星砂の如き滑らかな質感の砂が、さらさらと音を奏でる様に指先から零れ逝く。
粒子状の細かなこの砂の様に、私と貴方は少しずつ、崩れていった。
水を加えてカタチ取られただけの砂礫の城の様に、ふとした瞬間から一瞬でそれは壊れていった。
音を立てる事も無くまるで初めから何も無かったかのように砂礫の城は、金色の砂漠の砂と混ざり合って存在を消す。
それは一夜限りの夢舞台の様に瞳に映った。
本当に其処に砂礫の城は有ったのだろうかと自問自答するほどに、其処には唯タダ大きく広がった砂漠しかない。。
果てなく続く地平線の果てから上る太陽と私との果てしない距離は、宛ら私と貴方との距離。




…太陽を拒絶した貴方と、太陽に焦がれた私は、そのまま崩れて逝った。







砂礫王国






- ごめんね、。こんな事…するつもりは無かったんだ -











薄れ逝く意識の奥底で、優しい貴方の声を聞いた。
空気よりも遥かに軽くて実体の無い貴方だから、感じる筈なんて無いのに力の入らないこの身体を抱きしめていてくれるのだとそう錯覚した。
瞼すら自分の力でこじ開ける事が出来なくて、瞳を閉じたまま、差し迫る死に真っ向から向き直る。
死ぬ事を恐れてはいない。
寧ろ、貴方の役に立てる死なら望んで受け入れようとさえ思った。
貴方を愛したその瞬間から、
貴方とこの心を共有した瞬間から、
私の未来なんて決まり切っていた事だったのに。
それでも足掻く様に醜く生への執着を示すのは、もっと貴方と一緒の時間を共有したいから。
体力と精神力を文字通り奪い尽くされた抜け殻の様なこの身体では、貴方の傍には居られない。
でも、貴方の役に立ちたかった。
例えそれが、世界に燦然とした闇と恐怖を送り込む糸口になっていたとしても、その善悪を判断出来る程私には思考力が無かった。
貴方を愛した瞬間に、砂礫の城の様に脆くも理性は崩れ堕ちていた。











- …君はもう、僕の為に笑ってはくれないんだね -











哀しそうなリドルの声が確かに鼓膜から空気の振動を伝って脳に響いていた。
瞳を開く事すら叶わないけれど、それでも瞳を開けば直ぐ傍に哀しそうな表情のリドルが居るとそう信じたい。
リドルは私が笑うと酷く嬉しそうに柔らかな笑みを浮かべてくれた。
例えそれが、私の心と身体を繋ぎ止めておく為だけの手段の1つにしか過ぎなくても、
幾重にも張り巡らされた復活への蜘蛛の巣状の糸の一線にしか過ぎなくとも、
それでも私にはそれが全てだった。
リドルが微笑んでくれる、唯タダそれだけで心が救われた。
だからお願い。
私の為にそんな哀しい顔をしないで。
そう伝えたくても、言葉に出来ない。
伝えようと声帯に力を入れてもそれは脆くも掠りさえもせずに空洞状態の喉奥を通り過ぎて空気へと変わり果てるだけ。
もう想いすら、貴方に伝える事は出来ない。











- ねぇ、。僕は君を愛していたのかな?それとも…唯君が欲しかったのかな… -











リドルの声は、心を通して痛切なまでにリンクする。
あの、Tom Marvoro Riddleが自分の為に語り掛けてくれているのだとそう思っただけで幾分か心は救われた。
この先一生、リドルに触れることが叶わなくとも、
リドルに愛される事が無かったとしても、
リドルが告げた愛の言葉が偽物だったとしても、
このまま消え逝く意識の行き着く先が未だ見ぬ死後の世界であったとしても、
それでも、リドルが自分に語り掛けてくれているこの時間だけは本物で。











- こんな自分勝手な行動…または怒ってしまうね -











溜息を吐く様に重い吐息と共に言葉を吐き出したリドルのその言葉が、私の覚えている限りでは最後の科白だった。
遠のく意識を自身で感じ取りながら、このまま死後の世界に身を委ねるだけなのだとそう自覚した。
指先の感覚や、身体の感覚は既に無く、自分の心臓の鼓動でさえ聞く事が困難なほどに衰弱しきっていた。
最後の最後まで吸い取られて同化する様にリドルにこの身を妾われるなら其れこそ本望だと。
自然と溢れ流れた涙は、決して哀しみの涙ではない。
もう二度と、リドルの傍に居る事さえ叶わないのだと。
せめてもう一度だけ願いが叶うなら、リドルの傍に居たいと。
どの様なサマに成ろうとも、それがどれだけ背徳的な行為であるかも全て承知の上で、それでもリドルの傍に居れればそれでいいと。











” 私を貴方の傍に置いて ”











そんな安易で安っぽい科白も1つも吐けなかった私には、その資格すらないのかもしれない。
何故だか妙に納得できた様に、後は静かに暗闇に身を沈めて逝った。
願わくば、リドルがヴォルデモートとして復活してくれるように、と。
愛した人の最大の功績が、世の人々を恐怖に導くだけであったとしても、それでも私には関係無い。
貴方が悲しむ顔よりも、嬉しそうに笑んでいてくれるほうが、私にとっては幸せと呼ぶに相応しいモノなのだから。











- …、起きなさい -











深層心理に語り掛けるような低い音程が耳を掠めた。
あれからどの位経ったのだろうかは察することすら難しいけれど、それでも大分長い時間が経過している事だけは見て取れた。
耳元を掠めた声に導かれる様に、一瞬で身体中に神経の糸が張り巡らされ、指先や身体に感覚が蘇る。
程無くして五感も一通り感じられるようになった私は、ある違和感に遭遇する。
それは身体が何かに柔らかく抱き留められているかの様なそんな妙な感覚に似て、確実に誰かの腕の中に居る様な錯覚が走る。
少しばかり痛む頭を押さえ込む様に右手を頭に触れれば、刹那に誰かの手が柔らかくそれに重なった。











- 如何した、何処か痛むか? -











確かに、誰かに抱き締められながら、誰かの大きな掌が柔らかく頭を包み込んで髪を撫でている。
重い瞼を必死にこじ開ける様に内側から閉鎖された薄い粘膜を押し上げれば、差し込む光りに眼が眩む。
飛び込んできたのは月明りであったけれど、それでも随分と長い間閉ざされていたのであろうその影響は大きい。
瞬時に瞳から月夜を遠ざけるようにして、己を抱いてくれている人のローブに縋った。
ふわりと柔らかい感触の其れを掴む様にしてゆっくりと視線だけを擡げた先には、彼が居た。




” Tom Marvoro Riddle ”




それは声にならない声となって喉奥に消えていった。











- …私が判るか? -











少しだけ哀しそうな表情をしてそう問うた彼の瞳に、自分が映り込む。
二度と、出会える事は無いとそう信じて疑わなかった。
二度と、その腕で抱き締めて貰うことは叶わないのだと。
どれだけの過ちを犯してでも傍に居たいとそう願った人が、其処に居た。
Voldmortと名を変えたRiddleが、確かに其処に居た。
己が判るかと問うた彼に、私は何時もの様に笑んで小さく”Yes”と返事を返す。
刹那、強く抱きしめられた重圧が、身体に加わる。
嬉しさにも似たその苦しさに身を委ねながら、リドルが選んだこの結末に、一生添い遂げようと心に固く誓う。
例えそれが神に背く行為だったとしても、理性から判断して明らかに間違った方向に進んでいくだけでしかないと理解していようとも、それでも私には関係なかった。
もう一度、リドルと同じ道を歩んで日々を過ごせたらそれだけで良かった。
もう二度と、抱き締めてくれるこの腕を放したりはしない。
例え紛い物の愛情であったとしても、それでも今この時傍に居てくれる彼だけは、真実の彼なのだから。







砂で造られただけの贋物の城は、脆くも崩れ去る。
唯の粒子と化した砂であれど、またそれを繋ぎ合わせれば立派な紛い物の城が形成される。
何が贋物で何が本物か。
砂で形成された砂礫の城は、傍から見れば偽者かも知れぬが、粒子や砂礫から見ればそれは本物の城となる。
リドルの愛も…紛い物であれど、から見ればそれは真実の愛にそう変りは無い。
への愛情が本物か贋物かは…リドルだけが知っている。












□ あとがき □

リドル夢第二弾。
激しく失敗染みたのはやはり稀城がリドルをよく把握できていないからでしょう(汗)
記憶リドルでHappy Endってやっぱり難しいですね。
記憶リドルは、本当に愛していても実際には告げることは無く消えてしまいそうなイメージがあるのでこんな夢になりました(苦笑)
実際、「砂礫王国」となんら関係ないという(笑)!
タイトルを見て速攻思いついたのが、「ハムナプトラ」だったりします(爆)。




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