廊下を忙しなく走る音が鼓膜を掠め、羊皮紙に走らせていた視線を剥がす様にして自室の扉 を見詰める。
想像はしていたが、思っていたよりは早かった。情報の根源が彼らでは無理も無いだろう。今置かれた状況、差し詰め張り付く様に羊皮紙を見詰めていたとて、 幼い恋人は許してくれまい。
さて、如何言い包め様か。近付いてい来る足音を聞きながら、僅かに痛み残る足を視線に入れ、苦く笑いながら彼女の到着を待った。

つい数時間前、ホグワーツの地下室でトロールが出現した。そうして勲章とはとても言い難い傷が、我輩の片足に色濃く残っている。





片足





「 スネイプ教授、私が言いたいことは既に判っている筈…説明願えますか! 」


開口一発目、可愛らしい顔立ちに明かなる不機嫌の色を貼り付けたは、普段の教師生徒と言う立場を完全に忘れ去っているようだ。スリザリンの優等生、と 謳われたは、品行方正成績優秀眉目秀麗。馬鹿の三拍子の様に揃いも揃った美辞麗句は、けして世辞等ではなかった。
事実、スリザリン寮に在籍しながらも他の寮生とも訳隔てなく接するさまは教師側から見ても酷く好ましい。

だが。


「 部屋に入る際の礼儀は如何したかね、お前らしくもない。 」
「 失礼します、スネイプ教授。 今お時間宜しいでしょうか、少々お尋ねしたいことがございます。 」


の性格を明朗闊達と揶揄したのは一体何所の誰だ。形式に従えと言うなら形だけ従ってやる、とばかり威勢の良い声で了承を求めたは、我輩の返答等 待っては居らずまして拒否したところで出て行くようなタマでもない。
半ば睨み付ける様に伺うに、感服する。如何して己の所属する寮監に対して此処まで優等生の皮を被った横暴行為が出来るだろうか。
優等生なが此処まで変化するさまを見れるのは、ホグワーツを探し回っても我輩だけだろう。場違いも甚だしい妙な優越感に浸る。


「 何かね、見ての通り我輩は溜まった課題を片付け無ければ為らぬ。 明瞭簡潔に願いたい。 」
「 足を怪我された、と聞きました。 」


意気消沈とでも云うべきだろうか。
徐に立ち上がった我輩のローブが揺らぎ、普段は露になることの無い身体が空気に触れる。都合の悪いこと、若干の痛み引き摺る怪我をした方の足がの眼前 に晒され、其の一瞬をは見逃しては居なかった。
詰める様に距離を縮め、真っ当な答えが無くば許さない、とばかりに睨みを利かせてきた。


「 如何してトロール相手に… 」
「 ホグワーツの教員である以上、我輩は生徒を護らねば為らぬ。 其れだけだ。 」


如何だ、言い返せるものならば言い返してみろ、とばかり表情を伺う。其処に在ったのは唯の怒りではなく、切ないばかりの悲壮に満ち足りた横顔だった。
腫れ物を見るような眼差しで我輩の片足を見詰めるの眼に、其れは如何映っているのだろう。彼らには、この片足の所為で確かな誤解を植え付けたことだろ う。大方、我輩がトロールを招きいれたのだ、と都合の良い解釈を走らせているやも知れぬ。
まこと、真実とは眼に見えるものだけでは無いと云うに。


「 護るのと戦うのは違います! お願いです…お願いですから、無理を為さらないで下さい。 」
「 無理? あのトロール相手に我輩が負ける、とそう言いたいのかね。 」
「 違います! そう云う事ではなくて、、トロール如きで万が一…スネイプ教授の身に何かあれば、
 私はスネイプ教授が身を挺して戦った相手を八つ裂きにします。 」


面をあげたの薄紫の瞳は至極真意だった。この娘ならば、誰が止めるのも利かずにヴォルデモートにさえ平気で其の杖を向けることだろう。とは、そう 云う娘だった。
だからこそ、常々彼らと行動を共にするの前にトロールでも現れようものなら、は身を挺して彼らを護ったに違いない。
其れだけは避けねば為らぬ事態。だから勝手に身体が動いていた等と、誰が言えようか。


「 判った、少なくとも、無理はしない。
 好からぬ輩に妙な濡れ衣を着せられてまで誰かを護るのは至極面倒だ。 」
「 好からぬ輩に妙な濡れ衣、ですか…? 」
「 お前はポッター達に聞いたのではないのかね? 我輩がトロールを校内に招き入れたのだ、と 」


其の言葉に、は絶句した。有り得ない、そんな言葉が口から飛び出そうな表情。握り締めた拳が僅かに震えていたのを、我輩は出来れば見ぬ振りをしたかっ た位だ。
重たい溜息を零しそうなを見詰めてやれば、居た堪れない表情を零す。如何やらが掴んだ情報は彼らが発信源ではないらしい事が伺える。そうして、気 付いたことがもうひとつ。


「 …我輩が足を怪我した、と聞いて、お前は我輩を疑わなかったのかね。 」

「 疑いませんよ、スネイプ教授から直接聞いていませんから。 其れに、私は知っていますから。
 スネイプ教授が誰を護るべく対象としているか、を。 」


その眼差しは酷く真っ直ぐで、見詰られた侭柔らかく微笑まれれば、最早何も言葉を言う気にも為れずに居た。
ポッター達と同じ様にに思われている、と思うことは無かったが、疑いを微塵も抱いていないとは思っても居なかった為に、拍子抜けする。胸の奥が歯痒い ような、そんな感覚。


用件は言った、とばかりすぐさま話を切り替えし、明瞭簡潔と冒頭に言っただけに踵を返して出て行こうとする。
眼を離せば遠のいてしまいそうな細い腕を掴む。振り返る幼い恋人を抱き留める様に腕に抱けば、途端に香る柔らかな柑橘の香りに心から安堵した。


「 忘れるな、我輩は相手が誰であろうとお前を護る。 」
「 有難うございます。 でも…私の為に名誉勲章並の傷を作るなんてこと、止めて下さいね。 」


そんなもの、もう出来ている。


言えずに千切れた言葉は唯胸の奥へ。チリ、と名残の様に痛む片足が妙に心地よかったのは、には内緒のこととしておこう。片足の痛みなど、比にも為らぬ 程の鈍痛に襲われることになるだろうから。











□ あとがき □

片足…で思いついたのが、「賢者の石」のスネイプ教授のあのセクシーな足!!
ということで、無理やり「賢者の石」のトロールの後話を妄想してみました。あぁ、無理やり(笑)
ちなみに、スネイプ教授が足を怪我したのは対トロールではありませんよ〜(笑)。


+++ ブラウザバックで戻って下さい ++++