ベンディングマシーン
「 最近の世の中って、何でも自動販売機で売買されるんですよ。
缶ジュースにお米、乾電池に煙草に美味しい水、灯油にチューインガムまでその種類は様々なんです。
この先…その種類はもっともっと増えると思いませんか? 」
珍しくスネイプの研究室で夕食を共にしているが、片手にバターを塗ったブレッド片手に微笑みながらそう話し掛けてきた。
元来からマグル製の製品への興味が有るスネイプではあるが、自動販売機…つまりはベンディングマシーンについての知識は少ないほうである。
それでもイギリスで良く見かけるジュースの自動販売機は何度か利用したことが有る故、存在自体は認識していた。
学年を跨ぐ冬休みを利用しては故郷である日本に帰っており、その際余りに多様化したその自動販売機に愕いたという。
の小さい頃にはスネイプの知るジュースの自動販売機しか無かったと言うに、僅か5年足らずでそれは大きな進歩を遂げていた。
「 不便でなくなったのならば問題は無いではないか。
寧ろ、この様なご時世…喜ぶべき事ではないのかね? 」
「 確かにそうなんですが…でもやっぱり、少し哀しくないですか? 」
「 …哀しい?一体何が哀しいというのかね? 」
「 だって、自動販売機は対機械ですよ…?
人と全く接することなく商品が手に入るんです…寂しいじゃないですか。
そりゃあ、お金を貸してくれる有人システムも有りますけど… 」
「 ならば、24時間営業のコンビニに行けば良いではないか 」
「 うーん…それもそれで面倒なんですよ 」
「 …結局何が言いたいのだ、お前は… 」
ああ言えばこう言う、というのは正にこの状況であるとスネイプは小さな溜息を零した。
何が言いたいのか、寧ろ単なる自問自答に無理やり自分が言葉を突っ込んでいるような気がしてならないスネイプは、重すぎる其の頭を抱えないようにと配慮を施す。
時折、はこうして一人思い悩んだような会話をスネイプに振る事が有る。
それは大抵の場合、スネイプに答えを求めるようなモノでは更々無く唯一人意見を述べているようなそんな状況。
一々相手にしてやることは無いと思いつつも、思い悩む愛しい恋人の姿にスネイプも口を出さずには居られない。
お陰でスネイプも食事を中断して、の思考に付き合うことになるのは最早日常茶飯事と化していた。
「 …便利な世の中って凄くいいことだと思うんですが…
例えば、何百年後かに愛が簡単に自動販売機で買える様になったら…
って考えたこと有りませんか? 」
「 …有る訳無かろうが。云いかね、良く聞き給え。
例え何百年何億年経とうが、愛情と言うものが人の心から生み出される感情に過ぎない時点で
それを機械か何かで作り出して自動販売機で売る事など不可能なのだよ。
浮かんでは消える感情と言う所詮は眼に見えないモノをどうやって固体化するのかね?
魔法か何かを使って心から感情を取り出して売りつけるとでも?
金を払ってでしか手に入れられない愛情等塵同然だ。馬鹿馬鹿しい。 」
微笑んだままのにそう一気に告げてやる。
一気に捲くし立てる様に喋り付くし、これから更なる決定打を与えようとした瞬間に、スネイプの言葉は活躍の場を失う。
呆気に取られたように唯スネイプの言葉を聞いていたは、”馬鹿馬鹿しい”というスネイプの言葉の後に抑えきれないという様に笑い出した。
手に持ったブレッドを丁寧に皿に置いて、口元を隠すように、けれども酷く楽しそうに笑う。
その意外な事態にスネイプははっと我に返るように己の吐いた言葉を脳裏に回想させた。
決して間違った事は言ってないにしろ、何かがの心に笑いを齎したのだと知った瞬間、酷く己が恥辱に塗れた気がしてならない。
その色を表情として露にしたスネイプは言葉を紡いだまま、冷め掛けているスープを喉奥に落として気を落ち着かせる。
「 済みません、余りにスネイプ教授らしくって…。
どうして教授は私の考えていることが判ってしまうんですかね?
自動販売機にお金を入れてボタンを押せば即座に必ず目的とした物が手に入る…
教授の答えは私にとって自動販売機と一緒です 」
「 …ならば、硬貨を請求する権利が我輩には有るという事であろう?
自動販売機なのだからな 」
「 ということは、教授の答えに値段をつけなくてはいけませんね…
どうしましょうか… 」
「 冗談だ、馬鹿者。
本気で我輩が感情に値段を付けるとでも思ったかね。 」
呆れた様に言葉を零したスネイプの冷たい唇が、の温かな唇で塞がれた。
それは一瞬の隙を突いたような口付けで、すぐさま二人の繋がりは解かれてしまう。
名残惜しそうに唇を離したの細い腕を捕まえて、スネイプはもう一度その唇に口付ける。
冷めかけたスープが完全に冷めた頃合。
「 感情を貰ったから感情で返したまでだ。
自動販売機でなくて残念だったな。 」
「 今度一緒に自動販売機にジュースを買いに行きましょうか、教授 」
「 一人で行けば良いであろう?我輩は忙しい 」
「 この間一人で買いに行ったら偶然逢ったルーピン先生にお茶に誘われたんです。
だからまた一人で行ったら… 」
「 …買いに行くときは先ず此処に寄り給え 」
眉間により一層深い皺を寄せたスネイプはそう告げてから冷め切ったスープを喉奥に落とした。
苦笑したも、同じ様に冷めたスープに口を付ける。
近々訪れる休み、自動販売機にジュースを買いに行ったとスネイプがリーマスと鉢合わせするのはもう少し先。
□ あとがき □
自動販売機って本当に色んなものが売ってますよね。
ちょっとしたものならば最早コンビニが要らない位に色々調達できるので吃驚です(笑)
そのうち本当に感情が買える自動販売機が…出来るわけ無いですよね(爆)。
魔法か何かでなら簡単に作れると思うのですが…如何なのでしょうか(笑)。
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