手を繋ぐ
ホンの些細な興味。
日頃から薬草だの熱い大釜だのを素手で弄るスネイプ教授の手が愕く程綺麗で、毎日きちんと手入れがされているのではないかと善からぬ疑問さえ抱いてしまう程其れは私の右手よりも遥かに綺麗で。
女の子である己よりも酷く綺麗なその指先が羨ましくて、男の人である筈なのに大き目のその掌は温かみを帯びていて其れで居て優しくて柔らかい。
大きくて温かいその掌で優しく頭を撫ぜられると、其れだけで小さな子供の様な安心感が全身を包み込む。
髪越しの温もりは痛いほど感じていると言うに、指先と指先を通じて触れ合った事は未だ無い。
ホンの些細な興味。
温もりある指先で触れてみたいと言う好奇心。
其の先に待つ嬉々とした体験に胸が躍る。
少し触れるだけでいい。
だからお願い、起きないで…
そう願いながらは胸に抱えた課題を音を立てずにそろりと机に置いた。
後、少し。
自分に言い聞かせながらそろりそろりと、スネイプが居るソファーに近づいて行く。
徹夜の仕事が有ると言っていたスネイプの事。
きっと昨夜も遅くまで仕事をこなしながら、漸く終った仕事を机の上に置いたままが自室に来るまでの僅かな時間…と思って浅い眠りに付いたのだろう。
普段居眠りどころか昼寝をする姿すらも想像出来ないスネイプが、ソファーに身体を投げ出して居る。
寝息こそ聞こえないものの、規則正しく心臓が呼吸を繰り返す様が微小に上下する服の律動で悟る事が出来た。
浅い眠りだろうが深い眠いだろうが、この際関係無いとは泥棒にでもなった様な気持ちのままゆっくりとその歩みを進めた。
目的は唯一つ。
恋人の指先に触れてみる事。
「 …起きないでね、セブルス… 」
聞こえない程度に小さく言葉を囁いて、はそのままスネイプの眼前に降り立った。
ちらりと横目で見てみれば、双眸こそ閉じているものの端正且つ美麗な顔を持ったスネイプが睡眠を貪っている。
胸の前で両手を組んでいるかと思えば、強ち勘という物は当たらないもので、目的とするその手はソファーから滑り落ちるようにだらりと床に伏していた。
「 やった…!そのまま起きないでね… 」
神は自分に味方した、と心で両手を合わせたは小さく屈みこむ様にしてその指先に己の指先を伸ばす。
あと少し。
後数センチ。
そんなカウントダウンが己の中で繰り広げられ、その感覚が徐々に縮まる。
呼吸をする微かな音でさえ、勘が鋭く周りの空気変化に敏感なスネイプに瞬時に察知されて瞳が開けられないだろうかと息が詰まる。
罪悪感から来るものではないのだけれど、無性に疚しい事をしている気持ちに苛まれて仕方ないであれど、此処まで来たのだから仕方ないとそのままそっと指先を伸ばす。
ピクリとも動かない標的に掌を重ねればミッションは終了する。
その時まで、あと少し。
指先と指先が触れ合うか合わないかの微妙な瞬間、空気の流れが変る。
「 何をしている。 」
「 セブル…ス…きゃ…っ 」
ふわりと開いた双眸は確かにを捕えて、触れ合うか合わないかの指先の事等気にも留めずに細い腕と腰を掴んで持ち上げる。
抱え上げる様にしてを抱き上げたスネイプは、未だ夢現なのかその腕の中でを抱き抱えたまま再びその瞳を閉じた。
首の下にはスネイプの腕が、胸の上には逃げない様に置かれたスネイプの片腕が、直ぐ真横には美麗なその顔が。
呼吸さえ止まってしまうかの様な接近具合にの頬が紅く染まる。
口付けでもするかの如き短い距離に高鳴る心臓が口から飛び出そうだと慌てて口を手で抑えそうになる。
一つの狭いソファーで向かい合う形で横になるこの状況で、はスネイプと自分との間に挟まれた片腕を持ち上げた。
落ちてしまわない様にスネイプの方に寄り添う形に動けば、その気配を察したのかスネイプがを押さえ込んでいた腕の力を緩める。
「 …今度こそ、起きないでね… 」
願いながら、軽くなったスネイプの腕を徐々に下にずらして目的の指先へ。
指と指の間を組む様に重ね合わせれば、想像していた通りの温かで優しい掌の温度が伝わる。
瘡付いては居るけれど、それでも大きくて優しくてあったかいスネイプの掌。
両手で重ね合せる様に握り締めたいと指先を離した刹那、スネイプの掌はの元を離れてしまう。
あっ…と声を上げたでは有るが、その行く先を態々追うことを止めた。
否、正しくは断念せざるを得なかった訳であるが。
「 大人しくして居給え 」
間近で聞こえたスネイプの声と共に、その掌は子供を寝かし付けるようにの髪を撫ぜた。
僅かしか感じられなかった指先の温もりは、更なる安心感を伴って髪から心に響き伝わる。
もう一度触れたいと思ったその感情は、伝わる温もりと安心感が綺麗に消し去ってくれた。
暫くすると聞こえてきたの小さな寝息を聞いたスネイプは、仮眠で終わらせていた眠りから漸く本格的な眠りに落ちる。
促される様に瞳を閉じたが再び目覚めるのは、夕食の鐘の音が聞こえた頃。
地下室で柔らかな空気に包まれた恋人同士の転寝が繰り広げられている事を知る者は誰も居ない。
□ あとがき □
忘れるところだった「100のお題は簡潔に!!」を今回は有限実行(笑)
ほのぼの…ということで、「手を繋ぐ」というより、二人で昼寝をする…というほうが正しい気が…(笑)
スネイプ教授の指先、何故か繊細で綺麗なイメージがあります、私。
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