風切羽
鳥には、空を飛ぶための風切羽というモノが生まれながらにして存在しているという。
それは、「空を自由に飛びたい」という意思に関係なく、鳥類ならば誰しも身に持っている羽。
望む望まないを別にして、飛ぶ為だけに存在するその羽の役目は、否定することも無く「飛ぶ為」。
鳥を逃がしたくない者達は皆、挙ってその羽を毟り取る。
風切羽を失った鳥が大空を舞うことは、一生無い。
羽をもぎ取られ、其れでも尚空へ向かおうと羽を精一杯羽ばたかせるその様は酷く滑稽で。
銀色の細いCageに入れられた蒼い鳥は、己の身体を鉄柵に打ちつけ傷つこうとも、その仕草を止めなかった。
空を仰ぎ見て空を乞う。
真っ青な空と同じ透明な光をその瞳に宿して。
がはじめてその鳥を見たのは、スネイプの部屋だった。
暗い地下室に淡く光る蒼い鳥。
小さなその身体を懸命に羽ばたかせて、映らない筈の壁に映る空を目指して。
ピィピィと鳴きながら残る全ての力を注いで両翼を風に乗せる。
もう二度と、飛べることは無いのだと知りながら。
「 もし、私がアニメーガスの鳥だったら…
風切羽を切りますか? 」
傷だらけのその鳥は、失うことを拒絶した主人に無残にも風切羽を?ぎ取られた。
いつか自分の元を飛び立ち青空の彼方へ消えてしまうやもしれぬ鳥を、その身の中に留めて置きたくて。
独占欲という欲求を満たすが為だけに、鳥の将来を、夢を、希望を羽と一緒にもぎ取った。
そうして、飛べなくなった鳥に愛想を付かして捨てた。
それをたまたま拾ったのが、スネイプである。
「 風切羽を…かね。
一体何の為に? 」
「 私を束縛するために、ですよ。 」
風切羽を失った両翼は、傷口が痛々しいほどに赤く腫れ上がり血が充血している。
其処に丹念にスネイプが薬を塗り込んでゆく。
悲痛に泣き叫ぶ鳥を柔らかく包み込み、劈く痛みを堪えさせる呪文を唱えて。
その仕草の矢先、がそう言えば、スネイプは険しかった表情を更に険しいものに変えた。
刻み込まれた皺に、確実な新しい皺が刻み込まれる。
「 それは無いだろうな。
…お前が切って欲しいと言うのならば別だが。 」
「 どうしてですか? 」
「 …大空を乞う者は、大空を愛する事しか出来ぬ。
大空を愛する事しか出来ぬものから、大空をもぎ取ってしまえば…
其処には絶望しか残らない。 」
例え、二番目に愛しいと思う者が直ぐ傍に居たとしても。
そう、スネイプは告げた。
手のひらの中で蹲る様に小さくなった蒼い鳥は、スネイプの手から少しばかりの餌を与えられる。
両翼をよろめかせ、平衡感覚を失った様に揺ら揺らと左右に揺れながら、生きる為に贄を得る。
二度とその羽を羽ばたかせ、大空に舞い上がることは無いとしても。
いつか飛び立てることを夢見ながら、生きようと。
「 鳥には、空が全てなんですね。
飛ぶと言う自由を、私たちが奪ってはいけないんですよね 」
「 鳥は自ら空を拒絶することは無いだろうからな。
其処が人の愛と、違う処かも知れぬな。 」
酷く悲しそうに笑う。
手の中の鳥を見つめながら、静かにが刹那に笑った。
今にも零れ落ちそうな涙を瞳に認めて、餌を頬張る小さな小さな頭を人差し指でそっと撫でて。
一心に餌を食べるその横で、スネイプが静かにを見つめていた。
蒼い鳥を自らと重ね合わせるように視線を外さない。
餌を食べ終えた蒼い鳥を、そっとの掌に移し変え、スネイプは背後からを抱き締めた。
「 我輩からは、お前の風切羽を剥ぐ事等無い。
お前が…それを望まぬ限りはな 」
掌の中の小さな蒼い鳥が、一心に壁の向こうの空を見詰める。
羽ばたきたくて、残った力を両翼に注いで。
それでも、空には届かない。
風切羽。
それは、無くす事の出来ないかけがえの無い存在。
鳥に取っての風切羽が大空である様に、の風切羽は、彼女を抱き締める存在。
彼を乞う限り、
彼の愛を乞う限り、
彼女が彼を乞う限り、
彼女の風切羽がもぎ取られる事は無い。
彼女がそう、望まぬ限りは絶対に。
小さな蒼い鳥が悲愴に暮れた瞳で空を見上げるように、スネイプもまた同じ様な刹那の瞳でを見つめ続ける。
スネイプにとっての風切羽は、唯独りなのだから。
□ あとがき □
貴女にとっての風切羽はなんですか?
無くては成らぬ存在、それを無くした時、人は簡単に壊れてしまいます。
風切羽を無くした存在は、二度と同じものを手に入れることはないでしょう。
それがかけがえの無いものであれば、あるほどに。
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