先週末に終えたばかりのテスト結果をまさか週の頭の時限に憤慨を伴って渡される等、誰一 人として想像していなかったに違いない。
今日のスネイプは必要以上に其の機嫌を損ねているらしく、グリフィンドール生は半ば涙目になりながら、名を呼ばれて答案を返却されている。
スリザリン生のは今回のテストに聊かの自信が有った。
否、自信と言うと語弊が生じるが、他の生徒に比べれば少しくらいは出来が良い、そんな自信がには有る。
成績優秀、ホグワーツ入学以来常に学年トップをひた走るにとって、魔法薬学のテストなんて赤子の手を捻るよりも簡単な筈だった。

他の生徒に比べれば、明らかに赤色が少ない羊皮紙を詰まらなそうに折り畳んで、は誰も居なくなった魔法薬学研究室の机に頬杖を付く。


「 …ねぇ、教授。 私…思ったんですけどね? 」


口を開けばマトモな事等一つも言い出さず、次から次へと面倒事を持ち帰るの【なにか】を言い出す前兆を悟れないほど、スネイプはとの付き合いは浅 くなかった。
その浅くはないというところが彼の抵抗を現しているような程度のものだとしても、事実とそれが一番言い得ているとも思われたし、浅くはないからといって深 いというわけでもないとも言えて。
その割に、偶に何故か以心伝心したように相手を読みとるこというのは、自分だけではないらしいことも承知して、それが今だということも否応なしに感じ取っ ている。


「 …なに、かね。 」
「 今回のテスト範囲は簡単でしたね。 みんな…泣きそうになってましたけど。 」
「 ほぉ、簡単だと抜かしてくれたテストで満点を取らなかったのは何故かね、
「 毎回毎回同じ点数じゃ採点する教授も詰らないと思いまして。 偶には、紅いインク壷に浸したくもなるでしょう?  」
「 …煩い、もう良い。 其れより何かね、思うこと、とは。 」


だからこそ先回りして、これを聞かないという手もあると思われるが、しかし。
避けようとすればしただけ聞くまでの時間が引き延ばされるだけで結局は聞くことになるのだ。
が逃げたからといって、簡単に諦めてくれるようならば己とこの小娘との付き合い方はもっと違った形になっていたであろう。
だがしかし、生憎、一度生じた疑問や考えは形にしてみなければ気が済まない質なのはだけではないらしい。
思ったこととは一体何か、翌日の実験の下準備をしていた腕を止めれば、可愛らしい小さな顔に小悪魔の笑みが宿る。


「 毎日毎日、煩い位に吼えメールで愛を紡いでくる貴族の殿方からの手紙を見ていて気付いたんです。 」


そう言えば、今日もの愛梟が小柄な其の身体に無数の吼えメールを加えて飛んできた事を思い出した。
朝食中、の周りでは運ばれてきた吼えメールたちが一斉にへの愛を紡ぎ、そしての拒絶拒否の言葉に涙して散って行く。
其れが今日だけならば珍しい光景とも為るが、がホグワーツに入学して以来毎日必ず一通は届けられる其れに、我輩たち教授陣も本人でさえも日常茶飯 事の出来事になっていた。

最初のうちこそも面倒そうにしていたのだが、減る気配、兆候を見せない其れにいい加減如何でも良くなったのだろう。
最近は相手の名前を見ることさえしなくなっていた。


「 …だから、如何したというのかね。 」
「 …文通、しません? 私が偽名を使って教授にメールを書いて、教授も偽名を使って私に返信するんです。 」


想像どころか到底一般人ならば思いつくことも無いだろう提案に、今直ぐに巨大な溜息を吐いて痛み出した米神を押さえたくなる衝動に狩られる。
膨大な知識と余す所無く吸収しては即時応用を利かせる其の素晴らしい脳細胞の才は認めよう。
通常一般人と呼ばれている偏差値も頭脳指数もソコソコの人々に比べたら、、お前の頭脳は素晴らしい。7年生になり、希望するならば魔法省への推薦状等 幾らでも書いてやろうではないか。
だが、限度があるということを、学んで欲しいとつくづく思うのである。


「 …誰が、誰と、だと? 」


ズキズキと痛み出しては止まらぬ事を忘れた様にキリキリと痛む脳髄を押し殺しながら、呆れ半分嘘であってくれと願っている時に、追い討ちを掛けるような言 葉が空から降って来た。


「 だからね、教授。 愛と愛を交し合う文通ですってば。 」
「 誰から? 」
「 スリザリン寮所属の万年主席のこの私と。 」
「 誰へ? 」
「 毎日気色悪いホルマリン漬けに見取れてる魔法薬学莫迦のスネイプ教授へ。 」

そして、受け取った教授は返信を、私に。勿論、私も返事を書きますから、エンドレスですね。


まるで小さな子どもに言い含めるかのような口調ではゆっくりと端的に繰り返して、そうして柔らかく微笑んだ。
其処等の単細胞生物の男ならば迷う事無く惚れ込んでいるだろう其の柔らかい微笑の裏に、小悪魔の様な意地悪い笑みを浮かべて。

と知り合って既に3年以上もの月日が経過していた。
組み分け帽子の儀式の際、瞳が克ち合った瞬間に勝ち誇った様に眼で笑われたの存在を認めるようになってからの付き合い。
最早、突拍子どころか道理が適わぬ事を言い出すのにも慣れたつもりだったが、それにしても此れは何カ月に一度かの脱力もの。

文通とは、我輩の知る限りでは手紙をやりとりするものであり、遠方にいる友人知人などと交わすことの多いものである。
つまり、毎朝梟が、ご丁寧にも遥か彼方途方も無い距離を飛行して生徒と親兄弟友人知人とを繋ぐ手紙を運ぶ意味はそういうところにあるのだ。
渡せない距離だからこそ、直ぐに逢えない距離だからこそ、手紙と言うものは生きるのであり、文通と言うものは成立する。

だからこそ、ホグワーツに居続けている我輩ととの間に文通を行うべき必要性が何処にあるのかが判らぬ。

「 …それで…もし仮に文通したとして、お前はそんなにも書く事があるのかね。 」
「 そうですねぇ…言われて見れば、毎日こうして話してますから、無いといえば無いですね。 」
「 では態々その様な手間を掛ける必要はあるまい。 話したくなったら勝手に此処で喋れば良い。 」
「 確かに…。 そうと決まればこんなトコで教授を説得しているだけ無駄ってことですよね、失礼しました。 」


律儀にも小さな頭を一つ下げて、机の上に積み上げられた教科書を小脇に抱えたが椅子から立ち上がる。
如何やら今日は我輩の説得だけに来た様で、何時もの様に壊れた水道管の様に引っ切り無しに喋るのは別の機会のようだ。


「 では、教授。 また明日の放課後に。 」
「 あぁ、気をつけて帰り給え。 」


がゆっくりと魔法薬学研究室の重たい扉に向って歩き出す。
後を振り返らぬ毅然とした其の姿に、苦い笑みが浮かぶ。
まるで一本の轍が眼前に見える形で引かれていて、其の跡から目を離さないように、外れない様に歩いているようで、我輩は口の端を吊り上げた。
の轍の此の先、何処まであるのかは解らなかったが、不安に思うことなど何一つ無い。むしろ楽しいぐらいだった。
我輩の元に引かれているであろう轍は、が今歩いている轍にピタリと重なることだろう。

はふと立ち止まり、ゆっくり振り返って、視線を我輩に向けた。そうして先程まで支離滅裂な事を言っていた人間とは同じ人物とは思えないほど無邪気な笑 顔で、手を振って寄越した。

未来は晴れている。歩いてきた道は乾き、固まりつつある。
此れならば雨は降らないだろう。仮に雨が降ったところで、轍が消える心配は無い。


我輩との轍、さて、どこまで続いていくものか。








□ あとがき □

…私は何としてもスネイプ教授と文通がしたいです、是非、是非っ!
居残りでもOKなんですが、怒られる位なら文通で…(笑)


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