普段の彼の行動からは想像も出来ないほどに、一瞬にして、その羊皮紙を開く。
かさり…と小さな音を立てて開かれた羊皮紙は、大きさはA5程度の小さなもので。
青いインクで書かれた手紙の文字を走り読みする。
名前の差出人すら書いていないその手紙を半分まで読んだ時、
手に持っていたお菓子を山の一部に加えて、足早に自分の研究室へ戻る。
お菓子に匹敵するくらいに積み上げられた羊皮紙の山をひっくり返すように、何かを漁る。













「この字体、確か一度見たことがある気が…」















そう独り言を呟いて、漁ること数分。
一巻の羊皮紙を掴みあげると、崩れ落ちた羊皮紙もそのままに、ルーピンは自室を出た。
目指すは、の帰った方向とは真逆のグリフィンドール寮。









「 君だよね?
 僕に不幸の手紙をくれたのは」














グリフィンドール寮の真ん前に、満面の笑みを浮かべたルーピンがいた。
その目の前には、顔を紅に赤らめたグリフィンドール6年生の女生徒。
の身長と然程変らない背丈で、金糸の絹のような髪と同じ様な金の瞳。
ホグワーツ内でも、マルフォイ家に匹敵するくらいの名家生粋の純血魔法使いの一族の一人娘。
頭脳明晰・成績優秀で、気品の漂う美しさを兼ね備えたフランス人形のような井出達。












「 そんな、不幸の手紙を敬愛するルーピン先生に差し上げた事なんて在りませんわ。
 ラブレターなら、何通か出しましたが…」













ぽっと顔を更に赤くした少女を見て、ルーピンは記憶の片隅から、ある事を思い出す。
手に持った羊皮紙と同じ様な独特の文体で、この生徒から、手紙を数通貰った事があると。
けれど、それは同じ様に来る数え切れない程の量の手紙とともに埋もれてしまっている。
ルーピンにとって、が書いてくれる手紙以外は、課題の羊皮紙の山以外、何の役にも立たないのである。















「 君が書いてくれたこの不幸の手紙のお陰でね、
 僕の大切な人が悲しんでいるんだ」














微笑を絶やさぬまま、ルーピンは先ほど拾った忌々しい羊皮紙を広げてみせる。
と、同時に、課題の羊皮紙も同じ様に見せて、
”君の綺麗な字だね”
そう付け足して。
瞬時に、少女の顔が怒りの表情へと変る。














「 誤解しないでね?
 は何一つ僕には言っていないんだから。
 滅多にないチャンスだから、君の質問に僕が答えてあげるよ」














そういうと、ルーピンは、少女に見せていた羊皮紙をひっくり返して、”どれどれ…”といいながら、再び目を通す。
その間、少女は、間近で見るルーピンに見入っている。
これから、予想だにしない言葉が、彼の口から出るというのに。














「 先ず…、

 『グリフィンドール出身のルーピン先生には、スリザリンの貴女は相応しくない』
 
 …君は勘違いをしているね。
 僕はがどの寮に所属してようと、どんな職業だろうと関係ないんだよ。」












「 そして、二つ目。
 
 『大して可愛くも無いくせに、ルーピン先生に近づかないで』
 
 だめだね。
 僕の中で、は誰よりも愛しい存在で、誰よりも可愛いんだ。
 もちろん、残念ながら、君はその対象にもならない」













「 次。

 『大して頭も良くないくせに』

 …まぁ、否定はしないけれど、の頭の良さ悪さは僕には興味が無いからね。
 良くても悪くても関係ないね」









「 そして…

 『どんな卑怯な手を使ってルーピン先生を手に入れた訳?!泥棒猫!!』

 これは大いなる勘違いだね。
 を手に入れようと思って、恋人にしたのは他でもない、僕なんだから。
 泥棒猫かぁ…
 そう僕に言った人は君が初めてだね」














「 そして、ラスト。
 ごめんね、もうすぐ終わるから。

 『ルーピン先生は貴女と居たら不幸になる。今すぐ別れて!!』

 ………」













言い訳をさせる間も与えずに、一人淡々と語っていたルーピンが、初めて羊皮紙から視線をずらす。
目の前には真っ青になっている少女。
その少女に向かって、ルーピンはこの日一番の笑顔でこう告げる。














「 僕からを奪うなんて許さないよ。
 君の代わりは幾らでもいるけれど、の代わりは居ないんだから。
 僕から幸せを奪うだけの不幸の手紙、君にお返しするよ」














最上級の微笑みで、ルーピンは羊皮紙を丁寧に折り畳んで。
立ち尽くすだけの女生徒の胸のポケットに差し入れる。











「 もちろん、判っているよね?君が何をすべきか。
 あ、には僕が言ったことを話してはいけないよ?
 これ以上余計な心配をかけたくは無いからね。」













「あっ…あの、ルーピン先生っ…」













立ち去ろうとするルーピンを、少女はとっさに引き止める。
何かに縋る様なそんな表情を浮かべた少女。
流石のルーピンでも、弁解しようと引き止めたのが容易に手に取れる。
だが…
すでに、相手が悪かった。
優しいだけのルーピンならば、黙って少しは話を聞いてあげたかもしれない。
けれど。













「 君が幸せに、なれるように…僕も祈っているよ。
 ただし、君を幸せにするのは僕じゃないけどね」













再度微笑んで、ルーピンは持ち出した羊皮紙の一巻を抱えると、踵を返して部屋へと向かう。
残された少女は、呆然としたまま、に謝りに行ったことは、いうまでも無い。













「 明日は、と二人で甘いケーキを作ろうかな…
 それとも、今日のお菓子を食べるのもいい…
 あ、やっぱり二人でクッキーを焼こうvv」













帰り際、そう嬉しそうに呟いていたルーピン。













リーマス・J・ルーピン。
満月を迎えるまで、後2日。
彼から「幸せ」を奪うものには、間違いなく、制裁が下される。















□ あとがき □

…………………。
リーマスが壊れていく…(汗
ごめんなさいっ!!!リーマスFanのお姉さま方、ごめんなさい(汗
黒リーマスを書こうと思ったら…黒というより、性格悪いだけになったような気が…
他サイトさんを回って勉強しなおしますっ!!!!

でも、ちょっと書いてて楽しかった、延々ルーピンが語る場面(笑





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