MD






君の居なくなったその部屋で、今も流れるのは懐かしさばかりが染み込んだ古めかしい曲。
マグルの世界の曲等更々興味も無ければ関心も無い。
元来マグルを毛嫌いする訳ではないが、英語以外の言語を態々理解する必要性も無ければ不便さも無いが故に、流れる旋律と音調を唯聞いているに過ぎない。
独りで居る事に慣れすぎた故に、手にした温もりがこの手を離れたその際に訪れるどうしようもない孤独感と悲壮感をより一層音楽が引き立ててくれた。
望んでも居ないと言うに、重苦しい空気を背負ったこの地下への扉を開けばその先に、微笑を湛えたお前が居てくれる等と柄にも無い事を。
がらんとした殺風景な部屋に、次々と運び込まれたの荷物だけが今は物寂しげに唯置かれていて、主の帰りを心待ちにしているかの様な雰囲気さえ漂って。



吐きたくなる見っとも無い溜息を仕舞いこんで、出て行った侭に斜めを向いた椅子に腰を落した。
両肘を付いて、重すぎる頭を支えるようにその上に乗せれば、見慣れないものが机の上に有った。
否、見慣れていない訳ではなく唯己が使った事が無いだけであると言う事なのだが、机に置かれた水色の其れはが独りこの部屋で我輩を待っている際に良く使っていたもの。
マグルの世界で【MDウォークマン】と呼ばれて居るモノらしく、音楽を聞くことができるのだと聞いた事を思い出した。



抱え込んだレポートは昨夜終らせてしまい、どうせする事など何一つ無いのだと、我輩は其れを手で掴み上げた。
掌にすっぽりと乗ってしまう位に小さな其れには様々なスイッチがあり、どれかのスイッチを押せば曲が流れるのだと以前教えられた。
【スネイプ教授も一度聞いてみて下さい】
そう言われてから大分立つのだが、生憎一度も聞いたことが無い。
今までそのまま過ごして来れたのは、誰も待ち人の居ない部屋に独りで帰ることが無かった為。
今はこの狭く暗い部屋で独り、愛しい者を待つ身に置かれてみれば、確かに音楽でも嗜んでいなければ到底持ちそうにも無い。




「 …此処は一つ、遣ってみても暇潰し位にはなるだろう 」




懐から杖を取り出し、【MDウォークマン】に魔法を施した。
どのボタンを押せば再生されるか等憶えても居ない我輩が下手に触っての持ち物を壊す訳には行かぬ。
まして、この【ヘッドホン】為るモノを装着する事でさえも躊躇われる事態、魔法を施し演奏させるのが一番であろう。
キラリと一瞬閃光を放った【MDウォークマン】は、意志を持った様にふわりと宙に浮き、内部のカセットが自動装着されたようなカチャリと言う音を立てた。




「 確か…昨夜は【冬のバラード曲ばかりを集めたMD】だと言っていたな… 」




昨夜の会話を思い出す様にそう言葉に出して、MDから紡がれる音に耳を傾ければすぐさまに音が流れ出た。
ゆったりと流れ出た音楽は、の郷里である日本のアーティストが歌ったとされる曲で、我輩には何を伝えようとしているのかは判らない。
けれども流れ落ちる音楽も、琴の音の様に細く美しい歌声も何処か懐かしい様な儚い様な雰囲気を伝え、聞き慣れない異国の言葉であるにも関わらず意図さん事が伝わる様なそんな気持ちになる。
時折英語も混じりながら、儚くも柔らかな温もりある冬を髣髴とさせる歌から、切なく心が引裂かれそうな哀しみに満ちた歌まで様々な曲が紡がれる。
けれどそれらに全て共通しているのは、どの曲も全て【いい曲だ】と思わせてしまうところ。
と感性が似ている筈等無いと言うに、心に染みて忘れさせない音楽は人どころか国境すらも越えるものなのだと実感させられる。




「 いい曲でしょう?私の一番好きなMDなんです。 」



曲に浸りきっていた我輩を覚醒させたのは紛れも無い愛しい者の声だった。
あれからどれ程時間が経っていたのかは判らぬが、がこの部屋に戻ってきたと言うことは恐らく3時間程度は経っていたのだろう。
其れ程長いと感じていた時間も音楽のお陰で退屈せずに済んだ様で、知らぬ間に夕陽が傾いている時分。
もうじき夕食の鐘の音が鳴ろうと言う時間帯を時計が指している事に気付いた時は、流石に己でも呆れてしまう。



「 あぁ、確かに良い曲だ。内容こそ判らぬが、感銘を受ける。 」


「 宜しければ、別な物もお貸ししましょうか? 」




あぁ、頼む。
そう言えばは一瞬だけ愕いた様な表情を見せたが、直ぐに何時もの様に微笑んで【判りました】と嬉しそうに言った。
言葉の通り、其の時以来は我輩の部屋に遣ってきては新しいMDを置いていくようになった。
大抵は二人でゆったりと聞く事が多いのだが、今回の様にがこの部屋で我輩を待って居ない時等は独りで聞く様になった。
莫迦莫迦しい話だが、漸く歌詞と歌手名が一致する様になり、己の中でも特に【好きな曲】と言うカテゴリが増えた。
との会話や共に過ごす時間は何時もと変わらねど、其処に加えられたかの様に音楽の話が出る様になった。




「 此の曲、日本で7週連続一位の曲なんですよ 」


「 成る程、確かに良い曲だ。 」




の生まれた国の曲、が好きだと言う曲。
其れ等を共感出来、知ることが出来たマグル製品に少しは感謝すべきだろうか。
今日も変る事無くこの部屋にはが持ってきたMDが鳴らす曲が流れ、二人だけの空間が広がりを見せる。



唯一つ。
変らぬ点が有るとすれば、
我輩がMDの存在を知ってからもうじき半年を迎えるのだが、相変わらず我輩は魔法以外での再生方法を知らぬ侭である。












□ あとがき □

お気に入りの曲だけを入れたMDとか、切ない時に聞きたいMDとか、皆さんやっぱり作りますよね(笑)?
私ももうじき【Winter Song】と書かれたMDが出現する予定です。
最近は見境無く今昔混在MDとかがあるので、車で流すと友達に懐かしがられたりする曲もあります。
この時期一番聞くのはやっぱり広瀬香美さんですかね。
聞くと「スキー場に来たなぁ…今年も冬が到来たなぁ…」と思わずには居られません。




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