オムライス
「 私、オムライスだけは食べられないんです。 」
得意料理は何か、と聞いたらは苦笑しながらそう告げた。
香ばしい薫りが室内に広がり、ジュッという効果音と共に火の中に掲げられた中華鍋にライスが入れられる。
真っ白いエプロンをしたが、小さな身体で一生懸命に中華鍋を振る姿は妙に愛らしくて。
劫火に投げ入れえるように振る中華鍋が、綺麗に宙に舞う。
丁寧に切り揃えられた野菜がライスに混ざり合って徐々に料理へと進展してゆく。
「 じゃあ、何故作ってる? 」
こじんまりとした家の狭いリビングに、豪華な衣装を身に纏った男が座っている。
家の風潮には到底似遣わない様な井出たちで、優雅に座り、料理をするをじっと見つめる。
ちゃちな蛍光灯に映し出された光りに当てられた銀色の髪が、風にはらりと揺れ。
高めのダイニングテーブルに置かれたテーブルクロスに、銀食器が載せられた。
ふわりと薫る美味しそうな香りが、料理の完了が伺えた。
「 …出来ました。 」
ルシウスの疑問を綺麗に流し、は完成を迎えたケチャップライスを卵で包み込む。
オムライスを綺麗に皿に盛り付け、スープを添えて銀食器と揃いのトレイに載せてテーブルに運び。
芳しい香りに表情を緩めたルシウスに苦笑しながら、は並べられたナイフでさくりと切り込みを入れた。
ふんわりとした形状に固まった卵が真ん中から綺麗に割れ、スクランブルエッグがケチャップライスを抱き込む。
「 、何故二つある?
お前はオムライスが食べられないのに何故自分の物も作る必要がある? 」
並べられた二つのオムライスを見比べながら、ルシウスは疑問を口にした。
綺麗に料理されたのは確かに二人分のオムライス。
この家にはルシウスとの二人しか居ない為に、必然的に、二人分のオムライスはルシウスとが食べることになるのだろう。
けれど、料理をしながらは"オムライスが食べられない”とそう言った筈。
自分が好きだと言った訳でもなければ、得意料理を作って欲しいとも言った覚えは無い。
何も言わずに椅子に座ってたらば出てきた代物が、オムライス。
笑顔で勧めるに、知らず知らずのうちにフォークが進む。
「 …得意料理だけあるな。 」
一口食べたルシウスは、少しだけ表情を緩め、そう告げた。
普段、一流シェフの料理しか口にしないルシウスがオムライスという食べ物を食べたことは未だ嘗て無くて。
が作る料理を食べることも初めてならば、使用人のシェフ以外の料理を口にすることも初めての事で。
オムライスという食べ物がどのような食べ物かは知る由も無いけれど、元来の味以前にの作った料理の腕前と味は素晴らしいものだった。
一流の味に肥えた舌を持つルシウスがそう言うのだから間違いなどは無い。
「 ルシウスが”美味しい”って言ってくれたら、食べれるような気がしたの。 」
だから、作ってみた、とが笑った。
エプロンを着けたまま、トレーに載せたフォークを握り締めて、オムライスを崩す。
の視線の先には、愛しい男が美味しそうに食べるオムライスが在る。
音も発せずオムライスを食するルシウスは、ちらりと横目でを垣間見た。
ルシウスが食べている量よりもはるかに小さく盛られたフォークを、は暫しの間見つめる。
「 食べれるように成るまで、付き合ってやろう 」
スープを飲み干したルシウスは、フォークを静かにテーブルに置く。
銀食器はオムライスが載せられる前の綺麗な状態に戻っていた。
真っ白いナプキンが、綺麗な指によって折られる。
純白のテーブルクロスにナプキンが載った瞬間、はゆっくりと握り締めたフォークを口へと運んだ。
「 美味だろう? 」
柔らかく表情を緩めたルシウスが、戻したばかりのフォークを手にして、のオムライスの山を崩した。
運ばれる先は、己の食道内。
減る見込みの少ないオムライスが、間食されるのはもう少し先の事。
そうして暫く、オムライスだけの日々が続いたことは言うまでも無い。
□ あとがき □
恋する女は、大好きな男の為なら不可能を可能にするらしいですね。
恋のパワーは凄まじいものです。
私の嫌いなものは「マッシュルーム」と「マヨネーズ」と「たまねぎ」。
之だけは大好きな人の頼みでも食べれないような気が…。
ルシウスが言うなら死ぬ気で食べると思いますが(笑)
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