壊れた時計
それは酷く古い懐中時計だった。
表面は錆びれ、金細工は所々壊れたようにその形状を壊している。
元は繋がっていたであろう鎖の部分は根元からぷっつりと切れた様に、上方の金具だけが物寂しく付いていた。
針は不規則な方向に曲がったまま、12時ジャストを告げていた。
昔よく使われていた凸レンズの屈折が光りに反射されて文字盤を消す。
流れるような数字で書かれたその文字も、今では擦れて所々見え難くなっている。
がこの時計を見つけたのは、もう大分前のことになる。
「 何をしていた? 」
低い声が耳元を掠め、空気がその振動に震えた。
冷たく白い指先がスローモーションの様に動いては、の流れる髪を梳いた。
暗闇に近い色彩の中でも絶えず真紅の瞳をちらつかせ、彼は真っ直ぐにを見た。
表情を見せないその顔に、は柔らかく微笑みかける。
「 時計を見てたの。貴方の時計よ、リドル。 」
リドル。
そうの桜色の唇が告げた時、彼は瞳を細め、の手にした時計を見つめる。
壊れて時を留めた時計。
自分がこの手で壊した時計。
崩壊しかけた壁に力の限り放り投げ、音を立ててその螺子が壊れる。
皹の入った硝子が所々に見受けられた。
骨董品が一瞬にしてガラクタへと変る瞬間、彼は思う。
これは、自分自身だ、と。
「 捨てた名等紡ぐなと何度言えば理解する? 」
「 私が貴方と出会ったとき、貴方はリドルだったもの。
だから、今でも貴方はリドルなの 」
「 何度言っても結果は変らぬか 」
「 そうね、私は貴方に似ているから 」
微笑んだが握り締める壊れた時計。
ちゃり、と音を立ててその時計が擦れる音が木霊する。
意外なほどに大切そうに時計を保管していたであろう、その時計は、彼と同じ真紅の布に包まれていた。
その布を取り出し、時計をしまおうとの手に触れる。
するりと滑り落ちるように時計が床に落ちた。
「 お前の事も…壊してしまうだろうか 」
それは酷く冷たい声色で。
響いた旋律は打ち震えた様に独自の音色を奏でた。
細く緩められた彼の瞳に、微かに哀が漂う。
真っ直ぐにを見つめ、落ちた”壊れた時計”には瞳もくれずに。
ただ、目の前に居るを見つめる。
最初で最後、己が最も愛した女を。
「 それでも、いいよ。
私が壊れても、きっとリドルは傍に置いてくれるから。 」
微笑んだは、壊れた時計を一瞥する。
その瞳が驚に変った瞬間を、彼は見逃しては居なかった。
操られるように視線を落とした先には、壊れていた時計。
落ちた衝撃からか、その秒針がゆっくりと、廻っている。
コチコチコチと聞えてきそうな程に規則正しく、壊れていた筈の時計が音を紡ぐ。
「 時計は二度目の人生を歩むか。 」
「 貴方と一緒ね 」
「 …二度目の人生にも、お前は付き合うか? 」
動き始めた秒針の音だけが響く空間。
冷たく見詰たままの彼が、に問う。
柔らかい表情を浮かべたままのが、床に落ちた時計を拾い上げて彼に渡した。
上から重ね合わせるように掌を重ね、三度微笑む。
「 貴方のことも愛せるよう、努力するわ。 」
Voldmort…
そう呟いたはそっと彼、ヴォルデモートの頬に口付けを落とす。
掌の中の懐中時計を握り締め、彼は満足気に嘲った。
もうじき、夜が明ける。
新しい日々は、もう始まっていた。
□ あとがき □
初の卿夢!!!
…難しさは天下一品でしょう。
ルシウスと一体何が違うのか?と聞かれれば土下座をするしか術はありません(汗)
リドルだともう少し違ったのでしょうが…あくまで、「ヴォルデモート卿」なので。
これからもっと練習を重ねたいと思いますが…駄目だ、と思った方、早めに退散する事をお奨めします!!
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