でんせん
今はもう、ヴォルデモートと名を改めてしまった嘗ての想い人と、こうして同じ道を二人きりで歩く事は出来ないような気がして目を伏せた。
貴方の居ない世界など、瞳に写し込みたくは無い。其れならばいっそ、変わる事の無い不浄の世界の記憶だけを永続的に繰り替えして生きていたい。
其れはまるで、きらきらと世界が移り変わる万華鏡の世界で生きているような錯覚さえ覚える様。
見上げた空は貴方の瞳に似た紅蓮色に染まり切っていて、愛しい貴方を浮かべられるくらいなのに、酷く哀しい。
リドル…夕焼けが凄く綺麗だね。
告げたかった筈の言葉は、私の想いから、貴方の心にでんせんする事無く泡沫の様に消えた。
あれはもう、何年前に為るだろうか。未だお互いホグワーツのローブを身に纏って居た気がする。
欠片を思い出せば、後は記憶が勝手に自己増殖しているかのように脳裏に膨れ上がってきた。
約束なんて無くて、偶然図書室で出逢い、クィディッチ競技場の丘の上まで夕暮れ時に貴方と二人、肩を並べて歩いた。
Tom Marvoro Riddle。知らぬ者等ホグワーツに居ないだろう存在感が滲み出る彼に初めて出逢ってから恋に落ちて。
お互い周囲に知らしめる関係を好まなかった結果、逢う機会も限られ狭まれ、偶々…そして久しぶりに会ったから、言いたいことが山ほどあった。
どれから話していいものか、わからないほど、沢山あった。
「 、もうじき…陽が落ちてしまうね。 」
「 そっか、もうじき夕飯なんだ… 」
「 この空を見れば、君と出逢った日を思い出す。 」
同じ影法師を道に落としながら、お腹を押さえて空腹感を訴えたに小さく苦笑して、リドルがふと立ち止まる。
眼前に映り込む朧気な色彩の空を見上げるように直視して、そうして呟いた。
鋭利な刃物で切り取った様な空が、橙に似た鮮やかな紅に染まっている。
昨日も今日も変わる事無く晴天だったから、こんなに空が赤くて綺麗なんだね。
純粋にそう言葉にしようとして、見上げる様にリドルを視て、其の侭言葉を喉奥に殺した。
紅い空を見上げたリドルが、寂寥感を伴った瞳で何処か懐かしそうに寂しそうに空を見上げていたから、たまらなくなって居場所を失ったように項垂れている手
を引寄せた。
指先から伝わる冷たい体温に安堵する私は、酷く切ない気持ちに為る。
「 …綺麗な夕陽。 」
「 僕は嫌いだ、夕陽なんて。 僕の瞳と同じ… 」
「 私は好きだよ? 大好きなリドルと同じ、紅くて綺麗な夕陽。 」
紅い空の中、が笑った。
其れを見て、何か言葉を言い掛けたリドルが、想いを言葉にする前に寂しそうに苦く笑った。つられるように、引寄せられるように、何かが感染したように。
から繋いで来た手を包み込む様に握り返して、リドルは地面に打ち付けられた様に動かなくなった両の足を、ホグワーツの校舎に向って動かす。
攻め入って来る様に此方側に近付いてくる情景。
紅い華を鏤めて作り上げた様な人工的な模造品を思わせる色が、抱込む様に空に鏤められていた。
息を飲む様な紅い、紅い夕焼け。忌まわしい自分の瞳と同じ色を兼ね備えた其れを見て、リドルは心の中で呟く。
消えてしまえば良い、こんな、こんな忌まわしい色。
「 また…一緒にこの景色が見れると良いね。 」
「 僕は、 」
「 リドルが嫌いでも…夕焼けに罪は無いから。少しでも好きに為ってくれるように…
私の、夕焼けが好きなココロがでんせんする様に、だから此れからも一緒に見ようね? 」
同じ赤い空を見て、見えるものが違っても。
其れでも同じ景色を此れからもずっと共に見たいと願う事は罪なのだろうか。
眼をあければ、雄大み紅色に染まる夕焼けが静かに其処に在って、そんな昔の話を思い出した。
一緒にこの景色が見れると良いね。
思いはでんせんする事無く、夕焼けがやがて漆黒の暗闇に飲み込まれる様にして侵食された。
□ あとがき □
伝染?電線?伝線?いっそのこと造語でも作ってやろうかと思いましたが諦めました(笑)
でんせん、簡単なようで難しい言葉ですよね。
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