「INSOMNIA」





カチカチと秒針が時を刻む音だけが聞こえる。
既に、あれからどのくらい時間が過ぎたのかが判らない。
何度も寝返りを打ち、その度に、隣で静かに寝ている彼を起してしまわないか不安に狩られる。
大きなキングサイズのベットで、彼の香りに包まれていると言うのに、何時ものように眠れない。





最近は不眠症にある。
眠りに着こうとベットに入り、瞳を閉じても身体は疲れているのに何故か意識ばかりが起きている。
だから毎日自分に魔法をかけて寝るのだが、隣に大好きな人が寝ていたらそれも出来ない。
恥かしくて、彼から少し離れるような位置で”オヤスミ”を言って眠りにつこうとしたのだから、今さら彼の腕の中へは入れない。
寧ろ、彼がを腕の中へ招き入れてくれるのかどうかも判らないのだ。





「……」





ついにパッチリと瞳を開けてしまった。
どうしても眠れない。
けれど、安眠の魔法を唱えれば…彼がその声で起きてしまうかも知れない。
人知れず神経質な人なのだから。





はて、意識が夢の中へ落ちてくれるまでどうしてようかと何度めかの寝返りを打った時、静寂の中に透き通った声が響く。






「寝れないのか?」






正面を向いたまま、彼がに問う。
とうとう彼を起してしまった。
今まで起きなかった方が不思議いのような気もしたけれど、にはそんな事よりも、彼を起してしまった罪悪感の方に苛まれる。
最近仕事でよく寝ていない、と言っていた彼の久しぶりの休日を自分のために使わせてしまった。
だから、せめてゆっくり眠れるようにと配慮したつもりだったが、裏目に出たようだ。





「ご、ごめんなさい…
 ルシウス、疲れているのに…今寝るから!!」





申し訳なさでいっぱいだったは、突っ返すようにそう言うと、上質の絹のブランケットを頭まで被る。
ルシウスが、が寝れるまで起きていてくれるとは思っていないけれど、これ以上彼の睡眠の邪魔をするわけにはいかなかった。
が大人しく寝たふりをすれば、ルシウスも時期に寝てくれる。
いざとなったら、ルシウスに安眠魔法をかけてから、自分に魔法を掛けてしまえばいいのだ。
そう思ったら、気が楽になってくる。






 こっちを向け。」





ルシウスの言葉に、身体がびくついたけれど、は素直にルシウスの方に向き直る。
すると、彼は無言のままで、の身体をぐいっと引き寄せて、自分の腕の中にしまいこむ。





「…ルシ…ウス?」





「…大人しく寝ることだ」





そう言って、ルシウスはの髪を優しく撫で始める。
それは労るような、慈しむような、そんな愛情の篭った仕草。
母親が小さな子どもをあやすように繰り返されるそれは何時しか心地良い調和となっての躰に伝わる。
それに付け加えて、ルシウスの柔らかい薫りが自分の身体を包み込んでくれているようで、あったかい。
それをもっと感じたくて、無意識のうちにルシウスに擦り寄ると、少しだけ笑ったような声が聞こえた気がした。





「…ねぇ、ルシウス…
 不眠症になったこと無い?」





頭を撫でられながら、ふかふかの布団に抱きすくめられて、柔らかいルシウスの香りに包まれて…大好きな人の腕の中で眠りにつこうとしている幸せな
自分を包んでくれる存在はとっても大きくて、尊大で、自分がとっても小さく感じる。
それでも、この腕に包まれていれば安心だと、いつもは感じる。





「無いな。
 私が不眠症になったら困るだろう?」





「え?
 どうして?」





理由が判らないは、疑問符をいっぱいつけて問う。
その間も、両手はルシウスのシルクのローブを掴んだままで。





「…お前を朝まで抱いてしまうだろう?」





意地悪く耳元で囁いて、ルシウスはの耳たぶを甘く噛む。
とたんに甘い疼きが身体を走り、ぴくんと反応を示してしまう。
それを面白そうに見ていたルシウスは、撫でている髪はそのままで、柔らかい舌をゆっくりと焦らすように耳に沿って這わせる。
チロチロと舌先だけで遊んでやると、直には熱い吐息を漏らし始める。





「ふっ……っ…やぁ……っ」





身体をよじらせ、嫌だと訴えては見ても、所詮は理性が負けるわけで。
自然と自分からルシウスの首に腕を回してキスを強請る。
口付けはやがて深いものになり、ルシウスの絶妙な舌使いに翻弄される。
息を付くのもやっとなくらいの甘くて深い口付けは巧みにを快楽へと誘う。





「厭ならば…早く寝ることだ」





言葉は否定を紡ぐけれど、身体は従順に自分を受け入れるに満足そうな笑みを浮かべながらルシウスはそう告げる。
左手は髪を撫でたままで、右手はナイトローブのボタンを外しに掛かっている。
自分の仕事を抑制しようとした紫苑の小さな両手を邪魔そうに片手で捕まえると、ぐいっと上へ持ち上げる。
第二ボタンまで外されたローブが左右に割られ、隙間から小さな谷間が顔を出す。





「大人しく、と言ったはずだ」





再度耳元で囁かれたの身体に既に力は無かった。
虚ろな瞳でルシウスを見上げ、もっと…とキスを強請る。






「…早く寝ておけばよかったものを…」






ルシウスが含み笑いをしながらそう言ったのを、は遠くで聞いていた。







無事に眠りにつけたのか否かは…






誰も知らない。








□ あとがき □

書いてるうちに裏に行きそうな感じになっちゃいました(滝汗
殿下で裏なんて、私には早すぎるんだから!!もっと勉強しないと(汗
なにはともあれ、「INSOMNIA」の意味は「不眠症」です。




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