真昼の月
昼間は神々しい太陽の光に存在を掻き消されてしまった様、薄い靄の中消滅してしまうけれ
ど、其れでも確かに月は太陽を想い、乞うている。
近付き過ぎては為らぬと覚れば覚る程に、留まる所を知らぬ恋情は膨れ上がった風船の様、破裂しなければ止められ無い様。
手を伸ばしても、届かない。
見詰めて見ても眩し過ぎる其の存在には翳りすら捕らえて貰えずに、存在すら視界の端に留まっていないのかと落胆する。
僕の存在は、真昼に浮かぶ月に似ていた。
昼も夜も変わらずに其の存在は空に在り、唯太陽に照らされている角度や状況、空の色彩や変化が異なるだけだと云うに、人の視界に映る事は稀。
さも当たり前の様に在る存在を気に留めなくなり、昼間でも月が輝き其処に在るのだと常日頃念頭に置いている人間はどれ位居るだろうか。
其の立場に置かれるまでは気付かず、況して自らが神経を鋭利にし存在を認めようとするまでの事も無い。
存在を確認出来た時初めて其処に居た事を思い、見えなくなれば其処に居た事を忘れる。
君が此方に気付いてくれなくとも、気付こうとも其れは変わる事無く、まるで僕は真昼に寂しく浮かぶ月の様だと。
己で自嘲する。
「 、ローブの裾が汚れている。 」
「 あ、ごめんなさい、有難う。 」
魔法薬学の講義中、過って大鍋に足を引っ掛けたは煮え滾る液体を床にぶちまけて仕舞っていた。
咄嗟に、僕は腕を伸ばして庇おうとするも、時既に遅し。
大きな物音と、女子の悲痛な声に、血相一つ変えずに淡々と説明をしていたスネイプの表情に一瞬翳りが入る。
教科書を乱雑にテーブルに置くと、懐から取り出
した杖で床を掃除しては身を案じる様にを一瞥し。
幸い、クィディッチでも活躍する類稀な運動神経が集約する身体を持ち合わせたは、液体脅威に晒されはしたものの其の身奇麗な身体を汚す事無く事無きを
得た。
一瞬にして騒然とした室内も、が普段の微笑みで無事の意思表示を告げれば、皆安堵した様に強張った表情を崩し各々の作業に従事し始める。
勿論例外無く僕も手にしたヒキガエルを鍋に入れようとしたのだが、小脇を足早に通り過ぎるスネイプの足音に視線が剥せなく為っていた。
態と音を立てている様にも取れる足音は、其れだけでスネイプの感情をストレートに伝える様、相当苛立って聞こえる。
のローブを黒く焦がしただけに終わった大鍋の液体は、瞬く間にスネイプの魔法によって片付けられ、先程の事故等何も無かったかの様、茶褐色の床板だけ
が在る。
「 。 我輩の講義中に余所見をするとは如何云う事か説明して貰おう。 」
「 …済みません。 少々考え事を… 」
「 講義も禄に聴けぬ人間が他に考え事だと? 偉い身分だな。 」
「 …申し訳ありません。 」
か細いの声が痛く脳に付いて離れない。
敵を射抜く鋭利な視線を直に受けるは心なしか細い肩口が若干震えている様にも伺える。
スネイプがポッター以外の人間に此処まで固執する事に気付いているのは僕だけだろうか。
はポッターやグレンジャーとは異い、生粋の魔法界一族の末裔であり、寮も誇り高きスリザリン。
クィディッチでは僕の代わりにシーカーの役も勤める程運動能力に長け、勉学に於いてもグレンジャーと主席を争う程能力的にも知能的にも優れた人材と言え
る。
人柄も温厚知性なうえに容姿端麗、スリザリン気質を本当に兼ね備えているのかと組み分け帽子を問詰めたくなる程。
其れこそ、スリザリンが誇れる優秀生。
そんな彼女を嫌う人間はこのホグワーツには存在しない。この僕でさえもの類稀な才能と長けた超克能力には圧巻すると共に嫉視さえする程。
しかし其れを鼻に掛け無い処がスリザリン以外の人間にも好意を持たれ、また僕の興味を惹く結果とも為った。
「 、罰として今日の講義の概要を羊皮紙2巻にして提出し給え。 」
「 スネイプ教授、其れは余りにも… 」
気付けば庇う様に声を出していた。
驚きの眼差しを向けたのは他の生徒も確かな事実だが、誰よりも早くスネイプが鋭利な視線を僕に向けた。
に見せたのとは大きく異なる、不遜した者への蔑んだ眼差し。
スローモーションの様にゆっくりと振り返ったスネイプの表情を直視出来ずに視線を引き剥がそうとすれば、呪にでも掛かった様に身体が怯んで動かない。
自らの所有物を無断で穢された様な面持ちのスネイプを、ホグワーツに在籍して以来始めて見た。
「 所存でもあるのかね、マルフォイ。 」
「 いえ、あの…僕は…少し罪過が重過ぎるのでは、と思っただけです。 」
「 重い軽いの問題ではない。 罪を犯したものに罰を与える、其れは条理に適った事ではないのかね。 」
「 …仰るとおりです。 でしたら、僕にも何か罰を… 」
お前に与える罰等無い。
端的に述べたスネイプはバサリとローブを翻し、大鍋のある方へと歩いて行くと、講義終了の旨を告げた。
丁度良く鐘が鳴り響き、教科書を小脇に抱えた生徒達が足早に掛けて行く。
の事を気に掛ける生徒も勿論居るけれど、先の僕の二の舞に為るまいと思ってか、哀悲の情を浮かべては後ろめたそうに地下室を後にする。
何時までも此処に居ても仕方無い。を連れ立って共寮に戻ろうと己の教科書を持上げ振り返れば、其処にとスネイプの姿は無い。
不思議に思い、魔法薬学教室奥に位置するスネイプの自室の前まで歩みを進める。
僅かに洩れる灯りに惑わされる様に足を運んだ僕は、小さく開いた扉の奥に観た光景に息を呑む。
暗く翳る地下室に僅か洩れた灯りは、漆黒の闇夜に浮かぶ月の様。
扉の奥には、月が焦がれた太陽が、太陽の愛した者と共に在った。
先のを見詰たスネイプの視線とは大幅に異なる柔らか味を帯びた視線でを見つめ、細い肩口を優しく抱き寄せ。
先程の出来事を謝罪する様な其の仕草に、普段は垣間見れないようなの幸せそうな微笑み。
僕には一生向けてくれる事の無い其の微笑みを、
例え一瞬僅かな時間で有ったとしても、対象が僕以外の人間だったとしても、其れでも嬉しかった事に代わりは無い。
「 …太陽に焦がれた月は、近づき過ぎると其の存在を欠く訳だ。 」
だからこそ、僕はこの位置の侭で。
そう言い聞かせる様に静かに扉を閉めた。
視線だけで此方を観たスネイプは、確かに一度だけ勝ち誇った様に口元を歪ませ。
全ての真実を僕に伝えるかの様な其の行為に苦虫を噛み潰しながらも、其れでも僕はこの人にだけは勝てない事を覚った。
誰よりもが愛した人間だからこそ、月が乞うた太陽…
其の太陽が欲したモノだからこそ、月である僕が敵う筈等無いのだと。
知っていながら愛してしまったモノは仕方が無い。
真昼にぽっかりと浮かぶ月を見て、哀れに思うように為ったのは何時からだろうか。
其の月と自分を照らし合わせる様、同情めいた溜息を漏らしては君を想い。
何時か…月の存在が太陽に届く様にと敵わぬ願いを籠めて今日も僕は真昼に月を探す。
□ あとがき □
如何も、誰か×ヒロイン前提のドラコ夢が大好きな稀城(笑)
このまま行けば…やはり復活しそうです。
因みに、真昼に浮かぶ月は何処か幻想めいてて大好きです。
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