のどあめ
酷く見慣れ無いモノがホルマリンで埋め尽くされたその室内に、まるで初めから有るかの様な存在感を持って置かれていた。
紅茶の缶をそのままリサイクルしたようにも見て取れる其れは、ソファーの置かれている正面のテーブルにぽんと在る。
不思議そうにが手に取って見れば、カタンと何かと何かが触れ合う微かな音が聞こえた。
サラサラと羊皮紙に羽ペンを走らせていたスネイプも、見切りを付けたのかそのまま羽ペンを置きの反対側へと座る。
缶の蓋を開けていいのかそれとも聞くべきか、と表情で語っている様なに苦笑するスネイプは促す様に横から缶の蓋を開けてやった。
ぽんっと軽い音が木霊して、途端に鼻に薫るのは仄かなCeylon Brendの香り。
「 紅茶…の飴ですか? 」
「 あぁ。茶葉の交換の際、棄てるのも如何なものかと思ってな。
丁度良く、調合に使用する水飴も余っていたからな。 」
「 余ってたって…コレ、スネイプ教授が作ったんですか…!? 」
「 …我輩が飴を作ったら何か問題でもあるのかね。 」
綺麗な瑠璃の色と高貴なCeylon Brendの薫りを放つ球体の飴と、怪訝そうな表情のままのスネイプの顔とを何度もは見比べた。
思考が如何頑張ってもスネイプが飴を煮詰めて指で丸めている様等想像出来ないに取って、想像は遥かに度を越えたものになる。
人間、元来のイメージを遥かに上回って覆すほどの出来事に遭遇した場合、笑いすら起きずに放心状態になるという。
は正に、今其れをその身で一身に感じていた。
固まった侭のなどお構い無しに、スネイプは開かれた缶の中からその細い指先で飴を一つ掴み出して口の中に放った。
”食べてみなさい”と促されたも、同じ様に同じ形状の飴を一つ取って咥内に入れる。
途端に広がるのはCeylon Brendでは無くミントの様な爽快な香り。
「 咽喉飴…ですか? 」
「 如何にも。この時期は風邪を拗らせる輩が多くてな。
一度マダム ポンフリーに頼まれて作って以来我輩も手放せなくなった。 」
あぁ、あの素敵なbaritone voiceはそうした努力からも生まれているのだなぁ、とは心の中で思う。
己の名を柔らかく紡いでくれる温かで酷く官能的な旋律を、壊して欲しくない。
出来る事なら永続的にその声色で甘く囁いて欲しい。
ソファーで足を組み、持て余した腕をその上で組みながら世間話を持ちかけるスネイプの話を右から左に流しながら、は沸々とそんな事を脳裏に侍らせる。
飴を舐めていると言うにそれを感じさせない程に流暢に言葉を紡ぐスネイプと相異なって、は事の他言葉を紡ぐ度に徐々に小さくなっていく物の飴の存在が言葉を発するのに邪魔を掛ける。
言葉を発するスネイプの口元を知らず知らずの内に瞳で追うは、如何やらその咥内に既に飴は存在していないのでは…?という一つの疑問にぶち当たる。
「 スネイプ教授…?もしかしてもう飴舐め終わったんですか? 」
「 飴?その様なモノは当に無い。 」
「 私と同じ位に舐め始めたのに…舐めるの早いんですね。
私の郷里では、飴を舐め終るのが早い人はキスが上手いって云うジンクスが有るんですよ。 」
言ってはたりと気付いた。
普段、ハーマイオニーに話を持ち掛ける様な安易な気持ちで言葉に出してしまったが、仮にも相手は恋人、そしてそれはスネイプ教授。
キスをしない間柄では勿論無いが、アカラサマに”キスして欲しい”と言える間柄でもない。
道理を踏み外していたとしても所詮は生徒と教師。
明らかに言葉を言う相手を間違ったと血の気が引くのを背で感じ取った。
如何弁解しようかと俯いていた顔を上げた刹那、スネイプの奥底に何かを隠し込んだような意味有り気な瞳と克ち合う。
後ろにソファーの背凭が無ければそのまま後方に一直線で雪崩込みそうな程の存在感には唯、絶句するのみ。
引き攣った様な笑みしか作ることの出来無いの細い顎にスネイプの冷たい指先が掛かる。
然して距離など無いに等しいこのソファーとソファーの間。
身を乗り出すまでも無く、少しばかり引き気味のを捕えるのにそう労力を費やすまでも無かった。
「 ほぉ…。其れは誠風変わりなジンクスだな。
その様なジンクス、初めて耳にする。 」
「 ”所詮はマグルの戯言”とか言わないんですね…今日は。 」
「 戯言か否か…何事も試してみねば判るまい? 」
やっぱり来た、と思った瞬間に唇が柔らかな其れで塞がれた。
触れるだけだと思っていたその口付けは、意外にもの期待を綺麗に裏切るカタチで齎される。
するりと滑り込んできた舌が、の柔らかい舌を追い掛けては逃がさぬ様に捕える。
獲物を追う肉食獣の様に凶暴の様で居て、真逆にも捕えられれば至福の喜びが身体中を駆け抜ける。
逃げる様に引く腰に手を添えて引き剥がさぬ様にして齎される口付けに、開放された時既にの瞳は虚ろで。
漸く唇を離したスネイプは意地悪げな微笑を口元に湛えたまま、の瞳を直視する。
「 …で、ジンクスとやらは戯言で有ったかね? 」
その問いに、が如何答えたのかは判らない。
だが、スネイプが満足気に微かに笑んだ事だけは事実である。
□ あとがき □
のどあめ…で無くてもいいだろう!?という突っ込みは無しの方向で(笑)
飴は舐め始めると止まりません。
更には舐めるのも遅いので、必然的に私はキスが下手だと…(笑)
ジンクスが本当なら、教授や殿下は其れこそ秒殺並に飴を舐め終えそうなイメージがあります(爆)。
↑無理でしょうが(笑)。
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