The World
セカイで一番大切な君だから、世界で一番最初に殺してあげる。
「 ねぇリドル。 来年も此処に、綺麗な花が咲くといいね。 」
大切なモノなんて、何一つとしてなかった。
だから、喪うものなんて何ひとつとして無いと思っていた。
真っ白いカーテンの隙間から僅かに射し込む陽の光りに眩しそうに薄紫の瞳を和らげて、微笑む其の先にはいつも僕がいた。
思うように動かなくなった手足、微笑むことに使われる僅かな筋肉の移動でさえ彼女の身体を蝕むのか若干辛そうな表情を殺して、は笑う。
本当に嬉しそうに、僕の姿を視界に留めて存在を確認しながら、そっと視線を外して。
告げる言葉も僅かだと、返って来る言葉も僅か。
終焉を迎える恋人同士の無言の会話の様な沈黙が、僕との極日常の会話だった。
視線を合わせて、僅かな量の言葉を交わして、また視線を外して。
たったそれだけの作業。
交わした言葉を秒数に換算すれば、一秒でも多いほど本当に僅かな時間。
其の微少な時間が、酔生夢死しそうなこの腐った心を安堵させるなんて、認めたく無い。
其れでもこのセカイ、未だ壊さずに居れるのは君がこの世界を愛しているから。唯、それだけ。
「 来年…此処は埋め立てられてしまうらしいよ。 残念だね。 」
「 そうね。 じゃあ今のうちに心残りの無いように沢山たくさん咲いてね。 」
を想い愛する気持ちに嘘があった訳じゃない。
寧ろ、此処まで誰かを愛せるなんて想像にすら描いた事が無いほど気付けばこの心は奪われ、恋焦がれていた。
特定の誰かを愛し、言葉を交わす其の度に莫迦みたいに膨れ上がるこの気持ち。
いつの間にか心に根付いていたのだろうか。気付く事さえ無い侭に溺れていた。
同じ時間を過ごす其の度に。
振り向けば何時も此処にあった、陽だまりの様な温もりに。
「 私、どんどん悪くなってるんだって。 でもね、最後の最後まで悪足掻きするんだから。 」
蒼白気味のが冷たい僕の手を握って、笑う。
西洋彫刻の様に木目細かな肌に薄く細い血管が僅かに躍動している様がくっきりと浮かび上がり、骨と皮だけに為った手首は強く握り締めれば折れてしまう様な
気さえした。
必死に生きようとする赤子の様に力の入らぬ指先で握り締めてくれる其の様を見ながら、痛む筈の無い心が慟哭している声を聞いた。
目的を遂行する為には、自分以外の誰かを独占する事や自分以外の誰かから己を独占される事は、禁忌に近い行為だった。
もとより、自分が誰かを必要とする事が無いと思っていたからこそ、誰かに必要以上に愛され欲される事。
其の相手を自分も愛してしまう事こそ、何よりも耐え切れない事に繋がり、気付いた時には目的を遂行する為の障害にしかならない事が判りきっていた。
だからこそ、手遅れに為らない内に、この手で…。
「 来年は…此処からどんな景色が見れるんだろう。 」
君に、来年は、来ない。
其れは誰よりも良く僕が知っていて、誰よりも知っている僕だからこそ、君に嘘を吐いてしまう。
治す事が不可能とされる呪に似た魔法を君に掛けたのは紛れない僕自身で、一刻一秒経つ毎に弱っていく君を視界に入れては心を痛めるのも確かに僕自身。
でも、この呪を解いてあげる事は出来ない。
僕はもう、僕自身でVoldmortの自我を止める事が出来なくなっているから。
どれだけ近くに居ても、どれだけ想っていても、どれだけ君が僕に笑ってくれていても現実は何も変わらない。
君を愛している気持ち、大切だと思う心…其れは本当に、嘘では無い。
本当に愛してしまったからこそ、君をこの薄汚れた世界で生かしておいてはいけないのだと。
衰滅するだけの世界、マグルを虐げ、瞭然の如く毀れて行く様をに見せる訳には行かない。
「 きっと来年も綺麗な花が咲くよ。 僕が保障する。 」
「 …リドル、ありがとう。 」
綺麗な君と居ると、僕が毀れてしまう。
世界で唯独り、一生涯の中で一度だけ本気で心を赦した人だから、だから君にだけは幸せな夢を見ていて欲しい。其れが独り善がりだとしても、其れでも廃れ弔
歌に似た叫びが木霊する世界を見せたくは無かった。
僕が今から歩こうとする道、何時の日か全てが過去に代わったとしても絶対に、過去を消す事は出来ない。
世界から歴史を削除し何事も無かったかの様に上書きすることが赦されない様に、ヒトが歩いてきた道を削除する事は出来ない。
良かれ悪かれ、軌跡は誰かが確かに其処に存在していて、其れが誰かを形成した一つ証なのだから。
例え世界が其の記憶を永遠に葬り去っても、其の時生きていた歴史の証人者である誰かはきっと忘れないだろう。
誰かの記憶の中で、永遠に生きていく過去がある。
君にだけは幸せな夢を永遠に見ていて欲しい。
これから起こりえる事を、記憶として留めておいて欲しくない。
君だけは、この手で毀したくないから、一番最初に殺してあげる。
「 私ね、リドルに出逢えて本当に幸せだった。 有難う、リドル。 」
桜色の唇から毀れる愛の言葉が、嘘であれ真実であれ、今の僕には何の関係も無かった。
僕が君を想うこの心だけは本当で、何を犠牲にしても護らなければ為らない対象だからこそ、君を一番最初に…。
僕の此の耳に、荒んだ此の胸にジワリと染み込むのは、君の言葉だけ。
だから最後に聞く君の言葉が、痛嘆した嘆きの叫びでない様に、悲劇を目の当たりにする前に…幸せのうちに終焉を。
嘘であれ、真実であれ、君の言葉だけが僕の中での唯一の言葉になる。
笑うと云う行為一つでさえ、苦痛を虐げ無ければ出来ない様にしてしまった僕は、如何して君に償えるだろうか。
君の笑顔を何時までも見たいと想い続けていた筈なのに、一番最初に奪ってしまえば楽だったのに君の笑顔だったのに。
如何して其れが出来ず、こんなにも君を斃してしまって居るのだろうか。
「 僕もに出逢えて幸せだった…本当に。 」
が微笑んだ。酷くヒドク嬉しそうに、心から。
其の笑顔を焔の瞳に映しこみながら、思う。絶対に、過去は消せない。
ヒトが何等かの意図で歩いてきた道を、誰かが簡単に何事も無かったかの様に消去することは出来ない。
誰かが其処に居た証は確かに其の場所に存在って、そして其れが誰かを形成した一つの証拠に為る。
其れと、同じ。
例えセカイから君が消えてしまっても、僕は君を忘れない。
世界が君と云う存在を欠いてしまっても、僕の記憶の中で、永遠に生きていく過去が在る。
僕が生きる、悠久と云う永遠の中で。
この心から、君を消す事なんて出来はしない。だから、この世界に君がいなくても…僕は独り生きていける。
喪われて逝く体温。
毀れていく命。
最後に微笑んだ君が告げた言葉は、愛を告げるでも無ければ、生きたいと懇願する想いでも無かった。
唯、ただ…すべてを悟った様に冷たい手で僕の手を握り締めて-------------------
初めて私に嘘吐いたね、リドル。
セカイで一番大切な君だから、世界で誰よりも幸せな夢を見ていて欲しかった。
が願い続けていた花はもう二度と咲かない。
其処は永遠不毛の大地と化し、花は愚か雑草さえ生えない廃墟と化して、Vordmortは其処を根城に生き続ける。
セカイで一番大切な君だから、世界で一番最初に殺してあげる。
そうして僕の記憶の中だけで生き続ければ良い。
愛しい君から笑顔を消し、このセカイで生きる事を削除した僕は如何したら赦して貰えるか、償い方等何も浮かばなかった。
だからせめて、この罪過を背負った侭…これから背負う罪よりも遥かに重い罪を抱えて生き続ける。
□ あとがき □
The World…このタイトルはやっぱりリドルでしょう…(笑)。
しかもネタがありがちで申し訳ないんですが、リドルはこういうネタが思い浮かびやすくて困ります。
連載とかにしたら、結構重量の厚い連載が出来ると思いますが100のお題ですから…(汗)
因みに、妙に空いている改行部分にヒロインの台詞が反転で有ります(笑)
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