---------- 好きなんだ。 此れは唯一、君に言えなかった言葉。






友情








好き、だと自覚する事も億劫な程、傍に居すぎて気づかなかった。
けれど所詮其れは後付けにしかならない言訳の言葉で、結局は伝える事を拒絶して悟って貰う事を望んでいた。そんな理不尽な行為が許される訳も無いと理解し たのは、大人というカテゴリに括られるように為った年頃。
あの頃は若すぎて、何もかも知らない振りが許された。知っていても、知らないと言う言葉一つで片付けられた。
本当は、何も知らないという事自体が酷く恐ろしい事だと知っていながら。





「 セブルス、やっぱりコッチの方が良いと思わない? 」

「 我輩はどちらでも構わない。が好きな方を選んだら良い。 」





嬉しそうに表情を和らげるは、ホグワーツ在籍の頃と何一つ変わらぬ可愛らしい微笑を零した。
手にしているのは、淡い薄蒼色のストール。純銀の糸で細かく刺繍を施された其れは、明らかに普通の買い物で手に取るような品ではなく、多くは花嫁がウェ ディングドレスの上に羽織る為に使用される。
傍から見ても高級そうな其れ、眺めて見ては真っ白いワンピースの上から羽織り、全身が映る大鏡の前でくるりと回ってみせる。
裾がひらりと弧を描き、華奢な身体から覗く白い下肢がダンスでも踊るように優雅に寄り添い、手で抑えただけの薄蒼色のショールは風に舞う様に翻る。
有名画家や映画の一幕から飛び出して来たような光景が眼前に広がって、ひっくり返した砂時計を止める様に全てが止まった様に映り込む。

純粋に、綺麗だと思った。





「 如何?似合うと思う…? 」

「 やはりお前には淡い色が良く似合う。 決め兼ねているのなら、其れにしなさい。 」





少女の様に華奢で小柄な身体、其れを愛しそうに包み込むのは漆黒のローブに身を包んだ愛想笑いも知らない無粋な男。
全てを蔑むような瞳、饒舌とは程遠い唇、何をそんなに嫌悪するのか何時も皺の寄る眉間。意思の疎通、そんな言葉を絶対的に毛嫌いするかの様に人付き合いの 悪い事が有名筋のこの男、其れでも其の欠点を補助する様に、相貌と容姿は酷く端整だった。
侮蔑厭味しか零れ落ちない其の唇から零れ落ちる音程、甘妖艶を髣髴とさせる位に洗練都雅で同じ男から見ても嘆声を漏らす程。
性格は破綻を極め、人付き合いを極端に毛嫌いし己の世界にだけ住み込み其の景観を汚される事を嫌悪し、己以外の人間に等興味は無いとそう思っていた。


陳腐な招待状、其れを手にする間際までは。





「 次はドレスでも見に行くか。 」

「 駄目よ、ウェディングドレスはタキシードのセブルスにしか見せないんだから。 」

「 …お前が、独りで…か? 」

「 大丈夫、ちゃんと友達と一緒に行って最高のドレスを見立てて貰うから。 」





会話が脳裏でフラッシュバックする。
眼前には、小さな顔を純白シースルーのヴェールで覆われたが頬を赤らめて座っていた。両の手に抱えた花束を渡すと、表現出来ない程嬉しそうに笑って有 難うと云う。
身に纏ったドレスは両肩を晒す様にデザインされ、其の上に例の薄蒼色のストールを羽織り、長い漆黒の髪は一つに纏め上げられミニ薔薇が散らされている。
薄く引いた紅、両腕を優しく柔らかく包み込む絹の手袋の上からでも判る細くしなやかな指先、己だけを映し込みたいと切に願った薄紫の瞳。


今すぐにでも、この手を掴んで攫いたいとすら思う。





「 セブルスにはもう会ったの? 」

「 …いや、未だだ。 」

「 …凄く可笑しくても笑わないでね? あのセブルス・スネイプがタキシードを着てるんだから。 」





笑いを堪えるように口元に添えられる指先。
零し落したような言葉を紡ぐ桜色の唇が厭味なほどゆっくりと、セブルスの名を刻む其の瞬間を忘れる事は無かった。
何時の頃からだろうか、の口から語られる名にセブルスの名が多くなったと気付いたのは。
何時も三人一緒で、ホグワーツ内でさえ行動を共にしない日は無いと言っても過言ではない程一緒に居た。
三つも年下のと幼馴染というこの関係、何時までも三人で一緒に居られると本気で思っていた。
何時からだろうか、三人で居る其の時分空気が苦しくなる様に胸が詰まったのは。



全くと言って良い程、気付かなかった。がセブルスを想い、其のセブルスに想われていた事等。
感情表現が酷く乏しいセブルスが、如何に想いを伝えたのかは知らない。知る必要も無かった。
気付いた時には全てが遅かった。
何時の間にか芽生えていたへの想いは抑えきれないモノに膨れ上がり、微少に変化を始めた空気を読めばとセブルスとの関係は明白だった。
大方、何度も其の事実を打ち明けようとしたのだろう、セブルスもも。思い起こして見れば其の予兆は数え切れないほど有った。
だが、現実を受け入れる事を拒むように拒絶した。生まれそうな話すタイミングを徹底的に削除して、気付かない振りをしていた。
セブルスに嫉妬していた訳でも、事実関係一切を認めたくなかった訳でも無い。唯、現実が恐かった。この想いを悟られる事を酷く嫌悪した。


唯…、ただセブルスが如何し様も無く、羨ましくて仕方が無かった。





「 ……、 」





久しぶりに名を呼んだ気がすると、ありもしない錯覚に襲われた。昨日も一昨日も、ウェディングドレスを見立てに行った其の日も確かに名を呼んだ。
振り返る。大きな薄紫の瞳を嬉しそうに和らげて、返事を返してくる。
何時までもこんな関係が続けば良いと浅はかな幻想を抱くのはもう止め様と、何度心に留めても仕方ない様に脆くも崩れ去る。
純白のドレスを身に纏い、誰よりも良く知る己の親友の元に妻と為る為に歩き出すに、一度だけ想いを告げてみても赦されるのではないかと陶酔した。奪う 事は赦されなくとも、想いを伝える事位は。
告げたら…、困ったような表情を零すだろうか、其れとも小さく笑ってくれるだろうか。


言うか言うまいか、地獄の門番を抜けカミサマとやらに懺悔する其の間際の様な背筋を冷たいモノが流れる緊張感が走る。
知らず知らずに握り締めた掌にさえ、緊張が伝わって汗ばみ始めている。ドクリと高鳴る心の臓。中々言葉を吐かない事に疑問を感じたのか、★が瞳を困惑に 変えて仕舞った。
困らせたかった訳では無い。唯、気持ちを伝えようとしているだけ、其れだけの筈が如何しても言葉が続かなかった。
本当は誰より感情表現が乏しいのは己だったのだと、痛感した。


刹那、凍り切った静寂を根底から叩き壊す音が扉から聞こえた。
小さな音が酷く大きなものに聞こえ、次いで聞こえた聞き覚えのある声に、確かに気持ちが固まった。





「 …おめでとう。 」





絞り出すように口から吐いて出た言葉、其れがこんな台詞だとは想像しなかったのは他でも無い自分自身。
心の底からの言葉、だろうか。返って来たのは今まで見てきたどの笑顔よりも敵わない、幸せそうな微笑み。
がこの時見せた幸せに包まれた幼い微笑みを、一生忘れる事は無い、確かにそう思う。
極上の高級絨毯の起毛が擦れ、扉が開いて、花嫁は花婿の元へ。
其れでも心中は酷く穏やかだった。
恋心を抱いた愛しい人は、誰よりも愛しい人間と幸せに為る。其れが自分の親友だっただけの事。





「 お前、やっぱり似合わないな、タキシード。 」

「 余計な世話だ、お前も何だ其の恰好は。 」





やっぱり、此処が一番似合う場所なんだろうな、と実感する。作り物ではない笑顔が自然と表情に浮き出た。
とセブルスは愛情で繋がっていとすれば、差し詰め友情か。其れも悪くは無いと思えるのは、片割れがとセブルスだからだろうか。
何にしても、脆くも恋が破れた日にしておくには勿体無い日和である事は確か。
見上げた空には雲ひとつ無く、清涼な空気は森林を思い出させ、嘗ての学び舎ホグワーツを連想させた。
祝福の鐘が鳴り響く。吐き出される事の無かった言葉は悠久の眠りにつき、二度と呼び起こされることは無いだろう。其れでいい、確かにそう実感した。
が幸せそうに笑ってくれた其の微笑み、其れだけで充分だった。





---------- 好きなんだ。 此れは唯一、君に伝えなかった言葉。









後書き

…ネタを上げた時は良かったんですが…名前すら出てこない人間の視点夢って夢といえるのか思いっきり謎です(笑)。
スネイプ夢なんですが、悲恋(取り方によっては悲恋ですが…)にしたくなかったので、こんな形になりました。
ヒロイン&スネイプと幼馴染の彼の名前等はご自由に御想像して下さい。オリキャラにするのもアレだったのでこういう形になりました(苦笑)。



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