師走の空に紅の閃光が走る。
何処ぞの惑星の残骸が降り注ぐ様な流星群がホグワーツを包んだ其の
夜、遠くで聞こえる狼の遠吠えを聞きながら、私は眼前に向き直る独りの男と眉間に皺寄せ合いながら大論争を繰り広げていた。
コヨーテ
沈黙だけが世界を支配している様な夜の静寂に、怒鳴り声が響くは、黴臭い湿度に満たされた魔法薬学研究室。
黒と不機嫌オーラを纏ったスリザリン寮監を睨みつけながら、罵声に似た非難中傷の言葉を吐き棄てるのはこの私位だろうと妙な自負を負う。
スリザリン生でありながらも寮監督に逆らう等と命知らずな生徒は、スリザリン生に於いては珍しい部類の人間に入る。最も、スリザリン寮監督を真っ向から毛
嫌いしているわけで
はない。長ける魔法薬学の能力にはいち生徒の眼から見ても賛美に値するほどに素晴らしい。だからこそ、少しでも敬愛する寮監督に近付こうと、持てる力と知
力を以っ
てして、ぬきんだ魔法薬学の能力を発揮させてきた。
だから私にとって、得意とする魔法薬学で人が救えるのなら、本望だと、驕り高くもそう思っていた。
「 如何して教えてくれないんですかっ!! スネイプ教授のケチ、貧乏性! 」
「 …駄目だ、と言ったら駄目だ。 其れより如何して脱狼薬の作成方法を教授せぬだけで貧乏性呼ばわりされなければならんのだ。 」
矛先を変えてやろう、そんな魂胆が浮き彫りに為る言葉を吐き棄てたスネイプ教授に、大人しく負けを認めて妥協してあげるほど私は優しくはない。この程度の
拒絶で諦
める位ならば、引見根暗嫌味贔屓教授の字を持つスネイプ教授の彼女なんて遣ってられない。
並大抵レベルの拒絶は、さらりと笑顔で翻し、怒涛の嫌味攻撃には真っ向からの無視態度を以ってして切り抜けて来た実績があるだけに、この程度は朝飯前。
負けて為るものか。此処で負けたら以降巧い具合に言い包められ続ける気がする。
「 出し惜しみするからですよ! 此れじゃ、彼女に一円単位で割り勘迫る男と同じ部類に入りますよ、確実に。 」
「 …我輩がいつ、お前に一円単位の割勘を迫ったかね。 少なからず、記憶上ではお前に割勘を迫った覚えは無いのだが? 」
「 ……あくまで同じ部類だ、と言ったんです。
って、そんなことは如何でも良いんです。教えてくれないのならばせめて脱狼薬が書かれている文献を教えてください。 」
「 出来ぬ、なんと言おうと手掛かりすらお前には遣らぬ。 」
バサリと翻る外套。明かに不機嫌を纏ったスネイプ教授は、差し迫る学年考査用の課題の選定に入るのか、7年生用の魔法薬学講義用の広辞苑並みの分厚い教科
書を開き、羊皮紙と羽ペンを準備し始める。
此処で尻尾を巻いて逃げれば、二度とこの話題は持出せまい。無礼を承知で開かれたばかりの教科書を閉じ、敢えて音を立てて表紙に片手を乗せた。ひらり、と
二・三枚の羊皮紙が風に揺らいで地面に落ちるが、この際如何でも良い。
「 教えてくれるまで引きません。 」
「 講義用の教科書は此れだけではないということを忘れたか。 」
「 為らば全ての教科書を償却するまでです。 」
「 遣れるものなら遣ってみなさい、我輩よりも魔法能力に長ける自信が有るのなら、な。 」
刹那、杖を振り上げたスネイプ教授は、私の掌の下から恭しい動きで教科書を奪い去ると、見せ付ける様意気揚々と教科書を開いては羽ペンをインク壷に突っ込
む。
ギリ、と奥歯を鳴らしそうな憤慨を堪える様、如何遣ってこの男から聞き出そうか、と策を脳裏に侍らせる。如何足掻いても教える気の無いらしいスネイプ教授
から聞き出す方法は何か、無いか。そうでもしなければ、ルーピン教授がギリギリに為ってスネイプ教授に脱狼薬を頼みに遣ってくる、ということもなくなると
いうに。
…と、思案し、脳裏を過ったのは、出来ることなら告げることは避けたかった一昨日の出来事。
決してスネイプ教授には言わない方が良い、告げたらホグワーツに炎の槍が降り注ぐ、パンジーにそう言われていた事を唐突に思い出した。
「 …そういえば、私一昨日ですね、、 」
「 何かね、我輩は見ての通り忙しいのだよ。 」
「 …一昨日、ですね…ルーピン教授から言われた事をたった今、思い出したんですよ。 」
「 ルーピン? ヤツが何か君に言ったのかね。 」
「 えぇ、言いました。
"脱狼薬を厭々作るスネイプ教授に頼むのは忍びないから催促するような真似はしたくないが、他に作れる人が居ないからヤツに頼むしかない…だからもう、ホ
グワーツを出ようか" と。
更に其の前に、"君が好きだ"とも言われましたか…笑いながらですが。ルーピン教授はとても良い教授だと思います。優しいし生徒思い出し聡明ですし。スネイプ教授がお作りに為らないならせめて私が変わりに作ろうかと思っていたのです
が…良く考えても見れば、スネイプ教授に頼まなくてもダンブルドア校長に頼めば一発で教えてくれますよね。
作り方までは行かずとも、文献位は教えてくれる筈です。 」
途中まで告げれば、目の前で盛大に羽ペンの柄が折れる音を聞いた。パンジーの言うように、明日は焔の槍が降るだろうか。降るというのならば見てみた
いものだ。 通常の何倍も憤慨の色を濃くしたスネイプ教授の米神には青い血管がくっきりと浮き上がってしまっている。
「 あんの老妓狼め------------- ホルマリン漬けにしてくれようか。 」
バタン、と重々しい音を立てて閉じられた教科書。散乱する机の上に放る様に投げ捨てると、片付けたばかりの魔法薬学研究室の暖炉に火を灯し、魔法鍋を5つ
吊り下げて眼にも留まらぬ速さで薬瓶を選りすぐってはぶち込んでいく。
「 …あの、スネイプ教授…、脱狼薬は------- ?」
「 案ずるな、お前があの卑劣狼の身を案じずとも良い位の量を定期的に送り付けてやる。 」
眼光を輝かせるスネイプは全てを忘れ去った様、脱狼薬の作成に精を出した。此れで暫くは、スネイプ教授も大人しくルーピン教授に脱狼薬を作成してくれるだ
ろう。明日焔の矢がホグワーツに降り注ぐ事が有りません様に、小さく願いながら独り錯綜するスネイプ教授を残してスリザリン寮へと踵を返した。
翌日。
焔の矢こそ降らなかったものの、部屋に収まり切らない程の脱狼薬を強制的に進呈されたリーマスは、スネイプの棄て台詞に微苦笑するしかなかったと云う。
-------------------- 我輩がお前にくれて遣れるのは脱狼薬だけだと思え。
何ともストレートな物言いに、呆気に取られたリーマスは、部屋中に散ばる脱狼薬を見詰めながら愛とは如何に人を変えるかを身をもって経験したという。
□ あとがき □
コヨーテ…狼…リーマス…となったにも関わらずにこの結末は何だろう。
脱狼薬って作るの難しいんですかね?リーマスが独りで作れないくらいだから難しいんでしょう…。
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