あやまちの愛








我輩と…が恋に堕ちた事は、偶然なのか、それとも必然なのか。
脳裏を霞めるのはに出会った、あの組み分け帽子が高らかと叫びを上げたその瞬間で。
瞳を奪われ、一瞬で心を掻っ攫われたあの日の情景が、今も胸に焼き付いて離れない。
さらりと流れた美しい黒髪が風に靡いて、柔らかく宙に漂った。
珍しい東洋の魔女は、同じ位に珍しい薄紫の瞳を兼ね備えていた。
とても11歳とは思えない美しさに、皆が驚嘆の声を上げ、傾けた視線を逸らせないで居た。
勿論…、我輩もその一人で。












これも必然なのか?それとも偶然だとお前は言うか?
運良くスリザリン寮に入ったに近づくのは、そんなに時間の掛かる事ではなかった。
大して勉強ができる訳でも無かったではあったが、授業には人一倍一生懸命で。
けれど、天性の才能なのか、いつも決まって実験に失敗する彼女から、いつしか目が離せなくなり、気づけば我輩自らがペアを組む始末。
だからだろうか。
ろくでなしの単細胞が服を着て歩いている様な生徒だらけのあれ程厭で仕方なかった授業が、毎回の楽しみに変わった。
彼女の笑顔を見られればそれだけで幸せだと、馬鹿げた思考回路まで持つ羽目になるとはな。












人生とは、判らぬものだ。
久しぶりに、愛とは何かを…幸せにしてやりたいと思う誰かに出逢えた訳だ。
甚だ可笑しなことではないか。
たかが、11歳の女生徒に心を奪われて、己が心を支配されるなど。
気づけば思うことは、いつもの事ばかりで、授業に彼女が姿を見せないだけで、心配で不安で頭の血管が数本切れそうにさえなる。
一挙一動に一喜一憂し、気づけば彼女を目で追っていたという事実は、何度と無く我輩を苦しめ戒め続け。
引き裂かれそうな心を引き連れて授業に臨めば、微笑む彼女を見て救われるなど、誠、笑える話だ。












けれど…最大の疑問は、我輩がその事実を”厭”だと思わぬことではないか?
遠くからでも、を見れば心救われ、言葉を交わせばそれだけで幸せだと脳が感じ取る。
まるで嘘臭い寓話のような心の感情に支配され、現実感の無さ過ぎる自分の行動に厭きれさえ覚えるけれど、それは決して厭等という感情では片付けられない。
それを証明するかのように…
今、我輩の腕の中には幸せそうにすやすやと眠るが居るのだから。












「 お前は…どう思う?
 これは偶然だと感じるか?それとも、必然だと思うか? 」












問いかけた処で、既に夢の中に入り込んでいるが返事を返すことは無い。
それどころか、しっかりと服の端を握り締めて、離れようとしない。
やはり、11歳の可愛い子供のままである。
さらさらの髪を柔らかく撫でてやると、擽ったそうに少しだけ身を捩るけれど、そのまままた眠りの世界へと入り込む。
そんな仕草に、思わず苦笑いが漏れた。












「 我輩にも…こんな感情が残っていたとはな 」












に向けて言った言葉なのか、独り言なのか…何れかは判らないけれど、スネイプは小さく微笑むと、そう零した。
外は既に漆黒の闇夜に包まれ、静寂に月明かりだけが差し込む静的な情景が映し出されている。
そんな中。
スネイプは眠ることが出来ないのか、一人明かりの消えた室内で、腕の中に愛しい恋人を抱きしめたまま、静かに時を過ごしていた。












と出会って既に半年以上。
この腕にを抱きしめることが出来るようになって…大分時が経過したように思う。
それこそ最初は、報われない恋だと、報われるべきでは無い恋だと思ってすら居たけれど…それが今となっては愚思考でしかない。
自分は教師という立場、
は生徒という立場、
世間からは疎まれるような関係だと言う事実、
脳が必死に呼びかける、”非道理”だという事実、
問われるモラルに失う理性。
全ての事がどうでも良く為ると、それら以降全ては嘲け笑える程に微小なものに成り果てて。
悩んでいたあの頃の時間が勿体無いと思えるくらいに、と過ごす日々は充実したもので。
この関係が永遠に続けばいいと、女々しい考えばかりが脳に浮上しては沈下する。












「 世間では…
 禁忌の愛だとか、許されぬ関係だとか、過ちの愛だとか言われているが…
 はどう思うかね? 」












問いかけても答えるはずの無い恋人に、スネイプは語りかける。
何回も言われ、問われ、問いかけ、考え、悩んで、捨ててきた言葉。
自分は人生のレールを踏み外してもいいとさえ思う位に愛しい存在ではあるけれども、はそうではないのかもしれない。
たった11年しか生きていない小娘が…そんな堕ちるだけの人生を歩むべきではないのかも知れない。
独り善がりの考えだけで、将来を台無しにする事など、出来るのだろうか。
愛しいを自分が幸せにしてやれる、そう断言は出来ても、がそれを望むのだろうか。
判らない。
判りたくない。
意図しない答えなら、要らない。
時が留まってしまう様な残酷な言葉は聴きたくも無い。
だから、直接など言える訳が無い。












「 不甲斐ない男だな、我輩も… 」







「 セブルス・スネイプらしくない発言はしちゃ駄目だよ、先生。
 人は人、自分は自分…従わない・齟齬するなら関係無い。
 私が好きになった…
 自己中心非善導的陰険贔屓教授は何処に行ったんでしょうかね、スネイプ先生。 」








「 寝ていたのではなかったのかね… 」












突然耳元で振ってきた厭味たっぷりの言葉に、スネイプは怒りよりも厭きれが走る。
目を向けてやれば、嬉しそうに微笑むの姿。
更に寄り添うようにくっついてきては、悪びれた様子も無くスネイプに、
”一緒に寝よう”
と誘いを掛ける。
仕方ない、と小さくため息を付いてから、その腕に抱きしめて髪を撫でてやれば、甘えたような声を上げる。
堪らなく愛しい存在が。
掛け替えの無い愛しい存在が。
全てを失っても守ってやりたいと思える存在が。
今、確かに腕の中に居る。












− 禁忌の愛だとか、許されぬ関係だとか、過ちの愛だとか
  偶然だとか、必然だとか、運命だとか
  そんな戯け事。
  何の価値も有りはしない。
  今、この腕の中に確かにが居る。
  それだけが、それこそが価値ある事象なのだ −










初めから判り切っていた答えが脳裏に浮かんで。
スネイプは、己の愚かさに苦笑した。










□ あとがき □

激しく謝ります…ごめんなさい!!!
ちょっと女々しいスネイプ教授を書こうと思ったら…こんなヘタレに成り果てました(泣
こんな女々しいのは教授じゃない!!!
ごもっともです…投げるなら座布団でお願いします。
鉄パイプとか、釘刺しバットとかで殴りこみだけはご勘弁を。

でも…教授も一応人として考えるんだ、ということが書きたかったのですが…
何だか一人芝居みたいになってしまいましたね(苦笑





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