年中無休
「 スネイプ教授って…凄いtoughなんですね…。 」
ソファーの上で魔法薬学に使う薬草の種分けをしていた我輩の頭上から、呆れに似た驚愕の言葉が降って来た。
一体何の話をしているのだ、と怪訝な一瞥をくれてやれば、そんなものはお構い無しとばかりに抱えた教科書一式を机の上に投げ置いて隣に腰を落してきた。
床に零れ落ちた薬草の残骸を屈み込む様にして、細い指で拾い上げようとするから、無意識の内に刎ねる様に手を出す。
パシンと乾いた音が木霊した後に、許可無しに薬草に触れた事に憤りを感じたと錯覚したのか、俯いたの顔が近くに見えた。
艶の有るさらりとした前髪が、淡紫の瞳が織り成す視線を遮る様に揺れているのが、何故か寂し気に思え。
悪かった、と言葉少ない詫びの言葉と共に説明を述べれば、慌てても謝り返してきた。
スネイプ教授が謝る事は無い、と小さな子供が駄々を捏ねる様な口調で。
「 何故に我輩がtoughなのかね。 こうして直ぐに立ち直れるお前の方が何倍もtoughだと思うが? 」
「 だってスネイプ教授、凄いですよ。
毎日毎日遅くまでレポートの採点に、次の講義の準備…休日は学会に提出する文書作ったり、
偶に休みに為れば遠くまで魔法薬学の機材を買いに行かれるじゃないですか。
…正に年中無休の教授生活って感じですよ? 」
日頃溜まっている我輩への不満要素をぶちまけたのかと思いきや、事実は意外にも真逆の方向へと進んでいた。
話の進展具合から、途中で泣かれると判断した我輩は薬草を摘み入れる作業を一旦休めて上を見上げれば、驚いた事には心から同情した様な表情を向けてい
た。
其れこそ、皮肉や厭味と云った類の物ではなく、恋人と云うカテゴリに自分が属しているという事実すらも忘れきった客観的視点でそう言っている。
万華鏡の様にくるくると表情を変える幼い子どもは、職業に嫉妬するということ事態を知らないらしい。
眼が回る程忙しい最中、朝起きてから夜寝るまで一切構う事が出来ずに録に会話もせずとも、は大人しく部屋の片隅で自分の作業に打ち込んでいる。
付き合って欲しいと言われた時に感じた煩わしさを微塵も感じる事無く一年が過ぎ、二年が過ぎて、違和感を持ち始めたのは寧ろ己の方だった。
世間一般で言われている量の1/3の時間すらもの相手をして遣れていない己が居る。
初めのうちこそまだ良かったものの、幼い子どもに心を奪われ本気で愛してしまっていると自覚してからというもの、妙な違和感に包まれると共に恐怖感に苛ま
れた。
此の侭では折角手に入れた安らぎを失ってしまうのではないのだろうかと。
「 …其れが我輩の仕事だからな。 」
「 勿論そうかもしれませんが、其れだけじゃないですよ。
スネイプ教授は其の忙しい時間の中で、私の相手もして下さるじゃないですか?
スネイプ教授が自分で遣りたい事をする時間…無いと思うんですが… 」
少しばかり寂しさ浮かべた瞳で笑ったが、傾げる様に首を動かせば、其れに寄添う様に絹髪が揺れた。
夜色の髪から除く幼さを残す頬の曲線は、酷く柔らかそうで思わず指先を伸ばして触れたくなる衝動と共に庇護欲をそそる。
肩に軽く落ちた髪を掌で梳いてやれば、甲に若干肌が触れる。
吸い付く様に木目細やかで暖かく、何処からか薫る甘い匂いが抜け切らないのは、の持つ幼さの故。
「 案ずる事は無い。 全て我輩の遣りたい事を日常で行っているからな。 」
意外な事を言ったのだろうか、大きな薄紫の瞳で見上げられれば無意識の内に引寄せる様にの身体を抱き締めていた。
意図も容易く腕の中に収まってくれる小さく華奢な身体。
男女の差というよりは最早大人と子どもの差を現実的に知らしめてくれる。
片腕で支え切れるほどに小さな身体を愛しむように背に掌を回せば、厚手のローブ越しでさえも華奢な輪郭を伝えて来た。
出逢って三年、付き合い始めて既に二年経過していると云うに、未だに抱き締められるという行為一つにさえ為れて居ないのか透明な肌色に近しい耳が朱に染ま
る。
如何していいのか判らないとばかり、胸の中に顔を埋める様に縮こまる頭を抱き寄せて、細い身体を一層抱き締めて。
互いのローブ越しに伝わる柔らかい薫りと忙しない心臓の律動が気忙しく伝わって来て、苦い笑いを押し殺せずに居た。
緊張していることを悟られまいと、一生懸命両の掌で拳を作って耐え凌ぐ様に心を落ち着けようとする少女を煽って遣りたいと妙な衝動に駆られ。
俯いた侭のを更に追い立てる様に柔らかな絹糸に口付けて、唇が滑り落ちた其の先で、
「 其れにだな、我輩よりもの方がtoughだと思うがね? 」
「 …私が、ですか? 私はぼーっとしている時間も有るんで、スネイプ教授よりtoughではないかと… 」
「 そう云う問題ではないのだよ。
年中無休で我輩に愛をぶつけて来るであろう? 我輩が構わずともお構い無しにな。 」
「 其れって遠回しに迷惑って事…ですか? 」
---------- もう少し自惚れても良いのだがな。 年中無休で我輩の傍に居れるのはお前だけだ。
抱き締めた小さな身体の小さな心に伝わる様に。
今だけは仕事の事も何もかも忘れて囁く様に言葉に表した。どれ位振りだろうか、敢えて言葉で伝えるという行為を取ったのは。
朱に染まりきった耳が更に紅くなり、はくぐもった声で、腕の中、小さく大好きだと呟いた。
腕の中に嬉しい程にすっぽりと収まる小さな身体を抱き締めて、更にキツク抱締めてやりたくなる衝動を押し殺しながら…、
年中無休で注がれる愛の半分は返せているだろうか、と柄にも無い事を思う。
願わくば、この時間が永久に続く様にと本意にしながら、再び柔らかい髪に口付けを落し、自棄に重たい瞼を静かに伏せた。
流れ込んで来るのは、静寂の中に木霊する互いの鼓動の音だけ。
□ あとがき □
年中無休=コンビニという方程式が成り立っているんですが…どうなんでしょう(笑)。
そしたらヒロインの愛=コンビニって事ですよね?年中無休の愛も素敵だとは思いますが、コンビニ並みの愛って言うのもまた…(おい)
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