ガムテープ
カラカラと小さな音を立てながら螺旋階段を小さな木の箱が滑り落ちてきた。
我輩の足にカツンと当たって勢いを止めた小箱をその手で拾い上げて螺旋階段をゆっくりと上る。
一段一段上る毎に聞えてくるの溜息を含んだ声と、何かを引っ掻き回す様な音に自然と眉間に皺が寄る。
何をしているのかは、大方予想が付く。
【荷造りをしてくるね】
そう言って二階へと上がっていったの小さな背中を見送ったのは今朝方早く、今は既に昼食の時間を迎えようとしていて。
開け放たれた侭の…二度と戻る事は無いだろうの部屋から零れ落ちた光景は正に溜息落胆モノ。
昨夜見た筈のキチンと綺麗に整えられた部屋風景は微塵も存在しない。
片付けられていた筈の部屋の中央に、その部屋を形成していたであろう様々なモノに埋もれながらは広げたダンボール箱片手に試行錯誤を繰り返していた。
「 魔法で荷造りをすれば楽だと思うのだが…如何かね? 」
「 セブルス…ごめんなさい、もう少し時間が掛かりそうなの。 」
「 …魔法を使う気は無しと言う事かね。 」
手にした小箱を手渡してやれば、苦笑しながらが【有難う】と其れを受け取って傍に置く。
人一人が漸く座り込めるだけのスペースしかないその場所に、無理やりもう一人の人間が座れる空間を作った。
無言の侭、座れとも立ち去れとも言わないその様に、昔己が示した態度と意図を思い出しローブを翻して其処に腰を落とした。
相も変らず、は自分の持ち物-----正しくは、我輩の家へと持ち込むべき物を厳選吟味するかの様に見詰めては、折り込んだダンボールの中に丁寧に落として行く。
魔法で片付けてしまえば一瞬で終ると言うのに、如何して態々この娘は手作業で遣るのだろうか。
問うた処で、答が返って来る事等期待はしていなかった。
物事に熱中すれば周りが見えなくなるのはお互い様なのだから。
ふと視線を落せば、見慣れたモノが視界に映り込んで来た。
7年と言う長い間、の首元にゆったりと撒き付いていたスリザリンのタイ。
つい先日までは、己の傍で学生として生活していたが、明日には自分の妻となって傍に居る事に為る。
信じられぬ訳ではないが、何処か歯痒い様な感覚に包まれ暫しの間、唯タイを見詰めていた。
この7年の間に、周囲が仰天圧巻する程の出来事が確かに二人の間には流れ落ちていた。
只、其れだけの事だと言うに、如何してこうも懐かしいのだろうか。
「 私ね、今まで一度も引越しとか、荷造りとかした事無かったんだ。 」
「 では、ホグワーツに来る際の荷物は如何したのかね? 」
「 あの頃は未だ親元を離れる事すら厭な只の甘ったれで…
ホグワーツに如何しても行きたくなくて、前日まで放って置いたら次の日、ちゃんと準備されてた。
だから其れを持って、厭々ホグワーツに行ったの。 」
「 容姿端麗・頭脳明晰・破天荒・第二の魔法悪戯仕掛け人と言われたお前が…かね? 」
「 そうよ、信じられないでしょう?
今では…あの時ホグワーツに行って良かったって思ってる。
勿論、セブルス…貴方に出逢えたからよ。 」
慣れ親しんだカーキ色の皮製のトランクを開きながら、は懐かしそうに笑った。
スリザリンに在籍しながらも、ウィーズリー等と共に悪戯に精を出してはフィルチや我輩の説教を幾度と無く喰らった。
だと言うに、何時も笑顔を絶やさずに何かそんなに幸せなのかと問いただして遣りたくなる程何時もは微笑っていた。
気付けば己でも知らぬ内に、その微笑を見る事に安らぎを覚え、出来る事なら己の為だけに笑って欲しいとそう願うようになっていた。
其処から此処までの道程は、一言では語り尽くせぬけれど今こうして我輩の隣に居る事に相違は無い。
無論、この先も離すつもりも無い。
「 だからね、せめて一回位は自分で荷造りしてみたかったの。
魔法を使わないで、自分の手で。
唯、其れだけの理由。 」
要る物と要らぬ物を振り分け終わったのか、は話をしながら山積みにされた荷物の片方を順に大きなダンボールに丁寧に詰めて行く。
計算しつくした様に隙間無く効率良く詰め込んでいく様を見れば、几帳面な性格が此処にも滲み出ていると思い知らされて。
あっと言う間に必要な物を入れ終えたダンボールが一つ出来上がり、その傍らには不要なものが溢れ返る。
それらを同じ様に一つのダンボールに入れると、開いてしまわぬ様にキチリと魔法を施した。
ふわりと浮いたダンボールはクローゼットの中へと仕舞われる。
口が開いたままのダンボールは如何するのかと思いきや、脇に無造作に置いてあったガムテープをその手に握り締め。
視線を漂わせたとその先が克ち合えば、ニコリと微笑まれ無言でダンボールの端と端を押さえる様に言いつけられて。
如何やら徹底的に荷造りをしたいのだと、そう思えば落胆の溜息しか漏れては来ない。
こんなにも面倒な作業、誰が好き好んでやると言うのだろうか。
「 …セブルス、如何してこうも徹底的に遣るのか、とか思っているでしょう? 」
「 問う迄も無く判っているのならば如何してするのかね。 」
「 此れが、最初で最後の荷造りだから。 」
「 …最後? 」
「 そう、最後。セブルスと喧嘩するか離婚したら…きっと荷造りしなきゃいけないから。
これが最後の荷造りにしたいな、って。 」
ふんわりと甘い雰囲気の陰で、綺麗に根底から覆す様な汚らしい耳障りな音がの手元から聞こえた。
雰囲気に浸る暇さえ与えられずに空間を破られた我輩の落胆等知りもしないで、キチリとガムテープによってダンボールが固定されて行く。
思い出を封印するかの様に懐かしい眼差しで一連の作業を行っていたは、最後にビリッと一際大きな音を立ててガムテープを破り去った。
そうして其れを背面に巻き付けて【important】と書き記した。
此れを次に開けるのは明日の晩と言う事に為る。
「 残念ながら、再び荷造りする日は来そうに無いな。
荷造りの為だけに此れだけ長時間待たされるのはもう御免だ。 」
呆れた様に言えば、ふわりと表情が和らいだ。
ダンボールを中央に向かい合わせる様にして、反対位置に立つの細い腰を引き寄せる様に腕を伸ばして抱き寄せる。
愕いた様に身を竦めたの指先からダンボールを固定したガムテープが滑り降りた。
巧い具合に車輪の形をしたまま、コロコロとフローリングの床を滑り落ちて其の侭螺旋階段を転がってゆく。
行き場を失くしたガムテープをの母君が拾い上げたのと、我輩がに口付けたのは略同時刻の事であった。
□ あとがき □
ガムテープ関係なーい(笑)寧ろこじ付けこじ付け(笑)。
私は未だ嘗て一度も荷造りをした事がありません。
就職先も県内なので、今後もする事が無いのかなぁ…と思いながら書いた作品です。
荷造り、最初は楽しそうですが…段々億劫になりそうな気がします。
やはり魔法が有るのって便利ですね。
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