きょうだい





「 …教授、私、暫く此処へは来ませんから… 」











小さく絞り出すように紡がれたその言葉が、忙しなくレポートの採点をする我輩の手を静止させた。
机の一点のみを見つめていた我輩の視線はゆっくりと重き扉の前に佇む少女に移動する。
堪えるように俯いたままの少女は、カリカリと響いていた我輩の羽ペンの音が止むのを確認したのか、その頭を上げた。
僅かながらに涙滲むその瞳は、何時もの天真爛漫な少女からは想像もつかない程の代物。
思わず息を呑んだ我輩は、目配せする様に合図を送る。











「 如何したのかね、。悪戯がフィルチにでも見つかったか 」




「 違います。でも、明日から一週間、私は此処へは来ませんから 」




「 …一週間…? 」











大方、己さえも知らぬうちに言ってしまったのであろう、その言葉。
怪訝そうな口調で聞き返してやれば、意識覚醒するようにが小さく息を呑む。
何か裏が有る事が見え見えなその態度に溜息を吐くも、 放って置けないのはが恋人と言う特別なる位置に存在している故だろうか。
来たまえ、とそう短く告げれば躊躇するも素直に少女は踵を此方へ向けて。
長い距離でも無いと言うに、が此方に来るまでの数秒がやけに長く感じられた。
次第に狭まる二人の距離が、歩幅二三歩の距離まで来た時点で、有無を言わさずその腰を抱き上げ膝の上に落とす。











「 さて、説明して頂こうか。何故に一週間なのかね?
 アイリーグ校に出逢いたくない友人でも居るのかね。 」











その言葉、つまりは『アイリーグ校』という単語にの背がビクリと揺れた。
明日から、アイリーグ校と我がホグワーツ魔法学校の交流…等とは唯の言葉上の手前であり、アイリーグ校の数名の生徒がホグワーツを訪れると言うもの。
長年仲違いしたわけでも無ければ、校長同士が仲が良いという訳でもないのだが、数年に一度催される突発的学校行事。
今回その出来れば避けたい面倒極まりない学校行事がホグワーツ校で開催される故、此方側はアイリーグ校を貴賓として招いた上に接待しねばならない。
魔法界で同じ様に魔法学校と肩を並べて謳っているだけに、選び抜かれる生徒も相当のものなのだろう。
が逢いたくない友人でも居る、というのが一番察しやすい。
けれど、当の本人から返って来た言葉は意外な物で。











「 妹が…貴賓としてうちの学校に来るんです。 」



「 妹…?それならば寧ろ、妹の為にも居たほうが良いのではないのかね? 」











その問いに、は小さく首を横に振った。
零れ落ちそうだったその涙は、今ではもう瞳にすら滲んではいないけれど、それでもの表情は暗いまま。
悪戯でフィルチに怒られようと、この我輩の授業で居眠りして激怒されようと、何時もその笑みを絶やさぬ少女が落とす暗い影。
普段ならば其れほど気にも留めぬの交友関係ではあるけれど、家族不仲だという話は一度も聞いていない。
それどころか、長期休暇の際は必ず家族で出かけるという家族円満の話をよく耳にしている時分。
が苦しそうに紡ぐ『妹』という存在が引っ掛かりの様に脳内に木霊して止まない。











「 私の妹…凄く頭が良くて、凄く可愛いんです。だから、絶対に妹に会わないで下さい…! 」




「 …、今なんと…? 」













「 …私と私の妹、半分は同じであろうDNA持ってるのかすらも疑わしい位に似てないんです!
 妹は頭も良いし、顔が小さくて可愛いし、誰からも好かれる性格で温厚だし、面倒見はいいし…
 未だ2年生だって言うのにアイリーグ校の代表で来る位に秀才だし、落度なんて一つも無いし
 ハリーやハーマイオニーも私の妹を”可愛い可愛い”って煩い位に言うし…
 それに比べて私は、がさつだし、成績も顔も普通で人に自慢できるところ一つも無いし…
 小さい頃から何時も”妹のほうが可愛いね”って延々言われ続けてるし…
 でも、私と妹の好きになる人のタイプは必ず一致するんです。
 だから先生お願いです、私の妹に会わないで下さい!! 」











聞き返した我輩の言葉に、想像以上の説明文が尾鰭を付けて返って来た。
その内容の凄まじさ、正しくは稚拙さに圧倒されるも、苦笑が込み上げて仕方ない。
半場涙目になりながらも延々怒鳴り散らす様に吐き捨てたは、一気に喋り上げて息をする暇も無かったのか、小さな肩を上下に大きく揺らす。
が普段我輩に話して聞かせる妹の存在は決して嫉みの対象などではなく、寧ろその逆のようにさえ感じていて。
それでも誰にも吐けなかったであろうその胸の内を、一切合財ブチマケタの表情は何処と無くカラリと晴れていた。
そして冷静になった今、自分は何たる台詞を吐いたのだろうと後悔の念に苛まれているのもまた見て取れる。
一人芝居を延々繰り広げるかの様なその仕草に、笑いが込み上げるのは致仕方ない。











「 …私、最低だ… 」











そう呟いたに、我輩は心の底から可笑しくなる。
自分で吠え立てておきながら今更何を言うか。
そう言いたくなるも、困ったような表情を崩さないは何だかんだ言いつつも、誰よりも妹を可愛がっているのだと客観的に見て取れた。
言葉を吐きつつ二十面相のようにコロコロと表情を変えてゆくの頭をそっと撫ぜてやる。











「 我輩はお前以外を心に映す事等無い。 」




「 そう言って、妹を好きになった人は沢山居ました 」




「 では、一週間我輩は此処から出ん。それで文句は有るまい? 」




「 …アイリーグ校との会食はどうするんですか 」




「 そんな戯言の為に悲愴なの顔を見ながら食べる夕食、美味しいと思うかね?
 アルバスに激を飛ばされる程度でが痛嘆せぬなら喜んで其方を選ぶがね。 」











心底惚れていると、そう痛感させられた。
我輩の言葉に微笑んだが、嬉しそうに我輩の首に腕を絡めてキスを強請るように頬を寄せて来る。
サラリと指先を滑り落ちた髪を撫でながら、その桜色の唇に口付けを一つ落としてやり。
安心し切った様な微笑みを見つめながら、我輩とは連れ立って夕食の為に室内を出る。
それから約一週間、アイリーグ校を向かい入れたホグワーツでは、とその妹の話題が瞬く間に広がることと成る。
勿論、我輩は自室に篭ることも無く、も寮に塞ぎこむ事も無く普段通りに過ごしたのだが。











「 誰でもが同じ物差しで判断すると思うかね?少なくとも我輩は、だから好きになったのだよ 」











思い出しただけでも何故にあの様な戯言が口を吐いて出たのかが不思議でならないが、本音であることは間違いなく。
一週間、仲睦まじい姉妹を見掛ける事は度々有り、の言った様、妹君が我輩に話し掛けてくることも有り。
それでも、と同じ様に幸せそうに微笑んだ表情だけでも、遠目に我輩には二人は同じDNAを分け合った姉妹に見えて仕方が無い。
妹も姉と同じ様に、自分よりも姉の身を心配し同時に不安になり。
アイリーグ校の教師と仲睦まじく戯れるの妹君は、同じ悩みを抱えていた様子。
学校内の教師と姉妹揃って付き合っている等と言う事実、DNAを分け合ったとしか思えないではないか。
我輩にとって、普段とは一味違ったの心の内を覗き見れたようで感謝はしているが。
今回の一件。血を分けた姉妹、似ているのが外見よりも本質だということに改めて気付かされることとなる。











「 セブルスー!!フィルチに見つかったから暫く匿って… 」











何時もの台詞に何時もの声。
扉の奥から覗く普段どおりのに、我輩の心は自然に和む様に成っていた。
溜息を吐きながらその身を机の下に匿ってやるのも、だから、やってやるだけの事。
本人さえ気付かぬその魅力、我輩が熟知していればそれでいいのではないのだろうか。










□ あとがき □

誰しもが一回は経験あるのでは…(笑)?きょうだい、比べられると非常に困ります(汗)
やっぱり同姓のきょうだいというのは、様々な対象物に成り得ますよね。
私にも無いとは言い切れませんから。
そして見事、教育実習の際に経験してきましたよ、高校で二週間、妹に授業を教える刹那さ…(泣)
似ていても似ていなくても、姉妹である証なんて幾らでも有りますからね(苦笑)





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