冬の雀
しっかりと降りていた夜の帳は、氷徹した塊がゆっくりと溶け落ちる様に朝焼けに飲み込まれて、肌寒い朝が遣ってくる。
一年の中でも一番寒いと言われるこの時期、休日ともなればベットから起き上がることも億劫になる。
良すぎる寝相の者は未だ良いだろうが、全校生徒数え上げたらキリが無いほどの生徒数を抱えるホグワーツに於いて、寝相の良い生徒を探す事は空を自由に飛び
回るゴーストを探すよりも難解を極めるだろう。
寝相が然して良くも無い者が半数以上を優に占める生徒たちは、夜中に自分の寝相の所為で引き起こされる猛烈な体温の低下に多少の苛付を起こしながら、肌蹴
た足や腕をすっぽりと布団の中に仕舞いこんで一時の睡眠を再び貪り始める。
ところが。
運悪く夜中に悪寒で眼が覚めて以来、二度寝というものが出来ない少女が此処に居た。
朝、目覚ましで眼を一回覚ませば其れ以上寝る事は無い為に遅刻をしなくて済むという利点と、夜中だろうが何時だろうが一度目覚めてしまえば睡眠を全く受け
付けないという弱点も兼ね備える。
其の彼女が今日も己の寝相の悪さの為、朝焼けが始まったばかりの朝靄の中を漂う風の様に我輩の部屋に現れた。
「 …きょーじゅーっ。 あっさでーすよーっ 」
間の抜けた幼子の歌声の様な小さな囁きが耳傍で聞え、浅い眠りから覚醒した。
周囲は薄暗く、未だ夜すら明けて居ないのだと客観的に悟れば、昨夜ベットに入った時間を思い出して浅い溜息を吐いた。
昨日は異例とも言える教授総動員の会議が夜半過ぎまで行われていた為、ベットに入ったのは空が白み始めても可笑しくない様な時間帯。
勿論そんな事を知る由も無い能天気なこの娘は、微動だにしない我輩の傍らにどっかりと腰を落ち着けてくる。
「 んーっもう、ネボスケ。 スケベ。 ドスケベ。 悔しかったらおきて見ろーっ! 」
グラグラと身体を揺すられ、次第に米神に青筋が立ってくるのは否めない。
幾ら恋人とは言え、休日の寝坊位見逃して欲しい。いや、寝坊ではない、未だ朝は来て居ないのだから…なんだ?何と言う表現が正しい?
兎に角、せめて朝陽が昇るまでは此の侭浅い眠りを貪らせて欲しい。
「 おっきろーっ! きょーじゅースネイプ教授ーっ! そんなんだから友達居ないんだぞー!! 」
…祈りは、届かないらしい。
激しさを増すばかりの身体の揺さぶりと耳元で聞える罵詈雑言かと思う位の皮肉に、怒りに身を任せて布団を引き剥がすと上体を起こす。
我輩は寝ているとばかり思っていたは、突然の行動に吃驚した様に大きな瞳をビー球の様に丸く大きくさせて我輩を写し込んだ。
少しばかり、睨みを利かせてやる。
怒っているのだ、とばかり眼で表現してやれば、大人しく寮に帰るだろう。
普通の生徒ならば、の話だが。
「 あ、起きた。 教授、外が未だ夜です。 」
忘れて居た。
最近溜まり過ぎる疲労で我輩の思考回路も最早ショート寸前なのだろうか。そう思うと頭を抱えたくなった。
は普通の生徒ではない。寧ろ、我輩の恋人を立派に務め上げる位なのだから、普通の生徒と同じ末路を辿る筈が無いのだ。
普通の生徒ならば詫びの言葉を述べて脱兎の如くこの部屋から走り去っていくだろう表情を零しても、相変わらず壊れたピエロの様にニコニコと笑い続けてい
る。
何だ、この緊張感の無さは。我輩の苛立った表情や怪訝な目付き等、意味は無い通じないとと言っているようなものだった。
「 …だから如何した 」
「 朝焼け見に行きましょう、朝焼け!きっと綺麗ですよ? 」
「 この猛吹雪の中で、かね?朝焼け等きっと見えぬ。 」
「 んー、じゃあ朝陽で勘弁してあげます! 」
「 朝陽も出ぬ。 今日は一日陽も出ない吹雪だと昨日言っていたであろうが。 」
「 とにかく、とにかく、起きるんですーっ!!!! 」
小さな駄々っ子を相手にしている様なものだった。
ああ言えばこう言う。そんな台詞がピタリと当て嵌まるような情景だった。
次は何と言おうか、何と言えば我輩が起きての相手をするか、其れを一生懸命に思考している事が手に取るように掴めて、思わず苦い笑いが零れる。
朝っぱらから叩き起こされ不機嫌度不快度数規定値を遥かに上回る記録を叩き出されて尚、怒鳴り声も上げない侭、幼い一人の子どもの思考を思案しているなん
て、全く誰が想像するだろう。
「 誠、お前は可笑しな娘だ。 冬に鳴く迷惑な雀のようだ。 」
「 何ですか、それ? 」
「 冬の寒さと気だるさからベットから起き上がるのも侭なら無いと言うに、
朝早くから周囲の事等お構い無しに外でピィピィと煩く泣き続ける冬の雀の様だと言っている。 」
「 …売られた喧嘩は買うべきですかね?
私が冬の雀なら、スネイプ教授は…図々しくて地味で狡賢くて重たくて暗くて兎に角黒一色の鴉でしょうがっ! 」
「 …そうピィピィ言うところが雀だと言っているのだ。
余り煩い雀は寓話の様に舌を切られるぞ。 」
「 舌切り雀は別に、ピィピィ煩くて舌を切られた訳じゃっ…わっ 」
「 大人しくしないと、籠の中に入れてしまうは、其れでも構わないかね? 」
の言葉が言い終わらない内、長い腕を伸ばしたスネイプは片手で小雀を掬い上げる様に小柄なの身体をを抱き上げて其の胸の中に引き込んだ。
寝起きの温かい熱を一気に奪い去る様な冷えた体温が伝わって、寮からスネイプの自室まで歩いてきただろう事が想像できる。
身を捩る様に逃げようとする幼い身体を押さえ込み、ずり落ちた布団を上まで引き上げると、身動きが取れぬ様に抱え込む。
「 …動けない。 」
「 良い事ではないか。 朝が来るまでお前ももう少し寝なさい。 」
「 …眠くない。 」
「 直に、眠くなる。 夜が明けたらじっくり話を聞いてやるから、今は大人しく籠の中の雀で居給え。 」
優しさの籠った言葉と、額への柔らかい口付け。
一定間隔で撫ぜられる髪の毛と、次第に温まってくる体温にも忘れて居た睡眠欲を思い出した。
スネイプが構ってくれないのならば、寮に戻ろうという気持ちはあるのだが、体がどうにも言う事を聞かない。
仕方ないとばかりに瞳を閉じれば、数分と経たない内にを柔らかな睡眠が包み込んでくれた。
寒さから身を護るように寄り添い、電線の上で、身を寄せ合っている雀達の様な光景がスネイプの自室で見られた。
勿論、其の光景を第三者が見る事は叶わないのだが、とても微笑ましい光景だったと言うことだけは、伝えておこう。
□ あとがき □
冬の雀って元気ですよね。あんなに寒い中、鳴き続けるのも大変だろうに…
と何時も完全防備の冬姿で電線を見上げてます(笑)
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