「 …こんな所で何をしているのかね。 」





突然上から降って来た声に、小脇に抱えた紙袋を思わず落しそうに為った。
厭でも間違う筈の無い不機嫌を帯びた其の声色に、全身の身体が硬直し、講義の際に減点されるあの瞬間を髣髴とさせた。
条件反射的に謝りそうになる口元を手で押さえる様に声を殺して声がした方向を見上げれば、やはり魔法薬学教授が怪訝そうな表情で立っていた。
断りきれない頼み事の所為で、折角の休みに図書館に行かない?と誘ってくれた友達の誘いを断って、独りイギリスに魔法書の買出し。
贔屓にしてもらっている魔法史の教授の頼まれ事とは言え、如何して毎回自分が其の任に吐かなければならないのだろうかと溜息を吐きながらようやっと買い物 を済ませた。


…と思ったら、店から出た次の瞬間、バケツをひっくり返した様な豪雨に眼が点に為った。
此処が魔法界なら何の問題も無い。傘だろうが雨雲を散らそうが、魔法さえ使えたら其れこそ苦無く濡れる事も無く道を歩くことが出来る。
しかし、今が居るのはマグルの世界であるイギリス。傘等持っている筈も無く、折角手に入れた魔法書を濡らす訳にも行かず、魔法も使えずホトホト困り果 てていた。
雨宿りでもしてみようかと入った軒先で過す事10分。冒頭の様なお声が突然降って来た次第。





「 あ…スネイプ教授。 実は魔法史の教授の頼まれ事で… 」

「 そんな事を聞いているのではない。 もうじきホグワーツ特急が発つ。 何時まで雨宿りをしている気だね。 」

「 って言われましても…私傘持ってないですし、魔法使えませんし。 」





だから雨宿りをするしかないんです。
そう言って微笑えば、僅かに動いた頭から前髪を伝って透明な雫がポタポタと地面に音打った。
魔法書を購入した店に軒先なんて洒落たものが有る訳も無く、仕方無しに向かいの店の軒先に入り込むまでの間、僅かな距離しか無いと言うに其れでもすっぽり と水を被った様に濡れてしまっていた。
歩幅にしたら其れこそ10歩ないかもしれないその距離で、此れだけ被害を蒙るのだから…駅に着くまでには完璧に服は使い物にならなくなっているだろう。
そう考えれば、幾ら大事に服の中に本を入れた所で結果は眼に見えて居る事態に為るだろう。
ならばギリギリまで此処で雨宿りでもしてみようかと、そう考えていたのが間違いだっただろうか。
時計に眼を落せば、確かにもう直に此処を発たなければ、ホグワーツ特急に乗り過ごしてしまうだろう。





「 ………全く、何処までも抜けている出来ぬ生徒だ。 」
「 …うわ…っ… 」





呆れた溜息と共に、スネイプの眉間に皺が寄る。
乗り過ごしたら一体如何するつもりだったのかと問われ、全く何も考えていなかった旨を告げれば更に呆れられた。
そして其の侭、スネイプの手にした紙袋を強引に持たされて、力強い腕に引き上げられる様にして抱えられる。
一瞬にして身体が地面から離れ、垂直に持上げられると担がれる様に片腕で押さえ込まれてあっと言う間に視界は普段の二倍も高くなる。
ホグワーツに在籍しているとは言っても、未だ新入生であるは想像以上に幼く小さい。
其れが何の障害も無くスネイプの腕の中で抱えられているのだと悟った瞬間、顔から火が出そうに為る。
此処が寂然とした場所で本当に良かったと、思わずには居られない。





「 あ、あの…私、持ちます。 」

「 持つだと? 我輩の荷物は既にお前が持っているだろうが。 」





暫くして、異変というか違和感というか…其れ等カテゴリに括られる物に気が付いた。
大人であって男であるスネイプの歩幅は自分の其れよりも恐ろしく早く、一歩が大きい。
真横に並んで一つの傘に身を寄せていれば、其れこそ傘の意味が無くなる程にどちらかが濡れるか、若しくは横から吹き付ける風に乗った雨に濡れるかの何れか しかない。
しかし、今回はスネイプがを抱き上げた状態で傘をさして歩いている為に、然程雨には濡れない筈。
事実、スネイプの身体もの身体も雨に濡れては居ないが、其れでも独りで歩くよりも幾分辛そうにしているスネイプに気が付いた。
道幅も然して狭くは無く、脇を擦り抜けて行く人も疎らだと云うに、覚束無いような足取りで雪渓を歩いている様に頼り無い。
一体如何したのだろうかと、視線を前に向けて、初めて気付いた。
を右手で落さぬ様に抱えている為に、左手で持つ傘と右腕に圧し掛かる体重との平衡が取れずに天秤が片方に傾いて上手く傘を持てていないから。





「 傘ですよ、傘。 」





そう言って強引にスネイプの左手から傘を奪うと、紙袋二つを左手で胸に抱えて右手で傘の柄を握り締める。
自分の目線よりも少しばかり高い位置で傘を持つと、如何しても体重の乗り具合がアンバランスになる。
その瞬間に、更に強い力がスネイプの腕越しに伝わってを泥に塗れた道端に叩き落さぬ様にと抱き直す。
ホグワーツに着いてしまえば、こんな事は絶対的に出来ないのだから、と照れる自分に言い聞かせる様にも大人しく其の身を寄せた。
一つの傘に二つの身を寄せるという事自体、照れ臭い事だと知っている筈なのに。
愛してるとか好きだとか、そんな子供騙しの言葉一つ吐く方が何倍も楽なのに。
其れなのに、極当たり前の様に身体を抱き上げて一つの傘に二つの身を寄せるこの行為をさらりと遣って退けるスネイプに驚嘆する。





「 私のこと、落さないで下さいね。 」

「 …要らぬ心配だな。 大人しくして居給え。 」





面倒臭そうに返答をするスネイプの腕に、確かな重みと其れを支え切るだけの力が加わった。
滝の様に唯落ちるだけだった雨も、時間と共に其の勢いを減速させ、今ではポタンポタンと一定のリズムを刻むだけに為った。
其れでもやはり未だ、雨が完全に上がった訳では無いからスネイプとは一つの傘に身を寄せ合った侭。
絶え間無く話が続く訳でも無ければ、スネイプがに語り掛ける事も無いけれど、二人の沈黙を埋める様に刻まれる雨音が酷く心地良かった。





「 そう云えば…スネイプ教授は何でイギリスに居たんですか? 」





あんな場所で逢うなんて、凄い偶然ですね。

そう言って微笑んだにスネイプは苦い笑いを殺した。
魔法史の教授からをイギリスに遣いに出したと聞かされた時点で、溜まっていたレポートの採点も其の侭にイギリスへ迎えに来たのだと、如何して言えるだ ろうか。
更に言えば、イギリスに雨脚が迫っていると知って傘も持たずに鉄砲玉の様に飛び出して行った幼い恋人の身が心配だったと悟られて堪るものか。





「 …ダンブルドア校長の使いだ。 」





に持たせた紙袋の中身は、珍しい品種の紅茶とアルバスが好みそうなマグル製品が犇く様に詰まっていた。












□ あとがき □

√はどうしたって感じですが(笑)、√って中身に何か数字を入れるじゃないですか?
私にはあれがどうしても相合傘に見えてしまうという何とも乙女チックなアホ妄想を昔からしていた訳です(笑)
一つの傘に二つの身が寄せられるというのも凄い素敵ですが、抱き抱えられてヒロインが傘を持つという現実的にお父さんと子どもの様なシチュエーションに燃 えます…(笑)



+++ ブラウザバックで戻って下さい ++++